天の血脈
以下はWikipediaより引用
要約
『天の血脈』(てんのけつみゃく)は、安彦良和による日本の漫画である。『月刊アフタヌーン』(講談社)2012年3月号から2016年11月号まで連載された。単行本はアフタヌーンKC(講談社)より2016年10月までに全8巻が刊行された。
作者が過去に手がけた『虹色のトロツキー』や『王道の狗』とならび「安彦近代史3部作」と称される。
概要
明治時代後期の日本と東アジアを舞台にした作品。日露戦争の開戦間際という緊迫した時代の中で翻弄される青年の姿が描かれるが、近代史だけでなく古代史にも焦点を当て歴史を捉え直そうと試みられている。作者の安彦は『月刊アフタヌーン』での連載は初となる。
作者の安彦によれば、これまで古代と近代を題材として作品を発表してきたが、いずれは双方をリンクさせた作品を描きたいとの希望があったという。また、近代史のテーマについては『虹色のトロツキー』と『王道の狗』の執筆により一つの区切りがついたとしつつ、いずれは二つの作品の中間点にあたる時代を描きたいとも語っていた。この作品において題材として選ばれた神功皇后(息長帯比売命)の時代と日露戦争の時代は共に外征の時代であり東アジア諸国が密接に関わるが、主人公・安積亮を介在して2本の軸が上手く絡み合えば自身が「歴史好き漫画家」として関わった仕事の集大成となるのではないか、としている。
作者の安彦は、2013年7月に行われた日本マンガ学会第13回大会ではアジアを題材として作品を発表している動機について「満州を巡る戦争は侵略ということで決着した筈だったが、古い写真を眺めるうちに、そこで営まれていた日常生活の中で人々は盲目的に権力を受け入れていたのか、と疑問が沸き起こった」と語っている。また、漫画として難しいテーマを描くことについては「漫画であるからと読者が許す鷹揚さが功を奏している」とも語っている。
ストーリー
作中では古代と近代を交錯させたストーリー形式がとられているが、本項では便宜的に「明治編」「古代編」の表記を用いる。
明治編
1904年(明治37年)、日本へ戻った安積は両親の計らいにより諏訪大社の巫女・森谷翠と祝言をあげるなど平穏な日々を送るが、同年2月8日に日露が交戦状態となり時代の流れは動き始める。安積は嬉田の下で古代史研究に携わり充実した学生生活を送る一方、満州で工作活動を行う花田仲之助や亡命中国人グループとも繋がりのある内田に翻弄される。一方、明治女学校に通うことになった翠は都会での新しい生活を満喫する一方、非戦論を唱える平民社の思想に感化されるなど少なからず影響を受ける。
1905年(明治38年)春、安積は帝大への進学が決まるが、恩師の嬉田は一高を去ることになり、別れ際に「日本の将来と歴史研究者の前途は厳しいものになる」と告げられる。戦争は日本の勝利という形で終結するが、民衆の間で講和条約に対する不満が高まり暴動が発生するなど重苦しい空気が漂う。
1906年(明治39年)、朝鮮には伊藤博文を初代統監とする統監府が設置され日本政府による実質的な統治が始まるが、かつて内田の下にいた柳斗星は義兵闘争に加わり反旗を翻す。一方、安積と翠は万世一系の歴史観を排する目的のため天皇家に対するテロを画策する宮川太一の陰謀に巻き込まれる。安積は警察に身柄を拘束され取り調べを受けるが、誤解は解け釈放されるも、実家では母が彼の不始末を苦に自殺をしていた。翠との東京の新居も引き払われ、打ちひしがれる安積だが、内田からの誘いを受けて満鉄調査部の研究員として妻の翠とともに再び大陸に渡ることを決意する。
1907年(明治40年)、満鉄調査部の一員となった安積は漢城で三国時代に築かれた王墓の発掘調査に携わり、大陸の古代国家と日本の皇室との結びつきを解き明かそうとする。一方、ハーグ密使事件に端を発した伊藤統監による内政干渉により市内は騒乱状態となり、こうした状況の中で安積は歴史を政治に利用しようと目論む内田と袂を別つことになる。
同年10月、韓国統監府付きの仕事を終えた安積は、翠とともに日本の租借地であり満鉄本社のある大連へと向かう。三韓征伐や応神朝の謎について漠然と疑問を抱えていた安積だが、恩師の嬉田と再会を果たすと、好太王のものと推定される王墓の発掘調査に参加することとなる。一方、ロシアの革命勢力の影響が日本へと波及し、皇室が危機にさらされることを危ぶむ明石元二郎は後輩の内田を呼び出し「併合はもはや既定事項だ。お前の火遊びで後世に災いを残してはならない」ときつく忠告する。明石の忠告を受け入れた内田は、嬉田に対して発掘調査を中止し全て埋め戻すように伝える。
内田に見限られた嬉田は意気消沈するが、安積は先祖のイサナの幻影に導かれ王墓の中で日朝両国のつながりを解くカギとなる「原七支刀」を発見する。安積や嬉田の一行は「原七支刀」を日本へと持ち帰ろうとするが、その道中で柳斗星やハナと再会を果たし、清と朝鮮の国境を抜けてウラジオストクへ向かうことになる。この動きを知った内田は、明石の配下の部隊を引き連れて安積や嬉田の一行を追いつめるが、そこへ清国軍陣地からの砲弾が降り注ぎ、安積は行方不明となるのだった。
古代編
ヤマト国の軍勢は新羅と高句麗を平定後に帰国し、息長帯比売命は筑紫で誉田別命を出産する。ヤマト国へと凱旋する軍勢に対して、幼子に皇位が決まることを恐れる麛坂王と忍熊王の軍勢が明石付近で迎え撃つが、安積は夢の中でイサナと出会い彼からその赤ん坊が自分の子供だと告げられる。
帯比売命の軍は忍熊王の軍を追撃して紀の国へ上陸する。イサナは誉田別命の出生の秘密を知る葛城襲津彦の襲撃に遭い重傷を負うが、紀の国の一帯が夜のような暗闇に包まれたことでかろうじて難を逃れると、安曇の枕元に立ち警告を与えるのだった。
エピローグ
登場人物
主要人物
安積亮
嬉田貞一
内田良平
森谷翠
明治女学校に通う女学生で、安曇の妻。安積と同じく長野県諏訪の出身で、実家は諏訪大社で神官を務める家系。世間知らずな箱入り娘の風体だが、古い因習に窮屈さを感じてキリスト教系の学校への進学を希望していた。幼馴染の安積との結婚を条件に進学が認められ東京での生活を始めるが、一方で平民社の唱える反戦思想に一時的に影響を受けることになり、アナキストの宮川太一から付きまとわれる羽目になる。その後、安積と共に大陸へ渡り、作品終盤では子供を身篭る。学生時代に田代から大陸での安積とハナの関係を聞かされて以来、彼女に対してわだかまりの感情を抱いていたが和解すると、生まれた娘に「ハナ」と名付けた。最終話では茜という玄孫が登場するが、翠と酷似した容姿をしている。
日本
一高、帝大の人々
手代木
田代鶴兵
内田の関係者
柳斗星
ハナ
明治女学校の人々
社会主義者、アナキスト
大杉栄
その他
伊藤博文
津田左右吉
清
張作霖
宋教仁
孫文
朝鮮
高宗
宋秉畯
ロシア
ニコライ2世
アレクサンドル・ベゾブラゾフ
古代編
主要人物
安曇のイサナ
その他
麛坂皇子
書誌情報
- 安彦良和『天の血脈』 講談社〈アフタヌーンKC〉全8巻
- 2012年8月23日発売 ISBN 978-4-06-387837-0
- 2013年4月23日発売 ISBN 978-4-06-387875-2
- 2013年11月23日発売 ISBN 978-4-06-387937-7
- 2014年7月23日発売 ISBN 978-4-06-387985-8
- 2015年2月23日発売 ISBN 978-4-06-388034-2
- 2015年8月21日発売 ISBN 978-4-06-388077-9
- 2016年3月23日発売 ISBN 978-4-06-388130-1
- 2016年10月21日発売 ISBN 978-4-06-388191-2
- 新版『天の血脈』全4巻、中央公論新社〈中公文庫〉、2021年8月-2022年1月
- 新版『天の血脈』全4巻、中央公論新社〈中公文庫〉、2021年8月-2022年1月