ボトルネック (小説)
以下はWikipediaより引用
要約
『ボトルネック』は、2006年に 新潮社から刊行された米澤穂信の推理小説。
概要
石川県金沢市と福井県東尋坊を舞台とした、パラレルワールドを扱った青春SFミステリ。自分の住む環境とは似て非なるパラレルワールドに迷い込んだ少年がパラレルワールドと本来いる世界の相違から見出した真実に打ちのめされていく様が描かれている。2006年8月30日に発売後、2009年10月9日に文庫版が発売された。
本作のアイディアは著者がデビュー前、十代後半の大学生の頃に発想されたものだが、その時点では「小説として書き上げる力量が無い」として長い間完成させることはなかった。しかし「一作目からの青春小説の一面を一度総括する」という考えから執筆に着手した。また完成当時は28歳で「20代の葬送」として「10代や20代前半の感覚が消える前に完成したかった」という想いがあり、執筆時はその感覚の変化に苦労したことも語っている。
このミステリーがすごい! 2007年版では15位を記録する。また2010年度の大学読書人大賞では5位となる。
あらすじ
2年前に死んだ恋人の諏訪ノゾミを弔うため、彼女が死んだ東尋坊にやってきた高校1年生・嵯峨野リョウは母から兄の訃報を聞き、葬式のために戻ろうとしたところ、東尋坊の崖から転落してしまう。だが、死んだと思われたリョウは自分の住む金沢で目覚めていた。自宅に戻るリョウだが、家には存在しないはずのリョウの姉・嵯峨野サキがいた。
サキとの会話の中で、リョウは自分が生まれていない世界に飛ばされたことを実感する。リョウはサキと共に自分のいた世界とサキのいる世界の相違を見つめる中で、自らの身に起きた出来事の手掛かりを探っていく。
結末(ネタバレ)
サキと共にそれぞれの世界の「間違い探し」として、金沢市内を見て回るリョウは周りで起きた事象がサキのいる世界では悉く異なっていることに気付く。そして、何よりリョウを驚愕させたのは、自分のいた世界にいる時とは対照的に明るく元気なサキの後輩として生きていたノゾミの存在だった。その後、東尋坊に向かう列車の中で、リョウはサキの推理により、ノゾミが「ヒューマニストにもモラリストにもなりたくない」と語ったジャスコで会った人物の性格を模倣していただけだったことを知ることに。さらにリョウからノゾミの死の状況を聞いたサキは、リョウの世界のノゾミの死の真相そしてサキの世界のフミカの危機を語る。
ノゾミの死の原因は「相手の怯える表情が見たい」というフミカの悪意が発端となった事故だった。フミカは相手が不幸で傷ついている様子を見て楽しみ盗撮までする性癖の持ち主だった。フミカが現在もノゾミを危機に陥れるような罠を仕掛けていると睨んだサキはリョウと共に金沢に戻ってその危機を阻止しようとし、家に待機するよう言われたリョウは自分の世界と違い富山の大学生として存命している兄・ハジメと共に過ごすことに。
こうして、ノゾミが交通事故に巻き込まれる可能性が近づくようにフミカが仕込んだ睡眠薬を回収し、サキはノゾミを救いだした。しかし、これまでサキと行った「間違い探し」でサキの言動如何で事態が好転している世界を見たリョウに去来していたのは、自分が産まれたことこそが間違い、自分こそがボトルネックだという思いだった。兄への蔑みやノゾミの真実を目の当たりにしたリョウはサキの元から去ろうと袂を分かつが、その瞬間、突如として自分がいた世界の東尋坊に引き戻されてしまう。今までのように全てを受け入れることが出来ない心境に至り絶望し、崖の前の鎖に佇むリョウだが、携帯から発せられたサキ(後に自分はツユだと告げる)からの言葉でようやくノゾミの本心に触れるのだった。それでも取り返しのつかない思いに駆られるリョウに浮かぶ選択肢は「失望のまま終わらせるか、絶望しながら続けていくか」の二者択一、そして携帯に一通のメールが届く。「リョウへ。恥をかかせるだけなら、二度と帰ってこなくて構いません」。
登場人物
嵯峨野 サキ
諏訪() ノゾミ
世界観
リョウとサキがそれぞれ住む世界は、環境に大きな乖離は無いが、当人達が住む金沢市周辺や人間関係などでは以下のような相違点が存在している。
嵯峨野家の家庭環境
対してサキの住む世界では、両親が互いに浮気をし、その事で修羅場に陥ったのは共通しているが、サキが意図的に怒りを爆発させたことがきっかけで家庭崩壊の危機は免れ、今では当人同士で旅行に出かける程の仲睦まじさを見せている。
そうした経緯から、リョウの世界では修羅場の中で破壊されていた物が、サキの世界では壊されずに現存しているという差異がある。
金沢市の周辺状況
対してサキの住む世界では、サキがイチョウと車に挟まれる事故に遭ってしまい、老婆が責任を感じたために、イチョウの木が伐採されている。それにより、救急車が間に合ったために脳卒中で倒れた主人は後遺症が残らず「辰川食堂」は閉店せずにそのまま営業を続けている。他にもリョウの世界では潰れていたネイティブアメリカンアクセサリの店がサキの手により立て直され、存続している。
諏訪ノゾミの性格
ノゾミは家庭の事情から「自分の側で互いに争う“ヒューマニスト”(父親に相当)にも“モラリスト”(母親に相当)のどちらにもなりたくない、どうなったらいい?」と問うていた。それに対しリョウは「何でもない人になればいい」と答えたが、サキは「オプティミストになれば」と答えている。