小説

名探偵なんか怖くない


題材:三億円事件,

舞台:東京,



以下はWikipediaより引用

要約

『名探偵なんか怖くない』(めいたんていなんかこわくない)は、西村京太郎の長編推理小説(三人称小説)。

既存のミステリ作家が創造した東西の名探偵が参集する趣向の、パロディミステリ「名探偵シリーズ」4部作の第1作である。以下の4人が探偵役として共演する(登場順に記載)。

初出は1971年(昭和46年)で、講談社の当時のミステリ叢書企画「乱歩賞作家書き下ろしシリーズ」の一冊として刊行された(時代設定は1970年)。元版の装丁は、小林泰彦。

なお、本作は4人の名探偵の過去の事件について、ネタバレが含まれている(作品名については、#「名探偵」への批判、#作中で触れられる原典を参照)。

あらすじ

日本の老富豪・佐藤大造は、アメリカのエラリー・クイーン、イギリスのポワロ、フランスのメグレ、そして明智小五郎を自費で呼び集め、世界に名だたる名探偵である彼らに、一つの挑戦をつきつける。それはあの3億円事件を実際に再現し、模倣犯の行動の軌跡を追うことで、本当の3億円事件の実態にも迫ってもらおうというものだった。4人の名探偵はこれを承諾する。

彼らの前で、佐藤の部下である神崎五郎が、この途方もない計画を進行する。彼は、条件に合った、村越という若者を見出し、村越は佐藤がお膳立てした計画のまま、佐藤が用意した3億円を奪う。マンションを購入し、自動車を購入する村越。だがそれは、4人の名探偵の推理した通りだった。次に村越はガールハントに成功するが、しかしそれも名探偵の推理通りだった。

そして、計画にないはずの殺人事件が発生。3億円のうち、残った2億5千万円ほども灰となってしまう。果たして殺人犯は誰か? 懐旧に浸る、老いた名探偵たちの推理は一度は外れるものの…。

登場人物

登場順に記述。

三島

本作前半での語り手的な人物。30歳。
英語・仏語に堪能なミステリマニアで、1週間前に佐藤に秘書として雇われた。エラリー、メグレ、ポワロを個別に出迎えた。
佐藤 大造(さとう たいぞう)

複数の企業のトップの座にある富豪。62歳。体は壮健。
3億円事件が未解決なのに業を煮やし、「一市民の立場から、同事件の解決を目指し、それゆえ事件の再現と名探偵4人の参集をお膳立てした」と語る人物。
ニューシブヤマンション(物語後半の舞台)のオーナーでもあり、村越監視のため、5階を名探偵たちに提供した。
神崎 五郎

佐藤が指示を下す、この計画の進行役。3億円事件を再現させるため、暗躍する。
村越 克彦

再現される3億円事件の「犯人」役となる青年。徳島出身。
金城 ゆり子

沖縄出身の美人ファッションモデル。20歳。
3億円強奪に成功した村越にハントされて、彼とニューシブヤマンション506号室で同棲を始める。佐藤の計画や村越の犯行についてはまったく知らない。
吉牟田 晋吉(よしむだ しんきち)

物語中盤の殺人事件から登場し、語り手的な存在となる。渋谷署の刑事で、50歳ぐらいのベテラン刑事。『化人幻戯』事件の時に明智と知り合った。
第3作『名探偵も楽じゃない』まで登場する。第4作『名探偵に乾杯』には名前だけ登場。第3作では警部補、第4作では警部に昇進している。
坂西 栄一

井崎製紙の役員。ニューシブヤマンション605号室(6階)の住人で、同好のカメラ仲間2人とともに、自室でヌードの撮影会を楽しんでいた。

4人の名探偵

各名探偵の詳細については、原典の項目の記述を参照(#「名探偵」への批判、#作中で触れられる原典も参照)。なお、以下の名探偵の記載は登場順。

エラリー・クイーン

アメリカを代表する名探偵。本作では1905年生まれであり、65歳となっているが、年齢より若々しい。
身長180センチ以上で鼻眼鏡を使用している。ハードボイルド小説には批判的。
ジュール・メグレ

フランスを代表する名探偵だが、ベルギー人の血が混じっている。本作では警察を退職しており、最終階級は警部となっている。1932年に警察に入った。事件に当たる際は、メモを取る。
身長180センチ、体重は80キロ以上。3人の外国人探偵の中では、一番の後輩に当たる。
夫人同伴で来日したが、夫人は別行動で京都に向かった。メグレ夫人は第2作『名探偵が多すぎる』、第4作『名探偵に乾杯』にも登場。両作では夫と同行している。
エルキュール・ポワロ

イギリスを代表する名探偵だが、ベルギー人。本作では「エルキュール・ポワロ」と表記される(次回作まで。第3作以降は「エルキュール・ポアロ」)。
3人の外国人探偵の中では、一番の先輩に当たる。メグレには一目で好感を持った。
クイーンには批判的である(ただし、その頭脳や功績には敬意を払っている)。クイーンに限らず、「アメリカ人はすぐに口笛を吹くし、金を見せびらかす」と反感を持っている。
マッチ棒で動物や魚の形を作るクセがある。
明智小五郎(あけち こごろう)

日本を代表する名探偵。「人前に出なくなって久しい」と語られ、65歳になっている。しかし、その目の光は衰えていない。
『化人幻戯』事件の後、妻の文代を亡くし、一線から身を引いた。七回忌も終わっている。

なお、外国の探偵は、3人とも日本の事情に疎いため、解決編の前に情報を収集した(東京中央郵便局を訪ねる、秋葉原の電気商店街を訪れる、銀座のデパートの下着売り場を見学する、など)。また、3人とも、クリスマス・イブには教会を訪れている。

「名探偵」への批判

本作では、複数のキャラクターが、名探偵という存在に批判や疑問を投げかけている(一部、伏線になっているものもある)。以下、登場順に記載する。

ポワロからの批判

クイーンに対し、「読者への挑戦」は嫌味だ、と思っている。また、「ハッタリが過ぎる」とも(その最たるものが「国名シリーズ」であり、しかもイギリスがシリーズから抜けている)。
本作でも、クイーンの希望で「読者への挑戦」という章が設けられたが、その際にも「この方法は好きになれない」と語っている。
佐藤大造からの批判

「想像力とか灰色の脳細胞だとかで、彼らは本当に事件が解決できるのか?」
「名探偵は文学的な傾向を持っており、彼らの解決した事件の犯人もまた、文学的であり、現実離れしている。いわば、犯人は探偵の分身だ。捕まるのが当然」、「今回は普通の人間が犯人だから、捕まえられるだろうか?」
三島からの批判

「名探偵は、気を引くようなことをいって黙りこむ、という意地の悪さを持っている」
「今回の事件の動向よりも、フランスの思い出話に話を咲かせている。彼らも歳なのか?」、「妙に懐古趣味になっている」
吉牟田晋吉からの批判

「名探偵は妙なところばかり気にする」
クイーンに対し、「名探偵は、時折りこういう意地の悪い目つきをする。頭の悪い人間を揶揄する前触れだ」。明智に対し、「通訳しているが、助け舟を出してくれそうもない」
クイーンと明智に対し、「名探偵は全てを語らない。不親切だ」
ポワロとメグレに対し、「名探偵の心理は読みづらい」
「読者への挑戦」という章に対し、「賛成できない」、「殺人事件には、もっと真面目に」と語っている。

作中で触れられる原典

本作では、以下の作品名が上げられ、あるいはその内容が語られている。このうち、本作に関係のないものもあるが、伏線になっているものもある。またネタバレも含まれている。以下、探偵別(登場順)に記載する。

なお、その他にアブナー伯父について明智が触れている(1910年代のアメリカの推理小説。トリック解明の際に引き合いに出した)。

クイーンの事件

ニッポン樫鳥の謎"The Door Between"(1937年)

三島がクイーンを出迎える際、「日本人の生真面目さは、この事件で知っているはず」と考えた。
クイーンが「この事件では日本人を正確に理解していなかったが、国際情勢が悪かった。今はきちんと日本人を理解している」と語った。
金城ゆり子が沖縄出身、と聞いた際、エラリーが「オキナワ!」と叫んだ(三島の想像では、この事件で沖縄の女性と知り合っているため)。
この事件で「日本人よりも、沖縄の人間の方がスタイルが良い」とクイーンは述べていたが、果たして今でもそう思っているのだろうか?(三島の疑問)。
佐藤大造が「文学的な、現実離れした犯人の典型」として挙げた。
4人が推理を間違え、クイーンが自分を見つめ直す際に回想。本件の殺人事件の犯人は狂人かと思われ、その比較として引き合いに出した。トリックの要(犯人)が指摘されている。
この事件でクイーンが知った日本人の自殺方法は、「男はハラキリ、女は喉を切る」というものであり、服毒自殺は想定外だった。
ローマ帽子の謎"The Roman Hat Mystery"(1929年)

ポワロが内心でクイーンを批判する際に登場(「ローマと関係ない事件」と指摘)。
「読者への挑戦」という章を設けた際、クイーンが「最初に手がけた事件」として言及。
本事件で「シルクハットの消失」があったのは、クイーンにこの事件を思い出させ、懐旧の念に浸らせるため。
フランス白粉の謎"The French Powder Mystery"(1930年)

ポワロが内心でクイーンを批判する際に登場(「フランスと関係ない事件」と指摘)。
恐怖の研究"A Study in Terror"(1966年)

タイトルは明示されていないが、明智がクイーンに「切り裂きジャックに対するあなたの研究」として語りかけた。明智は「ジャックは女性ではないか?」ともいっている。
ポワロは「イギリスの事件をアメリカ人に解けるはずがない」と呟いたが、クイーンには聞こえなかったようである。
中途の家"Halfway House"(1936年)

クイーンがマッチの燃えさしをポケットにしまったのを見て、三島が連想した事件(6本のマッチの燃えさしが、事件解決の鍵になっている)。
「パリ警視庁のフィリップ・オルレアンの助力で解決した事件」として、クイーンがメグレに礼を述べている。
チャイナ橙の謎"The Chinese Orange Mystery"(1934年)

4人が推理を間違え、クイーンが自分を見つめ直す際に回想。本件の殺人事件の犯人は狂人かと思われ、その比較として引き合いに出した。
エジプト十字架の謎"The Egyptian Cross Mystery"(1932年)

同上。
悪の起源"The Origin of Evil"(1951年)

上記に絡み、「今回の犯罪のモチーフを見つける」として引き合いに出した事件。

メグレの事件

男の首"La Tête d'un homme"(1930年)

フランスの新聞「警笛(シフレ)」の記事中と、メグレの回想に登場。犯人の名前が明示されている。
佐藤大造が「文学的な、現実離れした犯人の典型」として挙げた。
佐藤大造が、クリスマス・イブのプレゼントにメグレに火縄式ライターを贈った際、その意味として引き合いに出した。
4人が推理を間違え、メグレが自分を見つめ直す際に回想。犯人の名前が明示されている。
本事件で「3億円が灰になった」と鑑定されたのは、メグレに「異常な動機による事件」として、これらの事件を思い出させ、懐旧の念に浸らせるため。

ポワロの事件

スタイルズ荘の怪事件"The Mysterious Affair at Styles"(1920年)

ポワロが三島に、自分の経歴を語る際に言及。
三幕の殺人"Three Act Tragedy"(1935年)

ポワロが三島に「私だって失敗することがある」と語った際、三島が指摘した事件(実際は、ポワロの「失敗」はベルギー警察時代のものだった)。
佐藤大造が「文学的な、現実離れした犯人の典型」として挙げた。
ミスタ・ダヴンハイムの失踪"The Disappearance of Mr Davenheim"(1929年)

「今回の犯人は、軽微な罪で刑務所に入っているのが安全」とポワロが語った際、三島が「前に同じことを読んだことがある」として思い出した事件。
首相誘拐事件"The Kidnapped Prime Minister"(1923年)

ポワロがフランスを訪問したが、当時はメグレに面識がなかったので助力を頼まなかった。
アクロイド殺し"The Murder of Roger Ackroyd"(1926年)

佐藤大造が、クリスマス・イブのプレゼントにポワロにテープレコーダーを贈った際、その意味として引き合いに出した。
4人が推理を間違え、ポワロが自分を見つめ直す際に回想。論理的思考の大切さの比較として、引き合いに出した。トリックの要が明言されている(事実上、犯人が名指しされている)。
本事件で「椅子に腰掛けたままの死体」があったのは、ポワロにこの事件を思い出させ、懐旧の念に浸らせるため。「ずらされた椅子」の配置もそのまま。
オリエント急行の殺人"Murder on the Orient Express"(1934年)

明智の指摘に対し、吉牟田刑事が類例として挙げた事件。トリックの要が明言されている。
4人が推理を間違え、ポワロが自分を見つめ直す際に回想。論理的思考の大切さの比較として、引き合いに出した。トリックの要が明言されている(事実上、犯人が名指しされている)。
戦勝記念舞踏会事件"The Affair at the Victory Ball"

ポワロが「読者への挑戦」へ不快感を表すので、明智が「ポワロも、この事件では「読者への挑戦」を行っている」と指摘した。

明智の事件

化人幻戯(1954年(昭和29年))

初対面の際、佐藤大造が「明智の才能に敬服した事件」と語った。犯人の名前が明示されている。
佐藤大造が「文学的な、現実離れした犯人の典型」として挙げた。
4人が推理を間違え、明智が自分を見つめ直す際に回想。動機と犯人の名前が明示されている。
魔術師(1930年(昭和5年))

初対面の際、佐藤大造から文代の名を聞き、明智が連想した(文代と出会った事件)。
吸血鬼(1930年(昭和5年)から1931年(昭和6年))

同じく、明智が連想(事件解決後、文代と結婚式を挙げた)。
佐藤大造が、クリスマス・イブのプレゼントに明智にワイングラスを贈った際、明智がその意味として推理した。
黄金仮面(1930年(昭和5年)から1931年(昭和6年))

明智がメグレに「1929年にパリ警視庁に行ったことがあり、デマリオン警視総監やエベール警察官に会い、アルセーヌ・ルパンの知識を得ていたので、この時は解決できた」と感謝を述べた(事件名は明記されていない)。
4人が推理を間違え、明智が自分を見つめ直す際に回想。「恐るべき敵」として犯人の名前が明示されている。
その他の事件

本事件で「椅子に札束が隠されていた」のは、明智に過去の類似事件を思い出させ、懐旧の念に浸らせるため。

シリーズ名と「パロディ」について

本書巻末にある、二上洋一の「解説」において、「パロディ」と明記されている。「名探偵シリーズ」についても同様。

ただし、パロディといっても、各名探偵の人物像は原典に相応しいもので、彼らを笑いものにする筆致ではない。「「名探偵もの」に対するパロディとして、「扱う事件の特殊性」を皮肉らせる」、あるいは「意外なトリック・真相」などが、シリーズとしての「パロディ」の意味である(「解説」では「遊び」とも)。

顕著な例は、次回作『名探偵が多すぎる』である。船長室の前の廊下で謎解きをやる羽目に陥り、「暖炉やソファのあるサロンでないと…」と名探偵たちが内心で渋るのだが、「緊急事態に、カッコつけることばかり考えるんじゃありません!」と、それを悟ったメグレ夫人に叱られている。

また、#「名探偵」への批判にある通り、「読者への挑戦」(クイーンの希望で設置された)に対して、ポワロと吉牟田刑事が明確に批判している。さらに、明智からは「ポワロ氏も、「戦勝記念舞踏会事件」("The Affair at the Victory Ball")では行っている」とツッコまれている(メグレは肯定も否定もしていない)。

続編

続編はクローズド・サークルものでもある。また、全てに殺人が絡む(第3作、第4作は連続殺人もの)。

名探偵が多すぎる
第2作。1972年(昭和47年)5月に書き下ろしで刊行。
アルセーヌ・ルパンが登場し、日本で休暇中の4人の名探偵に挑戦してくる。怪人二十面相がルパンに協力している。
事件は、瀬戸内海を航行する観光船の船内で終始している。
名探偵も楽じゃない
第3作。1973年(昭和48年)12月に書き下ろしで刊行。
推理小説マニアの集会に招かれた4人の名探偵の前で、連続殺人が起きる。若き名探偵、左文字京太郎が登場。
事件は、都内にあるホテルで終始している。
名探偵に乾杯
第4作。1976年(昭和51年)9月に書き下ろしで刊行。
『カーテン』(ポアロ最後の事件)を受けて執筆された。ポアロ2世を名乗る、ポアロそっくりの青年(ポアロ・マードック)が登場。
また、アーサー・ヘイスティングズ(『カーテン』他でポアロのパートナーを務めた)も登場し、ポアロ2世が、ヘイスティングズの前で『カーテン』の結末に対し異を唱えている。
事件は、静岡県にある孤島(明智の別荘)で終始している。