八甲田山死の彷徨
以下はWikipediaより引用
要約
『八甲田山死の彷徨』(はっこうださんしのほうこう)は、多数の犠牲者を出した青森県八甲田山における山岳遭難事故(八甲田雪中行軍遭難事件)を題材として新田次郎が執筆した山岳小説である。1971年(昭和46年)9月、新潮社より書き下ろしで刊行された。1978年(昭和53年)2月、新潮文庫版が刊行された。
1977年(昭和52年)に『八甲田山』のタイトルで映画化され(高倉健、緒形拳、北大路欣也主演)、翌1978年(昭和53年)に(TBSテレビ系列)でテレビドラマ化された(全6回、1978年4月4日~5月9日)。
概要
日露戦争直前の1902年(明治35年)に、ロシアとの戦争に備えた寒冷地における戦闘の予行演習として、また陸奥湾沿いの青森から弘前への補給路をロシアの艦砲射撃によって破壊された場合を想定して、日本陸軍が八甲田山で行った雪中行軍の演習中に、参加部隊が記録的な寒波に由来する吹雪に遭遇し、210名中199名が死亡した八甲田雪中行軍遭難事件を題材にした山岳小説。演習当日には、北海道で史上最低気温が記録されるなど、例年の冬とは比べ物にならない寒さだったといわれている。
実際の事件との相違
この作品はノンフィクション小説として扱われることも多いが、実際には、事実を題材としながらも作者自身の解釈や創作が加えられたフィクションである。作品中では青森第5連隊と弘前第31連隊が共通の目的の下に協調して雪中行軍を計画したように描かれているが、これは事実ではない。実際には双方の計画は個別に立案されたもので、実施期日が偶然一致したにすぎない。また、作中で描かれる双方の指揮官の交流も新田の創作であり、両隊になんらかの情報交換があったか否かについては、現在残されている資料からは確認できない。人物描写の都合上メインとなる神田大尉(史実の神成文吉大尉)と山田少佐(史実の山口鋠少佐)の描写も、神田大尉寄りにかなり脚色されている。
あらすじ
青森歩兵第5聯隊は、中隊編成で、青森市から八甲田山に入り八甲田山中にある田代元湯(現在廃湯)に1泊、さらに野営1泊後に聯隊に帰営する雪中行軍を計画する。しかし準備と経験とを欠いた状態のまま難所に差し掛かり、猛吹雪により進路を誤り遭難した。
弘前歩兵第31聯隊は地元出身者を主体に編成され、徳島大尉は1年前に雪中行軍演習を行った経験を持っていた。綿密な下準備を行なった上で、大人数では危険な雪山で行動力が低下する恐れがあるため比較的小規模な小隊編成とし、また徴兵されて在営している兵卒は徳島大尉の従卒と八甲田山系出身者の計4名にとどめ、あとは雪山の経験があり身長制限を通過した将校・下士のみ(他に東奥日報記者が1名随行)で行軍隊を構成した。弘前市を出発し十和田湖畔を通り一旦三本木町(現十和田市)に出て、三本木町から八甲田山中を通って青森市に抜け、さらに青森市から梵珠山を走破し弘前に帰営する総距離240kmを11日で踏破する計画(ただし青森市から弘前市へのルートは第5聯隊の遭難発覚後に中止し、汽車で帰営)で、落伍者なく成功させた。ただし途中で下士官1名が転倒して足首を痛め、それまでにまとめられた報告書を託され、馬車と鉄道を乗り継いで弘前へ戻されている。
主な登場人物
青森歩兵第5聯隊
神田大尉
山田少佐
倉田大尉
永野軍医
三上少尉
江藤伍長
村山伍長
進藤特務曹長
弘前歩兵第31聯隊
徳島大尉
斉藤伍長
民間人
福沢鉄太郎
氏家久蔵
関連する書籍
新田次郎は作家としての活動初期の1950年代に、同じ八甲田雪中行軍遭難事件を題材とした短編小説『八甲田山』(別題名『吹雪の幻影』、掲載書籍により題名が異なる)を発表していた。
八甲田雪中行軍遭難事件については、新田の本作品に先行して、青森県の地元紙記者だった小笠原孤酒が長年にわたる資料収集や第5連隊の生還者(小原元伍長)への聞き取り調査などに基づいてまとめた書籍『吹雪の惨劇』が存在した。こちらは『八甲田山死の彷徨』とは違い、ノンフィクションを志向している。ただし、出版社を通さない私家本であるため、『八甲田山死の彷徨』に比べ知名度は低い。これを知って取材を申し入れた新田に対し、小笠原は資料提供や現地案内など多くの助力を提供した。新田もあとがきで小笠原に対する謝辞を記している。一方で、新田が作品中で遭難に至った青森第5連隊の行軍計画を「人体実験」と表現した点について、小笠原は大きなショックを受け、作品そのものについては否定的な評価を残している。小笠原の足跡などを記した書籍『八甲田死の雪中行軍真実を追う』(三上悦雄、河北新報出版センター)も存在する。
また近年の研究の成果として、(山口少佐の拳銃自殺は凍傷の指では不可能という視点から)医学的に新たな論旨を展開する松木明知『八甲田雪中行軍遭難事件の謎は解明されたか』(津軽書房、ISBN 978-4806602040)は、小説とは全く違った観点からの書籍である。
劇場用映画版
テレビドラマ版
映画と同じ『八甲田山』のタイトルでテレビドラマ化され、1978年4月4日から5月9日まで毎週火曜日21:00 - 21:54 (JST) にTBSテレビ系列の火曜21時枠で放送された。全6回。
映画の大ヒットを受けてテレビドラマ化したもので、大竹まことなど映画版に出演した俳優が数人出演している。
放映リスト
- 第一話:「眼前の危機」
- 第二話:「飛雪・裏八甲田」
- 第三話:「混乱雪譜」
- 第四話:「死の彷徨」
- 第五話:「白炎燃ゆ」
- 第六話(最終話):「終わりなき雪」
スタッフ
- プロデューサー:大下晴義、小久保章一郎
- 演出:森川時久
- 脚本:長尾広生
- 音楽:池辺晋一郎
- 撮影:高木敏文
- 協力:大野剣友会
- 撮影協力:青森県、落合ホテル、雲谷スカイランドホテル、八甲田ロープウェー、休屋十和田荘、二本松市商工観光課、富士急安達太良観光、岳温泉山麓振興会
- 主題歌:北炭生『夢追い人』(作詞:たかたかし、作曲:池辺晋一郎、編曲:萩田光雄)
- 製作:東京映画・TBSテレビ
キャスト
司令本部
- 友田少将:原保美
- 中林大佐:岡田英次
青森第5連隊
- 神田大尉:村野武範
- 山田少佐:高橋幸治
- 倉田大尉:目黒祐樹
- 津村中佐:木村幌
- 長谷部一等卒:倉地雄平
- 進藤特務曹長:小野武彦
- 三神少尉:安永憲司※
- 平野大尉:本多晋
弘前第31連隊
- 徳島大尉:中山仁
- 児島大佐:草薙幸二郎
- 門間少佐:小美野欣二
- 斉藤曹長:森次晃嗣
- 高畑少尉:湯沢勉
- 田原中尉:清水章吾
- 倉持見習士官:大竹まこと※
- 西海記者:入江洋祐
その他の軍人
- 高橋伍長:畠山麦
- 原田大尉:鷹巣南雄
- 大原伍長:大阪憲
- 伊藤中尉:守田比呂也
- 大原伍長:川本高大
- 曹長:十倍利春
- 村上軍医:岩田安生
- 小山二等卒:横井直樹
- 谷川特務曹長:石川十郎
- 佐藤二等卒:杉本隆
- 兵卒:武田和章、木下幸一、越後旭、保木本克也、佐藤祐治、堀尾正明、谷一玄
案内人
- 鉄太郎:堀礼文※
- 留吉:渡辺晃三
- さわ:森下愛子
家族・周辺の人びと
- 神田はつ子:音無美紀子
- 中田きぬ:酒井和歌子
- 神田大尉長女:坂口浩子
- 神田大尉次女:大熊なぎさ
- 倉田糸子:松下砂稚子
- 源じい:今橋恒
- 門脇:小松方正
- 作左衛門:吉田義夫
- 徳島大尉と中田きぬの間の子:吉田康之
その他、加々美よう子、西川洋子、矢吹寿子、谷中洋子、川島栄吉、飯田和平、菅原司、白取雲道、臼井裕二、長谷川明男
- ナレーター:山本學
※は映画版にも出演。
TBSテレビ系列 火曜日21時台 | ||
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前番組 | 番組名 | 次番組 |
晴れのち晴れ
(1977.10.4 - 1978.3.28) |
八甲田山
(1978.4.4 - 5.9) |
三男三女婿一匹
(第2シリーズ) (1978.5.16 - 10.10) |
その他
- 企業研修や大学において、リスクマネジメントやリーダー論などの経営学のケーススタディに用いられることがある。