カジュアル・ベイカンシー 突然の空席
以下はWikipediaより引用
要約
『カジュアル・ベイカンシー 突然の空席』(カジュアル・ベイカンシー とつぜんのくうせき、原題:The Casual Vacancy )は、イギリスの作家J・K・ローリングが2012年に発表した長編小説。リトル・ブラウン・ブック・グループより2012年9月27日に世界で同時発売され、日本では同年12月1日に発売された。『ハリー・ポッターシリーズ』終了後第1作であり、ローリングが初めて大人向けに執筆した作品である。タイトルの「カジュアル・ベイカンシー」とは「偶発的な空席」を意味する政治用語で、議会や委員会を構成するメンバーの突然の死亡や辞任により、議席に思いがけなく空席が生じること。
物語の舞台は、パグフォードというイギリス西部の郊外の架空の町で、誰からも好かれていたパリッシュ・カウンシル議員バリー・フェアブラザーが急死するところから始まる。彼の死により空席となった議席の後任を決める選挙を巡って、住人たちの間に衝突が起こる。特に、バリーが生前支援していた貧困層向けの住宅街フィールズを財政上・治安上の理由でパグフォードから切り離すかどうかで派閥が生まれる。しかし、カウンシルのウェブサイトの掲示板で候補者たちが隠している秘密や後ろ暗いことが暴露され、噂が飛び交い、選挙は混乱に陥っていく。
主要なテーマは、社会階級、政治、薬物・売春・レイプなどの社会問題である。イギリス本国では、直近の3年で最速の売り上げを記録したほか、最初の1週間の売り上げはダン・ブラウンの『ロスト・シンボル』に次いで第2位、初週の売り上げでは2012年の15作目のベストセラー作品となった。発売から3週間で、イギリスとアメリカを合わせて英語版は100万部を売り上げた。
テレビドラマ化され、2015年2月15日にイギリス・BBCで、同年4月29日にアメリカ・HBOで放送された。
内容
巻頭には、ローリングが夫で医師のニール・マレーへの謝辞を述べている。マレーが謝辞を受けるのは、ハリー・ポッターシリーズの第5作『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』、シリーズ最終作『ハリー・ポッターと死の秘宝』に次いで3度目である。
物語は7部構成となっており、語り手は限定されていない。各章の冒頭にはチャールズ・アーノルド=ベイカーの著書『地方自治体・自治組織の運営』の文章が引用されている。
あらすじ
先述の通り、物語は7部構成となっており、第1部はパリッシュ・カウンシル議員のバリー・フェアブラザーが地元のゴルフ場の駐車場で動脈瘤で急死するところから始まる。住民たちはその衝撃的なニュースを友人や親戚に伝え合ううちに、話題はやがて〈フィールズ〉がどうなるのかという問題でもちきりになる。〈フィールズ〉は、麻薬(メサドン)中毒患者のリハビリ専用クリニックがあり、住民も中毒患者が多い地区で、他の地区の住民を財政上・治安上の理由で圧迫する〈フィールズ〉を町に残すか、上位自治体であるヤーヴィル市に移譲するのかという問題で町が混乱に陥っていく。
フェアブラザーの死による議会の空席を埋めるための選挙日が広報されると、立候補者たちの子供たちが各々の思惑で親のダメージになる文言を議会ウェブサイトの掲示板に書き込んでいく。サイモン・プライスの長男アンドルーは、“バリー・フェアブラザーの幽霊”というハンドルネームで父親が盗品の故買に手を染めていることを、授業でハッキングの知識を得ていたスクヴィンダー・ジャワンダはアンドルーの履歴を利用し同じハンドルネームで、母で医師のパーミンダーが夫がある身ながらバリーに恋をしていたことを、ファッツ・ウォールは副校長で養父のカビーが児童虐待の強迫神経症に悩まされていることを次々と書き込んでいく。しかしアンドルーは父を追い詰めた罪悪感から、カウンシルの議長でバイト先の店主ハワード・モリソンがビジネスパートナーのモーリーンと長年不倫関係にあることを暴露する。選挙は最終的にハワードの息子マイルズが勝利し、もはや夫への愛情が持てなくなってい妻サマンサにとっては不愉快な結果であったが、夫婦の和解のきっかけとなった。
物語のもう1つの側面は、クリスタル・ウィードンである。クリスタルは16歳で、売春婦でヘロイン中毒の母テリと、3歳の弟ロビーと〈フィールズ〉に暮らしている。ソーシャルワーカーのケイはテリに薬物摂取をやめさせ更生させ、ロビーの世話をしっかりさせようとするが、テリは結局堕落の道へと逆戻りし、クリスタルは母に麻薬を渡していたディーラーのオッボにレイプされてしまう。母と別れ、別の場所で新しい家族を作りたいと考えるようになったクリスタルは、妊娠を目論みファッツ・ウォールとセックスをするが、クリスタルが自分の目的に夢中になっている間に弟のロビーが川で溺れ死んでしまい、取り乱したクリスタルは母のヘロインを過剰摂取し自殺を図り、物語は2人の葬儀で幕を閉じる。
作中の舞台
パグフォード
ヤーヴィル
エヴァツリー・クレセント
教会通り(チャーチ・ロウ)
広場(ザ・スクエア)
希望通り(ホープ・ストリート)
フィールズ
ウィンターダウン総合中等学校
パーゲターの丘
スウィートラブ館(ハウス)
1950年代にスウィートラブ家の傍系の子孫との噂がある資産家のオーブリー・フォーリーが地所を買い取った。パグフォードの住民の信望を集めていたが、広大な敷地の草地の部分をヤーヴィル市に高値で売却し、パグフォードの怒りを買った。
セント・トーマス・イングランド教会付属初等学校
登場人物
書籍付属の登場人物一覧では、34人のキャラクターが紹介されている。
フェアブラザー家
バリー・フェアブラザー Barry Fairbrother
モリソン家
ハワード・モリソン Howard Mollison
シャーリー・モリソン Shirley Mollison
パトリシア・モリソン Patricia "Pat" Mollison
マイルズ・モリソン Miles Mollison
サマンサ・モリソン(サム) Samantha Mollison
ウィードン家
クリスタル・ウィードン Krystal Weedon
キャサリン・ウィードン(キャスばあちゃん)
ウォール家
コリン・“カビー”・ウォール Colin "Cubby" Wall
プライス家
サイモン・プライス Simon Price
アンドルー・“アーフ”・プライス Andrew Price
ボードゥン家
ケイ・ボードゥン Kay Bawden
ジャワンダ家
パーミンダー・ジャワンダ Parminder Jawanda
ヴィクラム・ジャワンダ Vikram Jawanda
スクヴィンダー・ジャワンダ Sukhvinder Jawanda
その他
ギャヴィン・ヒューズ Gavin Hughes
オーブリー・フォーリー
背景
構想
タイトルの決定
2年に及ぶ執筆中のタイトルは"Responsible" (責任)だったが、チャールズ・アーノルド=ベイカーが地方自治についてまとめた『地方自治体・自治組織の運営』で“カジュアル・ベイカンシー”という用語を調べ、変更した。
主要テーマ
社会問題
本作では、レイプ・人種差別・ヘロインや大麻などの薬物依存症・ポルノグラフィ・ドメスティックバイオレンス・児童虐待・自傷行為・自殺など様々な社会問題が扱われている。
作中で、アンドルー・プライスと弟のポールは父サイモンからの暴力に苦しんでいる。『ザ・ニューヨーカー』で自身も幼少期に父親から辛い目に遭ったのかと質問され、ローリングは「父との関係が良かったとは言えないが、作中の人物のモデルになった人はいない」と答えている。
政治と貧困問題
本作の主要テーマの1つが政治である。
反応
批評家による反応
『ガーディアン』でインタビューを受けたローリングは、本作が受けるであろう評価について「書く必要があったから書いた。私はこの作品が好きだし誇りも持っているし、私にとっては値打ちがある。」と述べていた。別のペンネームで執筆するアイディアもあったことを明かしている。
レフ・グロスマン(英語版)は『タイム』誌で好意的なレビューを寄せている。
ミチコ・カクタニは『ニューヨーク・タイムズ』でハリー・ポッターシリーズと比較しながら本作をけなした。
売上・受賞・栄誉
シーク教の描写
本作では、シーク教徒であるスクヴィンダーの一家が重要な役割をなしている。
映像化
2012年12月3日、BBC OneとBBCテレビドラマが、本作をテレビドラマ化することを発表した。演出はジョニー・キャンベル、脚本はサラ・フェルプス。
全3話で、2015年2月15日から3月1日にイギリス・BBCで、同年4月29日から5月13日にアメリカ・HBOで放送された。
キャスト
- バリー・フェアブラザー - ロリー・キニア
- メアリー・フェアブラザー - エミリー・ビーヴァン(英語版)
- ハワード・モリソン - マイケル・ガンボン
- シャーリー・モリソン - ジュリア・マッケンジー(英語版)
- マイルズ・モリソン - ルーファス・ジョーンズ(英語版)
- サマンサ・モリソン - キーリー・ホーズ
- モーリーン・ロウ - ヘティ・ベインズ(英語版)
- クリスタル・ウィードン - アビゲイル・ローリー(英語版)
- テリ・ウィードン - キーリー・フォーサイス(英語版)
- コリン・“カビー”・ウォール - サイモン・マクバーニー
- テッサ・ウォール - モニカ・ドラン(英語版)
- スチュアート・“ファッツ”・ウォール - ブライアン・ヴァーネル
- サイモン・プライス - リチャード・グローバー
- ルース・プライス - マリー・クリッチリー
- アンドルー・“アーフ”・プライス - ジョー・ハースト
- ケイ・ボードゥン - ミシェル・オースティン(英語版)
- パーミンダー・ジャワンダ - ロリータ・チャクラバーティ(英語版)
- ヴィクラム・ジャワンダ - サイラス・カーソン(英語版)
- スクヴィンダー・ジャワンダ - リア・チューニー
- ガイア・ボードゥン - シモーナ・ブラウン(英語版)
- オーブリー・スウィートラブ - ジュリアン・ワダム(英語版)
- ジュリア・スウィートラブ - エミリア・フォックス
制作
著者ローリングのエージェントを務めるニール・ブレアが代表を務める制作プロダクションがプロデュースした。ローリングもエピソードの話数や長さの決定に携わった。2014年8月にグロスタシャー州ペインスウィック、ビスレー、ノースリーチ、ミンチンハンプトン、ダントシー、ブリストル、グロスタシャーの総合学校・アーチウェイ・スクールなどで撮影が始まった。
イギリスのバンド、ソロモン・グレイ(Solomon Grey)が楽曲を担当した。 。