今昔百鬼拾遺 (小説シリーズ)
以下はWikipediaより引用
要約
『今昔百鬼拾遺(こんじゃくひゃっきしゅうい)』シリーズは、京極夏彦の妖怪探偵小説集で、百鬼夜行シリーズの番外編に相当する長編。タイトルは鳥山石燕の画集『今昔百鬼拾遺』から採られている。
概要
「百鬼夜行シリーズ」にも登場する雑誌記者・中禅寺敦子と、『絡新婦の理』に登場した呉美由紀がペアになって事件に関わる長編シリーズ。昭和29年が舞台で、一見事件もかなりハードな印象だが、扱われているテーマは現代的である。
もともと20年近くお蔵入りになっていた企画だが、2018年の1月から2月にかけ、講談社の『鉄鼠の檻(永久保存版)』、KADOKAWAの『虚談』、新潮社の『ヒトごろし』がほぼ同時に発売される異常事態が起こり、担当から購入者特典として書き下ろし短編を付けるというオファーを受けたことがきっかけで実現された。発表経緯が異なる為、3ヶ月連続刊行された書籍版もそれぞれ出版社が異なる。なお、長編という枠組みだが、1冊がこれまでに発売されてきた中編集の1話と同程度の長さ(=一般的な文庫本と同等)に収まっている。3冊とも表紙モデルは今田美桜が務めている。
それから1年強が経過した2020年には、既刊の3冊を合本し大幅な加筆訂正を加えた『今昔百鬼拾遺 月』が、8月には講談社ノベルス、9月には講談社文庫よりほぼ同時に刊行された。既刊の百鬼夜行シリーズ同様、背幅4cm程度の分厚さとなり、表紙デザインの題材はどちらも「三つ巴」を採用している。
出版経緯
- 今昔百鬼拾遺 鬼 (2019年4月19日、講談社タイガ、ISBN 978-4-06-294035-1)
- 今昔百鬼拾遺 河童 (2019年5月24日、角川文庫、ISBN 978-4-04-108045-0)
- 今昔百鬼拾遺 天狗 (2019年6月26日、新潮文庫、ISBN 978-4-10-135353-1)
- 今昔百鬼拾遺 月(2020年8月7日、講談社ノベルス、ISBN 978-4-06-519019-7 / 2020年9月15日、講談社文庫、ISBN 978-4-06-519026-5)
主要登場人物
呉 美由紀(くれ みゆき)
14歳の女学生(『鬼』時点)。『絡新婦の理』の登場人物で、聖ベルナール女学院で発生した連続猟奇殺人事件に巻き込まれて友人や知人を大勢亡くした。実家は千葉の元漁師で、生まれは勝浦の興津町鵜原だが、父親が小さな水産会社を起業する際に木更津へ引っ越している。貧乏とまでは云えないが決して裕福ではないのでかなり無理して名門学院に通っており、事件の影響で学院が廃校になった後はそれ以上の勉学を諦めていたが、柴田理事長代理のお節介で東京の駒沢にある全寮制の女学校の中等部3年生に編入した。
年齢の割に長身で、敦子よりも背が高い。正義感が強く、聡明で、感情が豊か。京極堂の論理的な説明を見習いたいと思っているが、事件の関係者たちに対して怒って啖呵を切る時は、どちらかと云うと榎木津の影響が強く出てしまう。周囲に迎合できず、陰口や無視は気にならない性質で、叩かれたら叩き返す口なので、編入後半年ほどは避けられて友人もできなかったが、高等部進学後は級友とも親しく付き合っている。甘味屋が苦手で、不味いが落ち着くと云う理由から、駄菓子屋の酢烏賊と蜜柑水を好む。敦子との密会には「子供屋」という駄菓子屋を利用している。
『鬼』で知り合った敦子とは、年の離れた大切な友人となる。
賀川 太一(かがわ たいち)
玉川署刑事課捜査一係の刑事。やけに眼と口が大きく、小柄だががっちりした体格で、皺の多い乾燥した肌の質感と、不釣り合いな程に子供っぽい髪型が年齢を不詳にしており、29歳だが30代に見える。もう少し小さければ徴兵でも丙種合格だったらしく、子供の頃の綽名が「マメ川」、軍隊時代の綽名が「子供」。軍隊時代は全く役に立たず兵隊としては屑だったことから、環境が合わないせいで無能とされている人間に寛容。
警視庁の青木とは同期で、年に何回かは会って飲むような仲。彼の真面目さにはかなり信頼を置いている。武蔵野のバラバラ殺人事件には間接的に捜査に加わっていた。
『鬼』では「昭和の連続辻斬り事件」の担当刑事。容疑者の自供に違和感を感じており、敦子から提供された情報を元に捜査を組み立て直す。続く『天狗』では、管内で発生した失踪事件の情報を敦子に渡す。
今昔百鬼拾遺 鬼
昭和28年9月から昭和29年2月にかけて、駒澤野球場周辺で「昭和の辻斬り事件」と通称される日本刀を使った連続通り魔が発生する。7人目の被害者・片倉ハル子が、生前に鬼の因縁で女が先祖代々斬り殺される定めだと言っていたことが気になった友人の美由紀は、1年前に世話になった京極堂の妹である敦子に相談を持ち掛け、事件の解明に乗り出す。調査するうちに、実際に土方歳三の遺産である無銘の日本刀によって片倉の女が3人も斬殺されていることが判明し、事件は思わぬ結末へと向かっていく。(発表:期間限定特設サイト〈2018年2月28日〜11月30日〉)
片倉 ハル子(かたくら はるこ)
宇野 憲一(うの けんいち)
凶器を手にハル子の殺害現場に立ち竦んでいたところを緊急逮捕され、過去6件の犯行も自白している。ハル子の交際相手だったと自供している。
片倉 勢子(かたくら せいこ)
娘が殺された事件の通報者で、事件発生時には現場近くにいて「娘が死ぬ」と巡回中の警邏に訴えた。
大垣 喜一郎(おおがき きいちろう)
生前の祖父が探していた市村鉄之助が函館から持ち帰った土方歳三の2振りの佩刀を父が手に入れ、柳子を斬り殺した無銘の方をその母親である涼に譲った。なお、大垣姓は市川鉄之介の父親が出仕していた美濃の大垣藩にちなんで祖父がつけたもの。
大垣 弥助(おおがき やすけ)
父が執念で生涯探していた土方歳三の刀が、父の死後まもなく片倉柳子を斬った刀として偶然にも研ぎ直しに持ち込まれ、それを大枚叩いて買い取る。同時に持ち込まれた11代和泉守兼定と土方の写真は日野に届け、その7、8年後、訪ねてきた涼に譲り渡した。
大垣 喜助(おおがき きすけ)
保田 達枝(やすだ たつえ)
片倉 柳子(かたくら りゅうこ)
片倉 静子(かたくら しずこ)
片倉 涼(かたくら りょう)
『ヒトごろし』にも登場。幕末期に江戸で土方歳三に助けられ、彼に渡した之定で斬り殺されることを願って京に向かい、監察方の山崎丞の密偵となる。
片倉 利蔵(かたくら としぞう)
片倉 欣造(かたくら きんぞう)
依田 儀助(よだ ぎすけ)
浅草の凌雲閣に飾ってあった柳子の写真に一目惚れして通い詰め、展示が終わった明治24年の秋から凡そ3箇月、仕事もせず、ほぼ毎日のように日本橋杵屋を尋ねて柳子本人に付き纏い、彼女からは丁寧に云い含められて優しく拒否されたが、お客になれば愛して貰えると勘違いする。そして金がないのであの世で添うしかないと、上野で古着屋を営む元質屋の親戚の家から質屋時代に入手したと云う日本刀を持ち出し、置屋の前で柳子を待ち伏せて袈裟懸けに斬り殺した。事件後の処遇は不明。
川西 平作(かわにし へいさく)
将来を誓った娘と祝言を挙げるために金を稼ごうと上京し、品川辺りで日雇い仕事をしていた。しかし自堕落な上に博奕が好きすぎて些とも金が貯まらず、短絡して店構えのいい片倉家へ刀剣屋と知らずに出刃庖丁を手に忍び込み、商売ものを要求して庖丁より長い日本刀を出されたことで錯乱し自暴自棄になって暴れる。店主に投げ飛ばされて庖丁を取り落とすが、逃げようとした母親を庇った静子をその場で拾った刀で殺害してしまい、7年の実刑判決を受けた。
今昔百鬼拾遺 河童
昭和29年夏、浅草界隈で男性を狙った覗き魔が横行し、夏休みを前に高校生になった美由紀はクラスメイトたちと便所に出る伝承を持つ河童の話題で盛り上がる。そんな時、千葉の複雑に蛇行する夷隅川水系に、次々と尻が丸出しになった奇妙な水死体が上がる。敦子と益田は最初の2件の水死に明確な関係があることに気付き、3体目の遺体の第1発見者になった帰省中の美由紀や取材旅行中の多々良と共に真相の解明を目指す。(発表:幽vol.29、怪vol.0053、幽vol.30)
三芳 彰(みよし あきら)
幼馴染みの久保田から、「高貴なお方」から盗まれた宝石を取り戻すための小道具として模造金剛石の製作を依頼される。依頼達成から約1週間後に久保田が変死し、模造宝石の件で警察に出頭したところを殺人の重要参考人として拘束された。まもなく確実な不在証明で解放されたが真相が気になり、薔薇十字探偵社に真相究明を依頼する。
久保田 悠介(くぼた ゆうすけ)
模造金剛石を使って本物の宝石を取り返し、さる「高貴なお方」に返却して謝礼を頂く計画を立てていた。三芳に製作を依頼した模造宝石受け取りの約1週間後、千葉の大多喜町夷隅川にて、人為的に尻を丸出しにされた状態の変死体として発見される。
隻手であったが傷痍軍人というわけではなく、復員後に起きた事件で右手を失ったとされる。
廣田 豊(ひろた ゆたか)
亀山 智嗣(かめやま ともつぐ)
菅原 市祐(すがわら いちすけ)
川瀬 敏男(かわせ としお)
川瀬 香奈男(かわせ かなお)
仲村 幸江(なかむら さちえ)
入川 芽生(いりかわ めい)
橋本 佳奈(はしもと かな)
九州では河童はヒョウズンボ、セコンボ、カリコンボなどと呼ばれ、冬は山で暮らし、ヒョウズンボは飛んで渡りをする、茶色か褐色の毛が生える、馬蹄の跡の水たまりに1000匹隠れられると語る。
市成 裕美(いちなり ひろみ)
岩手の河童はメドチや淵猿と云い、長生きした猿の経立がメドチになるが、同族である猿とは仲が悪い、家に住み着くと座敷童衆になる、メドチも座敷童衆も猿のように顔が赤いと語る。
小泉 清花(こいずみ さやか)
犬や猫が毛色や見た目が違っても同じ種であるのと同じように、河童にも共通する最低限の決まりごとがあり、それは好色で胡瓜と茄子と尻子玉が好きなことではないかと推理する。
南雲 淳子(なぐも じゅんこ)
多々良 勝五郎(たたら かつごろう)
古谷 祐由(こたに すけみち)
稲場 麻佑(いなば まゆ)
磯部(いそべ)
池田 進(いけだ すすむ)
小山田(おやまだ)
比嘉 宏美(ひがひろみ)
今昔百鬼拾遺 天狗
昭和29年10月、群馬県迦葉山で女性の遺体が発見されるが、その遺体は約2ヶ月前の8月15日に高尾山で失踪した是枝美智栄の着衣を身に纏っていた。薔薇十字探偵社に美智栄の捜索を依頼しに来た篠村美弥子は美由紀と偶然知り合い、敦子と共に事件の究明に挑む。そして同じ8月15日高尾山に他に二人の女性が登山し、一人は自殺、一人は失踪したとの情報を得る。その一連の事件には時代錯誤な女性蔑視思想を持つ素封家天津家の内情が深く関わっていた。(発表:小説新潮2018年10月号〜2019年3月号)
篠村 美弥子(しのむら みやこ)
美智栄の失踪の真実を突き止めるため、昨年自分の婚約破棄の一件で知り合った榎木津に人探しを依頼しようとして断られた所で美由紀と知り合う。彼女の迎合しない点を気に入って友人になり、協力して失踪の謎を解き明かそうとする。なお、強姦を行なっていた元婚約者のことはクズと公言しており、事前に本性を見抜けなかった自分自身のことも恥じている。
是枝 美智栄(これえだ みちえ)
自然志向が強く、山歩きを趣味としていたが、8月15日に4度目となる高尾山登山の最中に失踪、2箇月後になぜか衣服だけが自殺した葛城コウの着衣として発見される。
天津 敏子(あまつ としこ)
葛城 コウ(かつらぎ こう)
秋葉 登代(あきば とよ)
天津 藤蔵(あまつ ふじぞう)
天津 宗右衛門(あまつ そうえもん)
頭が堅く厳格で、かなり時代錯誤な女性蔑視者。息子の嫁が嫡子を作る前に死んだため、後添えを貰うよう命令したが拒否されており、代わりに孫娘に婿養子を取らせようとしていたが、孫が同性愛者だと知ると破廉恥な面汚しだと存在そのものを否定して本気で殺そうとまでした。
熊沢 金次(くまざわ きんじ)
美弥子の婚約破棄の一件以来、彼女とは親友として仲良くしており、「金ちゃん」「ミイちゃん」と呼び合っている。美弥子と美由紀が高尾山で遭難した時には助けに駆けつけた。
宮田(みやた)
青木 文蔵(あおき ぶんぞう)
用語
子供屋
昭和の辻斬り事件
そして2月27日に発生した7人目の片倉ハル子殺害の際に、彼女の交際相手だったと云う刀剣屋従業員の宇野憲一が現行犯逮捕された。宇野は前職でも刃物を扱っており、自供もしていたので高い確率で被疑者であるとされた。一方で、生存者の目撃証言から犯人は小柄だった筈だが宇野は大柄だった、宇野とハル子が恋人だったのが疑わしいなど、幾つかの矛盾も存在している。
覗き陰間
そのうちに婦人を狙った便乗犯も現れるようになり、オリジナルの犯人は捕まらなかったものの、女性を覗いた3人と完全な悪戯の1人の計4人が検挙された。被害は駒沢近辺まで伸びて、遂には美由紀達の学校の中にまで到達。オリジナル同様、この事件の犯人も捕まっていない。
ケツ丸出し連続水死事件
遠内(とおない)
住民は猿回しの一族の末裔とされ、その昔に宮中で厩祓いの役目を担う一種の民間宗教者でもあった。移り住んだのは源平合戦の頃とも、建武の新政の頃とも云われているが、本当のところは判らない。大きな村を門付けのように廻る宗教者だったために明治より前は孤立していて、昭和に入ってからも雨乞いの祈禱をする時以外は近付いてもいけないと集落ごと差別されていた。
元々村と云う程の規模はなく、江戸時代には集落全体で15戸程はあったとされるが、昭和初期には龍王池の堂守である川瀬の家と田圃を任されていた池田の家がそれぞれ2件、水口と云う家が1件の計5戸しか残っておらず、転出が相次いで開戦前には廃村になったので、現在は住居地図にも載っていない。
龍王池(りゅうおういけ)
3分の1は抉れた崖に食い込んでいて、その洞の奥には川瀬家が代々堂守を勤める龍神の祠がある。水枯れの際には馬の首を切って池に沈め、雨乞いをすると云う習俗があった。
また、夷隅川の源流の一つにあたり、池から出た流れは2筋に分かれ、東の筋は大戸の方へ流れ、西の筋は久我原の西側にある不動の滝の上流で平沢川に合流する。大きな流れではないが小川と云うには規模が大きく、川幅は狭いが傾斜が強くて流れが急なので、子供が遊ぶと大変危ないと云われていた。
高尾山登山客失踪事件
全員に捜索願が1週間以内に出されたものの、登代は亀有署の柴又交番、美智栄は玉川署、敏子とコウは八王子警察、と提出された管轄がバラバラ過ぎて一つの事件とは考えられていなかった。だが、コウの転落死に関する報道に違和感を覚えた美弥子の証言が美由紀を介して敦子に伝わり、調査によって関連性が浮かび上がる。