吾輩は猫である
以下はWikipediaより引用
要約
『吾輩は猫である』(わがはいはねこである)は、夏目漱石の長編小説であり、処女小説である。1905年(明治38年)1月、『ホトトギス』にて発表されたのだが、好評を博したため、翌1906年(明治39年)8月まで継続した。上、1906年10月刊、中、1906年11月刊、下、1907年5月刊。
中学の英語教師苦沙弥先生の日常と、書斎に集まる美学者迷亭、理学者寒月、哲学者東風らといった明治の知識人たちの生活態度や思考を飼い猫の目を通して、ユーモアに満ちたエピソードとして描いた作品。
表面的にすぎない日本の近代化に対する、漱石の痛烈な文明批評・社会批判が表れている風刺小説。なお実際、本作品執筆前に、夏目家に猫が迷い込み、飼われることになった。その猫も、ずっと名前がなかったという。
概要
「吾輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。」という書き出しで始まり、中学校の英語教師である珍野苦沙弥の家に飼われている猫である「吾輩」の視点から、珍野一家や、そこに集う彼の友人や門下の書生たち、「太平の逸民」(第二話、第三話)の人間模様が風刺的・戯作的に描かれている。
着想は、E.T.A.ホフマンの長編小説『牡猫ムルの人生観』だと考えられている。 また『吾輩は猫である』の構成は、『トリストラム・シャンディ』の影響とも考えられている。
漱石が所属していた俳句雑誌『ホトトギス』では、小説も盛んになり、高浜虚子や伊藤左千夫らが作品を書いていた。こうした中で虚子に勧められて漱石も小説を書くことになった。それが1905年1月に発表した『吾輩は猫である』で、当初は最初に発表した第1回のみの、読み切り作品であった。しかもこの回は、漱石の許可を得た上で虚子の手が加えられており、他の回とは多少文章の雰囲気が異なる。だがこれが好評になり、虚子の勧めで翌年8月まで、全11回連載し、掲載誌『ホトトギス』は売り上げを大きく伸ばした(元々俳句雑誌であったが、有力な文芸雑誌の一つとなった)。
登場する人物と動物
吾輩(主人公の猫)
三毛子
車屋の黒
珍野 苦沙弥(ちんの くしゃみ)
迷亭(めいてい)
美学者大塚保治がモデルともいわれるが漱石は否定したという。また、漱石の妻鏡子の著書『漱石の思ひ出』には、漱石自身が自らの洒落好きな性格を一人歩きさせたのではないかとする内容の記述がある。
水島 寒月(みずしま かんげつ)
越智 東風(おち とうふう)
八木 独仙(やぎ どくせん)
甘木先生
金田(かねだ)
金田 鼻子(はなこ)
金田 富子(とみこ)
鈴木 籐十郎(すずき とうじゅうろう)
多々良 三平(たたら さんぺい)
牧山(まきやま)
珍野夫人
珍野 とん子
珍野 すん子
珍野 めん子
御三(おさん)
雪江
二絃琴の御師匠さん
古井 武右衛門(ふるい ぶえもん)
吉田 虎蔵(よしだ とらぞう)
泥棒陰士
八(や)っちゃん
構成
タバコではじまり、ビールで終わる。皮肉にも大きな池で始まり、水甕(みずがめ)で終わる構成になっている。
第1話
第2話
第3話
第4話
第5話
第6話
第7話
第8話
第9話
第10話
第11話
素材
主人公「吾輩」のモデルは、漱石37歳の年に夏目家に迷い込んで住み着いた、野良の黒猫である。1908年9月13日に猫が死亡した際、漱石は親しい人達に猫の死亡通知を出した。また、猫の墓を立て、書斎裏の桜の樹の下に埋めた。小さな墓標の裏に「この下に稲妻起る宵あらん」と安らかに眠ることを願った一句を添えた後、猫が亡くなる直前の様子を「猫の墓」(『永日小品』所収)という随筆に書き記している。毎年9月13日は「猫の命日」である。
『猫』が執筆された当時の漱石邸は東京市本郷区駒込千駄木町(現・文京区向丘2丁目)にあった。この家は愛知県の野外博物館・明治村に移築されていて公開されている。東京都新宿区早稲田南町の漱石山房記念館(漱石山房跡地)には「猫塚」があるが、戦災で焼損し戦後その残欠から復元したものだという。
最終回で、迷亭が苦沙弥らに「詐欺師の小説」を披露するが、これはロバート・バーの『放心家組合』のことである。この事実は、大蔵省の機関誌『ファイナンス』1966年4月号において、林修三によって初めて指摘された。同様の指摘は、1971年2月号の文藝春秋誌上で山田風太郎によっても行われている。
古典落語のパロディが幾つか見られる。例をあげると、窃盗犯に入れられた次の朝、苦沙弥夫婦が警官に盗まれた物を聞かれる件(第五話)は『花色木綿(出来心)』の、寒月がバイオリンを買いに行く道筋を言いたてるのは『黄金餅』の、パロディである。迷亭が洋食屋を困らせる話にはちゃんと「落ち」までつけ一席の落語としている。漱石は三代目柳家小さんなどの落語を愛好したが、『猫』は落語の影響が最も強く見られる作品である。
第三話にて寒月が講演の練習をする「首縊りの力学」は、漱石の弟子で物理学者・随筆家の寺田寅彦が提供した実在の論文、Samuel Haughton "On Hanging ; Considered from a Mechanical and Physiological Point of View" が基になっている。
- 千駄木にあった旧漱石邸(愛知県・明治村に移築保存)
- 同左
書誌情報
1905年1月にのちの第1章に相当する部分が発表され、その後1905年2月(第2章)、4月(第3章)、5月(第4章)、6月(第5章)、10月(第6章)、1906年1月(第7章および第8章)、3月(第9章)、4月(第10章)、8月(第11章)と掲載された。
第1巻(第1章 - 第3章)は1905年10月6日に、第2巻(第4章 - 第7章)は1906年11月4日に、第3巻(第8章 - 第11章)は1907年5月19日に大倉書店と服部書店から刊行された。全1冊としては1911年に刊行された。1918年に漱石全集の第1巻に収録された。
- 夏目金之助『吾輩ハ猫デアル』 上、大倉書店、1905年10月6日、290頁。NDLJP:888725。
- 夏目金之助『吾輩ハ猫デアル』 中、大倉書店、1906年11月4日、238頁。NDLJP:888726。
- 夏目金之助『吾輩ハ猫デアル』 下、大倉書店、1907年5月19日、218頁。NDLJP:888727。
- 夏目漱石『吾輩は猫である』漱石全集刊行会〈漱石全集 第1巻〉、1918年1月1日、606頁。NDLJP:957303。
- 夏目漱石 著、東洋文芸研究会 編著 編『漱石名作選集』(20版)坂東三弘社、1934年6月28日(原著1925年11月30日)。NDLJP:1106011/5。
- 夏目漱石『吾輩ハ猫デアル』 全3冊、日本近代文学館(出版) 図書月販(発売)〈近代文学館 名著複刻全集 35〉、1968年。 - 大倉書店・服部書店刊(1905-1907)の複製。
- 夏目漱石 著、名著複刻全集編集委員会 編『吾輩ハ猫デアル』 全3冊、日本近代文学館(出版) ほるぷ(発売)〈漱石文学館 名著複刻〉、1976年6月。 - 大倉書店・服部書店刊(1905-1907)の複製。
- 夏目漱石『ザ・漱石』(増補新版)第三書館、1999年6月。ISBN 4-8074-9910-6。
- 夏目漱石『ザ・漱石 全小説全二冊 グラスレス眼鏡無用』 下巻(大活字版)、第三書館、2006年4月。ISBN 4-8074-0601-9。
- 夏目漱石 著、名著複刻全集編集委員会 編『吾輩ハ猫デアル』 全3冊、日本近代文学館(出版) ほるぷ(発売)〈漱石文学館 名著複刻〉、1976年6月。 - 大倉書店・服部書店刊(1905-1907)の複製。
- 夏目漱石『ザ・漱石 全小説全二冊 グラスレス眼鏡無用』 下巻(大活字版)、第三書館、2006年4月。ISBN 4-8074-0601-9。
オーディオブック(朗読)版
- 夏目漱石 著 「吾輩は猫である」、ことのは出版、ASIN B0019X3NFQ
派生作品、影響を受けた作品
本作を原作として1936年と1975年に映画化されている。(吾輩は猫である (映画)を参照のこと)
多くのパロディ小説も生まれた。『吾輩ハ鼠デアル』(1907年(明治40年)9月刊)、『我輩ハ小僧デアル』(1908年3月刊)などである。三島由紀夫も少年時代(中等科1年)に『我はいは蟻である』(1937年)という童話的な小品を書いており、「我はいは暗い暗い部屋の中で生れ出た。」という幼虫からの書き出しで始まり、変身前の自分を「うじ」と呼んで嫌う人間どもを「人間とは可笑しな動物」と言い、蛹から蟻になった「我はい」が重いビスケットを背負ってそれを舐めて美味しかったエピソードなどが描かれている。
2006年代には宮藤官九郎の脚本で昼帯テレビドラマ『吾輩は主婦である』がTBSで放送された。(これは"夏目漱石が乗り移った主婦"が繰り広げるホームコメディ、だったとのこと)
2019年には演出家ノゾエ征爾による『吾輩は猫である』が東京芸術祭2019で上演された(これは夏目漱石の作品を下敷きにしつつ、大胆に換骨奪胎し、総勢80名弱のキャストで新基軸の劇世界を作ったものとのこと)
映像化作品
映画
2度映画化された。1936年版と1975年版がある。
テレビドラマ
山一名作劇場『吾輩は猫である』(日本テレビ)
- 演出:安藤勇二
- 脚本:田村幸二
- 出演:斎藤達雄、三宅邦子、稲葉義男、舟橋元、山田美奈子、藤村有弘
- ナレーション:徳川夢声
『吾輩は猫である』(NHK)
関東地区における視聴率は40.2%を記録した(ビデオリサーチ調べ)。
- 脚本:キノトール
- 出演
- 苦沙弥:森繁久彌
- 細君:淡路恵子
- 迷亭:三木のり平
- 寒月:有島一郎
- 鼻子:沢村貞子
- 富子:横山道代
- 泥棒:八波むと志
- 籐十郎:多々良純
- 女中:久里千春
- 猫の声:渥美清
- 苦沙弥:森繁久彌
- 細君:淡路恵子
- 迷亭:三木のり平
- 寒月:有島一郎
- 鼻子:沢村貞子
- 富子:横山道代
- 泥棒:八波むと志
- 籐十郎:多々良純
- 女中:久里千春
- 猫の声:渥美清
こども名作座『吾輩は猫である』(NHK)
『ふたりは夫婦』第19回「わたくしは細君」~「吾輩は猫である」より~(フジテレビ)
- 脚本:田中澄江
- 出演:八千草薫、長門裕之、篠田三郎、三谷昇
テレビアニメ
日生ファミリースペシャル『吾輩は猫である』(1982年、フジテレビ系)
- 制作:フジテレビ、東映動画
- 製作:今田智憲
- 企画:栗山富郎(東映動画)、久保田栄一 (フジテレビ)
- 企画コーディネーター:大橋益之助 (大坂電通)
- 脚本:大原清秀
- 演出:りん・たろう
- 撮影:岡芹利明
- キャラクターデザイン:はるき悦巳(猫)、小松原一男(その他)
- 作画監督:小松原一男
- 美術監督:椋尾篁
- 出演者
- 吾輩:山口良一
- クロ:なべおさみ
- マツ:向井真理子
- チヨ:佐藤恵利
- ベル:雨森雅司
- ドン:柴田秀勝
- 珍野苦沙弥:坂上二郎
- 細君:増山江威子
- 水島寒月:野沢那智
- とん子:小林綾子
- すん太:工藤彰吾
- 春子:藤田淑子
- 金田:財津一郎
- 金田夫人:朝井良江
- 三平:寺田誠
- 小山:矢田耕司
- 森:郷ひろみ(特別出演)
- 青年:田中秀幸
- 書生:塩屋浩三・塩屋翼
- 婦人:恵比寿まさ子・山口奈々・宮崎恵子
- 主題歌・エンディング「ベストフレンド」 作詞 - 長田弘 / 作曲 - 森田公一 / 編曲 - 青木望 / 歌 - 上野博樹
- 吾輩:山口良一
- クロ:なべおさみ
- マツ:向井真理子
- チヨ:佐藤恵利
- ベル:雨森雅司
- ドン:柴田秀勝
- 珍野苦沙弥:坂上二郎
- 細君:増山江威子
- 水島寒月:野沢那智
- とん子:小林綾子
- すん太:工藤彰吾
- 春子:藤田淑子
- 金田:財津一郎
- 金田夫人:朝井良江
- 三平:寺田誠
- 小山:矢田耕司
- 森:郷ひろみ(特別出演)
- 青年:田中秀幸
- 書生:塩屋浩三・塩屋翼
- 婦人:恵比寿まさ子・山口奈々・宮崎恵子
フィルムコミック
- 日生ファミリースペシャル『吾輩は猫である』サンケイ出版名作コミックス(上・下)1982年8月5日
まんが
- 『吾輩は猫である』夏目漱石 作・尾崎秀樹 監修・緒方都幸 漫画、旺文社〈旺文社名作まんがシリーズ A1〉、1985年。ISBN 4-01-023401-6。
- 『吾輩は猫である』夏目漱石 作・バラエティ・アートワークス 企画・漫画、イースト・プレス〈まんがで読破〉、2010年。ISBN 978-4-7816-0347-6。
その他
- オペラ『吾輩は猫である』- 曲・台本:林光(1998年2月21日初演/新国立劇場小劇場/こんにゃく座)
- 宜志政信によるうちなー口翻訳 『吾んねー猫どぅやる』新報出版,『吾んねー猫どぅやる 完結編』新星出版
関連作品
小説
- 『それからの漱石の猫』(三四郎、1920年) - 『吾輩は猫である』の続編。1997年に『續吾輩は猫である』のタイトルで復刊
- 『贋作吾輩は猫である』(内田百閒、1949年) - 『吾輩は猫である』の続編。
アニメ
- アニメ『君の棲む街 ~文京編/早稲田編~』 - ショートアニメ(2分30秒)。監督・脚本:高松明子、キャスト:石川界人、早見沙織、制作:J.C.STAFF。擬人化された2人の猫の物語。両者がモノローグで『吾輩は猫である』と『舞姫』の一節を語る。2015年11月21日に開催された、森鴎外・夏目漱石ら文豪が暮らした街の魅力を発信する「文京・早稲田 文豪ウィーク」のオープニングイベントで公開された。
関連文献
- 内田百閒『贋作吾輩は猫である』新潮社、1950年。NDLJP:1706550。 - 『吾輩は猫である』の続篇。
- 内田百閒『贋作吾輩は猫である』筑摩書房〈ちくま文庫 内田百閒集成 8〉、2003年5月7日。ISBN 4-480-03768-3。http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480037688/。
- 奥泉光『『吾輩は猫である』殺人事件 純文学書下ろし特別作品』新潮社、1996年1月。ISBN 4-10-600657-X。
- 奥泉光『『吾輩は猫である』殺人事件』新潮社〈新潮文庫〉、1999年3月。ISBN 4-10-128421-0。
- 奥泉光『『吾輩は猫である』殺人事件』(電子書籍)新潮社、2009年1月23日。ASIN B00CL6N1M0。http://www.shinchosha.co.jp/ebook/E640821/。
- 長山靖生『「吾輩は猫である」の謎』文藝春秋〈文春新書 009〉、1998年10月20日。ISBN 978-4-16-660009-0。https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166600090。
- 南條竹則『あくび猫』文藝春秋、2000年9月10日。ISBN 978-4-16-319540-7。https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163195407。
- 間宮周吉『吾輩の哲学 再読『猫』のことば』文藝春秋、2010年2月28日。ISBN 978-4-16-008090-4。https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784160080904。
- 関川夏央原作・谷口ジロー作画 『「坊っちゃん」の時代』(1987年-1996年)漫画アクション(双葉社)夏目漱石の飼い猫が登場し、吾が輩は猫であるについても取り上げられている。
- 内田百閒『贋作吾輩は猫である』筑摩書房〈ちくま文庫 内田百閒集成 8〉、2003年5月7日。ISBN 4-480-03768-3。http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480037688/。
- 奥泉光『『吾輩は猫である』殺人事件』新潮社〈新潮文庫〉、1999年3月。ISBN 4-10-128421-0。
- 奥泉光『『吾輩は猫である』殺人事件』(電子書籍)新潮社、2009年1月23日。ASIN B00CL6N1M0。http://www.shinchosha.co.jp/ebook/E640821/。