峠鬼
以下はWikipediaより引用
要約
『峠鬼』(とうげおに)は、鶴淵けんじによる日本の漫画作品。2018年4月、『ハルタ』(KADOKAWA)Vol.53の付属の小冊子『青騎士』にて1号から6号まで連載。『ハルタ』に移籍して、Vol.67から隔号で連載中。飛鳥時代を舞台にして、「古代神話にファンタジーやSFの視点」が加えられて描かれた鬼漫画。
あらすじ
山に神、峠に鬼がいたとされた時代。里の風習で神への生贄に選ばれた少女・妙は、旅の途上で里を訪れた道士・役小角、その弟子の鬼・善と謎めいた女性・後鬼と出会う。大神との邂逅や神器の持つ不可思議な力に巻き込まれたことで生贄となる危機を脱した彼女は小角の弟子となり、人知を超越した神々を巡る旅を共にすることを決意する。
主な登場人物
妙(みよ)
役小角(えんのおづの)
神と対話する力を持つ高名な行者。役行者(えんのぎょうじゃ)や役優婆塞(えんのうばそく)とも称される。弟子である善と妙を従え、倭国を旅しながら卓越した験力により各地で大神たちと渡り合う。
少年期に師匠・不来巳(こずみ)に付き従い、葛城山の神である一言主に仕えていた。利害の調整をせず無分別に嘆願者たちの願いを聞き入れる一言主に反発しているが、同時に恋心も抱いており、現在の旅の密かな動機にもなっている。
生駒山での峨嵋行(飢饉に苦しむ人々を見殺しにする精神修行)を命ぜられた際に鬼となった善と出会い、見捨てることができずに弟子として引き取った。苦しむ人を見捨てることのできない性格のために、たとえ自らの命を狙う人食いの鬼であっても救いの手を差し伸べようとする。
善(ぜん)/前鬼(ぜんき)
後鬼(ごき)
東宮(あずまのみや)
岡本宮にある御所に居を構える若い高僧。道昭の弟子であり役小角とは古くからの知り合い。仏僧でありながら多くの妻を娶るという女たらしで、耽美な振る舞いで妙をも狙う。小角から妙の身の安堵を依頼され、旅を諦めさせるために香炉・四眼香を用いて小角と善との旅の記憶を消し、宮中に入り自分の妻となる未来の幻覚を見せる。
親の分からない貴族の子として宮中に生まれ、兄と称する貴族の男に目をかけられて育てられるが、老齢となり政争に明け暮れて疑心暗鬼となった兄に自らの地位を簒奪しようとしているとの疑いをかけられ、潔白を証明するために朝廷での地位を捨てて出家し、現在に至っている。
作中では朝廷が近江派と飛鳥派とに分裂しており、飛鳥派によって彼が次の大王(天皇)として擁立されているとの描写があるほか、東宮が大海人皇子(後の天武天皇)であり、彼を育てた「兄」は現在皇位に就いていることから天智天皇である可能性がある。
道昭(どうしょう)
役白専(えんのしらと)
不来巳(こずみ)
役小角の師匠である仙人。朝廷の政に大きな影響力を有する三世上人の一人。小角からは「老師」と呼ばれている。小角が幼少期の頃から仙人になるために厳しい教育を施しており、その過程で一言主に仕えさせた。最後の試練として生駒山の善の住む里で意図的に飢饉を発生させ、そこで小角に峨嵋行を命ずるが、小角が善を連れて修行を放棄したことで行方を眩ませられる。
峨嵋行の失敗から年月が経ち、無人となった葛城山で小角と再会した時には第三の目が開眼しており、峨嵋行のために里を壊滅させたことを知って激昂した善によって頭部を潰されるが、これを物ともせず肉体を再生させたほか、巨鳥に変化する能力など仙人の域に達していた。長年にわたり手塩にかけてきた小角を偉大な仙人とすることに執着しており、これを拒否した彼を従わせるために障害となる妙や善を殺害しようとする。
小角に対して峨嵋行の失敗や修行からの逃亡を一切咎めず、昇仙するまで何度でも峨嵋行の環境を作ろうとしたり、とある事情から森で遭遇した妙から唐突に弟子入りを申し込まれた際には、見込みはないとしつつも弟子入りを許したりするなど常人離れした思考を持ちながら面倒見は良い。
辛国(からくに)
義学(ぎがく)
鬼が住まう出雲の秘境「歩(あよ)の里」を統べる人間の男性。鬼たちからは「カシラ」と呼ばれており、義玄とは夫婦。栄養失調により身体が衰弱していたが、小角の治療により回復する。
元々は敬虔な仏教徒であり、出雲の豪族に「歩の鬼」退治を依頼され、魔の権化である鬼と相見えることで逆説的に仏の存在を確信できるとの考えから嬉々として鬼の元へ向かうが、義玄をはじめとする鬼たちによって簡単に捕縛されてしまう。しかし、悪鬼であるはずの彼女らに殺されるどころか危害すら加えられずに見逃されたことから、鬼たちが世間で言われるような憎むべき存在ではないと考えるようになり、鬼に対する理解を深めるために里へ住み始めた。
里に入る際に鬼たちから信頼を得るために自らの左目を短刀で突き刺して、彼らと同じように片目を失った。鬼たちに略奪や人食いを止めさせるために、農耕や狩猟を教えることで文明的な社会を築き上げたことで鬼たちから感謝され、頭領として祭り上げられた。
「鬼とは何か」を探求しており、その過程で人間以外の動物は鬼にならないことを発見している。
なお、「義学」は実際の役小角伝承における前鬼(小角に仕えた男の鬼)の別名でもある。
義玄(ぎげん)
「歩の里」に住む女性の鬼。腕っぷしの利く男勝りな性格で里の鬼からは「アネゴ(姉御)」と呼ばれる。義学とは夫婦であり、一児の母でもある。
かつて鍛冶を生業としていた集団の一人であり、冶金の火花により左目を失っている。戦乱により故郷を追われ、生活の途を失ったことで山中をさまよう流民となり、その途上で行き倒れた仲間の肉を食らったことで角を持つ鬼となった。
里の近くを旅していた小角らを鬼退治の一行と勘違いして捕らえるが、誤解が解け、小角が医術に通じていることを知ると義学の治療を懇願した。
夫との間にできた幼い子には鬼の角が無いが、「こんなものないに越したことはない」と角の有無に関わらず溺愛している。
「義学」と同様に「義玄」は後鬼(小角に仕えた女の鬼)の異名である。
登場する神々
一言主(ひとことぬし)/葛城の神
小角が青年となった頃に病に伏したことで祠の奥深くに引き籠って以来、嘆願を聞くことができなくなった。願いを聞き入れられないことに業を煮やした権力者の一人が一言主を我が物にするため葛城山を襲撃し、霞衆の多くが無残に殺害されたことに悲しみ、「誰の顔も二度と見たくない」として姿を消す。
前述の事件後、長い間行方が分からなくなっていたが、月面上に社を移していたことが明らかとなる。月面にいる頃には病により全身が黒い痣のような文様で覆われており、葛城山から運んできた泉の水に浸かっている間だけ文様が消える。
妟尹石(あんいんせき)/アンイグンスク
彼の持つ神器『四眼香』はその香りを嗅いだ者が見たい夢を見せることができるとされているが、実際には夢ではなく使用者を平行世界へ転移させる香炉であり、東宮が妙に使用した際には妙が東宮に娶られ、その後の戦乱により妙が殺された世界が作り出された。
切風孫命神(きつぷうそんのみことのかみ)/キップソン
『環蛇の鏡』と呼ばれる時空を超越することのできる神器を操る。
早天羅比売神(さでらのひめのかみ)
良縁悪縁問わず、如何なる相手でも縁を結ぶことのできる神器『天蚕赤糸(てんさんあかいと)』を持つ。
日吉尾比古(ひえのおびこ)
間子/アイノコ様
男子高校生の本名は不明だが、彼がコーラを飲む様子を見た参拝者たちからは「墨を飲む者」と呼ばれている。
出雲において神々の集いが催された際には幼女の姿で現れた。
能美火神(のみのほのかみ)
妙の説得と奮闘により、自分の愚行を恥じ、最後の力で村人たちを元の大きさに戻して自ら社を破壊した。
穂生惧主(ほのきぐぬし)
時折、「いとガッデム」や「グッネス」など時代にそぐわず英語交じりに話す。神使はチンアナゴ。
天仙(てんせん)
その正体は宇宙から落ちてきた地球外の知的生命体の幼体。声を用いた言語コミュニケーションではなく、テレパシーのように直接脳に語り掛ける形で意思疎通を図る。地上の神々とは異なる存在であり、迎えに空から現れた母親と思しき存在は人間を「まだ智の浅い種族」と称し、穂生惧主や小角さえも対処に苦悩した天の大井戸を飲み込んで処理してしまう。
大国主(おおくにぬし)/オウォナムティ
かつて地上に葦原中国を造り、倭国の基礎を築いたが国譲りにおける天津神らとの戦いの末、葦原中国を天津神に明け渡すと引き換えに、彼らの子孫である人間たちの繁栄と戦いで倒れた神々への弔意、生き残った国津神らの安堵を約束させた。
一言主を求める小角に対し、月夜見命の助力を得るために天津神への貸し証文を授ける。
月夜見命(つくよみのみこと)
真澄鏡を神器とし、月と月が映った海面、そして各地に散らばった鏡を行き来することができる。
国津神とは異なる強大な神通力を持っているが、天津神をも超越する何者かによって特定の事柄を口にすることを封じる呪(しゅ)をかけられており、人を食らった鬼に生える角の意味を小角が問うた際には話す前に人間態が崩壊し、月夜見命を縛る上位の存在を示唆した。
書誌情報
- 鶴淵けんじ『峠鬼』KADOKAWA〈ハルタコミックス〉、既刊6巻(2023年4月14日現在)
- 2019年8月10日発売、ISBN 978-4-04-735614-6
- 2019年8月10日発売、ISBN 978-4-04-735748-8
- 2020年8月12日発売、ISBN 978-4-04-736103-4
- 2021年4月15日発売、ISBN 978-4-04-736614-5
- 2022年3月15日発売、ISBN 978-4-04-736761-6
- 2023年4月14日発売、ISBN 978-4-04-737176-7