ヒーザーン
以下はWikipediaより引用
要約
『ヒーザーン』(原題:Heathern)は、ジャック・ウォマックの長篇小説。1990年発行。ウォマックによる「アンビエント」シリーズ(「ドライコ」シリーズとも呼ばれる)の第3作。日本では、黒丸尚の翻訳で早川書房より出版された。
題名は、異教徒を意味する "Heathen" がなまったもの。作中で登場人物が口にする。
概要
シリーズ全体をつらぬく創世の核心が明かされる。語り手が女性の企業人であるため、語り口が前2作とは大きく異なる。これまでの物理的な暴力にかわり、言葉による傷、不況による失業、セクシャル・ハラスメント、心理的な拷問などが前面に出る。また、登場人物の数人がユダヤ系であり、ホロコーストについての言及がある。
1998年が舞台であり、地の文は『アンビエント』に比べて読みやすい。しかし、推理小説や企業小説仕立てのプロットがからみ合っており、筋立てはシリーズ中もっとも複雑である。イディッシュ語、日本語、ラテン語などが時折見られる。
シリーズ6部作を時系列に並べると2番目にあたる作品。最初にあたる『ランダム・アクツ・オブ・センスレス・ヴァイオレンス』の約半年後が想定されている。前作『テラプレーン』でのSF的な面に対して神秘的な面が描かれており、本作品でおぼろげながらシリーズの結末が提示されている。
キーワード
ドライコ(Dryco)
善神(Godness)、神(God)
ロングアイランド(Long Island)
主な登場人物
ジョアナ(Joanna)
レスター・マキャフリイ(Lester Macaffrey)
サッチャー・ドライデン(Thatcher Dryden)
スージイ・ドライデン(Susie Dryden)
バーナード(Bernard)
エイヴィ(Avi)
ジェイク(Jake)
あらすじ
ドライコで朝の報告会に出席するジョアナ。その日のニュースのひとつは、救世主だという噂のレスター・マキャフリイなる男だった。サッチャーは、レスターが本物の救世主かどうか確かめるようジョアナに命令する。彼を広告塔として利用しようというのが、サッチャーの密かな計画だった。
レスターが働く学校へ行ったジョアナとエイヴィは、彼が死んだ男を蘇らせるのを目撃する。レスターは帰宅するジョアナの前にも現れ、彼が差し出す手をとったジョアナは、マンハッタンの上空に満ちる天使たちを目の当たりにした。ジョアナは彼を自分の部屋へと案内し、神々がこの世界を練習台としていることや、救世主の役割などさまざまなことを語り合う。
一方、ドライコでは、ジェンスンという社員が殺された件を調査中であり、サッチャーはレスターを手伝わせる。レスターの言葉から、ジェンスンが何らかの取引に関わっていたと判明する。サッチャーは、契約を結ぼうとしている日本人のオーツカが犯人だと決めてゆずらない。サッチャーはさらに大胆になり、日本を沈没させる提案をレスターにもちかける。レスターはサッチャーに警告をするが、彼は聞く耳をもたない。謎の殺害事件は、ジョアナとレスターをドライコの秘密プロジェクトへと巻き込んでゆく。
年表
以下は、シリーズ6作の記述をもとに本作品の出来事を年表にしたもの。特に1998年以降については、数年のずれが生じている可能性あり。ページ数はハヤカワ文庫版による。
- 193?年:ガス誕生(p13)
- 1945年?:エイヴィの父、マイダネックの収容所からドイツ国内へ送られ、殺されかける(p281)
- 1953年:バーナード誕生(p9)
- 1956年:ジョアナ誕生(p9)
- 1963年11月23日(土):ジョン・F・ケネディ暗殺される。ガスが関係(p104)
- 1969年:レスター・マキャフリイ誕生(p9)
- 1971年:ジェンスン誕生(p255)
- 197?年:サッチャーの兄キャリ、ビジネス上のトラブルで殺害される(p205)
- 197?年:スージイの兄、スージイの指示により殺害される(p205)
- 1978年9月19日(火)?:レスター、母親に撃たれる(p292)
- 1979年3月?:レスターの母親、謎の焼死(p292)
- 1983年:ドライデン・ジュニア誕生(p204)
- 1984年:ジェイク誕生(p85)
- 1996年?:エイヴィのフィアンセ、銀行での暴動の巻き添えで死亡(p45)
- 1996年:ロングアイランドの掃討作戦開始(p195)
- 1997年:ジェイク、ドライコに入社(p71,87)
- 1997年3月:バーナード、オーツカとの交渉を開始(p17)
- 1997年夏:バーナード、アイルランド系の子(オマリイ?)に仕事を頼む(p321)
- 1998年2月:ジョアナ、新規プロジェクト担当副社長に就任(p8)
- 1998年3月末:大統領、暗殺される(p86)
- 1998年5月上旬:大統領、飛行機事故で死亡(p86)/副大統領だった間抜けのチャーリイ、逃走をはかる(p86)
- 1998年:間抜けのチャーリイ、落選?(p86)
- 1998年:ガス、大統領をシアトルで暗殺(p86)
- 1998年11月16日(月):ジェンスン、シカゴを発ちニューヨークへ向かう(p13)
- 1998年11月17日(火):ジェンスン、ゾンビ化される(p149)
- 1998年11月18日(水):ジョアナ、出勤で赤ん坊に殺されかける(p7)/バーナード、レスターの件を報告(p9)/ガス、ジェンスンの件を報告(p18)
- 1998年11月19日(木):ジョアナとエイヴィ、学校でレスターと会う(p39)
- 1998年11月20日(金):レスター、ドライコ社へ(p66)ガス、ジェイクの指を折る(p72)ジョアナ、レスターと帰る(p84)ジョアナ、天使を見る(p89)
- 1998年11月21日(土)?:ジョアナ、自分が救世主だと知る(p344)
- 1998年11月23日(月):ジョアナとレスター、ドライコヘ(p136)
- 1998年11月24日(火):スージイ、ウェストチェスターにあるドライデン邸へ出発(p168)/サッチャーとオーツカの契約(p196)/エイヴィ、オーツカとガスを射殺(p198)
- 1998年11月26日(木):バーナード、アイルランド系の子に頼んで贋の書類をジェンスンの部屋に置く(p321)/感謝祭(p201)
- 1998年11月27日(金):モンテフィオーレ病院でジェンスンに面会(p252)/ジェンスンの部屋の捜索(p271)/墓場にてレスターへの拷問(p284)/カリフォルニアで地震、数千人が死亡(p314)/レスター死亡(p317)
- 1998年11月30日(月):ジョアナ、飛ぶ?(p344)
- 1998年12月4日(金):ジェンスンがオークションにかけられる予定日(p270)
シリーズの他作品との関連
シリーズ作品を時系列に沿って並べると、以下のようになる。
- 大統領の死など、いくつか共通する事件が語られている。
- レスターの教え子だったマージと思われる少女が登場。
- レスターの教え子たちが、アンビエントと呼ばれる集団を作り、レスターやジョアナの教えを語り継いでいる。彼らは、ジョアナがレスターの教えを記したとされる『ジョアナの幻視』(Visions of Joanna)という聖典を持ち、秘密の集会で使っている。
- 隠退したサッチャーと、ドライコのCEOとなったジュニアが登場。
- サッチャーとスージイの結婚が1960年代であることが語られる。
- サッチャーのエルヴィス崇拝が高じて、E教会という信仰が生まれている。
- サッチャー邸にあったファイルキャビネットの内容が明かされる。
- 西海岸の大地震について、サッチャーが回想している。
- バーナードが開発を進めていた墓場のコンピュータが、アリスとして完成している。
- 敏腕の保安部員に成長したジェイクが登場。
- バーナードが口にしたロシアの組織「クラースナヤ」が登場。
- 本作11章でレスターにとどめを刺したときと同内容のセリフをジェイクが口にする。
- ロングアイランド戦争での戦闘についての回想がある。また、戦争の結末が手短に語られている。
- レスターやジョアナの教えが、その後いかに広まったかが描かれる。
- ジェンスンの入院先と同じ場所と思われるモンテフィオーレ病院が登場。ドライコ社員が入院している。
日本語版
- 『ヒーザーン』(1992年、ハヤカワ文庫SF) 黒丸尚訳、若島正解説、小阪淳装丁