新九郎、奔る!
漫画
作者:ゆうきまさみ,
出版社:小学館,
掲載誌:月刊!スピリッツ,週刊ビッグコミックスピリッツ,
レーベル:ビッグコミックススペシャル,
巻数:既刊15巻,
以下はWikipediaより引用
要約
『新九郎、奔る!』(しんくろう、はしる)は、ゆうきまさみによる日本の歴史漫画。
『月刊!スピリッツ』(小学館)にて、2018年3月号(2018年1月27日発売)から2019年12月号(2019年10月27日発売)まで連載された後、『週刊ビッグコミックスピリッツ』(同社刊)へ移籍して、2020年7号から隔週で連載中。
室町時代から戦国時代前期の人物で、後世「北条早雲」の名で知られる伊勢新九郎盛時を主人公とし、「一介の素浪人からのし上がり下克上で伊豆国、相模国を奪った悪知恵に長じた英雄」という従来の北条早雲像とは異なり、室町幕府の体制と共に生きる「名門伊勢家の一員」として育ち、応仁の乱などを通して自身の理想との矛盾に葛藤しながら、やがて戦国大名へと転身していくその生涯を描く。
概要
著者のゆうきは、伊勢新九郎盛時を題材とした漫画について昔から執筆の意図があり、2016年頃から資料を集めていたという。その構想を練る中で、新九郎について過去に抱いていたイメージが塗り替えられ、新九郎の少年時代から物語を始めるしかないと決意したとしている。
また、2022年のインタビューでは、物語の根底にある考え方として、応仁の乱などの戦乱も「自分が生き延びるための最適解を(それぞれが)一生懸命に求めた末に起こった」「誰もが悪人や愚か者になりえる時代だったはず」とし、「主人公を持ち上げるための(一方的な)愚か者や悪人は描かない」「現代社会が新九郎の生きた室町時代と変わらない」としている。
歴史を題材とした作品では、史実として諸説ある人物・出来事をどのように表現するか作品により大きく異なるが、本作品では基本的に近年の歴史学で主流となっている説を採用しつつ、物語を作るに足りない部分に創作を導入し、そのための考証協力者には中世史家の本郷和人、黒田基樹がクレジットされるなど本格的な歴史描写に取り組んだ作品となってている。
一方で軽妙なギャグ表現も多数描かれ、「(装備品の)最新モデルのカタログ」「同人誌」 「JR西日本のチケット」といった当時存在しない現代用語を用いて笑いを取るような表現も、歴史作品としてのストーリーを崩さない程度に抑えてではあるがなされている。
作中の設定
主人公である北条早雲こと伊勢新九郎盛時は出自・生年について諸説ある人物であるが、本作品では近年の歴史学で主流となっている伊勢氏支流・備中伊勢家の出自で康正2年(1456年)生まれの享年64歳説(応仁の乱開戦時に12歳、伊豆国・堀越御所討入時に38歳)を採用している。
この説に従い、父は室町幕府官僚で幕府申次衆の伊勢盛定とするが、母はこの説の盛定正室(伊勢宗家当主・伊勢貞国の娘)ではなく、『北条五代記』に準じ盛定の側室で尾張国国衆・横井掃部助の娘を生母とする。
また新九郎の生誕の地は父の所領がある備中国荏原郷ではなく、将軍に直接仕える父とその一家が暮らす京都とし、少年期に傅(もり)役・乳母夫の大道寺右馬助が代官を務める山城国宇治で育ち、元服後に父の名代として荏原に下向したとして話を構成している。
本作品では、登場人物が呼称される場合には「実名を呼ばない」という当時の慣習に従い、朝廷の官途名・受領名(伊勢守、備前守、掃部助、新左衛門尉など)、幕府の役職名(御所、公方、関東管領など)、仮名(新九郎、太郎など)等で呼ばれるが、実名の読み仮名をルビを振り表記されることが多い。一例では今川義忠は今川家家臣からは大名家当主と意味する「御屋形様」、幕府や他家からは官途名・受領名で「治部大輔(殿)」「上総介(殿)」と吹出しの台詞として書かれるが、これに「よしただ」というルビを振って表記される。
あらすじ
時は明応2年(1493年)、伊豆国・堀越御所に手勢を率いて討ち入る1人の男がいた。その名は伊勢新九郎盛時。室町幕府奉公衆として、幕命により足利茶々丸の首を獲りに来た38歳の新九郎だが、その心中では1つの決意を固めていた。「明日から、俺の主は俺だ!」
応仁の乱 編(第1〜3集)
遡ること27年前、文正元年(1466年)8月。山城国宇治の館で育てられていた当年11歳の伊勢千代丸(のちの伊勢新九郎盛時)は、元服に向け京の都へと戻り、伊勢一門の宗家・伊勢伊勢守家の邸に住む父・盛定の一家・伊勢備前守家と暮らすことになる。
文正の政変により、伊勢一門の宗家当主・伊勢貞親と盛定が近江国へ逃亡したことから、伊勢貞宗が伊勢伊勢守家当主を継ぎ、諸大名との関係の改善を図りつつ政務をこなすことになる。その中で千代丸も、幕府重鎮の大名・細川勝元、山名宗全らから知遇を得る。
やがて、応仁の乱で京都を東西に二分する戦火の最中、千代丸は12歳で元服し、名も伊勢新九郎盛時と改める。将軍・足利義政の弟・足利義視に仕えていた新九郎の兄・八郎が、伊勢一門により謀反人として討ち取られる。兄が亡くなり新九郎が次期後継者の筆頭となるが、兄を救えなかった自身の無力をなげく新九郎は、家臣たちに「どうか立派な主になってください」と懇願され、理想の主となることを誓う。
領地経営 編(第4〜7集)
文明3年(1471年)、16歳になった新九郎は盛定の名代として、領地問題を抱える所領の「備中荏原郷」へと向かう。この地は新九郎らの伊勢備前守家と伊勢掃部助家で分割統治していたが、近年は掃部助家が支配力を強めており、備前守家の年貢は大幅に減収していた。問題解決のために奔走し、盛景の子で従兄にあたる盛頼、掃部助家に服従しない那須家の弦姫らと関わる中で、新九郎は成長していく。
そんな折、「将軍交代を謀った裏工作」が露見したことで貞親が出奔したことから、父の盛定は出家して、新九郎が伊勢備前守家当主となる。領地問題も一旦落着したさなか、密かに思いを寄せていた弦姫が盛頼に嫁ぐことが決まり、新九郎の初恋は泡と消えてしまう。
京では流行り病が頻発し、義母の須磨も亡くなり、その影響で父も鬱病になって新九郎が職務を代行することになる。文明5年、18歳になった新九郎のもとに、応仁の乱のきっかけになった「伊勢貞親」「山名宗全」「細川勝元」たちが死去した……との報せが次々と届き、世代交代の波が押し寄せる。
駿河騒乱 編(第7〜10集)
新九郎の姉・伊都の嫁ぎ先である駿河の今川家にて、伊都の夫・今川義忠が暴挙ともいえる戦を起こして乱戦で亡くなり、家の存続のため家督争いが生じる。姉と甥たちを救うため、「幕府の調停役」として新九郎は駿河へと旅立つ。
まだ幼い今川家の嫡男・龍王丸の対抗馬として、反対勢力が担ぎだしたのは今川新五郎範満。彼らは、「関東きっての戦上手」とされる相模守護の家宰・太田資長(道灌)を引き入れ、新九郎は道灌と交渉を行うことになる。キレ者の道灌の掌の上で転がされながらも、双方の妥協点として「新五郎を当主代行とする」ことに決まり、伊都と龍王丸たちは伊勢家へと戻ることになり、血を見ることなく終決する。
しかし、新九郎が帰京した後、道灌の軍が「享徳の乱」のために駿河から去ったことから、「当主代行の期限」について再交渉する余地が生まれる。
登場人物
本作では、武家の男性は官位名に名前の読み仮名をルビで振って呼ばれることが多い。一例では新九郎の父・伊勢盛定の官位は備前守であるため、他の登場人物の台詞で呼ばれる時には「備前守(もりさだ)殿」のように記されている。
伊勢一門
伊勢氏は源平の合戦で都落ちし壇ノ浦で滅んだ平家と先祖を共通にする伊勢平氏の支流。室町幕府では初代将軍足利尊氏に仕え深く信頼されたことでその後一門から幕府の政所、申次衆、奉公衆などの重要な地位に多数の人材を輩出し、伊勢氏がいなければ幕府の政(まつりごと)が立ち行かなくなると作中で細川勝元に言わしめた。家事として故事や武家礼法(伊勢流)に詳しく弓馬を得意とする文武両道の家柄である。
伊勢備前守家
備中伊勢家の生まれで、新九郎の父の盛定が宗家伊勢守家の娘須磨を娶り、宗家の婿養子の立場で興した家である。
伊勢新九郎盛時(いせ しんくろう もりとき)
(伊勢千代丸→伊勢新九郎盛時)
本作の主人公。幼名は千代丸(ちよまる)。正義感が強く、理屈や正論を好む。傅役の大道寺右馬介は千代丸について、置かれた環境と修行によってひとかどの武士にも立派な学識僧にも名のある職人にも容易になりそうだが、気の利いたことは言えないので商人になるのは難しそうだと評している。趣味は鞍造り(伊勢氏の家職でもあり宗家の邸内に工房がある)で、自作のデザインを書き留めた帳面を持ち歩いている。
第一話の文正元年(1466年)当時11歳。大道寺右馬介の宇治の家に暮らしていたが、京の伊勢宗家の屋敷内に住居がある父一家と暮らすことになる。父盛定を敬愛している。応仁元年(1467年)夏、12歳で元服。元服を急いだのには、生母浅茅が貞藤の正妻となる前に盛定の子として元服したいという思いもあった。「盛時」という名乗りは、「盛」定の子であることを示すとともに、祖父・横井「時」任が一字をくれたもの。その後、盛定の隠居に伴い家督を継ぐも、義政の勘気に触れたことから無位無官無職の三冠王状態がしばらく続く。
伊勢盛定(いせ もりさだ)
伊勢八郎貞興(いせ はちろう さだおき)
須磨(すま)
伊勢伊勢守家
伊勢宗家であり、当主が幕府の財政を司る政所のトップである執事を歴任し、官途名伊勢守を名乗る。
伊勢伊勢守貞親(いせ いせのかみ さだちか)
伊勢兵庫助貞宗(いせ ひょうごのすけ さだむね)
伊勢貞藤(いせ さだふじ)
浅茅(あさじ)
伊勢肥前守家(備中伊勢家)
伊勢氏の支流で代々備中国の所領を継承し、幕府では奉公衆などを務めている。
伊勢掃部助盛景(いせ かもんのすけ もりかげ)
伊勢九郎盛頼(いせ くろう もりより)
伊勢家被官
蜷川新右衛門親元(にながわ しんえもん ちかもと)
大道寺太郎重時(だいどうじ たろう しげとき)
山中駒若丸 / 山中才四郎(やまなか こまわかまる / やまなか さいしろう)
多目権兵衛元成(ため ごんのひょうえ もとしげ)
足利一門
足利義政(あしかが よしまさ)
足利義視(あしかが よしみ)
将軍の実弟。今出川の邸に住んでいるため周囲からは「今出川(殿、様)」と呼ばれる。正義感が強く、苛烈な性格は「普広院様に似ている」と評される。
義政に次期将軍を約されていたが、嫡子・春王が生まれたことで微妙な立場となっている。文正の政変の際に謀反の疑いで讒訴された経緯から伊勢家の人間を嫌っている。
応仁の乱が起こると細川勝元によって東軍の総大将に担がれるが、形勢が東軍不利に傾くと密かに伊勢へと落ち延びた。一年後に帰京するが、義政に側近の排除を諫言したために彼の怒りにふれ、また貞親らの復権によって幕府内での立場を失ったと思い込んで自らを追い詰めてしまい、再び出奔して比叡山に逃れる。その後、山名宗全によって西軍の「御所様」として迎えられる。
春王(はるおう) / 足利義尚
守護大名家
細川家
細川右京大夫勝元(ほそかわ うきょうのだいぶ かつもと)
細川九郎政元(ほそかわ くろう まさもと)
山名家
山名宗全(やまな そうぜん)
山名家当主。政元の生母・亜々子の養父。「赤入道」の異名で知られる。声の大きい人物として描かれ、殆どの台詞の末尾に「!」が付けられている。
嘉吉の乱平定で武功を挙げ、凋落していた山名家の勢威をかつて「六分の一殿」と呼ばれた時代に匹敵するまでに取り戻した大人物。また豪放磊落な性格のため人望も高い。反対に勝利のためなら武士の作法に外れた戦法も辞さない勝元には怒りを露にしている(その後、西軍も同じ戦法をとったが)。
反伊勢派の大名たちに担がれ文正の政変を起こしたため、新九郎にとっては「親の敵」であるが、前述の性格のため新九郎も悪い感情は持っていない。
当初は娘婿の細川勝元と協調路線をとっていたが、幕府の主導権をめぐって対立を深めて決裂。西軍を立ち上げ応仁の乱を引き起こす。
斯波家
荏原
備中那須家
那須修理亮資氏(なす しゅうりのすけ すけうじ)
弦姫、弦(つるひめ、つる)
駿河
今川家
今川治部大輔義忠(いまがわ じぶのだゆう よしただ)
今川家当主。駿河国守護。仮名は彦五郎。官途名は治部大輔、上総介。新九郎の姉の伊都からは「黙っていれば、いい男」と評される性格の明るい若干お調子者の美男子。
享徳の乱では鎌倉を攻め落とした英雄。伊勢盛定に請われ、応仁の乱のさなかの応仁2年(1468年)将軍御所警護を名目に上洛。その実は東軍に味方することで、かつて失われた分国・遠江国の守護職を今川家に取り戻すことにあった。
上洛の際に盛定の娘で新九郎の姉の伊都(のちの北川殿)を見初め、盛定の取りなしもあり正室に迎え結婚する。駿河へ帰国後の文明2年(1470年)女児(亀、のちの正親町三条実望の室)が、文明5年(1473年)男児(龍王丸、のちの今川氏親)が生まれた。
今川亀(いまがわ かめ)
今川龍王丸(いまがわ たつおうまる)
文明5年(1473年)生まれ。今川義忠とその正室・伊都(北川殿)の嫡子・長男。亀の弟、新九郎の甥にあたる。
4歳の時、今川家当主の父・義忠が遠江国攻略において戦死。今川家では遠江侵攻が幕命に反したものであったとして幕府に恭順の意を示すため、義忠の嫡子の龍王丸ではなく、義忠の従弟の小鹿新五郎範満を家督に据えるべきと主張する家臣達がおり、龍王丸は嫡子に生まれながら家督争いに巻き込まれることとなる。叔父・新九郎の交渉により一旦は家督争いから身を引くこととなり駿府館を退去、母・伊都、姉・亀と共に京都の母の実家・伊勢家へ身を寄せた。
帰駿を控える頃になってようやく口数が増えつつあるものの、落ち着きのない行動が目立つため、身内ならずとも将来が不安になる子であるが、しばしば聡い言動がみられる。
今川家家臣
柴屋軒宗長(さいおくけん そうちょう)
朝比奈丹波守(あさひな たんばのかみ)
福島修理亮(くしま しゅうりのすけ)
三浦左衛門入道(みうら さえもん にゅうどう)
長谷川次郎左衛門(はせがわ じろうざえもん)
山西地域小川湊(現在の焼津市)の代官として今川家に従うが、自ら海運業を営む有徳人(富裕層)でもある。京都など上方や西国とも取引も行っており、幕府政所執事の伊勢家には(おそらくは政治的な見返りを期待し)敬意を払い懇意にしている。そのため伊都が今川義忠に嫁ぐ際には伊都の輿入れの一行が今川家の駿府館に入る前に世話をしたり、新九郎一行が龍王丸誕生の祝いの言葉を述べるため駿府を訪れた際は、一行を伊勢国から船に乗船させ小川湊に宿泊させたりした。
文明8年(1476年)、龍王丸とその母・伊都が駿府館から退去すると、龍王丸派が多い山西地域の次郎左衛門は龍王丸と伊都を龍王丸が元服するまで小川湊の自らの館に住まわせようとしたが、館を刺客に襲撃されたことで龍王丸と伊都は新九郎と共に京都へ向かうこととなる。
関東
上杉家
上杉顕定(うえすぎ あきさだ)
長尾左衛門尉景信(ながお さえもんのじょう かげのぶ)
長尾四郎左衛門尉景春(ながお しろう さえもんのじょう かげはる)
長尾尾張守忠景(ながお おわりのかみ ただかげ)
上杉五郎修理大夫定正(うえすぎ ごろう しゅうりのだいふ さだまさ)
足利堀越公方家
足利左馬頭政知(あしかが さまのかみ まさとも)
その他
横井掃部助時任(よこい かもんのすけ ときとう)
書誌情報
- ゆうきまさみ 『新九郎、奔る!』 小学館〈ビッグコミックススペシャル〉、既刊15巻(2024年1月12日現在)
- 2018年8月14日発行(同年8月9日発売)、ISBN 978-4-09-860001-4
- ゆうきの漫画家としての初期の代表作の一つ『究極超人あ〜る』の約31年ぶりの新刊第10集と同日発売となった。
- 2019年4月17日発行(同年4月12日発売)、ISBN 978-4-09-860334-3
- 2020年1月15日発行(同年1月10日発売)、ISBN 978-4-09-860521-7
- 2020年6月16日発行(同年6月11日発売)、ISBN 978-4-09-860671-9
- 2020年10月17日発行(同年10月12日発売)、ISBN 978-4-09-860810-2
- 2020年12月16日発行(同年12月11日発売)、ISBN 978-4-09-860829-4
- 2021年5月17日発行(同年5月12日発売)、ISBN 978-4-09-861088-4
- 2021年9月15日発行(同年9月10日発売)、ISBN 978-4-09-861165-2
- 2022年2月15日発行(同年2月10日発売)、ISBN 978-4-09-861291-8
- 2022年5月17日発行(同年5月12日発売)、ISBN 978-4-09-861368-7
- 2022年9月17日発行(同年9月12日発売)、ISBN 978-4-09-861446-2
- 2023年1月17日発行(同年1月12日発売)、ISBN 978-4-09-861615-2
- 2023年4月12日発売、ISBN 978-4-09-861745-6
- 2023年10月12日発売、ISBN 978-4-09-862581-9
- 2024年1月12日発売、ISBN 978-4-09-862728-8
ゆうきの漫画家としての初期の代表作の一つ『究極超人あ〜る』の約31年ぶりの新刊第10集と同日発売となった。