小説ウィザードリィ 隣り合わせの灰と青春
以下はWikipediaより引用
要約
『小説ウィザードリィ 隣り合わせの灰と青春』(しょうせつウィザードリィ となりあわせのはいとせいしゅん)はベニー松山による日本の小説。コンピュータRPGの古典的名作『ウィザードリィ』第1作である「狂王の試練場」を題材にしている。
概要
JICC出版局(現:宝島社)の『ファミコン必勝本』1988年 VOL.5 - VOL.22に連載され、加筆・修正されて1988年11月に同社より単行本が出版された。表紙イラストは末弥純、口絵は品川るみ。連載ならびに単行本の担当編集者は、後にゲームアナリストとして活動する平林久和。1998年12月に集英社スーパーファンタジー文庫に再録。こちらの表紙は緒方剛志。
コンピュータゲームのノベライズとしては最初期の作品。コメディ的な要素を廃し、シリアスな冒険世界が作り上げられている。
またゲーム本編の呪文体系、蘇生や転職などといったシステム面の実際的な解釈・考察を始め、「迷宮制覇が見えてきた猛者でも、グレーターデーモンと遭遇すると潰滅」「終盤になると中位呪文の使い道がなくて余る」「盗賊から転職した忍者が、以前なら見切っていた筈の罠に掛かる」「レベルは充分上がっているのに主要呪文を覚えない」「バンパイアロードは壊呪が弱点だが、自身もよくこの呪文を使う」などといった、ゲーム版のプレイヤーがしばしば遭遇する、極めてリアルなシチュエーションが数多く物語に組み込まれている。
著者のベニーは、本作の後の時代のリルガミンを舞台とする「リルガミンの遺産」を題材とする小説『小説ウィザードリィII 風よ。龍に届いているか』を著している。
ストーリー
戦に明け暮れる狂王トレボーが治める城塞都市。悪の魔術師ワードナはトレボーから絶対無敵の魔法障壁を作り出す「魔除け」を盗み出し、巨大な地下迷宮を築き、モンスターたちを召喚しそこに立てこもってしまった。トレボーは激怒し、軍隊を派遣するも、モンスターのうろつく狭いダンジョンでは軍隊が有効に機能せず、全滅。これに対し、トレボーの参謀・グレブナーグは、冒険者たちを募り、魔除けを奪還したものには多大な褒賞を与えるというお触れを出すことで、事態収拾を立案。これにより、トレボーの城塞には各地から戦士、盗賊、魔術師、僧侶など、様々な冒険者達が集うようになった。そして彼らは今日も迷宮へと向かっていく。
戦士スカルダも、そんな冒険者の一人であった。同じく戦士であるガディ、盗賊のジャバ、僧侶のベリアル、魔法使いのシルバー・サラの6人でパーティーを組み、魔除けを奪還すべく、迷宮の怪物達と戦い、さらに他のパーティーとの激しい競争を繰り広げていた。しかし、そんな最中、魔法使いのシルバーが戦闘で命を落とし、還らぬ人となってしまう。代わりに、全ての呪文をマスターした謎めいた魔法使い・バルカンを新たに仲間に加えるのだが、スカルダとは方向性の違いから対立してしまう。パーティの不和、他のパーティによる妨害工作、そして恐るべき迷宮の罠とモンスター達を切り抜けて、ついにワードナと対峙した彼らが知る真実とは……?
主な登場人物
善のパーティー
スカルダ
主人公。人間族の男性。
善(グッド)の戒律のレベル13の戦士であったが、シルバーを失った敗戦をきっかけに自分の力に限界を感じ、侍に転職する。
本作開始時点では、転職したばかりであるためレベルは1。
暦の上での年齢は18歳だが、上記の通り通常の転職を経験しているため、肉体的年齢は5歳分加算され、23 - 24歳となっている。
森の中に育ち、2年前、16歳のときにトレボー城塞に来て冒険者となる。
冒険者となって以降、ジャバとサラとは一貫してパーティを組んでいる。
本作での侍は原作とは違って、ただ魔法使いの呪文を使えると云うだけでなく、「気」を用いた様々な特殊技能を有する剣士、と云う位置付けを為されている。この「特殊技能」とは、具体的には、他者の動きの先読み、装甲度に関わりなく対象を両断する「気の刃」の生成・操作を指す。また、この「気の刃」は、習熟すれば射程はごく短いものの、遠い間合いにある敵すら斬ることができる。本作においては、この技を「居合い」と称する。スカルダはハ・キムのゾンビとの戦いで(無意識に)初めてこの技を使用した。
バルカン(ナックラーヴ)のゾンビとの戦いの後に妖刀「村正」を入手した。
続くグレーターデーモンたちとの戦いで、スカルダが転職するきっかけとなったグレーターデーモンを「居合い」で真っ二つにして本願を果たし、マイルフィックとの最終戦まで戦い抜いた。
エピローグではサラにプロポーズし、サラを連れて故郷の森に向かった。
ガディ
人間族の男性。中立(ニュートラル)のレベル13の戦士。
恵まれた体格を活かして、幼い頃から剣で生計を立ててきた古強者だが、性格は温和で、わりとのんびり屋。
グレーターデーモンに敗れたことはスカルダと同じく衝撃だったようだが、彼とは異なり、転職することなく戦士としての強さを追求し続ける道を選んだ。
放浪の旅の途中、偶然ゴグレグの兄と決闘する羽目になったのがきっかけで、1年前にトレボー城塞へ来て冒険者となり、以来スカルダたちとパーティを組んでいる。そして、マイルフィックとの最終戦まで戦い抜いた。
エピローグでは、一人でいずこかへ旅立っていった。その際、全ての「魔除け」がトレボーの手に渡らないように、その内の一つを持っていった。
ジャバ
ベリアル
サラ
シルバー
バルカン
悪(イビル)の戒律の魔法使い。レベルは不明だが、魔法使い系の全ての呪文を身に付けた、当節数少ない力量を備えた強者。
常にフードを被っており顔を見せず、黒いローブで全身を覆い隠している。
シルバーの穴を埋める臨時の助っ人として、ジャバがパーティに引き入れた。だが、「全ての呪文を身に付けた魔法使い」という力量だけを考え、戒律を含めた個人の性格を考慮せずにパーティに引き込んだため、戒律が相反するベリアルとスカルダ、とりわけスカルダとは徹底的に相性が合わず、事あるごとに衝突を招いていた。
その正体は、妖刀「村正」の現在の所有者にして、迷宮で戦死したはずのトレボー配下の悪の戒律の侍、ナックラーヴ。
レベルは明記されていないが、侍の身でありながら爆炎(TILTOWAIT)を3回行使できることから、最低でもレベル22以上の力量を持っていると思われる(ファミコン版Wizardry1において、侍がレベル7呪文を覚える機会を与えられるのがレベル22であることからの推察)。
善のパーティーがワードナに共感して「魔除け」を持ち帰らない場合を想定し、独自に「魔除け」を確保するようトレボーからの密命を受けて善のパーティーに潜入している。
ワードナの対転移呪文によって石の中に閉じ込められて死亡したが、グレブナーグの妖術によって、魂が自らの屍に宿るかたちで蘇生した。本人が自らを指して言う様に、「ゾンビに等しい」存在であり、最後は不死族にのみ有効な攻撃呪文・壊呪(ZILWAN)を、バンパイアロードによって浴びせかけられ消滅した。ベリアルが敵に唱えた解呪の射線に入った際に必死になって避けたことから、こちらも彼に致命的効果を及ぼすであろうことが推察される。
なお、バルカン(Valcan)の綴りを逆さにするとナックラーヴ(Naclav)になる。
悪のパーティー
ゴグレグ
ドワーフ族の男性。悪の戒律のレベル12の戦士。人間並みの身長を持つ(ドワーフ族としては)巨漢。
漆黒の肌と純白の歯を持つ。普段は無口で無愛想極まりないが、時折その歯を見せつつ、ニッと破顔するのがチャームポイント。
ある理由からガディをライバル視しており、マスターレベルに達した暁には彼と果し合いをする約定まで取り付けていた。
グレーターデーモンとの戦いでこの世と魔界を繋ぐ炎に飛び込んでしまい、そのまま魔界の環境に耐え切れずに死亡したと思われていた。しかし、マイルフィックとの最終戦において本体が魔界にあるマイルフィックの弱点である頭の突起物を傷つけてスカルダたちの危機を救った後、笑みを浮かべつつ魔界の炎に巻かれ、消えていった。
ハ・キム
アルハイム
人間族の男性。レベル12の僧侶。ベリアルの弟弟子であり、元々の戒律は同じく善だったが、彼と袂を分かって後、悪に転向した。
各地の呪術を取り入れた独自の強力な解呪(ディスペル)「紅雷浄化(ジー・ベイル)」を使う。
空刃(LORTO)を使用しながら、瀕死のスカルダに大治(DIALMA)しか使わなかったため、スカルダやサラの不信を買ったが、実はそれは快癒(MADI)を習得していなかったがための、彼の精一杯の虚勢であった。
パーティが壊滅した後、テレポーターの罠に巻き込まれてスカルダやサラと同地点に転移してしまう。以後はスカルダたちと行動を共にして、マイルフィックとの最終戦まで戦い抜いた。そして、ベリアルと力を合わせてラシャを蘇生した。
エピローグでは、ベリアルと共に放浪の旅に出た。
ルードラ
ラシャ
人間族の女性。中立のレベル12の盗賊。ジャバとは乳兄妹の関係に当たる。ジャバを追ってトレボー城塞へやって来たがジャバに追い返され、当てつけのように悪のパーティーに参加している。
ハ・キムたちが死亡した後、テレポーターの罠に巻き込まれてジャバやバルカンと同地点に転移してしまった。転移地点がある部屋でジャバに心情を打ち明け、城塞都市に戻るように説得され一度は承知するが、それでもジャバが心配でワードナの玄室まで歩いていき、ジャバたちと合流した。マイルフィックとの最終戦では、ジャバに襲いかかろうとしているマイルフィックの腕にいち早く気付き、ジャバを突き飛ばして自身が半実体化したマイルフィックの腕を喰らってしまい、心臓が停止して死亡する。しかし、ベリアルとアルハイムが協力し合って蘇生された。
エピローグでは、ジャバに連れられて故郷の村に戻った。
その他
ワードナ
トレボーから「魔除け」を奪い、魔物が潜む迷宮に立て篭もった大魔法使い。
「魔除け」の製作者。平和を望んで「魔除け」をトレボーの父王に託し、国家平定の助けとするが、父王の死後トレボーが「魔除け」を侵略戦争に使ったことを憂い、「魔除け」を奪った。「魔除け」奪還のために大勢が迷宮に挑むことで、己の肉体から強い力を引き出す者が増え、真の平和を築いていくことを願って悪役を演じている。
実は最初の討伐戦において、ナックラーヴと相討ちになり死亡しているが、生霊と化して「魔除け」に取り憑いて何度でも蘇り、「魔除け」を求める者と戦い続ける。これは、元となるゲームにおいて「魔除け」を所持していなければ何度でもワードナと戦えるという現象に対する本作独自の回答。彼の魂を安らかに眠らせる為、主人公達に依頼されたバンパイア・ロードにより「魔除け」ごと百に分割され(何故、彼が「魔除け」を操作できるかは、短編「不死王」参照)、次世代の冒険者により少しずつ昇魂されることになる。
バンパイアロード
老エルフ
ナックラーヴ
グレブナーグ
職業
戦士
盗賊
僧侶
魔法使い
侍
忍者
武具
武器
カシナートの剣
真っ二つの剣(ソードオブスラッシング)
ゴグレグとジャバが所持している。但し、ゴグレグのそれは通常品とは異なり、彼専用に改めて打ち直され、重さを倍に増す事で威力を倍加させた特注品。
村正
手裏剣
本作中でハ・キムは迷宮内の戦闘で死亡し、その屍はフラックに操られ、「手裏剣」を持ったままスカルダ達に襲い掛かる。ハ・キムはスカルダの「居合」とバルカンの「爆炎」(ティルト・ウェイト)を浴び、活動を停止するが、その後バンパイア・ロード(後のアドリアン)によってハ・キムの所持していた手裏剣は回収され、「小説ウィザードリィII 風よ。龍に届いているか」の時代に彼の手によって受け継がれ、ストーリーの重要アイテムとなる。その作中で描写されている、刀身に残る焼け跡の様な染みとは、上記の戦闘の名残である。
盗賊の短刀(ダガーオブシーブズ)
作中ジャバは「武器としては大したものじゃねえ」と評しているが、実際は、属性関係なしに使える盗賊用の武器としては、シナリオ#1中最強の威力を誇る逸品である。
防具
忍耐の兜(ヘルムオブハーディネス)
転移の兜(リングオブムーブメント)
呪文行使後は、呪文行使が不可能になるだけでなく、装甲度が低下し通常の兜と変わらなくなってしまう。
ガディとジャバが装備していたが、前者はグレーターデーモンとの初戦の際の緊急脱出時、後者はトレボーの寝室からの脱出時に、それぞれ呪文を使用してしまっている。
悪の鎧(アーマーオブイビル)
氷の鎖帷子(アーマーオブフレオン)
呪文
僧侶の呪文
静寂(モンティノ)
解毒(ラツモフィス)
恒光(ロミルワ)
大盾(マポーフィック)
大治(ディアルマ)
快癒(マディ)
空刃(ロルト)
還魂(カドルト)
死言(マリクト)
魔法使いの呪文
仮睡(カティノ)
小炎(ハリト)
暗霧(モーリス)
大炎(マハリト)
迅雷(モリト)
大凍(マダルト)
窒息(ラカニト)
壊呪(ジルワン)
爆炎(ティルトウェイト)
転移(マロール)
対転移(マピロ・マハマ・ディロマト)
地下迷宮の様相
地下1階
地下4階
地下10階
用語
トレボー城塞
カント寺院
消滅(ロスト)
冒険者
転職(クラスチェンジ)
転職の道場
ワードナの地下迷宮
魔除け
戒律
居合
解呪(ディスペル)
ダークゾーン
昇降機
魔法雲
約50年前にトレボー城塞上空に生じたことがある。これはワードナとハスターガルが「魔除け」を造ったときの魔法発動によるものであった。小説中でも同じくトレボー城塞上空に魔法雲が生じる場面がある。これはグレブナーグによるナックラーヴに対する「傀儡の術」を行っていることに因る。
魔界
転移の罠(テレポータ)
地下迷宮の住人
豚鬼(オーク)
アンデッドコボルド
奇襲者(ブッシュワッカー)
大蜘蛛(ヒュージスパイダー)
グレーターデーモン
フラック
吸血鬼(バンパイア)
魔法使い(メイジ)
キメラ
レイバーロード
書籍
- ベニー松山『小説ウィザードリィ 隣り合わせの灰と青春』JICC出版局、1988年、261頁、ISBN 4-88063-494-8
- ベニー松山『小説ウィザードリィ 隣り合わせの灰と青春』集英社スーパーファンタジー文庫、1998年、332頁、ISBN 4-08-613330-X
漫画
コミカライズ『魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春』が2022年12月23日より「コミックボーダー」(リイド社)にて連載されている。漫画を担当する稲田晃司が本作をコミカライズした作品である。ベニー松山は原作と監修としてクレジットされている。版権の問題から、原作ゲームに関わる固有名詞(施設・装備品・呪文など)は本作独自のものに変更されている。
- 『魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春』1(ボーダーコミックス)2023年10月31日発行
関連作品
以下に挙げるベニー松山の著作と共通の世界設定を持つ。
- 『ウィザードリィのすべて』(攻略本) ISBN 4-88063-603-7
- 『不死王』(『ウィザードリィ小説アンソロジー』 ISBN 4-7966-0172-4 所収、『風よ。龍に届いているか 下』 ISBN 4-7893-0121-4 所収)
- 『ウィザードリィCDドラマ1 〜ハースニール異聞〜』
- 『小説ウィザードリィII 風よ。龍に届いているか』 ISBN 4-7966-0831-1、ISBN 4-7893-0120-6、ISBN 4-7893-0121-4
- 『ウィザードリィ外伝II 黄泉の覇王』(画: 池上明子)全二巻 アスキーコミック (1994)