前巷説百物語
以下はWikipediaより引用
要約
『前巷説百物語』(さきのこうせつひゃくものがたり)は、角川書店から刊行されている京極夏彦の妖怪時代小説。『巷説百物語シリーズ』の第4作。妖怪マガジン『怪』のvol.0017からvol.0022まで連載された。
概要
時系列では前3作から10年以上時間を遡り、若き日の又市が、おぎんや治平といった仲間と共に稼業をする前、前職である「ゑんま屋」に所属してから御行の白装束に身を包むまでの経緯を描いた前日譚的な作品。
視点人物を前作までの傍観者(百介)ではなく仕掛ける側(又市)に変えており、ミステリでいうなら犯人視点で物語が進む。
あらすじ
時は江戸末期。上方で下手をうち、江戸に流れて駆け出しの双六売りとなった又市と林蔵は、ある一件から損料屋「ゑんま屋」に拾われることになる。そこに届く依頼を解決するため、所属する渡世仲間らと共に、妖怪からくりの数々を江戸に仕掛けていく。
登場人物
主要登場人物は巷説百物語シリーズを参照。
又市(またいち)
ゑんま屋
お甲(おこう)
角助(かくすけ)
仲蔵(なかぞう)
久瀬 棠庵(くぜ とうあん)
山崎 寅之助(やまざき とらのすけ)
元公儀鳥見役の浪人。「鳥見の旦那」の愛称でも呼ばれる。刀は売ってしまっており、小ざっぱりした不思議な格好をしている。
静かなのが苦手で、口数が多い。損働きは商売で、遣った方も遣られた方も同じようにお客様だと割り切って考えるようにしており、依頼人に同情し過ぎないよう又市に釘を刺し、釈然とする損料仕事などないと諭す。
荒事を担当し、特に仇討ち仕事を得意とする。強い方から力量を引いて仇討ちの実力の釣り合いを取るために助っ人封じや返り討ち封じを行い、時には相手を直接仕留める。見かけと違い相当に腕が立ち、自らは武器を携帯せず、相手が持っている凶器を使って相手を倒す技の使い手。又市の知る限り最強の使い手だが、この技は鏡のようなものなので弱い者には弱く、弱いのに無我夢中で必死に迫ってくる手合いは最も苦手とする。
本所の外れの、身分は疎か名前も故郷も渡世もない者が溜まる、奉行所や非人頭や長吏頭の目も届かない賎民窟の掘っ建て小屋に住まい、身分の低い者や身分のない者達と寝起きを共にしている。
その他
おちか
志方 兵吾(しかた ひょうご)
万三(まんぞう)
小右衛門(こえもん)
寝肥
なじみの遊女が何度も見受けされては戻されることを繰り返すことに疑念を持った又市。そんな又市の前で、彼女は人を殺してしまったと告白する。その場に居合わせた角助はその「損」を買ってやろうと持ちかけるが…。(『怪』vol.0017 掲載)
登場人物
お葉(およう)
はずみでおもとを殺してしまい、首をつろうとしていたところを林蔵に助けられる。
音吉(おときち)
神田の小間物問屋・睦美屋の婿養子。年齢は40歳を過ぎているが、下手な役者より綺麗でぞっとするような色気があり、黙っていても女が寄ってくるほどの美男。
得意先との商談や買い付けなどの業務を熟す。毎年ねぶた流しの時期に奥州まで行き、江戸の小物を売りつけて地元の名物を買い付けに行く。その時についてきた田舎の娘たちを遊廓に売っているので、世間では渡り女衒の玉転がしが本当の渡世だと噂される。
おもと
お勝(おかつ)
肥満のせいで躰のあちこちに大きな負担が掛かっていたらしく、突然死したため、死体を長屋の人々を脅して金をもらった林蔵が引き取った。
与助(よすけ)
周防大蟆
正月に舞い込んできた仇討ちがらみの仕事。お甲は今回に限って仕事を降りることは許さないという。又市たちは真相を探っていく。(『怪』vol.0018 掲載)
登場人物
岩見 平七(いわみ へいしち)
岩見 左門(いわみ さもん)
疋田 伊織(ひきた いおり)
田代(たしろ)
川津 盛行(かわづ もりゆき)
実は疋田に惚れており、その相手が左門だと勘違いして殺害、その罪を疋田に着せた。疋田を確実に殺すために、取り巻きの9人を正式な助太刀として相手を嬲り殺しにしようと試みる。
二口女
又市のもとにやってきた角助は、ある厄介な依頼を受けてしまったと話す。又市から相談を受けた久瀬棠庵の推理が光る。(『怪』vol.0020 掲載)
登場人物
西川 縫(にしかわ ぬい)
先妻・静の子、正太郎が死んでしまったことで、ゑんま屋に依頼をする。
西川 清(にしかわ きよ)
西川 俊政(にしかわ としまさ)
西川 静(にしかわ しず)
西川 正太郎(にしかわ せいたろう)
西田 尾扇(にしだ びせん)
正太郎がいじめ殺されたという証拠を清からもらった金で隠蔽したという。
後に『嗤う伊右衛門』にも登場する。
宗八(そうはち)
十助(じゅうすけ)
かみなり
立木藩の江戸留守居役が腹を切った。失脚を目論んだ仕掛けだったが「やり返すにしてもやり過ぎだったンじゃねェのか」と又市は危惧する。ほどなく、ゑんま屋一味は何者かに命を狙われることになる。(『怪』vol.0021 掲載)
登場人物
土田 左門(つちだ さもん)
立木藩領内の大百姓から依頼を受けて、銭を掠め取って女と家族に分け与えるだけでは損が埋まらないと考えた又市と林蔵は、助平爺であることを天下に知らしめて思い切り恥をかかせた上で、留守居役の地位から失脚させることに決め、薬で眠らされ裸に剥かれた状態で、石高にして5倍はある隣の藩屋敷の女中部屋へと放り込まれる。瓦版にも載ってしまい、国許へ呼び返されて蟄居を申し付けられた後、詮議の途中で責任を取って切腹する。
薄闇の男
山地乳
渋谷道玄坂にある縁切り堂の黒絵馬に名前を書かれたものは3日以内に死ぬらしい。調査に訪れた志方兵吾は絵馬に自分の名前を書き記す。一方で大阪の一文字屋仁蔵からの使いがゑんま屋に着き、大きな損を引き取って戴きたいという。(『怪』vol.0022 掲載)
登場人物
文作(ぶんさく)
生まれは四国だが、人別のない無宿人。齢の頃なら40と少しだが小柄で齢に似合わぬ老け顔。大阪で一文字屋仁蔵に大恩を受け、以来その下で働いている。又市の昔の仲間でもある。平素はどこにいるのか皆目判らないのになぜか繋ぎはつけやすい。一文字狸からの六百両を携えて江戸にやってきた。
玉泉坊(ぎょくせんぼう)
荒法師。身の丈は6尺(約1.8m)を優に越し、丸太ほどもある太い腕には背丈を超える長い錫杖を持ち、襤褸襤褸の僧衣を纏っている。以前は又市と上方を荒らしていた。抜き身を提げた複数の侍とも素手で渡り合え、生木を引き裂くような大力の文字通りの豪傑。文作の用心棒として江戸にやってきた。
多門 英之進(たもん えいのしん)
鬼蜘蛛(おにぐも)
「かみなり」の件ではゑんま屋を襲ったこともある。
旧鼠
稲荷坂の祇右衛門の仕掛けをことごとくつぶしてきたゑんま屋にとうとう祇右衛門の魔の手が迫る。語られる山崎の過去。仲間がどんどん殺されていく中、又市は御燈の小右衛門とともに、見えない敵の祇右衛門に立ち向かう。(書き下ろし)
登場人物
まかしょう
若旦那
人形のような娘
美鈴(みすず)
三佐(さんざ)
用語
ゑんま屋
一方で、銭金では埋まらぬ、口では言えないありとあらゆる憂き世の損を、見合った額面の銭で引き取り肩代わりする裏の稼業を持つ。可哀想な人から頼まれて憎い仇敵に仕返しをすることもあるが、それは結果に過ぎず、売り買いするのは飽くまで「損」で、復讐屋ではないので怨みや辛みまでは引き受けない。この裏稼業の事情を知るのは店の者ではお甲の他に角助と巳之八だけ。裏の稼業とはいえ堅気相手の商売なので、裏の渡世とは切れており、そちら側と繋がった人間とは手を組まず、一切関わりを持たぬ決めごとがある。
川津藩(かわづはん)
立木藩(たちきはん)
黒絵馬
縁切り堂は50年前に廃寺となった非人乞胸を檀家とする寺の跡地にあり、元は山神を祀る小祠だったとの記録はあるが、今は誰も管理をする者が居ない。
書誌情報
- 四六判:角川書店、2007年4月20日、ISBN 4-04-873769-4
- 新書判:中央公論新社〈C★NOVELS〉、2009年4月1日、ISBN 4-12-501070-6
- 文庫判:角川書店〈角川文庫〉、2009年12月25日、ISBN 4-04-362007-1