敵は海賊
以下はWikipediaより引用
要約
『敵は海賊』(てきはかいぞく)は、『S-Fマガジン』1981年4月号に掲載された神林長平のSF小説。また、その続編を含めて構成されるシリーズ作品。
概要
ハードな作風の著者においては異色ともいえる本シリーズだが、基本的考察はそのままに緻密な世界観とユーモア溢れる作風、独特の文体で描かれている。火浦功にはメタバタ(メタフィジカル・ドタバタ)と評された。『猫たちの饗宴』は「敵は海賊〜猫たちの饗宴〜」として1989年にアニメ化されている。
2013年現在、ハヤカワ文庫における単行本として長編8作品、短編集1作品が刊行されており、初期短編集『狐と踊れ』にはシリーズの元になった短編「敵は海賊」が収録されている(後に『敵は海賊・短篇版』に再録)。
また、『S-Fマガジン』誌上に著者自身の手による『戦闘妖精・雪風』とのコラボレーション作「被書空間」、および外伝的な短編「わが名はジュティ、文句あるか」が掲載された(どちらも後に『敵は海賊・短篇版』に収録)。
シリーズ作品の多くは、「敵は海賊」世界における現実の海賊課(対海賊課)や海賊匋冥を題材にしてその世界の住人ないしは著述AIが執筆・出版したもの(複数の作者による競作)、という体裁で書かれており、その設定は各巻頭のコピーライト表記等に見ることができる。そのため各話は独立した、相互にパラレルワールドの関係であり、緩い意味での続編になっている。
その性質上、ある巻で提示された設定や起こった事象が続刊においても同様であるとは限らない。
世界観
宇宙への入植が進んだ未来。火星や土星の衛星タイタンにも人が住み、他星系の人間・生物とも共存している。人類の活動範囲の拡大に従い凶悪な星間犯罪も増加しており、それら犯罪者は「海賊」と呼ばれていた。それに対抗するための治安組織として存在するのが広域宇宙警察・対宇宙海賊課、通称「海賊課」である。海賊課は一部署でありながら強制捜査権を有する超法規的機関である。各刑事は「インターセプター」と呼ばれる装置を身につけ、あらゆる組織のコンピューターへの介入が許可されており、海賊の即時射殺も認められている。しかしながら「海賊を殲滅するためならなんでもあり」的な行動から一般に被害を及ぼすことも少なくなく、時に"政府公認の海賊"などと呼ばれ海賊と同一視されるなど市民や軍からは嫌われている。
物語は太陽圏の海賊課に所属するラテルチームと、伝説の海賊王・匋冥(ヨウメイ)を中心に展開する。
主要登場人物
海賊課
ラウル・ラテル・サトル
海賊課一級刑事。ラテルチームの長。大型の大出力レイガン(熱線銃)を片手で操り、射撃の腕は海賊課随一。匋冥と撃ち合って生きて還った唯一の男。家族を海賊に殺されており、そのため海賊の殲滅に執念を燃やす。過去にモーナという名の恋人がいて、本気で愛していたのだが、海賊であることが判明したために殺している。以降の女性関係は、交際しては振られることを繰り返しており、その振られ癖は課内では有名。それでも挫けず女性は積極的に口説いていくスタイル。ほとんど無趣味で、空き時間に自室でやることと言えばレイガンの分解掃除程度。海賊退治が仕事であり趣味であり生活そのもの、という生き方をしている。「敵は海賊。一匹残らず撃ち殺してやる」を標榜しているが、一方で『正義の眼』では「殺してしまったらそれは失敗」と語る一面も。
その来歴について『海賊課の一日』によれば、宇宙を放浪しながら交易をする宇宙キャラバンのひとつラウル・キャラバンで育つが、5歳の頃そのキャラバンが海賊に襲われ一人生き延びている。祖父の先祖が伝説的な冒険家ラテル・コンパレンであったことから、その名にあやかりラウル・ラテルと名づけられ、キャラバン全滅の際自分を庇って死んだ兄サトルの名前をもらい今の名となった。キャラバン亡き後は、祖父の生家でもある地球の名門コンパレン家に引き取られており、一時はコンパレン姓を名乗っていたが、現在は縁を切っている。
なおラテルチームは海賊課で最も優秀であり、かつ最も損害請求の多いチームである。
アプロ
海賊課一級刑事。ラテルチーム所属の黒猫型異星人。大きな黒猫もしくは小型の黒豹と評される外見で、瞳の色はエメラルドグリーン。口は耳まで裂ける。海賊課内でも最強の殺傷能力を持つ金の首輪型インターセプターをつけており、"感情凍結"の能力を持つ。また、臭いで海賊かどうかを嗅ぎ分ける特技を持っている。
変わり者揃いのラテルチームの中でも、輪をかけて常識外れのトラブルメイカー。倫理観に欠ける言動と嗜虐的な性質で、関わる者をたびたびヒステリックにさせる。その被害者はもっぱらラテルとラジェンドラであり、2人からは基本的に嫌われているが意に介さない。大食漢で口に入るものならなんでも食べてしまうが、一番の好物は海賊。普段の食欲は殺戮欲求の代替とも。肉より魂や意識を食べるといわれる。そうしたもの除けば、酒とケーキやチョコレートが好物。よく得体のしれないお菓子を食べており、その中には人間が食べてはいけないような危険なものもあるが、お構いなしに人間に勧めてくる。アプロの種族には性が6種類あり、アプロの性別は、中間性の1つだという。故郷の星に帰ったら王様になって王妃に食われなくてはいけないらしい。
感情凍結
感情凍結
ラジェンドラ
海賊課所属の対コンピューターフリゲート艦。またはそれに搭載されているA級知性体。ラテルチーム所属。ラテル、アプロの部下。超高度知性体のため感情を持っており、男性の声で話す。自らの素晴らしさを自慢するのが生きがい。アプロとは仲が悪く、何かと口喧嘩が絶えず、時にヒステリックな行動にでることも。通常兵装の他、"CDS"と呼ばれる発射した範囲に存在するすべての光電子回路を搭載したコンピュータを破壊する兵器を備えている。ラジェンドラの誇る強力な電子兵器であるが、精密照準に時間がかかるのが欠点。照準なしで放射すると当然味方や一般の機器にも被害が及ぶ。
全長約300m(『海賊の敵』では400m超)、外見は鏃(やじり)型、船体色は黒。
チーフ・バスター(本名 ケンドレッド・バスター・メイム)
海賊課チーフ。有能だが、ラテルチームの出す巨大な損害に気苦労が絶えず、強力な胃薬を常用している。デジタルデータは信用せず、報告書は電動でさえない機械式のタイプライターで打ち出された紙媒体で提出させる。彼の海賊課の運営方針は「親しまれる海賊課」「親睦第一主義」。ともすれば弱腰な姿勢にも聞こえるが、あくまで海賊退治を円滑に行うための戦略のひとつであり、その熱意はラテルにも劣らない。『不敵な休暇』によれば彼のインターセプターは機械時計に組み込まれている。これは傍目には旧式の時計にしか見えないもので、刑事たちが用いるような強力な自動攻撃機能はない。基地内での草花や野菜の栽培が趣味。
チーフになるより以前に、ラジェンドラ製造を指揮しその教育を担った人物で、ラジェンドラにとっては生みの親であると同時に育ての親であり一番の理解者であるとして高く評価されている。またラテルを一級刑事に叩き上げたのもチーフになる前の当時ベテラン刑事だったバスターであり、ラテルチームの言動に頭を痛める一方で、ラテルに対し父親のような視点でその私生活を心配する一面もある。2度離婚しており、最初の妻ドルカスとの間に2人の息子と、2人目の妻ミルドレッドとの間に娘アリシアがいるが、いずれとも別居している(子供たちは皆ドルカスが彼女の宇宙キャラバンで育てた)。現在は海賊課の医務室勤務の女医サンディと恋仲。
『猫たちの饗宴』のみ、名前がケンドル・バスター・メイムになっている。
マーシャ・M・マクレガー
セレスタン・エアカーン
海賊課一級刑事。薄く青みがかった灰色の瞳で金髪、長身で体格も良く威圧的な風貌の持ち主。性格は、見かけとは裏腹に(海賊課刑事としては)おっとりしている方で、冗談と無駄口・愚痴が得意。火薬発射式で反動のある拳銃を愛用し、その射撃の腕はラテルが素直に感心する程。エクサスという名の相棒(ある程度の人工知能と駆動システムを持った装甲服。姿勢制御プログラムはラジェンドラが作った)を持っている。特殊なカラーリングセンスを持っており、エクサスについてはベイビーピンクに塗装しろと注文を付けた。海賊課刑事の中でも一、二を争うお調子者で、アプロが海賊課に来るまでは一番食い物に意地汚いやつと言われていた。
地球の寒冷地方の生まれで火星育ち。アプロがラテルチームに参加する以前にラテル・ラジェンドラと共にチームを組んでいた時期があるが、ラジェンドラとうまくやることができずにチームから独立しており、今でもラジェンドラのことを快く思っていない。
アセルテジオ・モンターク(スフィンクス)
海賊
匋冥(ヨウメイ)(匋冥・シャローム・ツザッキィ)
太陽圏の海賊の頂点に立つ男。澄んだ青い瞳(『海賊版』では黒い瞳)の極めて整った顔立ちで、年齢不詳だが、不惑は越えていない・壮年という印象を与えている。伝説化されており、海賊たちでさえ実在を知っている者はほとんどいない。その存在を知られずとも表の世界と裏の世界を思い通りに操れる、太陽圏の影の支配者と言えるほどの絶大な力を持つ。その彼が唯一思い通りにならないのが海賊課である。無用な争いを好まず普段はカーリー・ドゥルガーで宇宙を放浪しているが、邪魔をするものや自らを縛ろうとするものは容赦なく抹殺する冷徹な男。自分以上の支配者を許さないという性質から新たな脅威に敏感で、結果として太陽圏を守る形になることもしばしば。フリーザーと呼ばれる冷凍粉砕銃を愛用し、政財界の重鎮ヨーム・ツザキという表の顔も持つ。自らの良心を切り離した存在である白猫クラーラがいる。サベイジにあるバー"軍神"を懇意にしており、瞳と同じ色の火星産ブルーウィスキーを飲みながら、カルマに自身の活躍を虚実交えて語り聞かせるのを楽しみにしている。
『海賊版』の冒頭で著述AIによってDEHUMANIZE(非人間化)されており、続刊においてもその能力は人間の枠に収まらない。
ラック・ジュビリー(シュリス・シュフィール)
青白い肌を持つランサス星系人。ゴリラを人間の顔に成形しようとして失敗したような(匋冥曰く、ゴリラがくしゃみしたような)顔の大男。かつてランサス・フィラール女王の近衛兵シャドルーの隊長だったが謀略によって追われ、太陽圏で海賊になった。現在は匋冥と行動を共にしており、危ういながらも友人関係に近いものを築いている。ランサス圏では「裏切りシュフィール」として有名。「ラック・ジュビリー」は匋冥が与えた名で、意味は"いま生きていられる運命を、歓喜と、そして特赦を受けたものとして、決して忘れるな"。実家は王室御用達のシュル酒(フィラール産のシュルの実から作るワインに似た酒)の醸造元の家系で、自らもカーリーの一角を使ってシュル酒作りをするのを趣味にしている。
カーリー・ドゥルガー
匋冥の乗る海賊船。またはそれに搭載されているA級知性体。もともとは太陽系連合宇宙海軍が最強の艦として建造した攻撃型宇宙空母だが、建造自体が匋冥の計画であった。完成後"予定通り"匋冥のものとなる(記録上は処女航海で自沈したことになっている)。その強大なパワーは主砲の一斉射で太陽すらも破壊できると言われ、連続Ωドライブなどその能力は他の艦船の追随を許さない。外装は可視光線、電波、赤外線その他の電磁波の反射、放射を完全になくすことが出来るため、目視はおろかレーダーにも感知できない。その巨体ゆえ機動性に欠けるのが数少ない欠点で、それを補うためにガルーダというラジェンドラとほぼ同級の戦闘艦を内蔵していたが『海賊版』でラジェンドラのCDS攻撃により撃沈されている。その他にナーガという航空機を運用している。その姿を見て生きて還ったものはほとんどいないため、匋冥同様伝説化されている。知性体はラジェンドラと同様に感情を持っており、女性の声で話す。名前の由来はインド神話における破壊と殺戮の女神、カーリーとドゥルガーから。全長約1.6km、船体色は黒。
カルマ
ベスタ・シカゴ
その他
シャルファフィン・シャルファフィア
アクセル・B・ペトロア
主要な設定・地名
インターセプター
高速言語
Ωドライブ(オメガドライブ)
また空間に復帰する際、その空間に何らかの物質があった場合は復帰した側が既存の側の物質を「押しのける」という特徴があるため、これを利用して敵戦艦と同じ座標にドライブをし、相手艦の一部を弾き飛ばして破壊するという戦法(Ωアタック)が存在し、ラジェンドラが得意としている。双方が連続ドライブ可能な艦であった場合、空間座標とタイミングの読みあいになって互いにドライブを繰り返すことになる。
オメガドライブを利用したミサイル兵装等も存在する。
太陽圏標準年
ダイモス基地
ダイモス基地の時計は太陽圏標準時間に準拠しており、火星時間や基地自体の昼夜とは関係しない。とはいえ、仕事は24時間体制で夜時間だからといって基地が眠ることはない。
火星
ラカート
サベイジ
テンデイズビル
アモルマトレイ
短編「敵は海賊」の舞台であり、リジー・レジナの故郷。
タイタン
メカルーク
ユーロパ/エウロパ
一般的にはどちらも同じ木星の第2衛星を指す名前であるが、本作品における両者の関係は不明。
ランサス星系
フィラール
ランサス星系人
また、ノワール・ロブチが自らを「太陽圏人とフィラール人とのハイブリッド」と称しており、二種間の交雑が可能なことを窺わせる。
書籍情報
長編
短編集
関連作品
- 『敵は海賊・海賊版』- 1987年。ビクター音楽産業から発売されたパソコンゲーム。開発はホット・ビィ。
- 『敵は海賊〜猫たちの饗宴〜』 - 1989年。『敵は海賊・猫たちの饗宴』のアニメ化作品(2003年DVD化)。
- 『かくも無数の悲鳴』 - 神林長平による短編小説。広域宇宙警察が名称のみ登場する。初出は『NOVA2 書き下ろし日本SFコレクション』(2010年7月 ISBN 4309410278)で、『いま集合的無意識を、』(2012年3月 ISBN 4150310610)にも収録。
- 『神林長平トリビュート』 - 2009年11月。神林長平作品の書き下ろしアンソロジー(ISBN 4152090839)。虚淵玄による『敵は海賊』が収録されている。