オール (小説)
以下はWikipediaより引用
要約
『オール』は、山田悠介の小説シリーズ。
概要
一流企業に就職したものの毎日がつまらなくて辞めた主人公が、少々謎に満ち溢れている有限会社『何でも屋』で働く様子を描いた作品。山田悠介の小説にしては珍しくホラー要素が少ない作品である。
2011年4月25日に続編となる『オール ミッション2』が出版された。本書は、主人公・健太郎に「アレを探してほしい」「コレを手伝ってほしい」といった要望を読者から募集し、その中から著者の山田がこれぞと思うものを選んで小説の題材にした、読者と山田とのコラボレーション小説となっている。
あらすじ
オール
ゴミ屋敷
そんな時ふと目にした、『何でも屋』という奇妙な会社のアルバイト募集のチラシ。とりあえず、といった軽い気持ちで電話した健太郎はそこで働くことに。陽気な社長の花田彰三をはじめ、大男の大熊徹、痩せ細った天然パーマの長崎雄太とともに健太郎の新たな人生が始まった。
健太郎が『何でも屋』で新たな生活をスタートさせてから4日目。事務所には「私を見つけて」という差出人不明の奇妙なメールが届く。ゴミ屋敷になってしまった自分の家を午後5時までに終わらせてくれれば報酬として500万円払ってくれるという。いかにも怪しい雰囲気が漂っており、花田はどうするべきか悩んでいたが、お金に目がない長崎の強引な説得によって折れ、依頼を引き受けることに。
現場は本当にゴミであふれていた。依頼者が見つからず、半ば半信半疑ながらも作業を開始する健太郎たちであったが、事態は途中で思わぬ方向へと引っ張られていく。
運び屋
数日後。事務所にはおかしなくらい依頼が入らず、ようやく入ってきた貴重な仕事も花田がもっていってしまい、部屋には3人が取り残されていた。休憩室で賭けトランプをして時間を潰していると、何やら怪しそうな男が入ってくる。黒いセカンドバッグを、指定の場所に届けろというのだ。中身を聞いても答えてくれず、疑問ばかりが募る3人。男は報酬として200万は入っている封筒を渡して去っていった。健太郎はやめたほうがいいと拒否するが、長崎はあっさりと引き受けてしまい、健太郎も報酬に誘惑されて渋々ながらも了解する。指定された住所は「横浜市中区山下町山下埠頭第一倉庫」。健太郎の嫌な予感は、現実のものになりそうだった。
会社の軽トラで目的地へ出発した3人。道は思ったより混んでなく、車内も笑いに満ちていた。しかしその数分後、健太郎が異変に気づく。彼が言うには、車の後ろを白いベンツがぴったりとくっついてきているという。最初は遅い車をからかっていたと思っていたが、何度車線変更したりスピードを上げたりしても差は広げられず、むしろ段々と縮まっていくばかり。そして車の主がヤクザだと確信した健太郎は追いつめられ、長崎の制止も聞かずにスピードを上げるが、やはり振り切ることはできない。どうしようかと悩んでいると、突然彼の携帯電話が鳴り響く。
政略結婚
花田たちから強引に麻雀を教えられて早1ヶ月。ほとんど勝った日がなく、憂鬱になっていた健太郎。最近は大きな仕事どころかちょっとした依頼も入ってこない。だから1日中麻雀をやる羽目になるものの、小さな依頼すら入ってこないため、給料がもらえないどころか麻雀でお金を吸われていく一方。彼はこの悪循環から早く抜け出したいと思っていた。
そんな願いが通じたのか、事務所に1人の少女が入ってきた。少女の名は三星尚子。彼女は、兄とある女性を会わせてあげたいという。会うだけなら会えばいいと思う健太郎だったが、尚子は詳しい事情を話そうとせず、怪しいと感じていた。尚子曰く、彼女は3日後に結婚式を挙げるのだそうで、その前に一目だけでも会わせてあげたいとのこと。長崎が報酬を要求すると、尚子は100万円を差し出した。ゼロの多さに驚きを隠せない4人。花田は考えの末、依頼を引き受けることに。入院している兄の方はいいとして、彼女をいかにして連れ出すかが大きな難題であった。4人は考えに没頭するものの、良案は思い浮かばない。すると突然長崎が作戦を発表する。その作戦に、一同は不安を隠せない。しかも半強制的にその作戦に参加することになった健太郎であった。
母
次の日。健太郎は花田から正社員にならないか、という話を持ちかけられる。この仕事をやり続けようと決めた彼にとっては願ってもない誘いであるが、母に内緒で正社員になってはいけないような気がした健太郎は、実家に帰って母に真相を話そうとする。
帰る準備をしようと健太郎が家に帰ってくると、なんと母が突然彼のアパートに帰ってくる。真実を話そうとするが、やはり今の自分を打ち明けることができない。そこで健太郎は、ある方法で今の自分を知ってもらおうとする。
数日後。花田は健太郎に、常連である大野家の老婦人の激しいホームヘルパー業務を肩代わりさせる。その老婦人は足が不自由なだけで体自体は元気なのだが、彼によると足が悪いのを口実にあれこれとこき使わせるらしい。そんな婆さんの相手をするのか、と嫌な顔をする健太郎。しかし大切な常連客であるうえ、社長の命令を断ることはできず、仕方なく引き受けることに。
最後の仕事
4月1日から事務所の雰囲気はガラリと変わった。ムードメーカーがいなくなってしまったため、毎日のように繰り広げられていた麻雀や賭けトランプもやらなくなった。
変わったのはそれだけではなく、その日から健太郎は正社員になった。手紙を読んだ晩、彼は母に電話をした。母は優しく対応してくれ、ただ一言「がんばりなさい」と言ってくれた。
その晩、花田は2人を夕飯に誘った。花田が飯をおごるのは珍しいことであり、彼なりに職場を明るくさせようとしているのかもしれない。もちろん2人はついて行った。
花田にステーキをごちそうしてもらった2人は、そのまま彼に連れられてスナック『雫』へとやってきた。ここ何の変哲もないごく普通のスナックで、花田とは長年の付き合いであるという。ちなみに健太郎が来るのはこれで4回目である。
彼は店自慢のホステス・中沢夏美とのやりとりから、長崎がケジメをつけずに去っていったことを知り、説教しようと大熊とともに長崎の実家へと向かう。
オール2
タイムカプセル
ある日、花田が人手を確保するために求人を出し、それに応募してきたのはチャラチャラしていい加減な性格の新人バイト・駒田貞治と、事務員として応募してきた女性・篠原由依。篠原が加入したことで社内の雰囲気も変わるが、健太郎は自身とは正反対の人間である駒田とは反りが合わない日々が続いていた。
そんな時、『何でも屋 花田』にとある依頼が訪れる。その内容は小学校時代に埋めたタイムカプセルを見つけてほしいというもので、特に何の変哲もない内容だったが、何故か依頼人の男は焦りと苛立ちを見せるようになっていく。
エスコート
依頼主は大手企業のトップの娘だが、彼女の性格は金持ちの子どもらしく傲慢で高飛車なもの。更に依頼内容は彼女を満足させるというものであり、相手は世界一周旅行ですら飽きてしまった難敵。そんな依頼を押し付けられた健太郎は悩むが、駒田の提案でとある場所へ彼女を連れていくことにする。
ベースボール
依頼人は駒田とは顔見知りのようだが、駒田自身は依頼人が来るや否や嫌な顔をする。そんな彼らを見た健太郎たちは2人の関係性について聞くが、そこで明らかになったのは、いい加減な性格の新人バイト・駒田の意外な過去だった。
チェイス
そんな時、『何でも屋 花田』に依頼人として訪れたのは意外なことに男子中学生。依頼内容も「好きな人に告白する手助けをして欲しい」というもので、健太郎たちは何故そんな依頼をするのかと不思議に思ったが、依頼人が想いを寄せる相手が少々難敵であることを思い知る。
カジノ
健太郎は指定された場所に篠原と共に急いで向かうが、そこは暴力団が取り仕切る闇カジノで、駒田は騙されて300万円の借金を作ってしまったようだ。当然そんな大金を返すことも出来ず窮地に陥る3人だが、カジノを取り仕切る男からは借金帳消しと引き換えにある依頼をされる。それは、不良の道に走ってカジノに入り浸る大親分の一人娘を連れ戻すというもの。
裏社会に飛び込むという、過去最高難易度の依頼に直面した健太郎の運命や如何に。
登場人物
『何でも屋 花田』の従業員
荻原 健太郎(おぎわら けんたろう)
本作の主人公。女手一つで育ててくれた母に報いるため、高知から都内の一流大手アパレル企業に就職したが、思い描いていた理想とはかけ離れた現実に嫌気が差して退職して以降、その日暮らしを続けていた。そんな時、『何でも屋 花田』の求人を見つけてアルバイトとなり、不安定な仕事ではあるものの良い上司や同僚に囲まれ、生き甲斐を見出していく。付き合って4年の彼女・渡辺梓とは、彼女が洋服の勉強のために渡米して以降は疎遠になっていたが、後に再会を果たす。
実直な性格の持ち主で学もあるが故、周りからは面倒な依頼を押し付けられることも多いが、困難に直面しても状況を打破できる頭の回転の良さと大胆さも持ち合わせている。後に自身の真相を知った母親からは拒絶されるも紆余曲折を経て和解し、終盤では正社員にまで昇格する。
続編の『オール2』でも正社員として活動しており、新たに入った事務員・篠原由依に恋心を抱くようになったと同時に、自身とは正反対の性格の持ち主でいい加減な新人・駒田貞治とは反りが合わず気苦労が絶えない。最終的には“カジノ篇”での騒動を終え、駒田の後押しもあって遂に篠原へ告白。結果は「考えておきます」と言われたが、とりあえず良い返事であることを理解したところで物語の幕は閉じる。
花田 彰三(はなだ しょうぞう)
大熊 徹(おおぐま とおる)
長崎 雄太(ながさき ゆうた)
駒田 貞治(こまだ さだはる)
『オール2』より登場した、『何でも屋 花田』の新人バイト。チャラチャラした風貌にいい加減な性格と今風な若者で、正反対の健太郎とは反りが合わないが、大熊のことは内心恐れている。また、時折大胆な行動を見せることもあり、その度に健太郎をヒヤヒヤさせる。
かつては野球でピッチャーとしてならした実力者であり、高校でも一年時からレギュラーとして活躍、神奈川県内でも「甲子園確実」と言われていたが、三年時に怪我で夢を絶たれ、以降は高校も中退していい加減な暮らしをしていた。しかし、野球への思いは現在でも捨てておらず、“ベースボール篇”では弱小チームを1週間で強豪と渡り合う程にまで成長させるなど、指導者としての才能も秘めている。
終盤の“カジノ篇”にて田代組から借金を作ってしまい、借金帳消しと引き換えに、不良の道へと走ってしまった大親分の娘・優樹を健太郎と共に連れ戻すことになる。ルーレットのイカサマ対策のため、野球での経験を活かしてブレーカーの電源を投擲で落とすなどの活躍を見せた。
篠原 由依(しのはら ゆい)
『オール2』より登場した、『何でも屋 花田』に事務員として入社した新人。社内でも唯一の女性のため、特に社長の花田は喜んでいた。喜怒哀楽が強い性格で、相手が暴力団であろうと物怖じしない芯の強さも持ち合わせている。
元々は北海道の田舎で育ったが、古風な両親と田舎暮らしに嫌気が差し、東京で一人前になるため上京してきた。しかし、そこで就職難に陥り、『何でも屋 花田』に入社した。そのため、健太郎とは境遇が少し似ており、彼から想いを寄せられる。
終盤での“カジノ篇”では任務を課せられた健太郎と駒田の人質として田代組から拘束されてしまう。結果的に任務を成功させた健太郎の手によって解放され、彼から告白を受けた際には「考えておきます」と言ったものの満更ではない模様。
依頼者たち
ゴミ屋敷
中越 光子(なかごえ みつこ)
ゴミ屋敷の中で遺体となって発見された老婆。その際は鍵を大事に握りしめていた。
その正体はゴミ屋敷の住人で、かつては夫と共に住んでいたが、夫を亡くして以降は気が狂ってしまい、屋敷は荒れ果ててしまった。それでも息子が定期的に世話をしていたが、息子も亡くなった後は折り合いの悪い義理の娘・冬子に暫く世話を受けていた。しかし、冬子の目的は遺産であり、最終的には遺産が見つからないことに苛立った冬子に放置されて亡くなったことが判明した。なお、遺体は錯乱した冬子によって燃やされてしまった。
騒動後は鍵を手にした健太郎たちが報酬金を受け取ったが、結局『何でも屋 花田』に依頼を送った人物は謎のままである(依頼文が来たのは光子が亡くなった後のため)。
運び屋
渡辺 梓(わたなべ あづさ)
健太郎の彼女だが、2年前に洋服の勉強のために突如渡米して以降、彼とは疎遠になっていた。しかしある日突然帰国し、健太郎が未だに服飾関係の仕事をしているのだと思い込んで再び交流を始める。それによって健太郎は深刻な悩みを抱えることになるが、再会を通じて彼女への恋心を取り戻すようになり、真実を告げずにいた。
すぐに高知に帰る予定だったが、再会を通じて健太郎に違和感を感じ、実は健太郎を尾けていた。それによって健太郎の真相を知ると共に、運び屋の依頼をされた健太郎たちを追う暴力団・小野寺組によって拘束されてしまう。最終的には健太郎によって救出され、そのこと自体には感謝したものの、服飾関係の仕事を辞めたことには落胆し、彼の元を去っていった。
政略結婚
三星 孝志(みつぼし たかし)
母
荻原 美千子(おぎわら みちこ)
大野 雅美(おおの まさみ)
最後の仕事
中沢 夏美(なかざわ なつみ)
タイムカプセル
沖田 俊介(おきた しゅんすけ)
本エピソードの依頼人。小学校時代に埋めたタイムカプセルを見つけて欲しいという依頼をし、健太郎たちと共に探すことになる。何故かタイムカプセルに異常な執念を抱いており、中々見つからないことに焦りと苛立ちを見せていく。
実はカプセルに埋めた人形が現在ではプレミア価格がついていることを知り、それを手に入れようと『何でも屋 花田』に依頼してきた。一見気弱に見えるが、自分の思い通りにならないと凶暴な本性を見せ、健太郎からは危険な人間と評された。
結局タイムカプセルの中に人形は見つからなかったため、本性を見せて去っていった。後日、タイムカプセルを一緒に埋めた友人が人形を奪ったとして、友人を殺害して逮捕されたが、その友人が本当に人形を持っていたのかは定かではない。
エスコート
麻里奈(まりな)
本エピソードの依頼人。パチンコ屋の他にも様々な事業を手掛ける巨大グループ・小野田グループのトップの娘で、自らを次期社長と称する。性格はボンボンらしく傲慢で高飛車そのものであり、健太郎からは小野田グループは彼女の代で終わりとまで思われていた。世界一周旅行ですら飽きてしまい、自身を満足させて欲しいという依頼を『何でも屋 花田』にする。
中学生の頃に母親を亡くした過去があり、実際の性格も幽霊やゴキブリを怖がるというごく普通の女の子といったものだが、周りにはつい見栄を張ってしまっていた。
駒田の提案で健太郎によって廃病院に連れていかれるも、そこで本当に幽霊に遭遇してしまった上に母の形見のイヤリングを失くしてしまう。結果的にイヤリングは見つかるも機嫌を損ね、健太郎を軽蔑して去っていった。
ベースボール
野口(のぐち)
チェイス
遠藤(えんどう)
鮎川(あゆかわ)
カジノ
優樹(ゆうき)
田島(たじま)
用語
会社・企業
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