ジョーカー・ゲーム
小説
著者:柳広司,
出版社:角川書店,
巻数:単行本:既刊4巻文庫版:既刊4巻,
漫画:Dの魔王〜ジョーカー・ゲーム〜
原作・原案など:柳広司,
作画:霜月かよ子,
出版社:小学館,
掲載誌:週刊ビッグコミックスピリッツ,月刊!スピリッツ,
レーベル:ビッグコミックス,
巻数:全3巻,
話数:全17話,
漫画:ジョーカー・ゲーム
原作・原案など:柳広司,
作画:霜月かよ子,
出版社:小学館,
掲載誌:週刊ビッグコミックスピリッツ,
レーベル:ビッグコミックス,
巻数:全1巻,
話数:全8話,
漫画:ジョーカー・ゲーム THE ANIMATION
原作・原案など:柳広司,
作画:仁藤すばる,
出版社:マッグガーデン,
掲載誌:月刊コミックガーデン,
レーベル:ブレイドコミックス ,
巻数:全5巻,
アニメ
原作:柳広司,
監督:野村和也,
シリーズ構成:岸本卓,
キャラクターデザイン:矢萩利幸,
メカニックデザイン:常木志伸,
音楽:川井憲次,
アニメーション制作:Production I.G,
製作:JOKER GAME ANIMATION PROJECT,
話数:全12話,
以下はWikipediaより引用
要約
『ジョーカー・ゲーム』 (JOKER GAME) は、柳広司による日本の短編ミステリー・スパイ小説。または、下記する続編を含めたシリーズの総称である。『D機関シリーズ』とも呼ばれている。
概要
柳はデビューから一貫して歴史上の偉人を重要な役割として扱っていたが、本作においてオリジナルのキャラクターを主役として扱い作風の変化を見せた。
2008年度の「このミステリーがすごい!」で第2位に、週刊文春ミステリーベスト10で第3位にランクインした。2009年、第30回吉川英治文学新人賞および第62回日本推理作家協会賞を受賞した。2021年2月時点でシリーズ累計発行部数は130万部を突破している。
続編として2009年8月に『ダブル・ジョーカー』、2012年3月に『パラダイス・ロスト』、2015年1月に『ラスト・ワルツ』が発売されている。
2015年1月に実写映画化された。同年8月にはProduction I.Gによるテレビアニメ化が発表。2016年4月より放送された。また、放送に連動してアニメ版に準じたコミカライズが月刊コミックガーデンにて連載された。
あらすじ
ジョーカー・ゲーム
ジョーカー・ゲーム
昭和14年、佐久間は参謀本部の武藤大佐の命令で、D機関の訓練生たちと共にスパイ疑惑のあるアメリカ人ジョン・ゴードンの自宅を捜索することになった。佐久間たちは憲兵隊に偽装して捜索を始めるが、ゴードンが全く抵抗しないことに疑念を抱く。そしてゴードンが「二度目の捜索」と口走ったで佐久間は武藤の命令の意図を理解した。武藤は既に一度捜索に失敗しており、その失敗を有耶無耶にするためにD機関に二度目の捜索を命令し、失敗の責任を佐久間と結城に押し付けてD機関を解体しようとしていたのだった。さらに訓練生の1人である三好が、「もし今回も何も見つからなかった場合は、詫びとして彼がこの場で腹を切る」と進言したため、佐久間は窮地に陥ってしまう。
しかし、彼等と結城の言葉をヒントに佐久間は寸前で隠していた暗号表を見つけたため武藤の企みは失敗。さらに、自身も馴染みにしている料亭「花菱」にて、武藤が捜索の一件を外部に漏らしていたことと、女将から手渡された彼が落としたシガレットケースから、結城の偽装を突き止める。そして、一連の裏で結城はこれを利用してD機関への介入を止めさせ、参謀本部から多額の予算を手に入れることに成功していたのだった。三好の関心とその手腕を見た結城は佐久間をD機関に勧誘するが、「所詮は他者の知恵を借りて解決しただけに過ぎず、咄嗟の判断力のない自分はスパイには向いていない」ことと、「いざとなれば、国のために自分の命を捨てられる覚悟は変わらない」と言って断り、立ち去る結城の背を静かに見送ったのだった。
幽霊(ゴースト)
機関員の蒲生次郎は、『テーラー寺島』の店員という肩書きを使って顧客の一人であるグラハムのチェスの相手をする。という形で彼に接触し捜査を始めるが、不審な点は一切見付からなかった。しかし、テロ計画メンバーの連絡場所からは英国総領事館の物品が押収されており、グラハムが関与している可能性は払拭出来なかった。さらに、参謀本部の命令を無視した憲兵隊がグラハムの近辺に出没するようになったため、蒲生は総領事公邸への潜入を試みる。
深夜、総領事公邸の書斎に潜入した蒲生は隠し金庫からグラハムの日誌を見つけ出すが、グラハムが過去に行った犯罪行為の記録こそ書かれているが、爆弾テロに関する記述は一切なかった。これ以上の証拠は見付けられないと判断した蒲生は書斎を出ようとするが、結城の「完全な調査はない」という言葉を思い出し、それをきっかけにテロ計画の全容を明らかにした。爆弾テロの首謀者は総領事館に務める中国人たちであり、グラハムは情報の運び屋として知らずに利用されていただけだった。
グラハムの容疑が晴れ、蒲生はグラハムと別れることになった。その際、グラハムは「"夜の書斎で幽霊を見た"という妻の懇願と、彼女が先回りして親戚中のつてを頼り、英国政府内に自分のための要職を用意してしまった話を受けて本国に戻ることになった」と告げた。蒲生は金庫にあった例の日誌を思い出し、グラハムが極秘情報を取り扱う時が来たらその日誌を元に、今度は "過去からの幽霊" として再び相見える日を楽しみにするのだった。
ロビンソン
伊沢は隙を突き脱出を試みるが、マークスの罠にかかり追い詰められてしまう。しかし、伊沢は英国諜報機関に潜入していたスリーパーに助けられ、脱出に成功した。手筈通りの場所に向かうとD機関の協力者が待っており、伊沢は次の任地であるヨーロッパに向かった。伊沢は移動中の車の中で、結城から受け取った『ロビンソン・クルーソー』に登場する「フライデー」という人物のことを思い出していた。それは、スリーパーの暗号名だった。
事件の真相は、防諜対策を疎かにする外務省への警告と最新式の暗号機を導入するために伊沢が捕まり、脱出することを結城が企図したものだった。
魔都
その夜、捜査のため上海の歓楽街に向かった本間は草薙と出くわし尾行を始める。草薙は一軒のダンスホールに入り、その奥にある部屋に入った。本間も後に続こうとするが、ガードマンに制止されてしまう。しかし、本間がポケットから取り出した身に覚えのないコインを見たガードマンは、本間を部屋に通した。部屋の中は違法賭博場となっており、本間は草薙を探すが見付けることが出来なかった。その代わり、本間は違法賭博に明け暮れる及川の姿を目にした。
数日後、本間は及川が憲兵隊の押収したアヘンを横流ししていたことを突き止めた。さらに、そのことに気付いた宮田伸照伍長を賭博場の少年に殺害させ、その少年も口封じに殺害していたことを知る。本間は及川に事実の公表を求めるも、そこへ共犯者の吉野豊上等兵が現れ、及川が隠匿のため自身の抹殺を目論んでいる事に気付く。しかし、「もしも自分に何か起きた場合、全ての真相を記した手紙が塩塚とジェームズ警部に届けられることになっている」と切り出すと、逃げられないと判断した及川は仕方なくそれを承諾した。ところが、突然吉野が恋仲だった少年を殺された怒りから及川を射殺し、当人もその場で自殺してしまった。後に残された本間は事態の処理に苦慮し、その場に立ち尽くした。
実は、本間が出会った塩塚はD機関員の変装で、草薙と同一人物だったのであった。
XX(ダブルクロス)
結城は他の訓練生たちに事件の調査を指示し、飛崎にはシュナイダーの恋人だった野上百合子の調査を指示した。シュナイダーが殺害された日の百合子のアリバイは完璧だったため、飛崎は結城の指示を不審に思った。しかし、百合子の供述に矛盾があることに気付いた飛崎が詳しく調査を進めた結果、シュナイダーを殺害したのは百合子だったことを突き止めた。彼女はシュナイダーが親友の安原ミヨコと浮気していたことに怒り殺害したと自供した。
飛崎は、百合子が親代わりに自分を育ててくれた女性、西山千鶴に似ていたため判断を誤ったことを結城に指摘され、感情を完全に捨て去った他の訓練生との差を思い知らされた。飛崎は任務の終了と同時にD機関を辞め陸軍への復帰願いを提出した。陸軍は口封じの意味を込め、飛崎を最前線の部隊に配属させた。結城からの敬礼で見送られた飛崎は、D機関を後にし陸軍へと戻った。
ダブル・ジョーカー
ダブル・ジョーカー
白幡の身辺を調査した風戸は、書生として住み込んでいる森島邦雄に目を付けた。森島は半朝鮮人という経歴があり、それを公にされると日本で不利な扱いを受ける。その情報を脅迫として森島を白幡邸での内通者として仕立て上げた。伊豆の旅館にて森島の報告を聞き終えた風戸は白幡の別荘への乗り込みを計画し、その際用済みとなった森島の酒に眠り薬を仕込み、事故に見せかけて海へ落とすよう部下へ命じた。その日の深夜、白幡邸に風機関を集合させ、乗り込んだ風戸は白幡邸に人の気配が一切ないことに愕然とする。さらにその屋敷の中にはD機関の結城中佐が待ち構えていた。
風戸は結城が白幡に情報を漏らしたと憤慨したが、結城は旅館の女中が白幡に情報を伝えたことを告げる。この頃日本では、大陸の激戦続きで若い男がみな戦争に徴兵され、健康な若い男がこの頃まったく見られなくなっていた。そんな中、若く健康的な体つきの風戸たち風機関の面々は旅館の女中たちの目に留まり、彼女達は彼らが軍人であることに気付いていた。さらに、同じように健康的な若い男を書生として住み込ませている白幡の別荘もこの地域では有名であり、その中でも色白で美形だった森島は特に有名で、彼が普段酒を飲まないことまで知っていた。風戸が森島の始末のためのアリバイ作りのために飲ませた眠り薬入りの酒が裏目に出てしまったのだ。そして白幡が別荘から逃げ出した際に、彼が書いておいた『統帥綱領』のメモ書きを結城がすり替え手に入れていた。実は、風戸は用心のため見回りを兼ねて酔った振りをして隣の部屋を覗いていたのだが、その時中にいた老舗の番頭風の客こそが変装した結城で、風戸達の件もその時聞き出していたのである。先手を打たれていたことに愕然とした風戸だったが、結城が一人で来ていることを見て、風機関員たちに結城を捕らえさせ、統帥綱領のノートを手に入れれば挽回できると踏んだ。しかし、風戸の目の前に現れたのは自らが始末を命じたはずの森島だった。実はD機関は今回の任務のはるか以前から英国へのチャンネルとして白幡に目をつけており、森島邦雄はその渡り橋役としてD機関が派遣したスパイだったのだ。さらに風戸達が森島の “偽の経歴” に食いついたことで風機関の行動が全てD機関に筒抜け状態となり、序に逆スパイの役割を果たした森島は風機関員を全員拘束してしまったのである。自分では手を下すことなく自分たちD機関の影をちらつかせるだけで任務を成功させた結城への畏怖と、旅館の女中たちにあっさり素性を見抜かれ、森島を殺そうとしたことで情報の漏洩を招いてしまうという失態で風戸のプライドは崩れ去っていった。そんな中、結城は天保銭の意味を風戸に伝えながら、形ばかりの天保銭を過大に持ち上げる陸軍を批判し、森島と共に風機関から奪った車で立ち去った。その批判の裏には、旅館で風戸が上着を女中に預ける際に、その女中に上着の中に隠れて付けていた天保銭を見られたことが正体を見抜かれた原因でもあることを暗に示していた。屈辱の中で風戸は自らが誇りとしていた天保銭を引きちぎって床にたたきつけた。
蠅の王
一ヶ月ほど前、脇坂の元に "K" から指示書が届く。そこには「蠅の王」と呼ばれる男がD機関を率いてスパイ狩りを行っているため注意せよという忠告と、スパイ・ハンターが「笑わぬ男」という暗号名を持ち、前線部隊を慰問して回る「わらわし隊」と関係があることが記されていた。脇坂はスパイと軍の二重生活とハンターの影に怯える中、偽情報を使って逆にハンターを炙り出そうと考える。そこへ「わらわし隊」に属する漫才コンビ『藤木藤丸』の藤丸がやって来て “笑わない目を持った男” の話をする。全てを悟った脇坂が慌てて引き返すと、突然何者かに襲われる。目を覚ました脇坂が見たものは、かつて彼が治療に当たっていた西村久志陸軍二等兵だった。彼こそが “笑わぬ男” にしてD機関員であり「わらわし隊」の慰問は脇坂をおびき出すための罠で、一ヶ月ほど前の "K" の手紙はD機関の偽装だった。さらにD機関は "K" の正体……片岡大尉のことまでとっくに突き止めていた。
実は脇坂が発案した “ワキサカ式” と呼ばれる通信手段とは、顔と手の綺麗な支那兵の遺体に通信文を忍ばせ、さらに遺体に野犬が嫌がる匂いと防腐剤を振りかけて目印とする方法であった。脇坂は十日前、情報を伝達するために必要な遺体が見つからず、焦った末に偶然見つけた中国人の老人を殺し、その遺体を支那兵に仕立てて情報伝達に使用したのだ。D機関はその情報を「漫才コンビのネタにする」という形で脇坂をおびき出し、そのような手間をかけたのは彼や仲間達にこれ以上不自然な遺体を作らせないためだった。脇坂はD機関による “偽装の自首” という報復を食らった。
仏印作戦
ところが出張から一ヶ月後、高林は歓楽街からの帰宅途中突然何者かに襲われ、永瀬則之という男に助け出される。陸軍少将を名乗る永瀬は、高林が襲われたのは日本の暗号電文を奪うためであること、襲った男は蔣介石政権が雇ったスパイであること、さらに、これまで仏印経由で重慶政府に支援してきた英米諸国にとっても視察団の存在は脅威であり、参謀本部とのやり取りを知るために様々な手段を画策していることも話した。そして巻き込まれた高林にも、視察団に内密で極秘任務を手伝って欲しいと頼む。そして、永瀬が万が一問題になっても、これを出せば解決すると言って提示した名は『D機関』だった……。それから高林は永瀬と定時刻に待ち合わせをし、極秘の打電内容を記したメモを受け取ると、それを暗号電文化して通常通信の文の後に打電するようになる。彼自身最初は規約違反に怯えていたが、次第に永瀬とD機関が助けてくれるという過信と、自分が秘密の中心にいるという快感に酔いしれて恐怖心が薄れていく。そんなある日、高林が情報交換のため永瀬と雑談をしていると、「視察団本部に出入りしている商人のガオが、敵方のスパイの可能性がある」という忠告を受ける。ガオの素性と性格を知っている高林はそんな筈はないと言い放つが、翌日からガオへの猜疑心が抜けず、極端に避けるようになる。さらに数日後、道端で散髪をしているガオを見かけ、高林が思わず逃げ出すと何者かに後を付けられる。あてもなく走り続けた高林が振り返って声を張り上げると気配はなくなっており、同時にあることに気がついた彼は慌てて駆け出した。
永瀬の正体はスパイではなく、援蔣物資を狙った詐欺一味のリーダーだった。まず永瀬は仏印電子局に勤めるレイモンドを懐柔し、日本の視察団が打電した暗号を写し取らせたが、やはり陸軍暗号には歯が立たず、今度は愛人のイエンを高林に接触させて同棲にこぎつけ、彼が留守のうちに元となる日本語の通信電文を探させたが、高林は使用した通信文はその場で破棄するという規則を忠実に守っていたためこれも失敗。焦った永瀬はD機関を隠れ蓑に自ら接触し、“極秘依頼” という名目で自分達が作った偽の通信文を高林に暗号化させ、それを何度かに分けて必要な分を手に入れると、これらを使って参謀本部側を装った偽の暗号電文を本物に紛れ込ませて彼に解読させ、土屋少将に届けさせることで援蔣物資を盗む手筈を企てたのだった。何者かに付けられた高林は、あの日、暴漢に襲われた際駆け付けた永瀬の足音が聞こえなかったことに気がつき、慌てて本部に引き返すと、直ちに土屋少将に面会を求め、詐欺一味と暗号電文のことを話す。その結果、日本の大手商社を装い援蔣物資の引き渡しを要求した永瀬達は日仏合同の憲兵隊に逮捕された。
一方の高林は、騙されたとはいえ偽の暗号電文を解読し、命令以外の暗号電文を作成してしまったため今後どうなるか心配だったが、詐欺一味の目論見を暴いた功績を以て相殺にするという土屋少将の言葉に唖然とする。その後、直前に自分が通報したとはいえ、憲兵への手回しと対応が早かったことに疑問を持ち、D機関という諜報機関が実は本当に存在し、あのガオこそが本物のD機関のスパイだったのではないかと疑問を持つ。するとそんな考えを見越したのか、土屋少将は全てを忘れることと、視察団はもうじきここを引き上げることを告げる。そして最後に、どうせ日本に連れて帰るつもりなんか無かっただろうから、面倒事になる前にイエンに裏切られて良かったと言われ、高林は自分でさえ思ってもいなかった内心にヒヤリとした。最後にこの事件から二週間後、ハノイ在住の日本人は総引き上げを命じられ、それと入れ替わるように日本軍が北部インドシナに侵攻した一文が添えられ幕となる。
柩
その中のオットー・フランクという男の所持品からスパイ道具を見つけ、更に尋問を続けると、男は列車事故の犠牲者であるアジア人から盗んだという。更に詳しく聞くと、そのアジア人は美術商の真木克彦なる日本人であるという。真木は、折れた鉄棒が体を貫通し、それによる失血で即死状態であったという。だがヘルマンは、真木がD機関のスパイであるとかねてから疑っており、秘書のヨハンに命じて真木の自宅を家宅捜査するが、疑わしい点はあったものの何も見つからなかった。そこで、次にヘルマンは各所に手回しをして遺体をベルリンの病院へ運ばせ、24時間体制での監視を命じた。
ヘルマンはかつて『魔術師』と呼ばれていた日本人スパイを尋問したことがあるのだが、手榴弾の爆破に乗じて逃げられ、その時に自分も片目を失明してしまった。そのD機関は結城中佐が作ったことも既に掴んでおり、実態は掴めないものの逃げた男がその結城であると確信しており、今度こそ結城を捕まえるために、その部下であるとされる真木の死体を利用することを思い立ったのだ。だが、列車の行き先について真木が報告を終えた帰りだと気づいたヘルマンは病院へ向かい、面会の確認をするが、遺体に面会をする者は居なかった。しかし、写真と真木の遺体を見比べて部下に確認をすると、遺体が個室へ移される前の病室に、相部屋となった老人の遺体の確認と称して一人の紳士が面会に来ており、その後、間違いであったと告げて帰ったという。ヘルマンは、その紳士が結城であったと確信し出し抜かれたことを悟った。その後、結城はドイツ国内の真木の協力者と接触して証拠を抹消していき、ヘルマンの目論みは崩れてしまう。
ただし、ヘルマンの考えは間違っておらず、真木こそD機関に所属していた機関員であった。彼は列車事故という不慮の事故により瀕死となるが、死ぬ直前に協力者リストの場所を結城に目印として残しており、リストは無事に結城に回収され、協力者たちの間で真木の死は秘密裏に処理されていた。葬儀の最中、最後のあがきとして結城を探していたヘルマンは、病院に運ばれた時は開いたままだった真木の瞳が、いつの間にか閉じられていたという看護婦の言葉を思い出すのだった。
ブラックバード
眠る男
パラダイス・ロスト
誤算
そこへ4人を追っていたドイツ軍が現れ、島野が迷惑をかけた自分が囮になると申し出ると、アランは自分達がレジスタンスのメンバーで、島野はその仲間だと疑われているため、今出て行かれると自分達も危険なのだと言い、先に3人が逃げ出すことになるが、前方の兵隊は見せかけで裏口から逃げ出すところを捕らえるつもりだと見抜いた島野は武器は無いかと問いかけるも、その場にはジャンがあらかじめ調達した小型の拳銃しかなく、その上故障していた。島野はラジオの修理道具で瞬く間に直してみせると、買い溜めしている食料品の中に小麦粉があることを知り、3人に協力してもらい粉塵爆発を起こして脱出する。途中裏口で待機していたドイツ兵を一瞬にして体術でなぎ倒してみせ、3人は島野に対する懐疑心が深まっていく。しかし、アランは二度にわたって自分達フランス人を助けてくれた島野を同志としてレジスタンスに迎え入れることを宣言し、マリーも賛同する。島野は突然の勧誘に戸惑いながらもひとまず安全な場所に逃げるのが先決だと答えるが、その直後再び視界が暗転する。
再び目を覚ました島野が見たものは、マリーを人質にするジャンと驚愕するアランだった。実はジャンはマリーにプロポーズを断られたことと、当のマリーはいつもアランについてばかりでひとりのけ者にされる腹いせから対独協力者(コラボ)となり、アランを密かに監視して反逆者の罪を擦り付けてドイツ軍に引き渡して強制収容所行きにし、自分とマリーは釈放されてその隙に彼女を手に入れる計画を立てていた。だが、島野の介入で通報した自分までもがお尋ね者となってしまったため、急遽島野共々アラン達を連行する方向に切り替えたのだ。だが、島野は静かに立ち上がるとジャンを挑発する。すると突然得体の知れない恐怖を感じたジャンはマリーを突き飛ばすと引き金を引くが、島野は一瞬で捩じ伏せ、ジャンの身柄を二人に預けると姿を消してしまった。
島野の正体はレジスタンスの動向を探るために潜入したD機関のスパイで、『90対8対2』という数字は国内の傍聴者、対独協力者(コラボ)、レジスタンスの比率を表したものだった。島野は近くにいた老婆に暗示をかけて反ナチス言語を吹き込ませ、その後救出という形で指導者的立場にいるアラン達に接触。記憶喪失はD機関で結城中佐から教わった『起こりうる誤算』の一つで、その間脳内で聞こえていた『何者かの声』は、島野の中の潜在記憶が形になったものだった。あの時、ジャンに殴られたことで再び全てを思い出した島野は咄嗟に結城の気配を真似てジャンを怖気づかせたのである。そもそも手渡された時点で銃の故障が人為的なものだと気がついていた島野は最初の弾を空砲にしてジャンに持たせていたため、彼のその後の行動は予測できたも当然であった。その後島野は待ち合わせ場所である小さな田舎町に建つ教会の告解室に向かうと、そこには修道士に変装した当の結城本人が待ち構えており、驚きつつも例の数字と隠れ家にあった品物から割り出したレジスタンス分析結果を報告し終え今後について問いただした所、結城の返答は「最終帰還船に乗り、いったん帰国せよ」というものだった。それは日本がフランスを瞬く間に制圧したドイツと軍事同盟を結ぶことと、島野が先日上げた『今回の制圧については、明らかに兵器や戦略の近代化を無視したフランス軍側のミスによるものであり、ドイツ軍側もこの先英国との対戦について明確なビジョンを持っているとは思えない』という報告が無視されたことを意味していた。結城自らがやって来たのは、それに伴い “島野亮佑” の偽装経歴が使えなくなる=任務完了を告げるためでもあった。数々の小さな誤算に見舞われた中でも最大ともいえるその報告に、島野が自分を勧誘した時のあのアランの笑顔を思い浮かべ、同時に彼等と別れることを残念に思っていると、それを見抜いたらしき結城から「残ってもいいぞ」の一言を受け我に返り、所詮素人のスパイごっこにプロの自分が付き合う気などなく、ましてやどうでもいいプロパガンダのために命を投げ出す気などさらさら無いため、島野は肩をすくめて帰国を受け入れ、「次はもう少し骨のある任務をお願いします」と言いのけるのだった。
失楽園
トムソンによれば “サイン嫌い” のブラントは支払いの時になると必ず『死んだふり』をして免れていたという。もしかするとあの日パーカーを見かけた彼は、悪戯心からわざと昼間の件を蒸し返して喧嘩をふっかけ、ゴムボールを使って『死んだふり』をし、逃げ出したパーカーが後で戻って来ると消えていた遺体に動揺し慌てふためく姿を柱の陰から眺めてからかってやろうと企んだ。しかし当の彼はなかなか戻って来ず、入れ代わりにやって来たジュリアに自身の存在を悟られないためか、はたまた共犯を持ちかけたかったかで腕を掴むも彼女は恐怖から咄嗟に振り払ってしまい、ブラントは転落死してしまったのではないか?そこまで考えたキャンベルは同時に、あの仮説が本当に自分が思いついたものだったのか疑問を持つ。領事館付武官とはいえ無能に等しい自分があそこまで考えつくなど到底ありえない。まるで誰かに答えを誘導されたようだ。その時脳内に浮かんだのはあのバーテンダーとの会話だった。さらに自分がカクテルを試飲した時の意見、「シンガポール・スリング」という名前、グラスを磨いていた時の動作などが尽く今回の仮説と一致していることに気が付き、最早顔を思い出せないあのバーテンダーが実はD機関のスパイで、あの時パーカーが話していたことは全て本当のことであり、彼を排除するために自分は利用されたのではないかとキャンベルは疑念を抱く。しかし、釈放されたジュリアの姿を見た途端キャンベルは何もかもがどうでも良くなった。彼女を守るためならば何度でも真実に蓋をし、その結果としてこの楽園を失うことになっても構わないと、キャンベルは真っ先に自分の胸に飛び込んで来た恋人を抱きしめながら心に誓うのだった。
追跡
その里村が言うには晃は生前の有崎子爵の子として明治29年に屋敷に連れて来られ、その後厳しく育てられたという。その後、陸軍幼年学校に入った晃はある日、幼年学校の生徒達と喧嘩をしその時のやり方が陸軍軍人に相応しくないとして退学処分を受けてしまう。そして晃は英国に留学し、有崎子爵が亡くなるその時まで帰国せず、財産は遺言のとおり里村らに分配され、その後晃は再び英国へ帰国してしまう。
里村から晃が英国で公爵と呼ばれていることを聞かされる。公爵の英語読みである「Duke(デューク)」の頭文字は「D」であり、晃の英国での後見人であるマンスフィールド・カミング海軍大佐はMI6の生みの親であり英国のスパイマスターだった。自分と同じ人物に師事していたことに驚いたアーロンは、有崎晃が今の結城中佐だと結び付け本国へ暗号を発信していたが、その最中に陸軍憲兵隊に踏み込まれ現行犯で捕まってしまう。だが、本来は死刑であるはずのアーロンは釈放され自分が釈放された理由がわからないままであった。その後里村がアーロンの身元引受人として現れ、アーロンは長い間意識不明でやつれた晃を紹介される。里村が言うには欧州でオブザーバーとして参戦した戦いで敵軍の毒ガス攻撃により命は取り留めたもののそれ以降目を覚まさないという。そして国に援助を求めたが、軍人でないことを理由に拒絶され途方に暮れたところに、負傷しているある青年が現れ、援助する代わりに里村に晃の過去を調べに来た者が現れたら、アーロンに話したことと同じように話せと頼まれたとのことだ。その青年こそが結城中佐であり、有崎晃は今回のアーロンのように結城中佐の身辺を探る者が現れた際にそれを誘き寄せるための囮だったのではないかとアーロンは悟った。
その後アーロンは公園で途方に暮れ、自分が釈放された理由にたどり着く。それは10年もの間自分が集めた国内の協力者のリストであった。アーロンが憲兵隊に逮捕された時、壮絶な拷問を受けた彼は自害を考え、遺書を用意していたのだが、それはアーロンの死後にリストが英国大使館に渡るようにするため、リストの紙を遺書に偽装した物であった。そして釈放という形で自害は阻止され、遺書の紙は憲兵隊に紛れ込んでいたD機関員により回収されていたのである。任務が失敗したことを痛感し身の振り方を考えた時、アーロンの脳裏に浮かぶのはエレンの姿であった。『死に際に伴侶の顔が浮かんだスパイは引き時である』という師の言葉を思い出したアーロンは引退を決意し、戦争が終わったらベルギーに移住しようと考えるのであった。
暗号名ケルベロス
騒ぎが治まるのを見届けた内海が自身の座っていた席へと視線を向けると、一人の老紳士が内海のクロスワードパズルを見ていた。老紳士はサンフランシスコで小さな貿易会社をやっているジェフリー・モーガンと名乗り、クロスワードパズルを見ると放置できなくなる性分だと自称する。そこで内海はジェフリーに手伝ってもらうことにし一緒に解いていく。最終的に答えは「エニグマ」であるとわかり、内海はドイツ軍が採用しているエニグマ暗号機の話を持ち出す。すると、ジェフリーはエニグマ暗号機の解読方法を提示した。そこで内海は日本海軍もエニグマ暗号機と同様の原理で作られた日本の機械式暗号である紫暗号を使用しているという事実を語り、ジェフリーが偽名でその本名はルイス・マクラウドという諜報機関に在籍しているスパイであり、以前は「ザ・プロフ」というコードネームで暗号解読に活躍していた事実を看破する。実はD機関員の内海は、結城中佐の命で母国の諜報機関に追われて日本に亡命しようとするルイスを来させないようにするため、彼が内地に降り立つ前に拘束し寄港先のハワイで下船させるという任務を受けていた。ルイスは内海がケルベロスなる者と思い込み殺そうとするが、彼の一枚上手な反撃により失敗する。
ルイス自身は整形をしており、その完成度は古い友人や家族でさえ見分けがつかなかったが、内海はある部分を見てルイスであると判断した。クロスワード自体もクロスワードが好きなルイスをおびき寄せる餌として用意された物だったのである。ところが、イギリス海軍の艦船が朱鷺丸に対して停船命令を下し、朱鷺丸は停船をする。
以前、ドイツの貨物船ゲルマニア号がアメリカに漂着し、イギリスとドイツがその船員の身柄を自国に引き渡すようそれぞれに強く要求するという出来事があった。そして朱鷺丸には出航直前になって乗船を希望してきたドイツ人船客が五十人以上存在していたのだが、その中に身分を隠したゲルマニア号の船員が密かに紛れており、それに気づいたイギリス海軍が船員達の身柄を拘束しに来たのである。それを見たルイスはここで自身の身分を明かせば内海を拘束させることができると勝ち誇った。一転して余裕の表情となったルイスはそこにあったグラスの飲み物を口にしてしまう。すると突然ルイスは苦しみ始めその場に倒れて死亡した。
内海はルイスの遺体をイギリス兵に発見させ、偶然居合わせた船客の突然死による無用な混乱を避けるために死体の番をしていたと主張。朱鷺丸の船員とイギリス兵による合同捜査が行われ、自分がそれに参加できるように誘導した。船医の所見によるとルイスの死因は毒殺であるという。内海は乗客リストから一匹の犬を見つけ自身の下へ呼び出し、ジェフリーの死亡したことの状況を明らかにする代わりに呼び出した犬フラテの飼い主である英国人のシンシア・グレーンとその娘エマの母娘と話す時間をもらうことに成功する。そして、内海がフラテの首輪の中にあった写真をシンシアに見せると、彼女は真実を話し始めた。
ルイスの飲み物に毒を盛った犯人はシンシアであった。彼女の目的はルイスへの復讐であり、そのためにケルベロスという暗号名でドイツのスパイとして活動していた。全ては夫の航海士レイモンド・グレーンが、ルイスの発案したエニグマ暗号解読のための策謀における捨て駒としてドイツ軍に殺され、よりにもよって彼の葬儀の日にその事実を知ってしまったことによるものであった。また、船上で「ステイ(止まれ)」と叫んだ船客もこのシンシアであった。これは鯨の影に驚いたからではなく、写真が隠されているフラテがルイスに近づいたからであるという。ルイスの写真をフラテの首輪に隠していたのは、内海が顔を変えたルイスを見破る決め手となったのと同じ部分である「耳の形」を確認するためであった。内海は写真を捨ててしまえば良かったと彼女に話すが、その写真はルイスの傍らに立つレイモンドが一番ハンサムに映っているものだから捨てられないという。そして、内海の顔立ちと雰囲気がどことなく夫に似ていたことと、彼もまた何らかの『秘密』を背負って生きているのだと見抜いたことを呟く。内海はその言葉から彼女の覚悟を聞き、エマを彼女から引き離すべくフラテと共にその場から連れ出す。その間にシンシアはイギリス海軍の船へと向かい自首をすることにした。シンシアが取り調べを受ける前に自害するつもりであることを悟った内海は、自分が謎を解いたことの責任を取り、エマとフラテを引き取りハワイで面倒を見ることを決意する。
ラスト・ワルツ
ワルキューレ
翌日。ゲッベルスの指摘が気になっていた逸見は撮影が手につかなかった。あの時は咄嗟に出任せを言って彼を追い払ったが、一体何が気に食わないのが分からなかったのである。そもそも予算の超過も撮影の大幅な遅れも、逸見にとってはいい映画を撮るためには必要なことであってわざわざ指摘するようなものではないはず…そこまで考えた時、こちらで『親しくなった』女優、マルタ・ハウマンの存在を思い出し、彼女が実はゲッベルスの愛人で、逸見に奪われたくないがための牽制としてあんな遠回しな言い方をしたのだと解釈し、次回はマルタ・ハウマンを主演とした映画を作ることでゲッベルスの機嫌を取ろうと思い気を取り直した。一方、協力者とアンハルター駅で待ち合わせていた雪村は、受け取った駐独日本大使に関する聞き取り調書が書かれた通信文を読んだ際、大使自らがナチス側の歓迎により外交機密を自らぺらぺら喋ったにも関わらず、新大使館に設置されていた数多くの盗聴器という矛盾、そして例の幽霊 (ガイスト) 発言、その場に居合わせていた映画スタッフ達の表情と「ここじゃない」という一言、そして逸見が出鱈目な言い訳に使用した「白い人影が現れて、鏡の中にすーっと消えていく」という言葉が妙に引っ掛かり日本大使館に向かう。そしてあらかじめ仕掛けておいたタルカムパウダーを使った罠の先にいたのは、映画監督のフィリップ・ランゲだった。
今日ナチスでは、高利貸しのイメージが強いユダヤ人に対して『失業やハイパーインフレは全てユダヤ人のせい』だとする無理矢理な箔をつけた迫害が巻き起こっており、映画界でも多くの優秀なユダヤ人スタッフがこの迫害に追いやられていた。その中でランゲはゲッベルスに才能を買われ、ナチスを礼賛する映画を撮ることを条件に「特別待遇」を受けていたが、その撮った映画がゲッベルスの怒りを買い、打って変わってゲシュタポにランゲの逮捕を命じたという。そこへたまたま居合わせていたウーファの映画スタッフの一人が慌ててランゲに連絡を入れ、最初はスタッフ達の元を転々としていたが日々狭くなるゲシュタポの包囲網にはそれさえ危なくなり、そこで一人のスタッフの伝を頼り、当時まだ建築中だった日本大使館に密かに隠し部屋を作ってランゲを匿わせたのだった。あの大量の盗聴器と超過した予算は全て彼のために使われていたのである。
後日、逸見の元には予算超過に関することで何者かからの脅迫状が届いており、やって来た雪村に見られてしまう。雪村は「友好国である日本人に手荒な真似はしないはずだから、今すぐ警察に届けるべき」だと主張するが、逸見は必死に拒む。実は脅迫の証拠としてマルタ・ハウマンとの関係を示唆する写真が同封されており、これがゲッベルスに知れ渡ることを恐れていたのである。すると、雪村は脅迫文から相手がソ連のスパイだと分析し、自分は日本のスパイで、この事件を自分達で解決しようと持ちかける。そして、ソ連スパイの目的が逸見を利用したヒトラー総統の暗殺だと仮説し、途中で隠していた拳銃を手に、接触場所として指定されていたウルバン荷揚げ場に向かう。まるで映画のような目まぐるしい展開に戸惑った逸見は、全ては偽物だったのではないかと問いかけた矢先に突如銃撃戦が始まり雪村が負傷してしまう。逸見がすっかり混乱し半泣きになり動けなくなり、雪村が彼に託していた銃を持って近くの爆薬に火をつけようと路地に飛び込んだ途端、今度は夜空に何発もの花火が打ち上がる。そしてそのまま呆然としていた逸見はゲシュタポに連行されて自分が見聞きした全てを洗いざらい打ち明け、最後に雪村がスパイだったことを告げると、尋問官から爆発で吹き飛んだらしき遺体を見つけたことを聞かされる。確認のため死体置き場に向かった逸見はあの負傷の時に見た三日月型の傷跡と同じものを見つけ彼だと確信し、その後ゲッベルスから不問にするという報告を告げられ追い出された。そして今度はアルゼンチンに渡ることを決め、気を切り替えて歩き出した。
その頃、本物の雪村は協力者から目立つ騒ぎを起こしたことを咎められつつ新たな偽装経歴を受け取っていた。逸見が確認した遺体は雪村があらかじめ協力者に頼んで調達した別人で、偽装した傷跡をわざと見せることで逸見を欺いたのだ。あの日、フィリップ・ランゲのナチスの非知性的かつ暴力的な本質をとらえつつ、娯楽性のある作品として作られた映画を見た雪村は彼の才能が失われるのが惜しくなり、彼を匿っていた映画スタッフ達と協力してあのような映画顔負けの派手な “スパイごっこ” を自作し、混乱に乗じてランゲをトラックの荷台の木箱に紛れ込ませ脱出させたのだった。幸村はランゲこそが映画芸術で美の女神 (ワルキューレ) に愛された真の勇者なのだろうと考えつつ「『面倒ごとになる前に逸見をドイツから引き上げさせろ』というそちらの指示に従ったまでだ」と言い返す。さらに、逸見がソ連のスパイについて必死に訴えた件と、この派手な騒動についてゲシュタポから報告を受けた宣伝省が各報道機関にどう報じさせるかでソ連に対する方針と対日政策が垣間見えてくるとも踏んでいた。そのために逸見が私的に使った分の映画製作資金を補填して帳簿を改ざんし、例のマルタ・ハウマンもゲッベルスに取り入るよう雪村が裏から誘導していたのである。そして、この一件で駐独日本大使がナチス側の人間盗聴器と化していること、引いては国内の大使任命権を持つ重要人物の身近は勿論、各同盟国の権力中枢にナチスドイツからのスパイが送り込まれていることも突き止めた。
実は雪村は、日本帝国海軍のスパイであり、伊号潜水艦による欧州航路の開拓を目的とした日本への極秘航海こそが真の目的だった。日本帝国陸軍 (D機関) スパイの協力者『マキ』はそのことを指摘し嘲笑いながら立ち去るが、軍人として覚悟は決めている以上は仕方がないこと、さらに、いくらD機関スパイ達が優秀であろうとも、日本はもはや手の施しようがない所まで来ている故にもはや状況を引っ繰り返すことは到底望めないという感想を雪村自身抱いていた。最後に彼は、日本に無事に帰れたら映画でも観に行こうかと呟き、一人四阿を後にしたのだった。
舞踏会の夜
千年の歴史を誇る旧清華公爵家当主・五條直孝の末娘として生まれた顕子は、幼い頃から五條家のしきたりや格式に縛られることに鬱屈していた。そして十四歳の秋に女学院の送迎に雇われていた抱えの運転手と駆け落ち騒ぎを起こしたのをきっかけに、十五歳になると夜な夜な家出をしてはダンスホールに入り浸る日々を繰り返していた。ある日、ダンスホールで知り合った友達の一人に売られて愚連隊に絡まれ逃げている所を二十代半ばの若い男(結城中佐)に助けられる。まるでダンスを踊るように顕子をエスコートした男に不思議な魅力を感じた彼女は再び会いたいと所望するも「軍務で国を離れるから無理だ」と断られてしまう。そこで顕子は名前を名乗らない彼を海底二万里の登場人物から『ミスタ・ネモ』と呼び、自分が大人になったら今度はちゃんとした音楽に合わせて踊って欲しいと約束した。
愚連隊の一件から顕子は夜遊びを控えるようになったが、客観視しているうちに規律のない世界での友情は貨幣価値と同等であることと、夜遊びで出会った彼等の言動は古いしきたりに縛られている華族階級の人々と変わらないのだと分かってすっかり失望し、少なくとも金銭目的で他人を売るようなことは無いし、女性は有利に立てないことさえ受け入れられれば特に気にする必要も無いということから、今度は『華族』という枠組みの中で奔放な行動をとっていった。それから暫くした後、顕子は父親から二十歳以上年の離れた加賀美正臣陸軍大佐との婚約を告げられる。男色家の噂があるという加賀美に『自分と似たもの』を感じ取った顕子は自ら父親に話を進めるよう働きかけ、結果として加賀美は五条家という後ろ盾により中将にまで出世し、中将夫人という肩書きを手に入れた顕子も加賀見や実家に迷惑をかけない範囲で遊び回っていた。
そして目まぐるしい時が過ぎる中、顕子は一度だけ夫の仕事部屋で『ミスタ・ネモ』の写真を見かけたことを思い出した。『ミスタ・ネモ』と別れたあの日、彼を諦められなかった顕子は当時女学院で流行っていた「探偵」を雇って調べてもらった末に彼の死を知り、自暴自棄で加賀美との結婚を承諾していた。だが、『ミスタ・ネモ』が生きてると知ると彼女の中で唐突に『あの約束』が蘇る。大戦の火種がすぐそこまで迫るに伴い贅沢や装飾を自粛する声が高まる中、『約束』を果たせるのはこの舞踏会が最後だった。そして会場の音楽がワルツに変わった途端、目の前に長布をまとい黒いドミノを付けた男が現れた。直感で『ミスタ・ネモ』と分かった顕子は恭しく差し出された手を取り二人は踊り出す。悠久に続くかのようなひと時が流れていくが、その直後耳元で囁かれた言葉と『ある光景』に卒倒してしまう。
実は顕子が会場で探していたのは、軽井沢の秘密倶楽部で知り合った若い愛人・桐生友哉の姿だった。顕子は夫の書斎で『ミスタ・ネモ』の写真を見つけた後、再び「探偵」を雇って彼の周辺を調べてもらいD機関の存在を知ると、今度はスパイ活動に興味を持つようになり、その直後、桐生から持ちかけられたオペラグラス型の特殊カメラを使って加賀美が持ち帰る機密書類を写して来るというスパイ行為の勧誘に乗り、その書類を写したマイクロフィルムをチョーカーのペンダントヘッドに隠して持ってきていた。あの時。顕子の身に起こったのは『ミスタ・ネモ』こと結城の「二度とこんなことはなさらぬように」という忠告と、両脇を屈強な男に挟まれて会場を退出する桐生の姿だった。そしてチョーカーの中のマイクロフィルムは結城によって、オペラグラスも何者かに持ち去られていた。桐生が逮捕されればスパイ行為をしていた自分にも容疑がかかるに違いない。そもそも二十年前の『約束』をなぜ今更果たしに来たのか…そこまで考えた時顕子は、D機関を潰そうとしていた陸軍内の最右翼に夫の加賀美中将が関わっているらしいという「探偵」の話を思い出し、すべての出来事は結城中佐とD機関による加賀美中将を抑えるための対抗策であり、自分はあの日の『約束』に便乗して一連の計略に利用されたのではないかと考える。しかし、所詮顕子にとって桐生友哉という若い愛人もスパイの真似事も、かつての駆け落ち騒ぎや夜遊びと同じ「退屈を紛らわせるための一環」であり、その延長として少しばかり危険なことに手を汚すことはあれど、結局は身を守れる範囲の中でしか遊ぶつもりはない。だから、今までと同じく自分にまで事が及ぶことはこれからもないと結論づける。そしてそう自覚した十五歳のあの時から変わらない自分と同じように、世の中が変わるだけで人は変わらないのだと、顕子は自室の鏡台の前で一人皮肉げに笑うのだった。
パンドラ
アジア・エクスプレス
そんな中、瀬戸は訓練生時代に行われたフェンシング試合のことを思い出した。当時オックスフォード大学に留学していた彼は、『得体の知れない極東出身の東洋人』として英国人学生達から見下される日々を送っており、そんな連中を左利きを活用した独自のフェンシング捌きで片っ端から叩きのめしていた。なので訓練試合でも確実に勝利できると確信していたのだが、結城が対戦相手にその都度瀬戸の弱点を耳打ちしていたため、反対に完璧なまでに打ちのめされてしまった。それは瀬戸自身の自負心を傷付けると同時に、『人は得意分野に持ち込んだ時こそ、かえって致命的な失敗をおかす』という教訓を刻みつけた出来事だった。そうしてタロットカードを弄びながら食堂車にやって来た瀬戸は、共産主義革命のために平気で命を投げ出すソ連のスパイも皇国史観に凝り固まった日本軍連中と同じだと自嘲し、同時に「スメルシュ」の暗殺者をどう炙り出し、盗まれた情報をどうやって取り返すかなどといった動きが読めないソ連スパイの対策を考えていると、母親同士がお喋りで構ってくれないことと窓から見えるひたすら平坦な景色のせいですっかり退屈しきっていた三人の子供達が瀬戸の無意識下に行っていた手品に惹かれて集まっていた。カードと素顔を見られてしまった瀬戸はとっさにコインを使った他愛もない手品を披露して子供たちを手懐けると同時に、証拠の品であるカードを三人の記憶から消させた。そして、父親が満鉄で勤めているという年長の少年から〈あじあ〉について聞かされた際『あること』を思い出すと、それを利用するため子供達に「奉天駅で〈あじあ〉から降りて終点の大連に〈あじあ〉より先に着くにはどうすれば良いか?」というなぞなぞを出し、「君達が今から言う『特別任務』をやり遂げることが出来たら答えを教える」という話を持ちかける。それは「昨日か一昨日の新聞を読んでいる人物を一等客室の中から探し出し、目印としてその人物の足元に例のカードを置いてくる」という『任務』で、これは子供ならば狭い車内を歩き回っていても不自然に思われず、なおかつ素早く標的(ターゲット)を特定出来ると考えた瀬戸の「作戦」だった。そうして暗殺者を特定した瀬戸は、子供たちの報告から暗殺者が車掌に成りすましており、さらにモロゾフが共に亡命するために連れていた男装の踊り子の姿を利用して接触し殺害したと推測。また、以前《あじあ》で一等特別室の冷房装置のみが故障したトラブルが発生しており、それを日本スパイがあぶり出しに利用すると予測してくるに違いないと考える。そこであらかじめ一等車の通気口で相手を待ち構え、相手側と同じ武器を使って捕らえることに成功する。そして未だ謎に包まれた「スメルシュ」の全容を聞き出させるために終点の大連で踏み込む警察官の中にD機関の人間を紛れ込ませて暗殺者の身柄を回収する手筈を整えた。
そうしてモロゾフの新聞も無事回収した瀬戸は、最後に子供たちに出したなぞなぞの答えを教えた。その答えは瀬戸があらかじめ隠し連れてきていた伝書鳩のことで、各国のスパイが入り乱れ、電信による通信はすべて傍受、盗聴されていることが前提とされる満州ではまさにうってつけの通信手段だった。瀬戸は結城中佐や自分達D機関員が集めた情報が、陸軍内で上手く機能していない気をひしひしと感じており、既に戦争はすぐそばまで迫っていること、戦争が始まってしまえば自分達スパイは存在意義そのものが失われてしまうことを苦く思いつつも、自分達はやるだけのことをやるだけだと振り切り、天空に伝書鳩を放ったのだった。
登場人物
ジョーカー・ゲーム
ロビンソン
魔都
及川 政幸(おいかわ まさゆき)
蝶の少年(ちょうのしょうねん)
XX(ダブル・クロス)
飛崎 弘行(とびさき ひろゆき)
カール・シュナイダー
野上 百合子(のがみ ゆりこ)
ダブル・ジョーカー
ダブル・ジョーカー
風戸 哲正(かざと あきまさ)
白旗 樹一郎(しらはた きいちろう)
蝿の王
脇坂 衛(わきさか まもる)
仏印作戦
永瀬 則之(ながせ のりゆき)
イエン
柩
ヘルマン・ヴォルフ
オットー・フランク
ブラックバード
仲根 晋吾(なかね しんご)
マイケル・クーパー
眠る男
サム・ブランド
パラダイス・ロスト
誤算
マリー・トーレス
ジャン・ヴィクトール
失楽園
マイケル・キャンベル
ジュリア・オルセン
バーテンダー
ジョセフ・ブラント
リチャード・パーカー
追跡
里村(さとむら)
有崎 晃(ありざき あきら)
有崎 直哉(ありざき なおちか)
暗号名ケルベロス
内海 脩(うつみ おさむ)
ルイス・マクラウド
シンシア・グレーン
ラスト・ワルツ
ワルキューレ
逸見 五郎(いつみ ごろう)
日本人俳優。日独共同映画製作の監督も兼ねてドイツに招かれる。演技・技術力ともに優秀だが『女癖』が非常に悪く、そのせいで自ら立ち上げた映画製作会社を手放したほど。さらに映画製作向上のためとはいえ、資金の一部を私用に使っていた上にゲッベルスの「愛人」に手を出してしまう。
ひょんなことから雪村の任務と『ある作戦』に巻き込まれることになり、その後なんとか疑惑を不問にされ、ドイツを離れて南半球に渡ることにする。
雪村 幸一(ゆきむら こういち)
ヨーゼフ・ゲッベルス
レニ・リーフェンシュタール
フィリップ・ランゲ
舞踏会の夜
加賀美 顕子(かがみ あきこ)
加賀美 正臣(かがみ まさおみ)
桐生 知哉(きりゅう ともや)
パンドラ
ジョン・ラーキン
フレドリクス・オグデン
アジア・エクスプレス
瀬戸 礼二(せと れいじ)
子供たち(こどもたち)
漫画
霜月かよ子作画でコミカライズされ、『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて2009年6・7号(1月5日発売号)より「Dの魔王 〜ジョーカー・ゲーム〜」というタイトルで連載が開始され、後に『月刊!スピリッツ』(同)に連載誌が移動となる。2014年より映画版とのタイアップとして『ビッグコミックスピリッツ』で再開。
アニメ版を「ジョーカー・ゲーム THE ANIMATION」というタイトルでコミカライズ。仁藤すばる作画で『月刊コミックガーデン』(マッグガーデン)に2016年3月号より連載が開始された。
掲載情報
書誌情報
小説
単行本
- 柳広司 『ジョーカー・ゲーム』 角川書店→KADOKAWA、既刊4巻(2015年1月17日現在)
- 「ジョーカー・ゲーム」2008年8月28日発行(同日発売)、ISBN 978-4-04-873851-4
- 「ダブル・ジョーカー」2009年8月26日発行(同日発売)、ISBN 978-4-04-873960-3
- 「パラダイス・ロスト」2012年3月23日発行(同日発売)、ISBN 978-4-04-110138-4
- 「ラスト・ワルツ」2015年1月17日発行(同日発売)、ISBN 978-4-04-102137-8
文庫版
- 柳広司 『ジョーカー・ゲーム』 角川書店→KADOKAWA〈角川文庫〉、既刊4巻(2016年3月25日現在)
- 「ジョーカー・ゲーム」2011年6月23日発行(同日発売)、ISBN 978-4-04-382906-4
- 「ダブル・ジョーカー」2012年6月22日発行(同日発売)、ISBN 978-4-04-100328-2
- 「パラダイス・ロスト」2013年6月21日発行(同日発売)、ISBN 978-4-04-100826-3
- 「ラスト・ワルツ」2016年3月25日発行(同日発売)、ISBN 978-4-04-104023-2
漫画
- 『Dの魔王 〜ジョーカー・ゲーム〜』 小学館〈ビッグコミックス〉、全3巻
- 2009年8月28日発売、ISBN 978-4-09-182570-4
- 2010年3月30日発売、ISBN 978-4-09-183075-3
- 2010年7月30日発売、ISBN 978-4-09-183280-1
- 『ジョーカー・ゲーム』 小学館〈ビッグコミックススペシャル〉、全1巻
- 2015年1月19日発売、ISBN 978-4-09-186840-4
- 『ジョーカー・ゲーム THE ANIMATION』 マッグガーデン〈ブレイドコミックス〉、全5巻
- 2016年5月10日発売、ISBN 978-4-8000-0572-4
- 2016年10月8日発売、ISBN 978-4-8000-0621-9
- 2017年4月10日発売、ISBN 978-4-8000-0675-2
- 2017年10月10日発売、ISBN 978-4-8000-0721-6
- 2018年3月10日発売、ISBN 978-4-8000-0751-3
公式副読本
- KADOKAWA(編) / 柳広司(企画協力)『ジョーカー・ゲームの謎』 KADOKAWA〈中経の文庫〉
- 2015年1月20日発行(2015年1月19日発売)、ISBN 978-4-04-600386-7
- 2015年1月20日発行(2015年1月19日発売)、ISBN 978-4-04-600386-7
映画
あらすじ
ある日、仲間をかばい誤って上官を殺してしまった陸軍士官の青年の銃殺刑が執行されようとしていた。しかし、執行直前の刑場に陸軍の結城中佐が現れ、青年の身柄を引き取った。結城中佐は命を助ける条件として、自身が創設したスパイ組織・D機関への参加を持ち掛け、青年はこれを受け入れた。青年は他のメンバーと共に過酷な訓練を受け、スパイとしての素質を開花させていく。
青年がD機関に所属して暫く経った頃、結城中佐は参謀本部の武野大佐に呼び出され、新型爆弾の製造法が書かれた極秘書類・ブラックノートの奪取を命じられる。ブラックノートはドイツからアメリカ大使アーネスト・グラハムの手に渡り、2週間後にはアメリカ本国に引き渡されることになっていた。武野大佐はD機関に奪取を命じる一方、憲兵隊を使い先にブラックノートを手に入れ、疎ましく思っていたD機関を解体に追い込もうと画策していた。結城中佐はブラックノートの任務を青年に一任し「嘉藤次郎」の偽名を与え、グラハムが赴任している国際都市・虹楊(Hung Yang)に派遣する。
虹楊に到着した嘉藤は、写真屋に成りすましグラハムに近付いた。そこで嘉藤は、グラハム邸で働くリンに目を奪われる。数日後の夜、嘉藤はグラハム邸に潜入し金庫から手帳を見つけ出すが、手帳はブラックノートとは別物だった。その場を後にしようとする嘉藤は、グラハムに襲われていたリンを助け出す。収穫のなかった嘉藤は任務のメンバー小田切・実井に叱責されるが、「目星は付いている」として、グラハムの退任パーティーに潜入する。
グラハムの書斎からブラックノートのデータが写っているネガを発見した嘉藤はグラハム邸を後にしようとするが、そこに英国諜報機関のキャンベルが現れネガを奪おうとする。運良くリンが現れたためキャンベルはその場を逃げ出し、嘉藤は小田切・実井との合流地点に向かう。しかし、嘉藤を追って来たリンにネガを奪われてしまい、2人を追って来た英国諜報機関から逃れるためリンを見失ってしまう。小田切・実井との合流地点に到着した嘉藤は、リンから取り返したネガを取り出し、街から離れようとする。しかし、目の前でリンが英国諜報機関に捕まり、また、小田切・実井が乗っていた車が爆破され、混乱に巻き込まれた嘉藤は英国諜報機関に捕まってしまう。
英国諜報機関のアジトに監禁された嘉藤は、ハワード・マークス中佐から尋問を受ける。隣の部屋ではリンが拷問を受けており、嘉藤は彼女を救うため、「英国に寝返る」と告げる。マークス中佐は嘉藤に偽情報を打電させ、彼を牢屋に連行させた。嘉藤は牢屋を抜け出し、スリーパーの協力を得てアジトを脱出しようとするが、リンを助けるため拷問部屋に戻る。マークス中佐から待ち伏せを受けた嘉藤は命を狙われるが、リンの機転でその場を脱出し、救助を待つためアジトの屋上にある時計台に向かう。2人は時計台でマークス中佐に追い詰められるが、事前に仕掛けた火薬が爆発した混乱に紛れ脱出に成功する。
結城中佐はブラックノートを手に参謀本部に報告に訪れた。「新型爆弾製造には莫大な予算が掛かる上に成功する確率が1%以下」という事実を知ると、結城中佐の理解者の笹原大佐が奪取を命じた武野大佐の責任を追及する。武野大佐は批判を避けるためD機関に責任を押し付けようとするが、結城中佐は「武野大佐がブラックノート奪取のためにグラハムを殺害しようとしていた」「軍上層部や政府を軟弱呼ばわりしていた」という事実を暴露し、公表を控えることと引き換えにD機関の存続と多額の予算を手に入れる。
任務を終えた嘉藤は、爆死を免れた小田切・実井や救助に現れた三好と共にリンを連れて日本に戻ろうとするが、そこに英国諜報機関が現れる。車に乗り込む嘉藤たちを余所に、リンは1人その場を離れた。嘉藤もまた、結城中佐から新たな指令と偽名を与えられ、次の任地に向かった。
キャスト(映画)
- 嘉藤次郎 - 亀梨和也
- リン - 深田恭子
- 神永 - 小澤征悦
- 三好 - 小出恵介
- 小田切 - 山本浩司
- 実井 - 渋川清彦
- ハワード・マークス - リチャード・シェルトン(英語版)
- キャンベル - ジャスパー・バグ
- アーネスト・グラハム - リチャード・モス
- 矢島中佐 - 田口浩正
- 笹原大佐 - 光石研
- 武野大佐 - 嶋田久作
- 飯塚中佐 - 千葉哲也
- 結城中佐 - 伊勢谷友介
スタッフ(映画)
- 監督:入江悠
- 原作:柳広司『ジョーカー・ゲーム』
- 脚本:渡辺雄介
- 音楽:岩崎太整
- 主題歌:KAT-TUN「Dead or Alive」(J Storm)
- 製作:中山良夫、市川南、藤島ジュリー景子、藪下維也、柏木登、桜井徹哉、井上伸一郎、吉川英作
- ゼネラルプロデューサー:奥田誠治
- エグゼクティブプロデューサー:門屋大輔
- プロデューサー:藤村直人、甘木モリオ
- 撮影:柳島克己
- 美術:小島伸介
- 照明:鈴木康介
- 録音:橋本泰夫
- 編集:辻田恵美
- キャスティング:杉野剛、YUTAKA TACHIBANA
- ポストプロダクションスーパーバイザー:大屋哲男(ピクチャーエレメント)
- VFXスーパーバイザー:道木伸隆
- スクリプトスーパーバイザー:新玉和子
- 装飾:酒井拓磨
- スタイリスト:荒木里江
- 音響効果:伊藤進一
- アクションコーディネーター:川澄朋章
- プロダクションマネージャー:大西洋志、ELZA HIDAYAT
- 助監督:JON HIJIRI、DONDY ADRIAN
- ラインプロデューサー:JOHN RADEL
- ドルビーデジタル・コンサルタント:河東努(コンチネンタルファーイースト株式会社)
- 撮影機材協力:RED DIGITAL CINEMA SHOT ON RED(RED EPIC)
- 配給:東宝
- 制作プロダクション:シネバザール、Infinite Studio
- 企画・製作幹事:日本テレビ放送網
- 製作:「ジョーカー・ゲーム」製作委員会(日本テレビ放送網、東宝、ジェイ・ストーム、讀賣テレビ放送、VAP、博報堂DYメディアパートナーズ、KADOKAWA、日本出版販売、シネバザール、STV、MMT、SDT、CTV、HTV、FBS)
仕様
- 映画(劇場公開時):カラー、スコープサイズ、DOLBY SURROUND 5.1
製作
2012年に映画化の企画が始まり、「エンタテインメントとして成立する日本製スパイ映画を作る」という方針から、原作の読者の入江悠が監督に起用された。原作は短編の連作であるため、映画化に際しては各エピソードを繋ぎ合わせ一本のストーリーに編成された。また、嘉藤と結城の関係は『スパイ・ゲーム』のネイサン・ミュアーとトム・ビショップを参考にしている。
主演には原作の読者の亀梨和也が起用され、役作りとして英語・中国語・手品・アクション・モールス信号の打電法・拳銃の分解法などを学んでいる。
撮影は2014年1月4日から始まり、シンガポールやインドネシアのバタム島で撮影された。映画の舞台となる虹楊(Hung Yang)は1930年代〜1940年代の上海租界とシンガポールをモデルにしている。シンガポール・バタム島ではインドネシア・シンガポール・タイ・フィリピン・オーストラリアのスタッフ150人が参加し、英語でコミュニケーションが行われ、アクションシーンには『ザ・レイド』の助監督チームが参加している。日本では笠間市の筑波海軍航空隊記念館と常総市で撮影された。
公開
2015年1月31日公開。全国310スクリーンで公開され、1月31日、2月1日の2日間で17万4,121人を動員し、興行収入は2億713万1,700円を記録し映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)で初登場第2位となった。10代〜50代までの幅広い観客層を集客した。
BD / DVD (映画)
2015年8月12日発売
- BD(豪華版 VPXT-71401 / 通常版 VPXT-71402)
- DVD(豪華版 VPBT-14441 / 通常版 VPBT-14442)
テレビアニメ
2016年4月から6月までAT-X、TOKYO MX他にて放送された。また、Blu-ray BOX上下巻には黒の野良猫ヨル(声 - 関智一)が視点のエピソード「黒猫ヨルの冒険」が前後編に分けて収録されている。
ニュータイプアニメアワード2016において乃木坂46賞を受賞した。
2017年7月には、アニメーション制作のProduction I.G自ら放送枠を購入し、スタジオ設置などで縁のある新潟市が筆頭スポンサーに就いた再放送が行われた。
キャスト(アニメ)
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スタッフ(アニメ)
- 原作 - 柳広司「ジョーカー・ゲーム」シリーズ(KADOKAWA・角川文庫刊)
- 監督 - 野村和也
- シリーズ構成・脚本 - 岸本卓
- キャラクター原案 - 三輪士郎
- キャラクターデザイン・総作画監督 - 矢萩利幸
- メカニックデザイン・メカニック作画監督 - 常木志伸
- プロップデザイン - 村山章子
- チーフリサーチャー - 白土晴一
- 美術設定 - 成田偉保、天田俊貴(第7、11話)
- 美術監督 - 谷岡善王
- 色彩設計 - 野田採芳子
- 撮影監督 - 田中宏侍
- 3DCGI監督 - 塚本倫基
- 編集 - 植松淳一
- 音響監督 - 岩浪美和
- 音楽 - 川井憲次
- 音楽制作 - KADOKAWA
- 音楽プロデューサー - 山森篤
- プロデューサー - 河本紗知、大貫一雄、大瀬裕嗣、森菜摘、礒谷徳知、新井恵介、江口隼吾、白石容子
- アニメーションプロデューサー - 番匠公一
- アニメーション制作 - Production I.G
- 製作 - JOKER GAME ANIMATION PROJECT(KADOKAWA、博報堂DYミュージック&ピクチャーズ、Production I.G、ムービック、AT-X、ソニー・ミュージックコミュニケーションズ、サミー、フロンティアワークス)
主題歌(アニメ)
オープニングテーマ「REASON TRIANGLE」
エンディングテーマ「DOUBLE」
各話リスト
話数 | サブタイトル | 絵コンテ | 演出 | 作画監督 |
---|---|---|---|---|
第1話 | ジョーカー・ゲーム(前編) | 野村和也 | 矢萩利幸 | |
第2話 | ジョーカー・ゲーム(後編) | 野村和也 | 安乱純志 | 中村深雪 |
第3話 | 誤算 | 浜名孝行 | 二宮壮史 | 窪田康高、小谷杏子 |
第4話 | 魔都 | 竹内敦志 | 細川ヒデキ | 山口飛鳥 |
第5話 | ロビンソン | 黄瀬和哉 | ||
第6話 | アジア・エクスプレス | 須之内佑典 | 窪田康高、石井明治 | |
第7話 | 暗号名ケルベロス | 小村方宏治 | 新野量太、森田史 | |
第8話 | ダブル・ジョーカー(前編) | 佐藤雄三 | 森大貴 | 山口飛鳥 |
第9話 | ダブル・ジョーカー(後編) | 二宮壮史 森大貴 | ||
第10話 | 追跡 | 荒川直樹 | 二宮壮史 | 新野量太、森田史 古川良太 |
第11話 | 柩 | 板津匡覧 | 中村深雪 | |
第12話 | XX ダブル・クロス | 野村和也 | 中村深雪、窪田康高 | |
映像特典1 | 黒猫ヨルの冒険(前編) | 細川ヒデキ | 石井明治 | |
映像特典2 | 黒猫ヨルの冒険(後編) |
放送局
放送期間 | 放送時間 | 放送局 | 対象地域 | 備考 |
---|---|---|---|---|
2016年4月5日 - 6月21日 | 火曜 23:00 - 23:30 | AT-X | 日本全域 | CS放送 / リピート放送あり / 製作委員会参加 |
2016年4月6日 - 6月22日 | 水曜 0:30 - 1:00(火曜深夜) | TOKYO MX | 東京都 | |
水曜 1:35 - 2:05(火曜深夜) | テレビ愛知 | 愛知県 | ||
水曜 2:30 - 3:00(火曜深夜) | 毎日放送 | 近畿広域圏 | 『アニメ特区』第1部 | |
2016年4月7日 - 6月23日 | 木曜 0:00 - 0:30(水曜深夜) | BS11 | 日本全域 | BS放送 / 『ANIME+』枠 |
配信期間 | 配信時間 | 配信サイト | 備考 |
---|---|---|---|
2016年4月7日 - 6月23日 | 木曜 12:00 更新 | dアニメストア | |
2016年4月14日 - 6月30日 | 不明 | 楽天ショウタイム | 最新話は1週間無料 |
GYAO! | 最新話は1週間無料 | ||
GYAO!ストア | |||
ニコニコチャンネル | 第1話は常時無料 / 最新話は1週間無料 | ||
DMM.com | |||
バンダイチャンネル | 第1話は常時無料 / 有料会員は全話見放題 | ||
U-NEXT | |||
ひかりTV | |||
J:COM オンデマンド | |||
ビデオパス | |||
ビデオマーケット | |||
HAPPY!動画 | |||
ムービーフルPlus | |||
ライブ配信時間未定 | ニコニコ生放送 | ||
2016年4月20日 - 7月6日 | 未定 | PSストア |
BD / DVD
巻 | 発売日 | 収録話 | 規格品番 |
---|---|---|---|
BD | |||
上 | 2016年7月27日 | 第1話 - 第6話 | ZMAZ-10711 |
下 | 2016年9月28日 | 第7話 - 第12話 | ZMAZ-10712 |
DVD | |||
1 | 2016年7月27日 | 第1話 - 第3話 | ZMBZ-10721 |
2 | 2016年8月24日 | 第4話 - 第6話 | ZMBZ-10722 |
3 | 2016年9月28日 | 第7話 - 第9話 | ZMBZ-10723 |
4 | 2016年10月26日 | 第10話 - 第12話 | ZMBZ-10724 |
舞台
ジョーカー・ゲーム 2017年5月にZeppブルーシアター六本木で上演。脚本・演出は西田大輔が担当。 ジョーカー・ゲームII 2018年6月にシアター1010、メルパルクホール大阪で上演。
キャスト(舞台)
ジョーカー・ゲーム
- 三好 - 鈴木勝吾
- 甘利 - 山本一慶
- 実井 - 木戸邑弥
- 田崎 - 奥谷知弘
- 波多野 - 松本岳
- 神永 - 才川コージ
- 小田切 - 阿部快征
- 福本 - 前田剛史
- 佐久間中尉 - 大海将一郎
- ヘルマン・ヴォルフ大佐 - 山﨑雅志
- 武藤大佐 - 光宣
- ジョン・ゴードン - オラキオ
- 結城中佐 - 谷口賢志
ジョーカー・ゲームII
- 実井 - 木戸邑弥
- 甘利 - 山本一慶
- 田崎 - 奥谷知弘
- 波多野 - 松本岳
- 神永 - 才川コージ
- 福本 - 前田剛史
- 蒲生次郎 - 君沢ユウキ
- 風戸中佐 - 合田雅吏
- アーネスト・グラハム - 和興
- 白幡樹一郎 - 須間一也
- 逸見五郎 - 宮下雄也
- ヨーゼフ・ゲッベルス - 村田洋二郎
- ヘルマン・ゲーリング - 岩澤晶範
- レニ・リーフェンシュタール - 大湖せしる
- 三好 - 鈴木勝吾
- 結城中佐 - 谷口賢志
スタッフ(舞台)
- 原作 - TVアニメ『ジョーカー・ゲーム』
- 演出・脚本 - 西田大輔
- 主催 - JOKER GAME THE STAGE PROJECT(マーベラス/KADOKAWA/BS-TBS/Production I.G)
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