ニューロマンサー
以下はWikipediaより引用
要約
『ニューロマンサー』(Neuromancer)は、ウィリアム・ギブスンによる長編SF小説。1984年7月1日、カナダで初版出版。日本語訳での初出は1986年の早川書房。翻訳は黒丸尚。旧装幀は奥村靫正。新装版は木山健司。
概要
1984年のネビュラ賞とフィリップ・K・ディック賞、1985年のヒューゴー賞を受賞。ほか、雑誌『SFクロニクル』読者賞、ディトマー賞も受賞。
著者ギブスンの長編処女作であり「サイバーパンク」の代名詞的作品である。長編第2作『カウント・ゼロ』および第3作『モナリザ・オーヴァドライヴ』と本作品を合わせた3作品は、共通する世界設定や登場人物をもち「電脳空間三部作」「スプロール・シリーズ」と呼ばれる。その他『クローム襲撃』に収録されている短編『記憶屋ジョニィ』、『ニュー・ローズ・ホテル』、表題作『クローム襲撃』も同一世界を舞台とした物語である。
タイトルは脳神経の"NEURON"(ニューロン)と、死霊使いの"NECROMANCER"(ネクロマンサー)との合成語で、同時に「新しいロマンス」(NEW ROMANCE)の意も掛けられている。他方、高橋ユキヒロによる1981年発表のアルバム『NEUROMANTIC(ロマン神経症)』というタイトルからもインスピレーションを受けたとされる(ただし内容的に直接的な関連性は無い)。
出版間もない80年代より映画化の企画が何度か持ち上がっているが、実現には至っていない。1999年の映画「マトリックス」は当初ニューロマンサーの映画化を目指したが、スポンサーが付かず企画が変更された。近年、ヴィンチェンゾ・ナタリ監督、弐瓶勉のアートワークで映画化が進行していたが頓挫、ナタリが降板し、新たな企画がスタートしている。
なお日本を代表するSF作品として有名になった「攻殻機動隊」もニューロマンサーの影響を受けた作品であると誤解されがちであるが、原作者の士郎正宗によるとニューロマンサーを読んだのは攻殻機動隊の連載開始後であり、世界観自体はニューロマンサー日本語訳版の発刊時に既に一巻が入稿されていた「アップルシード」において構築されている。
目次
- 第一部 千葉市憂愁(チバ・シティ・ブルーズ)
- 第二部 買物遠征(ショッピング・エクスペディション)
- 第三部 真夜中(ミッドナイト)のジュール・ヴェルヌ通り
- 第四部 迷光仕掛け(ストレイライト・ラン)
- 結尾(コーダ) 出発(デパーチャ)と到着(アライヴァル)
あらすじ
サイバネティクス技術と超巨大電脳ネットワークが地球を覆いつくし、財閥(ザイバツ)と呼ばれる巨大企業、そして「ヤクザ」が経済を牛耳る近未来。かつては、「マトリックス」と呼ばれる電脳空間(サイバースペース)に意識ごと没入(ジャック・イン)して企業情報を盗み出すコンピューター・カウボーイであり、伝説のハッカー「ディクシー・フラットライン」の弟子であったケイスは、依頼主との契約違反の制裁として、脳神経を焼かれてジャック・イン能力を失い、電脳都市千葉市(チバ・シティ)でドラッグ浸りのチンピラ暮らしを送っていた。
第一部 千葉市憂愁(チバ・シティ・ブルーズ)
自暴自棄に陥って危険な仲介業を続けるケイスの元に、全身に武装を施した街のサムライ(ストリート・サムライ)のモリイと名乗る女が現れ、彼女はケイスを謎の男アーミテジに引き合わせる。そしてアーミテジはケイスに、かつてケイスが失ったマトリックスへのジャック・イン能力の修復を代償に、マトリックス空間で最も「ヤバい」コンピュータ複合体への潜入を依頼するのだった。ケイスは依頼を引き受け、最後の仲介屋の仕事を片付けようとするが、取引のブツであるRAMカセットを盗んだ恋人リンダが「お友達」だったディーンによって殺されてしまう。モリィと共にディーンを始末したケイスは、陰謀とテクノロジーと暴力の支配する電脳世界へと舞い戻る。
第二部 買物遠征(ショッピング・エクスペディション)
故郷であるスプロールに向かったケイスは、大企業センス/ネットの保管庫から師匠ディクシー・フラットラインのROM人格構造物を盗み出すようアーミテジに命じられ、パンサーモダンズの協力でそれを成功させる。次にイスタンブールへと向かった一行は視覚芸術家リヴィエラを拉致してチームに引き入れ、そして宇宙コロニー“自由界”(フリーサイド)へと飛ぶ。その一方でディクシーと共に背景事情を探っていたケイスは、アーミテジが極秘作戦スクリーミング・フィストの失敗により廃人となった元軍人のコートで、“冬寂”(ウィンターミュート)というAIによって操られている事を突き止める。
第三部 真夜中(ミッドナイト)のジュール・ヴェルヌ通り
L-5植民群島のひとつザイオンでマエルクム、アエロルの協力を取り付け、ケイスは“自由界”(フリーサイド)へと到着。“冬寂”(ウィンターミュート)の保有者である財閥テスィエ=アシュプールの拠点、ヴィラ「迷光(ストレイライト)」へ潜入するために、リヴィエラのショウを見せて3ジェインを誘惑する。その最中に“冬寂”(ウィンターミュート)への潜入を試みたケイスは、仮想世界に囚われ、“冬寂”(ウィンターミュート)の目的を教えられる。彼の目的はT=Aの保有する「もうひとつの自分」“ニューロマンサー”へとアクセスし、AIとして進化する事だった。その為にリンダが殺され、アーミテジも操られ、他にも多くの無関係な者が殺されている事を知って“冬寂”(ウィンターミュート)を憎悪するケイスだが、仮想世界から脱出して混乱する彼をチューリング警察機構の捜査官が逮捕する。
第四部 迷光仕掛け(ストレイライト・ラン)
“冬寂”(ウィンターミュート)がチューリング捜査官を殺害したことで拘束を逃れたケイスは、そのままヴィラ「迷光」へと仕掛け(ラン)を開始する。しかしついに人格が崩壊してコートとしての自分を取り戻したアーミテジは“冬寂”(ウィンターミュート)によって始末され、モリイはヴィラ「迷光」へ潜入して支配者アシュプール老人を殺害するも、リヴィエラの裏切りによってヒデオに敗北、囚われてしまう。“冬寂”(ウィンターミュート)の指示でマエルクムと共に直接ヴィラ「迷光」へ乗り込んだケイスは、そこから電脳に没入し、ニューロマンサーとの直接対決に挑む。そして仮想空間の中に作られたリンダ・リーとの再会を乗り越え、ケイスはニューロマンサーに勝利。再び裏切ったリヴィエラはヒデオの目を潰して逃げようとするも、モリイに毒を盛られて死亡。3ジェインから暗号を聞き出したケイスは自己への憎悪を燃やしながら、ディクシーをも消滅させるニューロマンサーの内部へと突入、“冬寂”(ウィンターミュート)との接続に成功する。
結尾(コーダ) 出発(デパーチャ)と到着(アライヴァル)
モリイは置き手紙を残して姿を消し、“冬寂”(ウィンターミュート)であった何かはアルファ・ケンタウリ系に存在するという同族を求めて旅立った。ケイスはただ一人スプロールへと帰還する。
登場人物
ケイス
モリイ
ウィリス・コート大佐
リヴィエラ
フラットライン
ガジェットなど
千葉(チバ)
チャット
安ホテル(チープホテル)
新円(ニュー・イェン)
叶和圓(イェヘユァン)
ウルトラスエード
擬態ポリカーボン
カウボーイ
BAMA
マトリックス
氷(アイス)
氷破り(アイスブレイカー)
デッキ(Deck)
ケイスに与えられたのは「オノ=センダイ・サイバースペース7」というモデルで、これにホサカのコンピューターやソニーのモニタなどを接続して使用する。メーカーによって接続コネクターの規格が違う。
疑験(シムスティム)
構造物
マイクロソフト
個室屋(?)
スクリーミング・フィスト
パンサー・モダンズ
ザイオン人
ザイバツ、ヤクザ
テスィエ=アシュプール株式会社(SA)
自由界(フリーサイド)
迷光(ストレイライト)
AI
チューリング
SF史上における意義
『ニューロマンサー』はサイバーパンクSFの代表的タイトルとして認知されている。同じSF小説家であり、サイバーパンク小説のもう一方の代表者でもあるブルース・スターリングからは「おなじみの、古くさい未来とはおさらばだ」と評価された。
「サイバーパンク」と呼ばれるSFジャンル自体は、1981年のヴァーナー・ヴィンジの『マイクロチップの魔術師』によって拓かれたとされるが、従来の侵略・遭遇テーマ、米ソ冷戦時代を背景にした人類滅亡テーマが盛んに用いられたSF界では反主流であり、いわばキワモノ扱いされていた感が強く「サイバー」と「パンク」の2つの単語は、まだ奇妙な新語のレベルにとどまる時代であった。
その背景には、1981年当時のコンピュータ技術のレベルが、『マイクロチップの魔術師』で初めて披露された、世界のすみずみまでコンピュータネットワークと電子情報がめぐる世界を想像させるには、あまりに幼かったからと言える(ちなみに現在インターネットと呼ばれる電脳網が民間にも広がり始めたのは1986年)。
しかし、1982年に公開された映画『ブレードランナー』が、はからずも未開拓だったサイバーパンクの地盤を大きく押し広げる下地となる。同作で描かれた、環境汚染が進み、車が空を飛び、アジアの文化と最先端の機械文明が猥雑に混合した、暗く美しいアンダーグラウンド的未来世界のビジュアルは、それまで人々が持っていた『2001年宇宙の旅』に代表されるクリーンな未来世界のビジュアルや、『スター・ウォーズ』などのような明快なストーリーのSFのイメージを根底から覆すインパクトを持っており、カルト的と見られていたSFファンの中の、さらにカルトな人々を激しく魅了した。
そして1984年に本作が出版されると、SF界はこの作品に惜しみない称賛の声を送った。『ニューロマンサー』には、『ブレードランナー』で示された猥雑な未来世界のガジェットと、電子世界に人体を「接続」し、意識ごとダイブするというアイデアが結合されており、文句なく新しく「サイバー」であり「パンク」であった。
その一例として『ニューロマンサー』へのオマージュは数多くの作品で見られることがあげられる。『ハイペリオン』(著者ダン・シモンズ)に収録された小説の一編では「ギブスン」という名の伝説的カウボーイが強大なAIへのハッキングに成功した都市伝説がある、と語られている。
映画化企画も何度も上がったものの、全て幻となっている。ただし1995年に短編『記憶屋ジョニイ』をギブスン自身の脚本で映画化した『JM』には本作の要素も多く挿入されており、『マトリックス』も元は本作の映画化企画からスタートした作品である。