ナツノクモ
以下はWikipediaより引用
要約
ナツノクモは、篠房六郎による日本の漫画作品。架空のオンラインゲームを舞台に、“カウンセリング目的のゲーム内コミュニティ「精神動物園」”を中心にした物語。現実世界での殺人事件により有名になってしまった「動物園」とその住人達、それに群がる一般プレイヤーたちの好奇心・悪意・善意、そして「動物園」を守るために雇われた「廃人プレイヤーキラー」による交流と事態の推移が描かれる。
概要
物語の中心がカウンセリングを目的としたコミュニティということで、主人公を含め多くの人物が心の傷を抱えており、それを彼等自身がどのように受容していくのかがテーマの1つ。
大半が戦闘だった前作の『空談師』より、コミュニケーションの比重が増している。その一方で現実世界の具体的な描写は前作と同様に極力避けることで、読者によるプレイヤー像の想像の余地を広く残している。そのプレイヤー像と、ゲームキャラクターとしての立ち振る舞いのギャップを楽しむ、といった多層的な読み方も可能にしている。また劇中では、作者お得意のギャグシーンやパロディ的描写の占める割合も増えている。
作者はこの作品において萌えを強化することを宣言しており、精神動物園の住人も幼女から老女までと、そのほとんどが女性である。
あらすじ
セキ編
主人公は中年と思しき男。娘や妻と別居して、酒とオンラインゲームに耽溺している。ゲームの中でのキャラクター名は「コイル」。彼はこのゲームにおける格闘戦の達人であり、ゲーム内で現実世界の精神科医である隼川教授のカウンセリングを受けるかたわら、隼川教授の依頼に応じてある仕事を請け負っていた。
動物園編
関係者による現実での殺人事件のため、世間の注目を浴びてしまい内外のプレイヤーによって荒らされ、今もなお狙われている小さなコミュニティ。そのコミュニティが設置されたサーバは約3週間後の8月31日に契約が解除され、消えることが決まっている。それまでの間、このコミュニティを守るためにトルク(コイル)は雇われる。
- 開放型ボード・タランテラに設置された、セラピー用のコミュニティ精神動物園。偵察のため外に出たガウルは、連れ戻しに来たミカオとともに外部のプレイヤー達に捕らえられてしまい、トルクが救出に向かう。
- 違法改造された無敵の外装「カバキ」が現れ、ガウル達を幽閉する。トルクは1人でカバキへ戦いを挑む。
- トルク以外にも動物園の警護に当たる者はいたが、それは盗賊まがいの傭兵団だった。さほど頼れる存在でもなく、かといって敵に回せば動物園の位置を暴露されかねない。傭兵団と動物園住人との間につのる不和を解消するために、3回勝負の決闘が行なわれることになった。しかし3回戦時に突如、1人の招かれざる人物が現れる。
- 最大規模の魔術ギルド・ホグウィッシュが護衛のフィンドール騎士団を従えてタランテラに現れた。ボードの平穏を守るという大義を掲げ、動物園を殲滅するのが目的。大魔導士の手で森が次々と焼かれていく。これに対抗すべく動物園側はある計画を実行する。
- 初めて動物園側から積極的に撃って出る「囮(デコイ)作戦」が立案された。森の1つを動物園の本拠地であるかのように偽装し、敵を誘い込んで一気に抹殺するというもの。しかしその敵を率いる鉄仮面は、一部の動物園メンバーに馴染みの深い人物だった。
- かろうじて敵を撃退するものの、動物園の外ではこれまでの規模を遥かに超える討伐軍が着々と組織されていた。つかの間の休息の中、トルクの家族のこと、そしてかつて動物園を襲った悲劇の内幕が語られる。
設定
『空談師』シリーズおよび、『ナツノクモ』に共通の要素として「リネン」という架空の会社が作ったオンラインゲームが登場する。ただし、これらが全て同一のゲーム、同一のバージョンとは限らない。
- 形式:3DMMORPG。アクション性が高く、白兵戦においては操作者の技量次第で精緻な回避や攻撃の相殺を可能とし、たいがいの攻撃をノーダメージで切り抜けられる模様。
- 名称:ゲームの固有名称について明確な言及はない。「ボードゲーム」と呼ばれる事もあるが、下記のボードに由来する一般名称の可能性が高い。
- ボード:ゲームの舞台となる仮想空間。多くの場合サーバと同義。リネンが運営する公式ボードの他にリネンと契約したGMが管理する私設ボードが存在する。私設ボードには個人管理・会員制の閉鎖型ボードと開放型ボードがあり、後者は外部から自由に接続できるオープンサーバの事だと思われる。個人ボードのチェックとランク付けをリネンのGMが行なっている
- インタフェース:プレイヤーのリアクションからは全感覚没入型バーチャルリアリティを想像させるが、作中の描写ではフルフェイスのヘッドマウントディスプレイとデータグローブのみ。ディスプレイにはマイクとスピーカーが内蔵されている。ダメージを受けたときや触覚の表現として、指先と首筋に刺激が与えられる。
- 感情表現:表情への追従はコマンド式とは考えにくく、これもハードウェアで表情を読み取っている可能性がある。『ナツノクモ』では瞳から殺気のようなものを感じ取ることもできた。鼻血や涙を流す場合さえあり、漫画的表現と言ってしまえばそれまでだが、実際にゲーム中で行なわれているとすれば相当高度な検出と判断が行なわれていることになる。
- 規制:短編『空談師』では血糊などは数秒で消える設定となっており、規制で揉めている。また「ゲーム中では規制のため、殺人はできても強姦は無理」というような台詞も語られている。
- PC:プレイヤーのこと。一人のPCは複数の外装(後述)を切り替えて使うことができる。
- 外装:ゲームの中で使用するプレイヤーキャラクターを指す用語、およびその外見上のデザイン。『ナツノクモ』では、動物園の住人の外装を高名なデザイナーが担当するなど、外観についてはカスタマイズの自由度が高い。『空談師』では、違法改造された外装がダメージを受けるとその部位が欠損し、場所によっては「本物の内臓からスキャンした海外製」という触れ込みの、写実的にテクスチャマッピングされた内臓が飛び出すエフェクトを使用していた例もある。
- 体力:ヒットポイント制。0になると死亡し、死亡状態から蘇生スキルを使用せずにその場で復活すると能力値が25%減少する。違法改造された外装では最大で9999。
- 切断と消滅:外装が生きている状態で通信を切断すると、外装はボードからログアウトする。外装が死亡状態のまま切断すると、2分後に外装のデータが全て消滅(ロスト)し、その場合は一切復旧できない。この条件以外でも、カバキなどの違法プレイヤーがつかったウィルスで外装のデータが変質させられた場合、ロストする可能性がある。
- 拷問:上記のように、死亡状態からはステータス低下と引き換えに何度でも復活できる。従って消滅させるためには攻撃を続けて、復活するそばから死亡させ、復活する気力を相手プレイヤーから奪う必要がある。この行為を「拷問」と呼ぶ。
- 隠れ能力:外装には生まれ持った特殊能力がある。ただし一度でも死亡して復活すると、その時点で隠れ能力は失われる。
- スキル:作品中の描写からゲームシステムの中心はスキル制であることがうかがわれる。
- 泥棒行為:所有権の概念は薄いようで、死亡したり行動不能になった外装からは持ち物を自由に奪える。盗賊のスキルがあれば戦闘中の相手からも略奪が可能である。
- アイテム作成:生産に関しては外装同様自由度が高く、機能やデザインを高度にカスタマイズできる。
- ボックス:PCに与えられた個室のような空間。個々のPCの好みによって内部を様々にカスタマイズできる。入室するにはパスワードかボックスの持ち主の許可が必要。
用語
ナツノクモに登場する事柄・用語を解説する(50音順)。ゲーム自体のシステム・特徴については篠房六郎の「作品中のゲーム」の項目を参照のこと。
アーネフェルト盗賊団
イグナイター
ギカ
タランテラ
動物園
フィンドール騎士団
ホグウィッシュ
傭兵団
リネン
人物・キャラクター
ナツノクモに登場する人物を解説する(50音順)。ゲーム自体のシステム・特徴については篠房六郎の「作品中のゲーム」の項目を参照のこと。
あ - か行
アーネフェルト
赤頭巾
イタカ
ガウル
カツトシ
アーネフェルト盗賊団の一員。細身で口髭をたくわえたキザ男の外装。真っ向勝負には不向きだが、剣先で敵の装備を解除・分解するスキルを持つ。アーネフェルトの実弟で、姉に虐待を受けていたらしく、姉の肉体的・精神的暴力に怯える。「ざます」の語尾をアーネフェルトに強要されているが、使い忘れていることが多い。ハヤブサを使い魔として使役する。このハヤブサは動物園で飼育してもらったもので、とくにイタカが面倒を見ていた。名前は「キョロちゃん」のはずだったがイタカに「三郎丸」と勝手に名付けられている。それ以降どちらの名前で呼ばれているのかは不明。
いわゆるおっぱい星人。片思いしていた女性に振られて極端に落ち込んでいたが、ジージャの巨乳を間近に見た途端、一気に復活した。そしてジージャに抱きつき殴り飛ばされた結果、自らの中に新しい悦びを発見する。
カバキ
クズノハ
クランク
冷徹な皮肉屋の雰囲気を漂わせた眼鏡の青年の外装。他人の心理につけ込み利用する策略家で、ニヤケメガネとの渾名が付いている。機械としてのクランクは主にエンジンの部品として、往復運動を回転運動へ変換する働きをする。
虚構内のみならず現実に起こった事件の、ある意味元凶とも言える人物。
本名は倉池(くらいけ)。隼川教授のゼミに参加してカウンセリングを学んでいる。古くからの知り合いであるコイルに対して遠慮なく辛辣な言葉を浴びせ、結果コイルからは嫌われている。コイルを隼川教授に紹介したのもクランク。戦闘に参加することは滅多にないが、中を通った攻撃を攻撃者にそのまま跳ね返す環をつくる糸状の武器「次元環」を使う。イタカを相手にしたときはカウンター攻撃で撃退した。
クロエ
動物園の現園長。蜘蛛を模した外装で、糸を使った攻撃を得意とする。必要に応じて毒も使う。ジージャの次に巨乳(作者のコメントによる)。リーゼのギカ(母親役)。後にガウルのギカにもなる。
隼川教授のカウンセリングを受けたことで、自分も人を助ける側に立つことを志す。だがその結果、隼川教授のカウンセリンググループで他のメンバーの本名や住所を調べようとして、退会処分を受けた。その後、彼女は独自にオンライン・セラピーを開くが、様子をうかがいに来たクランクが見たものは、情熱だけが先走った稚拙な療法もどきであった。やがてこれにゴローが関わるようになり、動物園となる。かつては別の外装でリーゼと旅をしていた。ゲームの中でゴローと結婚式を挙げた。
コリデール
さ - た行
サブレ
サンチョ
ジージャ
セキ
ソウジ
鉄仮面
トモ
トルク
コイルが使うもう1つの外装。一般にはエンジン男として知られており、ネトゲ廃人プレイヤーばかりを狙う謎の存在として都市伝説化されている。トルクに外装を消滅させられたプレイヤーはそのまま音信不通になり、二度とゲームに戻ってこない事から、死んだり病院送りになったものと噂されている。エンジンを模した機械的な体で、上半身が大きすぎて異様なバランスになっている。右腕が欠損している。
基本的な戦闘スタイルは素手の殴り合いだが、カバキ戦では接触によるウィルス感染で左腕を失い、代わりに弾体射出装置を取り付けた。体力が半分以上残っている時は攻撃力・防御力・速度とも並以下だが、体力だけは高い。体力が半分以上減少すると隠れ能力の「根性(ガッツ)」の効果で全ての能力値が上昇し、体力が減るほど能力値の上昇幅も大きくなる。この事はタギマ戦で端的に示され、一撃目ではトルクにダメージが与えられたのに対し、能力上昇後の二撃目では、まだ無傷だったタギマを一撃で倒している。本ゲームにおいては「隠れ能力は一度でも死ぬと失われる」というルールがある事を示して、そのような危うい戦闘スタイルを長く続けていながら、トルクはまだ一度も(プレイ上で)死んだ事がない、戦闘に関して恐ろしく腕の立つプレイヤーである事をサンチョが指摘している。
また、残り体力が一桁にまで減少すると「エンジン」が発動する。このとき周囲に開けた場所と、生贄のプレイヤー(または死体)が必要。発動するとトルクの周囲の流血が吸収され、まず地面に巨大な魔法陣(召喚陣)が形成される。次に召喚陣から異形のモンスターが多数出現して魔法陣を覆うようにドームを形成し、中にいるPCは食い殺される。そしてその犠牲者の血をエンジン男が体内に吸い込み、欠損していた右腕が生成される。大柄な本体に輪を掛けて不釣合いなほど大きく長い腕はドラゴンの首を模したような外観であり、右腕先端から超大規模の砲撃(「『囮』作戦」の際、この一撃で森を焼き払っている)が、また腕全体から無数に展開する射出口から全方位へ無差別爆撃が確認されている。その後右腕は分解・消滅するが、これがトルク自身の意思で出来るのか、時間制限によるのか、または攻撃を行うとその後自動的になるのかは不明。リネンに個人的なコネを持つバンブロジアが問い合わせをしたとき、トルクに関してはリネンからの返答が無かった。トルクの能力は違法改造ではなく、公式の裏技である可能性をサンチョが指摘している。
現実ではリネン社閑職の中年男性で、「伝堂(でんどう)」という名で呼ばれている。東京在住。幼い一人娘のくるみは事故で鳥取の病院に入院しており、妻も鳥取の実家にいる。娘の事故に関してコイルに直接的な責任はないものの、強い自責の念を負い、酒とオンラインゲームに逃避している。部下の過労死に伴う裁判でリネン社に不利な証言をしたため閑職に追いやられた。隼川教授のカウンセリングを定期的に受けている。
な - は行
ハーニィ
ハッター
隼川教授
ま - 行
ミーたち
ミカオ
ミツキ
兎を模した外装を持つ動物園の住人。性同一性障害の持ち主として動物園に参加しており、住人達の中で唯一、外装と本当の性別が一致しない。傭兵団のリーダー。他の住人の外装とは全く異なる、露出度の高いバニーガール風の外装。武器は踵の刃だけだが、素早い動きで全身をバネのように使い、相手に深手を負わせる。殺した相手に変身する能力がある。カチューシャを外すと外装が変化し、圧倒的なパワーを持つ二刀流使いになる。
気分屋で自己顕示欲が強く、仲間はずれにされることを根に持つ性格。他人の心の傷をえぐり出す事を無上の喜びとするサディスト。違法改造アイテムのナイフを使いガウルにセカンドレイプを行った。現実では実家住まいで、家人の1人を「ババア」呼ばわりして口汚く暴言を吐く様子が、ゲーム中に洩れ聞こえてきた。
初期の動物園が開いていた頃に、ゴローによりミントとの仲を裂かれたあげく「変態ネカマ」と罵倒され、ミントが園から離れた同時期に動物園から追放されたが、動物園再建後に傭兵団を引き連れて現れた。また、ミツキがかつて見せていた穏やかな様子はすっかり変わっていた。
ミント
目坂ユウ
メリノー
モーリィ
モモちゃん
備考
タイトルの「ナツノクモ」
英題の“Spinning Web”
打ち切り
補遺
- 1巻145ページの「もう4人も死んでいる」は、2刷までは「7人」だった。3刷以降で修正。
- 月刊IKKI 2004年末付録のマウスパッドはトルク、クロエ、ガウルの3人による団欒風景。表面の透明シートを剥がすと3人の外装が消え、インターフェイスを装着したトルクのプレイヤーが1人でダイニングに座っている、やるせない図に変わる。
- 5巻61ページの「メンヘル女」は、連載時は「メルヘン女」だった。
- 第24話(5巻収録)は連載時に間に合わず、群衆はアシスタントが作画した。単行本では描き直されている。
書籍
篠房六郎 『ナツノクモ』 小学館 〈IKKI COMIX〉 全8巻