ロンドン警視庁特殊犯罪課シリーズ
以下はWikipediaより引用
要約
『ロンドン警視庁特殊犯罪課シリーズ』は、ベン・アーロノヴィッチによるファンタジー小説のシリーズである。2011年から刊行され、うち4長編が日本語訳されている。
概要
『ロンドン警視庁特殊犯罪課シリーズ』は現代のロンドンを舞台とし、魔術を使って犯罪を取り締まる警察官を主人公としたモダン・ファンタジーであり、警察小説でもある。また歴史改変SFの側面も持つ。ロンドンの地理や風俗が織り込まれ、『指輪物語』、『ハリー・ポッターシリーズ』、『氷と炎の歌』などの他の魔法ファンタジーなどがジョークの種として言及される。
シリーズの世界は、表面的には現実世界と何の違いもない。だがその裏には魔術、吸血鬼、妖精、川の神々などの超自然的存在があり、ごく少数の人々には知られている。偉大なる科学者アイザック・ニュートンは魔術を体系化した人物でもあり、彼以後の魔術師は”アイザックス”とも呼ばれている。第二次大戦では、両陣営とも魔術師を動員した殲滅戦を戦ったため、戦後に魔術師の数は大いに減じた。だが大部分の人々はそのような歴史も、現在も残る超自然的な存在も知ることはない。ロンドンで起きる”奇妙な”事件は特殊犯罪課にまわされ、まっとうな警官は常識的な事柄しか報告書に書かない。特殊犯罪課は100年以上を生きる最後の魔術師一人によって運営され、魔術はやがて消えていくものであると、多くの人が信じていた。
だが、突然に”奇妙な”犯罪が増え、特殊犯罪課は50年来で初めての新人課員を加えることになり、魔術師の弟子として訓練を受ける。主人公のピーター・グラントは労働者階級の出身で、黒人の血をひく見習い警官である。ピーターはあまりに世俗的な川の神々、妖精、吸血鬼、トロール、ドリュアスなど、超自然的な存在とかかわりながら魔術の訓練を受け、恐るべき犯罪を解決しなくてはならない。
シリーズでは建築やジャズの蘊蓄が饒舌に語られ花を添える。このシリーズの一方の主役はロンドンであり、その名所や歴史が愛情をこめて描かれる。
2019年にリリースされた中編"October Man""はドイツを舞台とし、先立つシリーズと同じ世界でピーター・グラントと同様の立場の警察官のトビアス・ウィンターを主人公とする。
テムズ川の神々
本シリーズではテムズ川の神々が大きな役割を果たし、第一作の原題は”Rivers of London”である。川の神々は水を操るなどの超自然的な力をもつが、実態は普通の人間である。上流を支配する男神の長は2000歳ほどのブリトン人であり、下流を支配する女神の長は数十年前にナイジェリアから移民した黒人であり、一度はテムズ川に身を投げた元看護婦である。彼らは生活を楽しみ、欲望にあふれ、人間社会の中で生きる。
イギリスおよびロンドン社会
多くの移民を抱え、多民族社会となった現代のイギリスおよびロンドンが、下層階級の出身で黒人の血を引き、人種的なマイノリティである主人公の目から、皮肉をこめて描かれる。古き良き大英帝国の上層階級出身の魔術師は、現代の風俗、人種的な多様性、近代的なテクノロジーにとまどう。テムズ川上流の神々が古いイギリスを代表する白人である一方で、汚染された下流の神々が移民の黒人であることは象徴的である。
魔術
魔術をふるうには特殊な才能が必要であり、長年の修練によってより高度な技を身につけることができる。魔術の知識はかつてアイザック・ニュートンによって密かに体系化され、魔術書が残されている。魔術の多用は脳に損傷を与え、やがて脳が委縮して死に至ることもある。魔術は脳の現代的な代替物であるマイクロプロセッサーにも大きな影響を与え、魔術が使われると周辺の高度な電子機器は破壊されることが普通である。魔術が使われた対象や場所には痕跡"ウェスティギア"が残り、魔術師はこれを嗅ぎあてることができる。1970年ごろから、理由は不明ながら魔術師は若返り、年を取らないようになっている。
出版
日本では早川書房が4長編を出版している。
長編・中編・短編集
- 女王陛下の魔術師(Rivers of London アメリカでの題名は Midnight Riot, 2011年)
- 顔のない魔術師(Moon Over Soho , 2011年)
- 地下迷宮の魔術師(Whispers Under Ground , 2012年)
- 空中庭園の魔術師(Broken Homes , 2013年)
- 未訳(Foxglove Summer, 2014年)
- 未訳(The Hanging Tree, 2016年11月)
- 未訳(The Furthest Station, 2017年9月) - 中編
- 未訳(Lies Sleeping, 2018年11月)
- 未訳(The October Man, 2019年5月) - ドイツを舞台とし、トビアス・ウィンターを主人公とする中編
- 未訳 (False Value, 2020年2月)
- 未訳 (Tales from the Folly, 2020年7月) - 短編集
- 未訳 (What Abigail Did That Summer, 2021年3月) - 中編
- 未訳 (Amongst Our Weapons, 2022年4月)
- 未訳 (Winter's Gifts, 2023年6月8日) - 中編
Graphic Novel
- Body Work (2016)
- Night Witch (2016)
- Black Mould (2017)
- Detective Stories (2017)
- Cry Fox (2018)
- Water Weed (2018)
- Action at a Distance (2019)
- The Fey and a Furious (2019-2020)
- Monday, Monday (2021)
あらすじ
女王陛下の魔術師
ロンドン警視庁の見習巡査ピーター・グラントはさほど優秀でもなく、希望する殺人課ではなく事務処理の職場に配属されそうになる。だがピーターには幽霊を感知する能力があることが分かり、特殊犯罪課に回される。ここでピーターは100歳を超える魔術師であるナイティンゲールを上司とし、魔術師としての訓練を受けることになる。ピーターは二つの件を解決しなくてはならない。人に憑依して殺人鬼に変えるものを突き止めること、テムズ川の神々の間の争いを調停することである。
イギリスに伝わる人形劇パンチとジュディがモチーフとして使われている。
顔のない魔術師
前作の後、特殊犯罪課に勤める巡査であり魔術師の弟子であるピーター・グラントは、ロンドンの歓楽街ソーホー地区に呼び出される。クラブの地下のトイレで、魔術に関連すると思われる男が局部を歯で食いちぎられた死体として見つかったのである。同時に、引退した著名なジャズ・ミュージシャンの父親を持つピーターは、多くのジャズ・ミュージシャンたちが演奏直後に急死し、そこには魔術の痕跡があることに気付く。死んだジャズ・ミュージシャンたちの周辺には、妖しい魅力を持つ女の姿がある。両方の事件の背後に、なぜか顔を知られることのない邪悪な魔術師の姿が浮かび上がる。
ジャズの蘊蓄が饒舌に語られ、作品のモチーフとなっている。
地下迷宮の魔術師
ロンドン地下鉄のベーカー・ストリート駅の構内で、アメリカ人の若い学生が刺されて殺され、そこには魔術の痕跡が残る。ピーター・グラントは”顔のない魔術師”の捜査と並行して、鉄道警察やFBI捜査官とともに学生の殺人事件を捜査するうち、ナイティンゲールでさえ知ることのなかった、ロンドンの地下に隠れた迷宮の秘密にたどり着き、被害者やその周辺の人物の祖先の歴史を知ることになる。
ロンドンの地下を縦横に走る地下鉄の蘊蓄が語られ、作品のモチーフとなっている。
空中庭園の魔術師
ロンドン郊外で”顔のない魔術師”に関係した人物が交通事故を起こし、車内から血痕だけが見つかる。やがて森の中で顔を散弾でつぶされた女性の死体が発見される。都市計画担当の役人が不可解な飛び込み自殺を遂げ、忌まわしい魔術書を盗んだ金庫破りが体の内側から焼かれて殺される。すべての事件が”顔のない魔術師”につながり、ピーターは同僚レスリーとともに、ドイツから亡命した著名な建築家の設計した高層住宅”空中庭園”(スカイガーデン)に行き着く。レスリーが"顔のない魔術師"の側に寝返る。
一時は建築家を志したピーターの口から建築の蘊蓄が饒舌に語られ、作品のモチーフとなっている。
Foxglove Summer
イングランド西部にあり、ウェールズとの境界地方にあるヘレフォードシャーの田舎で二人の少女が同時に行方不明になる。当地に住む引退した魔術師が無関係であることを確認するために、ピーターはロンドンを離れて調査に赴く。ピーターは地元の警察に協力して捜査に加わるが、やがて美しい田園地帯の裏側に隠れた秘密に気づく。
シリーズを通して初めて舞台がロンドンを離れる。
The Hanging Tree
舞台は再びロンドンに戻る。ピーターは麻薬過剰使用による女子高校生の怪死事件に巻き込まれたタイバーンの娘の嫌疑を晴らそうとする。やがて謎の魔法文書が事件と絡んでいることが分かり、特殊犯罪課を含むロンドン警視庁、代々魔法を伝えてきた貴族、アメリカの魔法集団、そして"顔のない魔術師"が文書を手に入れようと競い合う。ピーターは"顔のない魔術師"の正体につながる手がかりを得る。
The Furthest Station
Foxglove SummerとThe Hanging Treeの間に位置する中編である。
朝、ロンドン市内に向かう地下鉄Metropolitan Lineに次々と幽霊が現れ、ピーターとジャゲットはアビゲイルとともに調査を始める。沿線の郊外の家では多数の狐が不審死を遂げる。幽霊と会話したピーターは、若い女性が誘拐されたことを知り、地下鉄の終点駅近くにある、かつて幽霊をコレクションしていた魔術師の家に向かう。
Lies Sleeping
ロンドン警視庁は正式にチームを結成して"顔のない魔術師"を追うが関連人物は次々と死ぬ。なぜか"顔のない魔術師"とレスリーはロンドン市内のローマ時代の遺物を収集していることがわかる。二人を追っていたピーターは逆に誘拐・監禁されるが、モリーのごとき妖精の監視人を味方にして逃亡する。ピーターはミスター・パンチと協力し、ロンドンを大混乱に陥れようとする企みを阻止する。レスリーは"顔のない魔術師"を殺し、逃走する。
October Man
シリーズと同じ世界設定で、ドイツを舞台としピーターと同様の立場の警官トビアス・ヴィンターを主人公とする中編である。
ドイツでもイギリスと同様に魔法による犯罪が増加しつつある。トビアスとその師だけが魔法を扱う部署に属し、トリーアで起きたワイナリーがらみの異常な殺人事件の捜査のために派遣され、地元の女性刑事のヴァネッサ・ゾマーと事件の解決にあたる。二人は地元の川の女神と出会い、魔術師の亡霊と戦う。事件解決後、ヴァネッサは魔法の部署に誘われる。
False Value
かつてエイダ・ラブレスとチャールズ・バベッジが密かに発明した強力な魔法機関を巡り、これを再現しようとする億万長者と、阻止しようとするアメリカの"図書館員"と呼ばれる魔術師たち、さらに別の勢力がロンドンで暗闘する。身重なビバリーを抱えるピーターは億万長者の会社に潜入して闇の世界からの侵入を防ぐ。
What Abigail Did That Summer
Fox Glove Summer とThe Furthest Stationの間に位置する中編である。
魔法の訓練中の、ピーターの従妹アビゲイル・タマラを主人公とする。子供たちが失踪し、アビゲイルは話す狐たちとともに、事件を捜査する。
Amongst Our Weapons
ビヴァリーの双子の出産が近づく中、ロンドンでは「死の天使」のごとき存在が、数十年前の聖書朗読グループのメンバーたちを連続して殺し、やが16世紀スペインの異端審問との関係が浮かび上がる。
主な登場人物
主人公とその周辺人物
特殊犯罪課の協力者たち
超自然的な存在
映像化
2019年4月、イギリスの製作会社"Stolen Picture"がシリーズのテレビドラマ化権を得て企画中であると発表された。