切り裂きジャックの告白
以下はWikipediaより引用
要約
『切り裂きジャックの告白』(きりさきジャックのこくはく)は、中山七里の推理小説。
概要
臓器移植を主なテーマとして医療や倫理の問題を投げかける社会派小説でありながら、19世紀にイギリスで実際に起きた切り裂きジャック事件をモチーフとしたミステリーでもある。
著者の中山は毎回出版社側のリクエストに応える形でどういう話にするかを決めるが、今回はそれが「どんでん返しがある社会的テーマを持った本格ミステリ」だった。そこで思いついたのが臓器移植であり、出版社がKADOKAWAと聞いて浮かんだのが横溝正史、そして社会派と聞いて浮かんだのが森村誠一。それらすべてのイメージが合体させようとしてできたのが今作であると話している。当初タイトルは「切り裂きジャックの弁明」だったが、堅苦しくて読者の手が伸びないのではないかと思い、刊行時には『切り裂きジャックの告白』に変更された。また、今回も執筆にあたって改めて取材はせず、手術のシーンも以前テレビで見た心臓移植の番組を元に書いたが、専門家に査読してもらっても医療的な記述でミスは無かったという。
人物のリンクだけでなく、猟奇殺人、シリアルキラーが登場するという点でも『連続殺人鬼カエル男』と共通する部分が多く、作中でもそれを示唆する文章がある。そして『テミスの剣』で渡瀬によって派遣されてきた古手川和也が主人公・犬養隼人のサポート役を務めるが、『連続殺人鬼カエル男』の経験をふまえて推理や捜査にあたっており、本作は古手川の成長譚としても読めるようになっている。
著者はこの作品を"祈りの小説"としており、2013年7月に発売された本作と同じ主人公・犬養隼人が活躍する『七色の毒』という短編集と対を成す世界観で、2冊で世界には希望もあるが絶望もあるということを描いているとインタビューでは話している。
2015年に本作を原作としたテレビドラマが放送された。
あらすじ
深川署の目と鼻の先にある木場公園で、ありとあらゆる臓器を摘出され、人間の尊厳を蔑ろにし、死体であることすら剥奪されているような惨殺死体が見つかる。頸部に索条痕があり、腹はY字に切り裂かれ、内臓はすべて取り払われていた。現場に残ったおびただしい血のあとから、その場で殺害&解体作業まで行ったとみられ、警察はその専門的な手口から解剖の知識を備えた医師をはじめとする専門家の関与を、その異常さから享楽殺人者による連続性を危惧する。
事件からまもなく、帝都テレビに犯行声明文が送りつけられる。"彼女の臓器は軽かった―"という臓器についての言及もさることながら、"わたしは時空を超えてまたこの世に甦ってきた"という一文、そして最後の"ジャック"という署名。誰もが脳裏に浮かんだのは19世紀のイギリスを恐怖のどん底に陥れた、5人の売春婦が鋭利な刃物でのどを掻き切られ、臓器をもちさられた猟奇事件…「切り裂きジャック事件」。まさか120年もの時を経て、現代に甦ったとでもいうのか? 劇場型犯罪として報じられ、大手新聞社も追随すると世間は大騒ぎとなった。
そうこうするうちに、似たような惨殺死体が今度は埼玉県警管内で見つかる。手口が同じであることから連続殺人事件であると判断され、捜査は警視庁と埼玉県警の合同捜査となる。警視庁捜査一課の刑事・犬養隼人も埼玉県警の古手川和也とコンビを組んで捜査にあたることになった。しかし2件の共通点も見出せないまま、ジャックからの2通目の犯行声明、そして被害者の臓器の一部が一緒に送り付けられる。
無差別殺人という見方が強い中、犬養と古手川は被害者が2人とも過去に移植手術を受けているということに気づく。絶対にジャックを止めなければならない…。普段はルーチン業務に追われて意識の下層に眠っている怒りがふつふつと沸いてくる犬養。彼には腎不全を患い、腎移植を控えた娘がいたため、その思いは特別であった。しかし捜査は思うように進まず、テレビ放送で管理官が発言した近日中に犯人を逮捕するという宣言虚しく、それを嘲笑うかのように今度は府中署管内で第3の死体が発見された。
やはり今度の被害者も臓器移植を受けたことがあり、その担当の移植コーディネーターが同じ高野千春という人物であることを突きとめた2人は、彼女の元へ向かう。
登場人物
警察関係者
埼玉県警
古手川 和也(こてがわ かずや)
埼玉県警の刑事。20代半ば、独身。上司である渡瀬に言われ、2人目の犠牲者の解剖所見を光崎に訊きに来たところで犬養を顔を合わせ、合同捜査であらためて犬養とコンビを組むことになる。若さの中に不遜さが見え隠れするが、不思議に傲慢な感じはしない。犬養の予想に反して優秀な一面をみせ、上司の受け売りとも思われる真っ当な意見を口にする。顔面といわず腕と言わず無数の傷跡があり、どの傷もさほど古いものではない。会話の内容でいちいち表情が変わり、リトマス試験紙さながら考えていることが面白いように顔に出る。イライラすると小刻みに膝を揺らす。
父親はリストラを受けたとたんに借金ばかり作って家に帰らない人間のクズに成り果て、母親も男を作って家によりつかず、古手川が高校を卒業したと同時に一家離散したため、親子の情というものを信用できない。
渡瀬(わたせ)
古手川の上司で班長。今作では名前のみ登場。
古手川 和也(こてがわ かずや)
埼玉県警の刑事。20代半ば、独身。上司である渡瀬に言われ、2人目の犠牲者の解剖所見を光崎に訊きに来たところで犬養を顔を合わせ、合同捜査であらためて犬養とコンビを組むことになる。若さの中に不遜さが見え隠れするが、不思議に傲慢な感じはしない。犬養の予想に反して優秀な一面をみせ、上司の受け売りとも思われる真っ当な意見を口にする。顔面といわず腕と言わず無数の傷跡があり、どの傷もさほど古いものではない。会話の内容でいちいち表情が変わり、リトマス試験紙さながら考えていることが面白いように顔に出る。イライラすると小刻みに膝を揺らす。
父親はリストラを受けたとたんに借金ばかり作って家に帰らない人間のクズに成り果て、母親も男を作って家によりつかず、古手川が高校を卒業したと同時に一家離散したため、親子の情というものを信用できない。
レシピエントとその関係者
六郷 由美香(ろくごう ゆみか)
古姓 俊彦(こしょう としひこ)
半崎 桐子(はんざき きりこ)
具志堅 悟(ぐしけん さとる)
ドナーとその関係者
鬼子母 志郎(きしぼ しろう)
鬼子母 涼子(きしぼ りょうこ)
医療従事者
真境名 孝彦(まじきな たかひこ)
榊原 博人(さかきばら ひろと)
高野 千春(たかの ちはる)
帝都テレビ
兵頭 晋一(ひょうどう しんいち)
書評
発売後すぐに重版がかかり、読売新聞 や日刊ゲンダイ でも書評が公開されて話題となった。また、香山二三郎や大森望ら書評家からAKB48の内田眞由美というアイドルまで、多くの人が絶賛の声をあげている。
写真・文芸評論家のタカザワケンジは、「読者を猟奇殺人から臓器移植問題へと誘うアクロバティックな展開が成功しているだけでなく、ラストシーンでは中山七里という作家が描く世界の『さよならドビュッシー』のような表の部分と、『連続殺人鬼カエル男』のような裏の部分が見事にリンクし、ストーリーテリングの巧みさに魅了された」と評価。フリーライターの永江朗は、「移植手術に成功した患者たちを待ち受ける過酷な運命までも生々しく描き込まれ、臓器移植の是非を問う社会への問題提起作として超一級のミステリである」と評価している。