小説

嗤う淑女


題材:犯罪,



以下はWikipediaより引用

要約

『嗤う淑女』(わらうしゅくじょ)は、中山七里のミステリー小説。

『月刊ジェイ・ノベル』にて2014年1月号から10月号まで連載され、2015年1月31日に実業之日本社から単行本が発売された。単行本の装幀はwelle designの坂野公一と吉田友美が手掛け、タイトルとはあえて対照的に笑顔ではない女性の写真を採用し、顔や心の本性をなかなか見せない悪女のイメージが表現されている。

2017年12月5日には実業之日本社文庫が発売された。装幀は単行本と同じく坂野公一と吉田友美が担当し、単行本では没になった「大口を開けて嗤っている女性」の案を採用した。

今回、出版社から著者の中山へのリクエストは“イヤミス”で“悪女一代もの”だったが、ただの悪女なら他に書く作家はたくさんいるだろうと思い、蒲生美智留という悪女らしくない悪女=俯瞰したら悪女に違いないのに、騙された当事者達は誰も美智留のことを恨んでいない、読者にとっても最後に「がんばれ」と思えるような人物像を意識して創り上げた。「淑女」というタイトルはこれに由来するという。また、物語は各章ごとに主人公が変わり、複数の事件をその事件の当事者が語るという形式になっている。

あらすじ

平成4年。貧血で休みがちになってからクラスでいじめられていた野々宮恭子の運命は、母方の従姉妹・蒲生美智留が転校してきたことによって変わる。美智留は恭子に代わって自らがターゲットとなり、艶然と笑いながら陰でいじめの首謀者を見事にやりこめたのだ。さらに美智留は、再生不良性貧血で倒れた恭子の骨髄移植ドナーを自ら申し出る。そして移植は成功し、感謝と尊敬の念で美智留から片時も離れなくなった恭子はある日、美智留に自宅に招待され、美智留が実父の典雄から暴力と性的虐待を受けていることを知る。助けを求められた恭子は美智留と共謀し、自殺に見せかけて典雄を殺害する。

平成19年8月。父親の孝之と姉の恭子を撲殺したうえ、死体を家業の産業廃棄物業で使う大型焼却炉で焼いた野々宮弘樹が逮捕された。死体無き殺人事件の公判を維持するのに必要な状況証拠を確固たるものにするため現場に赴いた警視庁捜査一課の麻生班は、野々宮家の家族関係を明らかにし、事件当夜は残業で家におらず難を逃れた同居人・蒲生美智留から聞いた動機や血液のDNA鑑定を決め手に送検を決める。検察も弘樹に責任能力があることを認めたため、求刑通りの懲役20年という判決が下るだろうと思われ、結審する前に捜査本部は解散した。しかしそこに、1か月前に赤坂署から捜査一課に配属され、現在は桐島班に所属する高殿が気になることがあるとやってくる。平成17年に高殿が担当した事件…鷺沼紗代という銀行員が億単位の金を架空口座を使って横領したうえに駅のホームから身を投げて自殺した事件で、鷺沼のバッグから出てきた名刺に“蒲生美智留”の名前があり、横領された金も2億円以上がいまだ不明なのだという。気になった麻生警部は供述調書にあった美智留の住所や勤務先を調べさせるが、すでに美智留の存在は確認できなくなっていた。

しかし平成24年、名古屋港で起こった車の転落事件で再び事態は動く。この事件は妻の古巻佳恵が夫の登志雄に3億もの生命保険をかけたうえで、事故にみせかけて殺した容疑がかけられたのだが、容疑者の佳恵がまるで教祖を讃えるかのように、世話になっていたという生活プランナーの蒲生美智留の名前を出したのだ。佳恵を取り調べていた港署強行犯係の水元が警視庁のデータベースで美智留について調べたところ、名前はヒットしなかったものの、なぜその名前を照会したのかと警視庁の麻生から連絡が入る。

美智留を追い続けていた麻生は過去に美智留の父親が死んで自殺として処理されていたこともつきとめており、そして昨今の映像処理の進歩によって、鷺沼がホームに転落した映像においても、背後に美智留の存在を確認することができた。麻生は全国の県警に美智留の顔写真を流し、ついに麹町署で本人と対峙する。最初は涼しい顔をしていた美智留もホームの証拠映像写真には顔色を変え、弁護士を呼ぶ権利を主張。そしてやってきたのはなぜか、債務整理専門で刑事事件はほとんど経験がない宝来兼人弁護士だった。刑法第199条の殺人と第61条の教唆で起訴された美智留だったが、東京地裁公判第1回で公訴事実は否認し、宝来も無実を主張する。

登場人物
主要人物

蒲生 美智留(がもう みちる)

お嬢さん育ちだった母親・佳織(かおり)と父・典雄(のりお)の間に生まれる。しかし両親は典雄の会社が倒産すると口げんかが絶えず、「美智留は強く生きてください」と書置きを残して佳織は男と失踪してしまったため、平成4年(13歳)にあきる野市日の出町の築30年以上経過した古い団地に引っ越して典雄と2人で住むことになり、従姉妹の野々宮恭子と同じ中学に転校する。
目鼻立ちがはっきりした端正な顔立ちで、8頭身の完璧なモデル体型をしているが、右の額の生え際に近い部分に長さ5センチほどの痣がある。
都内の高校に進学し、大学卒業後は都内の保険会社に就職。在職中にファイナンシャルプランナー1級の資格を取得し、平成17年には生活プランナーとして生計を立てている。
野々宮 恭子(ののみや きょうこ)

第一章の主人公。美智留の従姉妹。美智留とは対照的に丸い顔に小さな目、寸胴で足も太く、お世辞にも可愛いとは言い難い。チャゲアスが好き。中学1年生の2学期ごろから貧血に悩まされ、たびたび学校を休むうちにクラスメイトからのいじめに遭うようになる。再生不良性貧血と診断され、治療法としては骨髄移植が有効と診断されるが、HLA型は父の孝之とも母の照枝とも弟の弘樹とも一致しなかったため一時は絶望するが、従姉妹である美智留の型が一致したため、移植により病気は完治する。それ以降美智留に傾倒するようになり、美智留の願いを聞き入れたり、美智留と同じ場所にラバーでできた偽物の傷をつけるようになる。
平成17年、美智留と組んで生活コンサルタントの仕事をしている。美智留の骨髄を移植されたことで美智留とは一心同体だという思いをさらに強めており、美智留に近づこうとする者には弟であろうと容赦しない言葉を投げつける。
野々宮 弘樹(ののみや ひろき)

第三章の主人公。恭子の弟。平成17年時で24歳。マスコミ関連を第一志望にして大学卒業までに89社も就職試験を受けたがどれも受からなかった。仕方なく家業の産業廃棄物処理を手伝っているが、それも満足にできないため両親や姉から蔑みを受け、鬱屈した思いを抱えている。
逮捕後、平成21年に懲役20年の実刑判決を受けて東京拘置所に服役するが、美智留の裁判には証人として出廷する。
麻生(あそう)

警視庁捜査一課の警部。班長。事件の背後にちらつく蒲生美智留を追いかける。
高殿(たかどの)

刑事。平成17年時は赤坂署に所属。平成19年には警視庁捜査一課(桐島班)に異動となる。平成17年の鷺沼紗代による横領事件と平成19年の野々宮弘樹による撲殺事件、両方の事件で“蒲生美智留”の名が出てくると麻生に進言する。
宝来 兼人(ほうらい かねと)

東京弁護士会所属の弁護士。かつては2人の社員弁護士と140人の事務員をかかえる〈HOURAI法律事務所〉だったが、最近は縮小を余儀なくされている。事務所は債務整理専門であり、ここ20年近くは刑事事件を担当したこともなかった。面識のない美智留に突然呼ばれたことに興味を抱き、会ってみると美女だったためこれは広告になるだろうと打算し、弁護することを快諾した。

その他

第一章


蒲生 典雄(がもう のりお)

美智留の父。長身で40がらみ。昔は会社を経営していたが、倒産して負債をかかえたため、返済するために家を売った。男と出て行った妻を憎み、それに似てきた美智留に「教育」と称して暴力と性的虐待をはたらく。
日坂 浩一(ひさか こういち)

神野美香と付き合っていながら美智留にデートを申し込み玉砕する。
神野 美香(じんの みか)

恭子と美智留のクラスの女子ボス的存在。最初は恭子をいじめていたが、浩一を振った美智留に自尊心を傷つけられ、ターゲットを美智留に変える。

第二章


鷺沼 紗代(さぎぬま さよ)

第二章の主人公。野々宮恭子の高校時代のクラスメイト。クラスの中では外見も十人並みで成績は中の上、陸上部では中の下だった。短大卒業後に帝都銀行に入行し、現在普通預金係として勤めている。住まいは築30年のアパートながら仕事のストレス発散にはじめたブランド買いがやめられず、毎月督促状が届く。
無教養で自立心のかけらもない母親とは元々仲が悪かったが、紗代の父親が交通事故で亡くなった後すぐ再婚したため、新しい父親を含め2人とは絶縁状態となっている。
翔(しょう)

紗代が通い始めたホストクラブのナンバー1ホスト。安手の韓流スターのような顔をしている。軽い言葉で話し、紗代とは身体の関係ももつ。
沖田(おきた)

紗代が務める帝都銀行の支店長代理。陰険な目で、男でありながら細かいことばかり注意してくるため、女性行員から嫌われている。

第三章


野々宮 孝之(ののみや たかゆき)

恭子と弘樹の父。5年前に会社からリストラ要員と言われ、割増の退職金を受け取ってそれを資金に産業廃棄物業を興したが、経営は厳しくいつ破綻するかわからない。言う通りに動かない弘樹に対し、容赦なく鉄拳をとばす。
野々宮 照枝(ののみや てるえ)

恭子と弘樹の母。弘樹に対し、父親の会社を継がせるつもりはないからさっさとハローワークでも通って職を見つけろと促す。
御厨(みくりや)

検視官。孝之や恭子の検視を担当する。

第四章


古巻 佳恵(ふるまき よしえ)

第四章の主人公。夫がリストラにあってからカジュアル衣料品の生産と販売の会社でパートとして働いている。名古屋市昭和区八事本町在住。夫のと登志雄とは結婚してちょうど20周年になる。
古巻 登志雄(ふるまき としお)

佳恵の夫。2年前まで自動車メーカーの営業部に20年勤めてそれなりの地位と収入があったが、リストラにあった。ハローワークにはいったものの求人票にあれこれ理由をつけて問い合わせすらしようとせず、ある日突然作家になると言い出し、書斎に閉じこもるようになった。
古巻 和美(ふるまき かずみ)

佳恵と登志雄の長女。リストラされた父親を嫌悪し、今や父娘の会話は完全にない。
古巻 聡美(ふるまき さとみ)

佳恵と登志雄の次女。中学生になったばかり。
亀谷 慶子(かめたに けいこ)

佳恵のパート仲間。夫は病気療養中で子供が2人いるなど境遇が似ているので、佳恵も家族の内情を打ち明けている。天性の快活さがある。佳恵に美智留を紹介する。
水元(みずもと)

名古屋の港署強行犯係の係長。麻生と同世代。古巻登志雄が亡くなった事故に不審な点があることに気づく。
高松(たかまつ)

港署刑事。水元の部下。

第五章


近藤(こんどう)

平成24年時で80歳過ぎの老人。現在は武蔵増戸の老人ホームにいるが、平成4年時は雇用促進住宅で蒲生家の隣に住んでいた。
立松 八尋(たてまつ やひろ)

裁判で宝来が対峙する検事。短髪で無愛想。ひたすら理論的に話をすすめるタイプ。
石原 輝久(いしはら てるひさ)

宝来が要請した弁護人側の証人。瓜実顔のひょろりとした優男。赤坂で形成外科病院を経営しており、美容整形を多いときは1日に10人ほど手がける。

書評

書評家の大矢博子は、「構造だけで見ると東野圭吾の『白夜行』に近いが、彼女のせいで犯罪者となった人々が誰も彼女を恨んでいないのがポイント。」「もやもやと爽快感が同居する、一風変わったノワールだ。」と述べた。また、今作にも著者の作品お決まりのどんでん返しや他の作品とのリンクがあると言及している。小学館の雑誌『きらら』のホームページ「WEBきらら」では「彼女の人に与える影響力の大きさと彼女が隠し通した悪意の根深さに呆然としました。なんて恐ろしいんだろう。そしてなんて面白いんでしょう。」という書店員の書評が掲載された。

オーディオブック
kikubon版

2015年12月16日にkikubonで配信開始された。朗読は浅井晴美。

audiobook.jp版

2019年12月16日にaudiobook.jpで配信開始された。朗読は桜木繭子、金澤杏梨子、井上侑子、千衣子、清水こうき、林重吾、榎本貴文、久場寿幸、西村不二人。

Audible版

2021年10月21日にAudibleで配信開始された。朗読は荒巻まりの。