きみはいい子
以下はWikipediaより引用
要約
『きみはいい子』(きみはいいこ)は、中脇初枝による日本の連作短編集。児童虐待を題材に書き下ろし、2012年5月20日にポプラ社より刊行された。どこにでもある新興住宅街を舞台に、育児放棄や児童虐待を“される側”のみならず“する側”の問題にも焦点を当てて描く。第28回(2012年度)坪田譲治文学賞受賞作。呉美保監督により映画化され2015年に公開された。
概要
2010年の大阪2幼児置き去り死事件をきっかけに執筆された児童虐待をテーマとした作品。語り手は章ごとに異なるが、共通して描かれているのは区内最大の児童数を有し、窓から富士山が見える開校40周年間近の桜が丘小学校や、“パンダ公園”と呼ばれる烏ヶ谷(うがや)公園がある桜が丘という町での出来事。どこにでもあるような谷を埋めた新興住宅街を舞台 に、重いテーマを扱いながらも全ての作品が誰かの思いやりや言葉によって光がもたらされる優しい結末となっている。これには、人間どんなことが起こったとしても、同じ日・同じ時間・同じ場所にいる誰かがほんの少し関わるだけで、救ったり救われたりする可能性があるということを示したいという著者の思いが込められている。
育児放棄や虐待を“される側”だけでなく“する側”の心の問題にもスポットを当て、丁寧に描いたことで反響を呼んだ。書店員らの間でも話題となり、有志の書店員によって「きみはいい子応援会」なるものも結成され、2012年6月30日放送の『王様のブランチ』でも紹介された。2012年に静岡書店大賞、2013年に第28回坪田譲治文学賞を受賞した。同年の本屋大賞は第4位。
同じ桜が丘を舞台として共通する世界観で描かれた『わたしをみつけて』が2013年に刊行された。
収録作品
「サンタさんの来ない家」
あらすじ
登場人物
岡野 匡(おかの ただし)
父・母・姉と4人暮らし。父親は元商社マン。10歳年上の姉は留学先で知り合ったアメリカ人と結婚したが、暴力をふるわれたために5歳の娘を置いて出戻り、現在離婚調停中で、本人は旅行代理店に勤めている。
「うそつき」や「こんにちは、さようなら」にもちらっと登場する。
校長
副校長
おばあさん
「こんにちは、さようなら」で「あきこ」としてメインで登場する。
清水(しみず)
大熊(おおくま)
「うそつき」でもちらっと登場する。実は学校での怪我を家に帰っても親に全く手当してもらえていない。
星(ほし)
「うそつき」でもちらっと登場する。母親がおらず、参観日にはいつも祖母が来ていたが、実は自宅に赤ちゃんの頃の写真が1枚もない。
櫻井(さくらい)
「こんにちは、さようなら」にメインで登場する。
神田(かんだ)
神田の父
「べっぴんさん」
あらすじ
登場人物
あたし
夫が一時帰国する前日、あやねが10か月の時以降、何かと理由をつけてあやねに手をあげてしまう。自らも母親に児童虐待を受け、「自分は世界で1番悪い子」だと思いながら育ってきた。DVが起こる原因は女性が自立していないからだと思っていたため、勉強して奨学金で大学を出て、東京の化粧品会社に就職。結婚する気もなく子供もいらないと思っていたが、取引先の会社に勤めていた今の夫と仲良くなり、「子供がいなくてもきみさえいればいい」と言われたため結婚した。しかしいざ結婚すると夫は「子供がほしい」と言い出したため、3年悩んだ末にあやねを産んだ。胎盤剥離の可能性で妊娠中期から入院したため仕事の引き継ぎがうまくいかず退職した。母親はお酒を飲んだ知らない男の車に乗り、赤信号の交差点につっこんで一緒に亡くなった。
あやね
はなちゃんママ
高知出身。働かず酒に溺れる父親から虐待を受けていたが、近所の在日コリアンのおばあちゃんにかばわれ、いつも「べっぴんさん」と言われていた。しかし、おばあちゃんは後に海に飛び込んで自殺してしまった。
こうやくんママ
りえちゃんママ
「うそつき」
あらすじ
登場人物
杉山
子供の頃は「たっくん」と呼ばれており、「うばすて山」にもちらっと登場する。
ミキ
国立大法学部卒業。教員免許をもち、就職してから受けた司法書士試験も一発合格だった。法律事務所で働いていたが、現在は杉山の事務所を手伝っている。
優介
美咲
山崎 大貴
大貴の母
菊地夫婦
玉野夫婦
酒井
阿見
もっちゃん
「こんにちは、さようなら」
あらすじ
登場人物
あきこ
櫻井 弘也(さくらい ひろや)
弘也の母
「うばすて山」
あらすじ
登場人物
かよ
みわ
中田 文子(なかた ふみこ)
もっちゃん
たっくん
書籍情報
- 単行本:ポプラ社、2012年5月17日、ISBN 978-4-59-112938-8
- 文庫:ポプラ文庫、2014年4月4日、ISBN 978-4-59-113975-2
映画
呉美保監督により映画化され、2015年6月27日に公開された。主演は高良健吾、ヒロインは尾野真千子。
原作の短篇集の中から「サンタさんの来ない家」「べっぴんさん」「こんにちは、さようなら」の3篇に焦点を当て、虐待、ネグレクト、いじめ、学級崩壊などの現代社会が抱える問題を、問題を抱えた大人と子どもの群像劇として描く。
キャスト
- 岡野匡(おかのただし) - 高良健吾
- 水木雅美(みずきまさみ) - 尾野真千子
- 大宮陽子(おおみやようこ) - 池脇千鶴
- 大宮拓也(おおみやたくや) - 高橋和也
- 佐々木あきこ(ささきあきこ) - 喜多道枝
- 丸山美咲(まるやまみさき) - 黒川芽以
- 岡野薫(おかのかおる) - 内田慈
- 田所豪(たどころごう) - 松嶋亮太
- 櫻井弘也(さくらいひろや) - 加部亜門
- 櫻井和美(さくらいかずみ) - 富田靖子
- 水木あやね(みずきあやね) - 三宅希空
- 神田雄太 - 浅川蓮
スタッフ
- 監督 - 呉美保
- 原作 - 中脇初枝
- 製作 - 川村英己
- プロデューサー - 星野秀樹
- 脚本 - 高田亮
- 音楽 - 田中拓人
- メインテーマ - 「circles」 Takuto Tanaka featuring Vasko Vassilev
- ラインプロデューサー - 野村邦彦
- キャスティング - 石垣光代
- 撮影 - 月永雄太
- 照明 - 藤井勇
- 録音 - 吉田憲義
- 美術 - 井上心平
- 編集 - 木村悦子
- VFX - 菅原悦史
- 衣装 - 兼子潤子
- ヘアメイク - 石邑麻由
- アクションコーディネーター - カラサワイサオ
- 助監督 - 松尾崇
- 特別支援学級監修 - 斎藤美佳、績賢輔、加藤朱美、米通佳那
- 医療監修 - 高木佐知子、角中裕子
- アシスタントプロデューサー - 原田浩行
- ポスプロ - アクティブ・シネ・クラブ
- ラボ - IMAGICA
- インターンシップ協力 - 小樽商科大学
- 特別協力 - 小樽市、小樽フィルムコミッション、EGG、劇団フルーツバスケット
- 配給・制作プロダクション - アークエンタテインメント
- 宣伝 - シャントラパ / 太秦
- 製作 - 「きみはいい子」製作委員会(アークエンタテインメント、日活)
製作
監督の呉は『そこのみにて光輝く』の企画を進めていた頃に映画化前提で原作に出会ったが、様々な社会問題が描かれる中での登場人物たちそれぞれに感じた“オーバーではない一歩”を映画にしてみたいと思い、依頼を受けた。そしてどれか一つだけでも作品になりそうな社会問題のテーマをあえて全部描くことが使命だと感じたという。
高良が演じる教師の岡野、尾野が演じる主婦の雅美、そして喜多道枝が演じる独居老人のあきこの3人の生活が交互に描かれ、交錯することはないものの同じ街で同じ時間を共有している様がわかる構成となっている。これは脚本を担当した高田亮のこだわった部分であり、群像劇でよくあるような最後に出会うという展開にもしないよう、それぞれが生きている時間を終始考えながら制作された。
撮影は2014年6月下旬に北海道・小樽市でクランクイン。あえて観光名所ではなく、どこにでもありそうな町と風景にこだわって撮影された。娘を虐待してしまう母親を演じた尾野真千子は、子役がトラウマにならないよう実際には叩かずに自分の手や助監督の脚を叩くようにするだけでなく、カットがかかるたびに映画のテーマ同様“抱きしめる”ようにし、時には一緒に『アナと雪の女王』ごっこをするなど、撮影には配慮していたという。また、自分自身も実家に帰った時は両親とハグをしていることを2015年6月7日に行われた完成披露会見の場で明かした。
封切り
2015年6月27日、テアトル新宿他全国33スクリーンで公開された。同日に公開された11本の映画の中での満足度ランキング(「ぴあ」調査による)では1位を記録した。
関連商品
- きみはいい子 オリジナル・サウンドトラック(2015年6月24日発売、DIAA)
- きみはいい子 DVD/Blu-ray(2016年1月20日発売、ポニーキャニオン)
作品の評価
文部科学省特別選定作品(青年向き、成人向き、家庭向き)に選ばれる。
劇場公開に先立ち、2015年6月19日から26日まで開催された4大映画祭の1つである第37回モスクワ国際映画祭・コンペティション部門に邦画で唯一出品され、最優秀作品賞(グランプリ)の受賞は逃したものの、外部団体のNETPAC(英語版)より贈られるNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞した。また、第7回TAMA映画賞でも最優秀作品賞を受賞。第25回日本映画プロフェッショナル大賞のベストテンでは第9位。
個人の受賞としては、高良健吾が第28回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞で主演男優賞を受賞(『悼む人』と合わせて)。
映画ジャーナリストの鈴木元は、「現代の社会問題を扱いながら、心は徐々に温かい気持ちで満たされていった。呉美保監督は病巣をえぐるのではなく、問題を抱える人々の苦悩を周囲の愛で包み、新たな一歩を踏み出す勇気を示した。」と、本作が呉監督の新たな代表作になったと評価した。