スタート!
題材:映画,
以下はWikipediaより引用
要約
『スタート!』は、中山七里の推理小説。映画撮影現場を舞台とし、映画業界のリアルに挑んだミステリーと作品づくりのドキュメントを融合したエンターテイメント作品。
執筆背景
当初は戦後すぐの時代を舞台にしたものにするつもりだったが、当時の担当から「現代を舞台に」と言われたことと、2013年公開の映画『さよならドビュッシー』の撮影現場に陣中見舞に行った際、映画の原作の他に『連続殺人鬼カエル男』の感想も多くの人から聞くことができたが、「こちらは映画化は無理ですね」とみんなに口を揃えて言われたため、「よし、それなら自分で作ってやる!」と思ったことで、現代の撮影現場が舞台となった。小説内では『災厄の季節』というタイトルで撮影が進行していくが、これは『このミステリーがすごい!』大賞に応募した時に使っていた『連続殺人鬼カエル男』の旧題である。
著者の中山は無類の映画好きだが、この作品に関しても特に改めて取材はせず資料も集めず、ひたすら想像で撮影現場を描いた。それよりも、話の中心である監督にいかにカリスマ性をもたせるかということに重きをおき、大森監督には中山が凄いと思った3人の実在の監督の個性を混ぜ合わせて入れ込まれた。
単行本の帯には利重剛、柳下毅一郎、香山二三郎が推薦文を寄せている。
文芸雑誌『ダ・ヴィンチ』2013年1月号のインタビューで、中山はこの作品を「広い意味での密室ミステリーである」と述べている。
あらすじ
くだらないバラエティ番組の仕事ばかりやらされるテレビ局に別れを告げ、映画の世界に飛び込んで5年。曲がりなりにも助監督として映画の制作に関われてはいたが、宮藤映一は虚しさを感じていた。この世界をめざすことになったきっかけとなった映画界の巨匠・大森宗俊の下で寝る暇も惜しんで映画作りに励んでいたあのころの情熱は一体どこへ行ってしまったのか?
惰性で仕事をし続ける自分にも嫌気がさしていたころ、映一にとって願ってもない話が舞い込んでくる。3年ぶりに大森宗俊が新作を撮ることが決定し、そのスタッフとして映一にもお呼びがかかったのだ。意気揚々と大森の自宅で行われるオールスタッフ(スタッフ編成の他、キャスティングや撮影スケジュール作成、今後の大まかな計画表を作るミーティング)に駆け付けたが、すでに問題は山積み。製作費をたてに無理やりプロデューサーに名を連ねる帝都テレビの連中、そしてそのコネで押し上げられたスキャンダルまみれの女優。おまけに去年肺炎で入院していた大森は痩せこけており、体調が万全というわけではないらしい。そのうえ撮ろうとしている映画の原作は、猟奇場面と暴力描写もさることながら、刑法39条や精神障害も扱う作品で、関係者の間では映像化は困難とされていたものであった。しかし大森が決めたのなら、迷うことはない。映一もこの映画に全力を注ぐことを決意する。
しかし実際に撮影が開始されてからも、トラブルは続出する。撮影スタジオのスポットライトが突然落下し、プロデューサーの曽根が全治2か月の大怪我をしたのを発端に、台本の最終稿がネットに流出したり、作品の内容が精神障碍者を不当に扱っていると弁護士が抗議に来たり、セットの一部が本物とすりかえられてヒロインの女優が怪我をしたり…。予算の枯渇で脚本変更とシーンの大幅カット、そしてついには殺人まで。監督も吐血して倒れてしまった今、この作品は本当に無事に完成するのか? そしてこの様々なトラブルは一体誰の仕業なのか?
登場人物
大森組
宮藤 映一(くどう えいいち)
主人公。映像の仕事がしたくてテレビ局に入社したが、くだらないバラエティ番組のADばかりで腐る日々を送っていた。そんな中、ある新作映画のメイキングに参加した時、大森宗俊の知遇を得て映画スタッフの一員に加えられ、2年間、映画の現場で毎日が発見と驚嘆の連続である濃密な日々を過ごした。その経験は何物にも代えがたい財産となっている。以降、映画監督をめざして映画の世界に入る。
そして曲がりなりにも助監督と呼ばれるようになって5年、現在34歳。最初のころは自分でも呆れるくらいに熱く、監督以上に小道具一つ衣装一着に拘りを見せ、どれだけ寝不足だろうが二日酔いであろうが撮影所に入れば心と身体が跳ね起きた。しかし現在は、最初に起用してくれた監督の威光で様々な現場からお呼びが掛かり、5年の間にサードからセカンドに昇格したものの、意に染まぬ仕事が多く、惰性で働くようになり昔の湧き立つような興奮はなくなっている。現在は酒浸りの日々。
スティーヴン・スピルバーグやデヴィッド・リンチを特に尊敬しており、部屋にポスターを貼っている。メールの着信音は『E.T.』、通話の着信音は『インディ・ジョーンズ』。地下鉄の駅から徒歩15分のオートロックでもない築20年を過ぎた5階建てのアパートに住んでいる。
大森 宗俊(おおもり そうしゅん)
監督。邦画界の重鎮、映画界の巨匠。宮藤や小森らからは「オヤジ」と呼ばれている。デビュー2作目でいきなりベルリン国際映画祭の金熊賞を獲得。それ以降も世界に通用する傑作を作り続けたが、完璧主義を貫くあまり、1作に最低4年かかってしまう。彼が率いる制作スタッフは”大森組”と呼ばれ、海外の映画界でも彼を師と仰ぐ者は多く、彼の映画に触発されてこの世界に入ってきた”大森チルドレン”も多数存在する。国内での評価は海外のそれに追随する形。作品の完成度を追求するあまり、いつも資金繰りに苦しめられており、実はそれが寡作である理由の一つ。静謐な佇まいより、過剰なまでのドラマを好み、ビデオ撮りは大嫌いでフィルムにこだわる。美人好みだが、男の運命を狂わせるような存在感がなければフィルムに残す価値などないというのが持論。世田谷区の砧に、内玄関と外玄関が分かれた屋敷ともいうべき日本家屋の自宅があり、試写室を兼ねた大広間があるため、大森組のオールスタッフ(スタッフ編成の他、キャスティングや撮影スケジュールなどを作成する作業)はここで行われるのが慣例。実は製作費を捻出するために何度も抵当に入っている。
昨年肺炎で入院し、以前より顔も身体もひと回り小さくなり、髪の毛の艶もなく四肢がやせ細ってしまった。外部の移動には車椅子を使うように夫人から厳命されている。しかし相対する者を射抜くような眼光は変わらずトレードマークとも言われている咥えタバコはやめず、〈蒸気機関車〉と綽名をつけられる程のチェーン・スモーカーぶりも変わらず。
紳士というわけではなく、温厚でもない。直情径行で気難しい。それなのになぜかその人柄に皆惹きつけられる。妙に子供じみたところもあり、仕事の出来不出来をすぐ顔に出す。癇癪玉が爆ぜる寸前になると、左手で額を押さえ、右手の指がせわしなく動き出す。しかし誉める時には極上の笑顔を炸裂させるので、それが見たくて周囲が奔走することしばしば。
現場は刺激的でアイデアが見る間に形になり、照明の当て方や美術の工夫、演出方法などは他の現場でも応用がきく。どんなカットやどんな演技指導にも勘や経験だけでなく明確な理論づけがあり、「報酬をもらって映画学校に通っているようなものだ」と歓喜した者もたくさんいる。
五社 和夫(ごしゃ かずお)
小森 千寿(こもり せんじゅ)
平岡 伸弘(ひらおか のぶひろ)
苫篠 哲(とましの てつ)
帝都テレビ
曽根 雅人(そね まさと)
吉崎 徹(よしざき とおる)
帝都テレビのディレクター。曽根の使命で演出部チーフ助監督に就任。短髪を立てて流行りの細いメガネをかけて尖った格好をしているが、曽根の後ろに金魚のフンのようにくっついて登場するなど、腰巾着な性格が透けて見える。テレビドラマでは『セカンドウエディング』や『暁の大捜査線』などの人気作の演出を手掛けているが、劇場映画は今回が初。
後ろ盾になるはずの曽根が戦線離脱してからは、大森からも無視され続け、スタッフからも邪魔者扱いされているため、メイキング・フィルムを1人でただ黙々と撮り続ける。
演者
竹脇 裕也(たけわき ゆうや)
夏岡 優衣(なつおか ゆい)
有働さゆり役の女優。今年で42歳のベテラン女優。宝塚歌劇団出身で、舞台で鍛えられた演技力は折り紙つき。何度も著名な演技賞を受賞している。歯に衣を着せぬ物言いで、現場で人を泣かせることもしばしば。しかしその真意が真っ当で皆の気持ちを代弁することが多いため、ぶっちゃけ女優として有名ながらも芸能マスコミから叩かれることはない。
いづな 太郎(いづな たろう)
映画スタッフ
六車 圭輔(むぐるま けいすけ)
警察関係者
その他
絵里香(えりか)
五社 さつき(ごしゃ さつき)
宝来 兼人(ほうらい かねと)
宮里(みやざと)
須崎(すざき)
劇中映画『災厄の季節』
数年前に埼玉県で起きた実際の連続殺人事件を基に、新米刑事が連続殺人をきっかけにある母子と出会い傷つきながら成長していく様を主軸とし、犯人を追い詰めていく過程を並行して描いた新人作家によるミステリー(ペラ〈200字詰め原稿用紙〉で253枚)。猟奇場面と暴力描写もさることながら、精神障害と刑法39条を核にしている。原作では古手川を中心に事件が展開していく若い刑事の成長譚として描かれていたが、今回の脚本では古手川が狂言回しとなり、三つの家族の悲劇を描くことに重点が変えられている。愛するものを失った人間の喪失感が新たな憎悪を引き起こし、連鎖していく。そうした人々の内面を追う一方で、受難と救済を描く。核となる部分を穏当にするとただのミステリーになるため映画化は困難とされていたが、映画界の巨匠・大森宗俊によって初めて映像化される。
スタッフ
- 製作会社 - 大森プロダクション
- 配給 - 東芸
- 脚本 - 六車圭輔
- 原作 - 新人作家『災厄の季節』
- 監督 - 大森宗俊
- 製作 - 五社プロ→「災厄の季節」製作委員会(五社プロ、帝都テレビ(幹事会社)、博通堂、光文社)
- プロデューサー - 五社和夫→曽根雅人→五社和夫
- 演出部チーフ助監督 - 平岡伸弘→吉崎徹
- 演出部セカンド助監督 - 宮藤映一
- 演出部チーフサード助監督 - 苫篠哲
- 照明監督 - 末永孝志(すえながたかし)
- 美術監督 - 土居博司
- メイク - 陳端春(ちんたんしゅん)
- スクリプター - 平嶋亜沙美(ひらしまあさみ)
- 編集 - 高峰浩二(たかみねこうじ)
- 技斗 - 能美(のうみ)
- 撮影助監督 - 国松
キャスト
- 古手川和也 - 竹脇裕也
- 渡瀬警部 - 三隅謙吾
- 指宿梢(いぶすきこずえ) - 櫻井玲(さくらいれい)→山下マキ→山下麻衣
- 有働さゆり - 夏岡優衣
- 御前崎宗孝 - 澤村剛
- 当真勝雄- いづな太郎
- 廃車工場の従業員 - 李
- 歯科医院の看護師 - 小柳友希