小説

ケルベロス第五の首




以下はWikipediaより引用

要約

『ケルベロス第五の首』(けるべろすだいごのくび、The Fifth Head of Cerberus)は、ジーン・ウルフが1972年に発表した長篇小説。日本では、柳下毅一郎の翻訳で国書刊行会から出版された。

ウルフの長篇第2作であり、アイデンティティや記憶など、その後も著者が取り上げるテーマが描かれている。いくつもの形式や文体が織り込まれ、くわえて謎解きの要素をもつことから、ミステリー読者からも評価されている。

題名にあるケルベロスとは、ギリシア神話において地獄の入口で番犬をしているとされる、3つ頭の犬の怪物である。

概要

連作中篇を1冊の単行本として発行したもの。最初の中篇「ケルベロス第五の首」は、1972年にデーモン・ナイトが編集したアンソロジー Orbit の第10号に掲載された。

物語は、地球から20光年離れたサント・クロアとサント・アンヌという2つの惑星を舞台とし、次の3篇で構成される。

  • ケルベロス第五の首(The Fifth Head of Cerberus) - サント・クロアの屋敷に住む男性の回想記
  • 『ある物語』ジョン・V・マーシュ作("A Story," by John V. Marsch) - 少年を中心とした民話風の物語
  • V・R・T(V.R.T.) - サント・クロアの囚人の尋問記録

各中篇の登場人物とあらすじは後述。

サント・クロアとサント・アンヌは、双子惑星となっている。サント・アンヌには、「アボ」と呼ばれた原住種族がいた。アボは変身能力をもち、手先が不器用で地球人の道具をうまく使えないと言われている。通説によれば、アボは地球人の植民によって絶滅したとされるが、別の説も存在する。アボは逆に地球人を絶滅させて取って代わったが、記憶を失ってしまったというもので、ヴェールの仮説と呼ばれる。こうしたアボについての謎が、3篇をつなげる役割をはたしている。

主な登場人物
ケルベロス第五の首

第五号(Number Five)

語り手。文中では「わたし」。サント・クロアの〈犬の館〉と呼ばれる屋敷に住み、館の主人である父に第五号と名づけられる。茶色の髪と目、尖った顎をもつ。

デイヴィッド(David)

幼い頃から第五号とともに育つ。館の主人の実の息子。ブロンドでカールした髪と青い目をもつ。

ミスター・ミリオン(Mr. Million)

第五号とデイヴィッドの家庭教師であるロボット。

主人(Maitre)

〈犬の館〉の主人。第五号には父と呼ばれているが、遺伝的には同一人物。自らのクローンを何度も作っている。

ジーニー叔母さん / オーブリー・ヴェール博士(Aunt Jeannine / Dr. Aubrey Veil)

第五号の叔母と名乗るが、遺伝的には第五号の2世代前の人物の娘。脚が弱いため特殊な装置で移動する。アボに関する「ヴェールの仮説」を立てる。

フィードリア(Phaedria)

第五号やデイヴィッドの友人になる少女。黒い髪、アーチを描く黒い眉、紫色の目をもつ。脚にギプスをしているときに第五号と知りあう。

マーシュ博士(Dr. Marsch)

地球から来た人類学者と名乗る男。サント・アンヌで数年をすごしたのち、サント・クロアを訪れた。黒い髪と明るい緑色の目をもつ。

『ある物語』ジョン・V・マーシュ作

砂歩きのジョン(John Sandwalker)

物語の中心となる少年。丘人の母から生まれる。他の丘人たちと同じく緑色の目をしている。
東風のジョン(John Eastwind)

砂歩きと同じ母から生まれるが、川で流されて沼人の一員となる。
待ち受ける七人の娘(Seven Girls Waiting)

砂歩きと親しくなる少女。〈ピンクの蝶々のメアリー〉という名の赤子を連れている。
影の子(Shadow Children)

砂歩きから見れば貧弱な種族。影の子の老賢者によれば、自分たちは星を旅してこの地にきたが、毒草を口に入れる習慣を身につけたために今の姿になったという。
沼人(marshmen)

下流の沼沢地に住む。砂歩きたちを捕らえて儀式の生け贄に捧げようとする。

V・R・T

ジョン・V・マーシュ(John V. Marsch)

物語の中心人物のひとり。20代後半。サント・アンヌからサント・クロアを訪れ、〈犬の館〉を訪問したのちに囚人となる。地球から来た人類学者だと主張するが釈放されない。
士官(officer)

サント・クロアの士官。囚人であるマーシュの資料を調べる。
R・トレンチャード(R. Trenchard)

サント・アンヌの物乞い。赤い髪、青い目、長い上唇をもつ。
ヴィクター・R・トレンチャード(V.R.T.)

トレンチャードの息子で、黒髪と緑色の目をもつ。自称16歳。自分の母親はアボだと語り、マーシュの助手となる。泳ぎや喋りの物真似はうまいが、手先は不器用。
セレスティーヌ・エティエンヌ(Celestine Etienne)

マーシュが逮捕された下宿にいた女性。茶色く縮れた髪、尖った顎、アーチを描く黒い眉、青紫色の目をもち、ピンクのドレスを着る。

あらすじ
ケルベロス第五の首

語り手の「わたし」が住むのは、サント・クロアの都市ポート・ミミゾン、サルタンバンク通りの666番地。ケルベロスが置かれていることから〈犬の館〉と呼ばれる屋敷だった。兄弟のデイヴィッドと共に育った彼は、父に第五号と名づけられ、催眠治療を受けるようになる。この治療のため、第五号は記憶に欠落が生じるようになる。

第五号は、ジーニー叔母さんと名乗る女性から、「ヴェールの仮説」を教わる。また、地球から来たというマーシュ博士からは、自分が父のクローンである可能性を教えられる。第五号は、奴隷のなかに自分に似た者がいることに気づき、父が失敗作のクローンを売っていたことを知る。

ある日、第五号は父の殺害を決心する。彼は外科用のメスを隠し持って父に会うが、ちょうどマーシュ博士が訪問する。第五号は、マーシュ博士がアボだと主張し、そののちに父は死亡する。

『ある物語』ジョン・V・マーシュ作

丘人の〈揺れる杉の枝〉という女は、〈砂歩き〉と〈東風〉という2人の男児を生んだ。全ての男児は、男を意味する言葉である「ジョン」を名づけられるため、2人は砂歩きのジョンと東風のジョンと呼ばれる。

東風のジョンは生まれてすぐに川で流され、生き別れになる。少年となった砂歩きのジョンは、狩りの最中に〈影の子〉たちと出会い、友人になる。砂歩きは、〈待ち受ける七人の娘〉と出会い、彼女と暮らす。しかし母や仲間が沼人に捕まったと知り、湿地へ向かう。

砂歩きは仲間を助けようとするが失敗し、囚われの身となる。沼人は砂歩きたちを生け贄に捧げようとしており、沼人のなかには東風の姿もあった。待ち受ける七人の娘や影の子も沼人に捕まり、砂歩きの仲間は、沼人の儀式で次々と犠牲になる。かつて自分たちは星から来たと語る影の子は、助かるために星船を呼ぶ。

V・R・T

マーシュは、サント・クロアで囚人となっていた。サント・クロアの士官は、警察から送られた資料を確認する。そこには、サント・アンヌでの調査記録、表紙にV・R・Tと書かれた英作文練習帳、囚人が独房で書いた文書、尋問の記録が含まれている。マーシュには殺人とサント・アンヌのスパイ容疑がかかっていた。

サント・アンヌでの調査記録によれば、マーシュはアンヌ人(アボ)の存在について聞き取りをしていた。マーシュは、自分がアボだと主張するトレンチャードという男に会うが、彼はアボには見えなかった。マーシュは、トレンチャードの息子でアボとのハーフだというV・R・Tを助手にする。V・R・Tは、自分の母はアボであり、かつて野外でアボに会ったと語る。マーシュは、アボを求めてサント・アンヌ奥地を調査するが、少年が川に落ちて死んだと記していた。

マーシュは、〈犬の館〉を訪問後に逮捕される。彼は他の囚人と壁を叩いて会話をしつつ、ペンと紙を借りて文章をつづる。そこには、〈犬の館〉でヴェールと会ったことや、幼い頃の体験が書かれていた。やがてマーシュは自分が捕まった理由を知る。〈犬の館〉の主人を捜査に協力させてはどうかと提案するが、館の主人がすでに死んだことを知るのだった。

年表

以下は、本作の記述をもとにした年表。「ケルベロス第五の首」の最後の記述を基準とする。ページ数は、国書刊行会の初版による。

書誌情報

英語版

  • 1972年, HB, USA版, Ultramarine Publishing Company, ISBN 0-684-12830-6
  • 1973年, HB, UK版, Gollancz, ISBN 0-575-01597-7
  • 1975年, PB, UK版, Quartet Books, ISBN 0-7043-1176-3
  • 1983年, PB, UK版, Arrow Books, ISBN 0-09-930030-3
  • 1994年, PB, USA版, Orb Books, ISBN 0-312-89020-6
  • 1999年, PB, UK版, Gollancz, ISBN 1-85798-817-5

翻訳

  • 『ケルベロス第五の首』 柳下毅一郎訳、国書刊行会〈未来の文学〉、2004年 ISBN 978-4336045669 - 訳者あとがき「失われた作家を求めて」
参考文献
  • 「ジーン・ウルフ特集」『S-Fマガジン』2004年10月号 
日本における評価
  • 「SFが読みたい!」2005年版 第4位
  • 「このミステリーがすごい」2005年版 第19位