ナムジ
以下はWikipediaより引用
要約
『ナムジ』は、安彦良和の全編書き下ろし漫画。1989年から1991年にかけ、徳間書店で全5巻が刊行された。
徳間書店版(1994年に、アニメージュコミックス(全5巻)版で再刊)の他に、中央公論新社(全4巻)で、簡易装丁版が中公文庫コミック版(1997年)とコンビニコミック版(2003年)で刊行された。2012年8月より「古事記巻之一 完全版 ナムジ 大國主」としてカドカワコミックス・エースより再版刊行されている。
記紀に描かれているナムジ=大国主を、2世紀後半の日本に実在した人物として、大胆な仮説や創作を加えながらその半生を描いた歴史作品。同じく記紀神話(日本神話)の人物を題材とした連作(『神武』、『蚤の王』、『ヤマトタケル』)などの出発点となっている。
原田常治『古代日本正史』を、設定の基としている。
あらすじ
第一部
紀元2世紀末の日本。 鉱山の奴隷ナムジは視察に訪れた出雲王スサノオの娘スセリに自ら志願し、淤宇の宮の馬丁として仕える身となる。 大陸から渡来した一族によって統治される出雲において土着の倭人は格下の身分に甘んじる立場にあったが、露骨な階級社会に強く反発したナムジは、スセリの五兄イワサカと激しい乱闘を演じる等、問題児として危険視される。 支配者層への報復心を募らせたナムジは狩りに出たスセリがエミシ族の襲撃を受け孤立した隙を突いてその処女を奪うが、スセリは逆にナムジへ想いを寄せるようになる。事の次第を知った四兄クライネはナムジを危険分子と見なし、エミシ討伐のどさくさに紛れて抹殺しようと画策する。 山狩りの中で罠に嵌められたナムジはクライネの目論み通りに死にかけるが、道中で助けた霊女イセポに救われる。浜辺で意識を取り戻したナムジは大陸視察から帰還したスサノオの船に拾われる。
第二部
スサノオは倭王を称する邪馬台国の征討を宣言し、戦の準備を進める一方、娘を孕ませたナムジに対しては死罪を免れる条件として比婆山に巣食う鬼を祓うように命じる。山の墳墓に埋葬されているのはスサノオの母イザナミで、鬼は殉葬された召し使いたちだった。イザナミの御魂に気に入られたナムジは彼女の遺体を清める。 晴れてスサノオに認められ、スセリの夫となったナムジは国作りに着手する。倭人への差別意識を持ち続ける家来たちを見返そうと、知識を持たぬまま強引に河川工事を推し進めた結果、一度は失敗して大きな被害を出すものの、小舟に乗って現れた賢者スクナビコナの助言で運河を築き、治水を成功させる。
第三部
スサノオ率いる出雲軍が筑紫に攻め入り、ここに倭国の大乱が始まる。一方、守りの手薄になった出雲領内には謎の男ヒボコ率いる郎党が出没し、宮を焼き払うなどの狼藉を働いて布津の一族を動揺させる。 ナムジは国の明け渡しを要求するヒボコを僅かな手勢で迎え討ち退かせると共に、その勢いで丹波国の奥深くまで追撃し、本拠地の大江山を攻め落とす。 遠征を通してより広い世界がある事を知ったナムジは出雲一国を越えた大國の主になる壮大な夢を抱くようになっていく。
第四部
淡路の地に兵を進めたナムジはナガスネ率いる鳥見の軍勢と衝突し危機に陥る。河内の湿地帯に追い詰められ、暴風の中でスクナビコナを失ったナムジらを救ったのは海から船団を率いて現れたオオドシだった。オオドシは邪馬台国のヒミコに篭絡されて野心を失ったスサノオと袂を分かち、新天地を求めて東方まで来たのだった。 巻向勢と和解し、国主に迎えられたオオドシは共に国作りを成そうナムジに持ちかけるが、自らの手で諸国を統べる野望を抱いたナムジはこれを断って出雲に帰還する。 同じ頃、筑紫からはスサノオが海人族の襲撃を受けて倒れたという報せが入り、ナムジは息つく間もなく救援に赴く事になる。瀕死の大王を守ながら出雲勢は撤退を始めるが、殿軍を担ったナムジは海人族による再度の奇襲で捕虜となる。
第五部
邪馬台国に引き渡されたナムジは岩牢に幽閉されるが、少女タギリによる施しもあり過酷な獄中暮らしを生き延びる。10年の後、釈放されたナムジはタギリが女王ヒミコとスサノオの娘である事を知る。ヒミコはナムジを客将として扱い、成長したタギリをナムジの妻とする。 やがてタギリの異父兄ニニギ率いる邪馬台軍は出雲を九州より放逐するべく出兵し、ヒミコの命でナムジも従軍する。その目的は出雲との講和にあったが、停戦を拒絶したニニギは乱戦の中で討ち死にし、ナムジはスセリとの息子ミナカタの追撃を受ける。 海岸に追い詰められたナムジたちはヒボコ率いる海人族の仲間になっていた出雲時代の元部下たちに救われ、沖ノ島に逃れる。大国の主となる夢が破れた事を痛感したナムジは失意に苛まれるが、そこに生まれたばかりの息子ツノミを抱えたタギリが小舟に乗って現れ、再会を果たす。
主な登場人物
以下では主に記紀の描写との関連、および創作と考えられる点について注記する。
出雲
中つ国(中国地方)の北、大海に面した国。胡地(満州付近)より朝鮮半島を経由して渡来した騎馬民族の末裔である布津族によって支配されている。 鉄鉱を豊富に産出する事から製鉄技術が高度に発達している他、それを元にした強大な軍事力も有しており、邪馬台をはじめとする周辺諸国と倭の覇権を巡って抗争を繰り広げる。
ナムジ - 大国主
本作の主人公。海岸に漂着した流民の小舟から一人生きて拾われたが、その気性の激しさから疎まれ、鉄山に奴隷として売られた。その出自のため出雲の支配者層からは他の倭人と共に刺青の輩と蔑まれる一方、倭人からも素性の知れない流れ者として見下されるという曖昧な立場にある。しかしどちらの社会にも染まりきれない特異性故に、自分を抑圧する物全てを越えて見返そうという強い意志を抱いている。その反骨精神によって一介の厩番からスセリの夫となり、果ては出雲の範疇を越えた世界を統べる大国の主となる道をひた向きに進もうとする。
本作品では子供を除き、他の登場人物との親子・兄弟関係は一切ない。スセリを娶り、木の股に挟まれて死にかかるなど、前半では特に大国主の神話に基づくストーリーが多い。またよく知られた出雲の国譲りについては本作品ではなく『神武』で描写される。
スセリ - スセリビメ
スサノオ
出雲国を統べる大王。スセリを含む五男三女の父。
倭州全土を統一し、韓の故国をも併呑する野望を抱いており、その実現のため筑紫の邪馬台国に攻め入る。当初は破竹の勢いで進撃するものの、講和の献上品として差し出されたヒミコの美貌に魅入られて男としての情を抱き、野心と威厳を失った末に海人族の襲撃で瀕死の重症を負う。
イザナギ・イザナミを実の両親とし、カグツチと同一人物ともされている。母を死に追いやった事や、その確執から父をも殺した事に罪の意識を抱いており、更に妻のクシイナダを早くに亡くす等、血族の絆に恵まれなかった孤独がヒミコの付け入る隙となった事が示唆されている。
また、神話で語られているヤマタノオロチ退治の逸話は製鉄技術を独占する豪族を滅ぼして国を奪った出来事と解釈されている。
スクナビコナ /ヒルコ
ヤシマヌ - 八島士奴美神
イタケル - 五十猛神
オオドシ - 大物主/ニギハヤヒ
クライネ - ウカノミタマ
イワサカ - 磐坂日子命
クエビコ - 久延毘古
タニグク - 多邇具久
ナムジの部下たち
ヒボコ - アメノヒボコ
スサノオの筑紫攻めの隙を突いて出雲に現れた謎の男。鬼の面を付けている。ナムジやスサノオと同じく韓の国から渡ってきた身で、徒党を率いてナムジと日本海沿岸の覇を争う。面の下の素顔も額から角のような瘤が突き出ており、元々王族の出でありながら、その異様な風貌を忌まれ追放された事が本人の口から語られる。ナムジとの一騎討ちの末姿を眩まし徒党は壊滅したが、後に海人族の首領としてナムジを捕縛し邪馬台国に引き渡す。
アメノヒボコとツヌガアラシト=「角がある人」を同一の存在とする説があることから、これを文字通りキャラクターとして描写したと考えられる。また、大江山に本拠地を置いており、酒呑童子の伝説も参考にしていると思われる。
イセポ
邪馬台国
筑紫島(九州)北部の国。秦の支配を逃れて中国大陸から渡ってきた徐福の一団が最初に入植した地で、美貌の巫女(ヒミコ)を祭司に戴く。大陸との貿易で栄え倭王を称していたが、スサノオ率いる出雲軍の侵攻に圧倒され、南方の日向に遷都する。スサノオの死後は勢いを盛り返し、女王となったヒミコの指導で倭国の覇権を巡って争う。 ヒミコの他にも複数の首長が存在し、いずれも記紀に記述のある高天ヶ原の神々の名前を冠している。
ヒミコ