ゲド戦記
ジャンル:ハイファンタジー,
以下はWikipediaより引用
要約
『ゲド戦記』(ゲドせんき、Earthsea)は、アーシュラ・K・ル=グウィンによって英語で書かれ、1968年から2001年にかけて出版されたファンタジー小説のシリーズ名である。原題は『アースシー』(Earthsea)あるいは『アースシー・サイクル』(Earthsea Cycle)であるが、日本では岩波書店に所属していた装丁家の田村義也によって「ゲド戦記」と名付けられた。「戦記」とあるが、戦争や戦闘が中心の物語ではない。また、ゲドが主人公として行動するのも最初の1作のみである。全米図書賞児童文学部門、ネビュラ賞長編小説部門、ニューベリー賞受賞。
英語圏におけるファンタジー作品の古典として、しばしば『指輪物語』『オズの魔法使い』と並び称される。文学者マーガレット・アトウッドは『ハリーポッター』や『氷と炎の歌』など近年流行した幻想小説に影響を与えた作品として、『ゲド戦記』第1作の『影との戦い』を挙げている。
作品一覧
日本語版は、清水真砂子の訳により、岩波書店から出版されている。岩波少年文庫、ハードカバー、内容は変わらないが、大人向けにデザインを変えた物語コレクション、映画化の際に発行したソフトカバーの4ヴァージョンが発売されている。
「影との戦い」のみ、同時代ライブラリー(現在は終刊)から発売されたことがある。
- 「影との戦い」A Wizard of Earthsea(原語版1968年、日本語版1976年)
- 「こわれた腕環」The Tombs of Atuan(原語版1971年、日本語版1976年)
- 「さいはての島へ」The Farthest Shore(原語版1972年、日本語版1977年)
- 「帰還 -ゲド戦記最後の書-」Tehanu, The Last Book of Earthsea(原語版1990年、日本語版1993年)
- 「アースシーの風」The Other Wind(原語版2001年、日本語版2003年)
- 「ゲド戦記外伝(ドラゴンフライ)」Tales from Earthsea(原語版2001年、日本語版2004年)
2007年現在、日本語版の発行部数は200万部。
あらすじ
この世で最初の言葉を話したセゴイによって海中から持ち上げられ創られたと伝えられる、太古の言葉が魔力を発揮する多島海(アーキペラゴ)、アースシーを舞台とした魔法使いゲドの物語。アースシーのうち、主にハード語圏では森羅万象に、神聖文字で表記される「真(まこと)の名前」が存在し、それを知る者はそれを従わせることができる。人は己の真の名をみだりに知られぬように、通り名のみを名乗る。主人公を例に採ればゲドが真の名で、ハイタカが通り名である。
影との戦い
原題:A Wizard of Earthsea
ゲド(ハイタカ)の少年期から青年期の物語。ゲドは才気溢れる少年だったが、ライバルよりも自分が優れていることを証明しようとして、ロークの学院で禁止されていた術を使い、死者の霊と共に「影」をも呼び出してしまう。ゲドはその影に脅かされ続けるが、師アイハル(オジオン)の助言により自ら影と対峙することを選択する。クライマックスで、ゲドは「影」が自身の暗黒面であったことに気づく。
こわれた腕環
原題:The Tombs of Atuan
アチュアン神殿の大巫女テナー(アルハ)が中心の物語。「名なき者たち」に仕える巫女達によって親から引き離され、名前(自己)を奪われ、地下神殿の闇の中で大巫女として育てられるテナー。そこに、二つに割られ奪われた「エレス・アクベの腕輪」(銀製)を本来あるべき場所に戻し、世界の均衡を回復しようとする大魔法使いゲドが現れる。腕輪奪還と「名なき者たち」との争いの過程で地下神殿も崩壊する。少女の自己の回復と魂の解放の物語でもあり、ゲドとテナーの信頼、そして愛情の物語としても読める。
さいはての島へ
原題:The Farthest Shore
大賢人となったゲドが登場する。世界の均衡が崩れて魔法使いが次々と力を失う中、エンラッドから急を知らせに来た若き王子レバンネン(アレン)と共にその秩序回復のため、世界の果てまで旅をする。ゲドの留守中に“石垣の向こう側”から“この世”へ侵入があり、学院の守りも破られてしまう。
なお、終焉と世界の変化を暗示する結末から、第4巻が発表されるまでの十数年間、 ゲド戦記は「三部作」とされていた。
帰還
原題:Tehanu, The Last Book of Earthsea
ゲド壮年期の物語である。ゲドは先の旅で全ての力を失い、大賢人の地位を自ら降りて故郷の島へ帰ってきた。そこでは、子供たちを産み未亡人となったテナー(ゴハ)が、親に焼き殺されかけた所を危うく救われた少女テハヌー(テルー)と生活していた。ゲドはテナーと生活を始める。ところが元大賢人と元巫女という存在は故郷の一般の魔法使いにとっては目障りでしかなく、3人の「弱き者」たちを容赦なく悪意に満ちた暴力が襲う。魔法の力を失った後に見えて来るアースシーの世界を覆う価値観とは、一体何なのか。それを作者自らが問いかけている作品とも言える。
「さいはての島へ」から本作の発表までに長い期間があり、フェミニズム色の強い本作第に戸惑う読者も、また高く評価する読者も、どちらも少なくないようである。また、「アースシーの風」以降は「9.11」(アメリカ同時多発テロ)後の混沌としたアメリカの世界観が如実に表れている。旧版では“―ゲド戦記最後の書―”という副題が付されていた。
アースシーの風
原題:The Other Wind
かつてゲドと共に旅をし、アースシーの王となったレバンネン(アレン)や、ゲドの妻となったテナー、その二人の養女となったテハヌー(テルー)が物語の核となっていく。竜や異教徒のカルガド人によって、従来の正義であった「真の名」という魔法の原理への批判が行われ、それまで作り上げられてきたアースシーの価値観を根本から壊していくような物語構造となっている。女の大賢人の可能性や世界の果てにある理想郷、また死生観への再考、長年敵対していたカルガド帝国との和解も暗示される。テハヌーと竜との関わりも明らかにされ、確実に物語の中心はゲドからレバンネン、テハヌーの世代へと移り変わっている。
原題 The Other Wind(別の風、別の思潮)に対し、日本語版の題名は「新しい風」となる予定だったが、「新しいではない」との翻訳者および作者本人の意見を受け、現在のものとなった。
ドラゴンフライ アースシーの五つの物語
原題:Tales from Earthsea
日本語版の初刊時は「ゲド戦記外伝」という題だったが、のちに「ドラゴンフライ アースシーの五つの物語」へ改題されている。
『アースシーの風』以前に発表された中短編5作品と、著者によるアースシー世界についての解説を収録している。特に「ドラゴンフライ」は「アースシーの風」と深いかかわりがあり、先に書かれたこちらを読むと理解が早い。
収録作品
「カワウソ」
ロークの学院開設の功労者にして、初代守りの長、メドラ(カワウソ/アジサシ)の一生を通じて、学院の黎明期を描く。
「ダークローズとダイヤモンド」
エシーリ(ダイヤモンド)とローズの恋物語(ローズの方は真の名が明かされない)。
「地の骨」
アイハル(ダンマリ、のちにオジオン)がヘレス(ダルス)に師事した時と、二人が協力してゴントの大地震を鎮めた時の顛末。
「湿原で」
ロークから逃げ出した魔法使いイリオス(オタク)と、彼を匿った未亡人エマー(メグミ)、そしてイリオスを追ってきた大賢人ゲドの物語。
「ドラゴンフライ」(旧題:トンボ)
『アースシーの風』の重要人物オーム・アイリアン(ドラゴンフライ)の幼年期と青春時代、ロークへの旅と呼び出しの長達との対立、竜への覚醒までを描く。
アースシー解説
その他、アースシー世界を舞台とした作品
ル=グウィンの初期短編集『風の十二方位』(The Winds Twelve Quarters, 1975年)のなかに、
- 「解放の呪文」(The Word of Unbinding, 1964年)
- 「名前の掟」(The Rule of Names, 1964年) イェボーが名前を明かされた顛末。後にゲドがこの経緯をもとにイェボーと取引をした。
がある。また、未邦訳の短編が2編存在する。
- The Daughter of Odren, 2014年
- Firelight, 2018年
世界設定
物語が展開するアースシーは、後述のように幾つもの島が集まった海域であり、大陸は存在しない。多島海の外部世界についての知識は作中では知られていない。
羅針盤が機能し、北に行くと気温が下がり、南に行くと気温が上がるなど、地球の北半球に似た世界である。また、南北方向に移動すると見える星座も変化する。地動説を前提にしているともとりうる台詞もある。
人々の大半は赤い肌や浅黒い肌をしており、白い肌を持つのは東海域にあるカルガド帝国の住民のみである。
地名
アースシー
ハード語圏において魔法は身近な存在であり、医者にして化学者であり天気さえ変える力のある魔法使い(常に持つ杖が称号保持者の証明となっている」)はもちろん、まじない師の類いであっても町の識者として敬意を集めている。対照的にカルガド帝国では鎧や船などの技術に長け、戦や略奪を好む野蛮さで知られている。
ハブナー島
ハブナー・グレートポート
ローク島
ゴント島
エンラッド島
アチュアン島
セリダー島
国、組織、団体など
学院
魔法を教授する、風・詩・姿かえ・手わざ・名付け・守り・薬草・様式・呼び出し(五十音順)の9人の「長(おさ)」と大賢人、計10人の賢人によって管理される。アースシーにおける魔法使いとは、学院卒業者のことを指す、いわば学位である。「魔法使い」の称号を受けていなければ、いかに優れた技の持ち主でも「まじない師」でしかない(女性の入学は許可されていないため、女性はどれほど魔法の才能があっても「魔法使い」にはなれない)。入学に当たっては別の魔法使いから大賢人に宛てた、本人を魔法使いを目指すにふさわしい者とする推薦状の親書が必要。守りの長に自身の真の名を名乗らなければ敷地内には入ることさえ出来ない、どんな扉開け・開錠の術も撥ね返す堅い守りが固められている。逆に卒業し出て行く時には守りの長の真の名を探り当て呼ばないと外に出られない。
『ゲド戦記』が用いた概念の中で最も大きな影響があったのは「正しい魔法は学校で学ぶ」というこの制度であり、『ハリーポッター』を筆頭に多くの現代ファンタジー作品が追随した。
カルガド帝国
竜
その他の用語
真の名(まことのな)
人間の場合、成人の儀式の際に、儀式に立ち会う魔法使いやまじない師の口を借りて洗礼の形で知らされる。通常は一生変わることはないが、強い力を持つ魔法使いであれば、(無理やり)新しくつけかえて相手を生まれ変わらせることもできる。また、自分の真の名を相手に知られると、たとえ魔法使いであってもその相手に対しては完全に無防備になる。そのため一般に、よほど信頼できる相手でない限り、真の名を他人に明かすことはない。
魔法
太古の力
太古の力は必ずしも魔法と対立するものではなかったが、ロークの学院設立以降、徐々に蔑まれるようになった。しかし、ローク島自体が本来は太古の力の中心であり、物語中でも、竜のカレシンなどに度々言及されている。
黄泉の国(よみのくに)
登場人物
ゲド / ハイタカ(原書ではSparrowhawk)
アイハル / オジオン
エスタリオル / カラスノエンドウ
ヘレス / ダルス
テナー / アルハ、ゴハ
アイリアン / ドラゴンフライ(旧訳:トンボ)
映像化作品
テレビシリーズ
- 米SCI FI Channelが、「影との戦い」「こわれた腕環」のストーリーを Earthsea のタイトルで実写映像化(ミニシリーズ)、2004年秋に放送された。ゲドの師、オジオン役にベテラン黒人俳優ダニー・グローヴァーが充てられている。日本でも『ゲド〜戦いのはじまり〜』として、DVDが2006年8月4日に発売された(日活)。
- A24版。- 2018年、ル=グウィンが他界する前にプロデューサーのジェニファー・フォックス(英語版)が映画化権を取得したことが報じられる。2019年の時点で映画シリーズの予定を、TVシリーズ化に切り替えて製作は続行。出資・制作するのはインディペンデント系のA24。
アニメ映画
スタジオジブリ制作、宮崎吾朗監督・脚本。東宝配給で2006年7月29日より、長編アニメーション映画として劇場公開された。なお、この映画の副題として用いられている Tales from Earthsea は、原作「ゲド戦記外伝(ドラゴンフライ)」の原題である。
「さいはての島へ」を中心に、他の巻の要素と宮崎駿の短編「シュナの旅」の要素を加えてストーリーを編集した、独自の脚本である。ル=グウィンの公式コメントで、意に反する内容に改められていたことが明らかになり、論議を呼んでいる。
関連事項
- 言霊
- 忌み名
- 通過儀礼