小説

春期限定いちごタルト事件


題材:,



以下はWikipediaより引用

要約

『春期限定いちごタルト事件』(しゅんきげんていいちごタルトじけん)は2004年に創元推理文庫から刊行された米澤穂信の推理小説。

概要

〈小市民〉シリーズの第一弾。「小市民を目指す」という目的を共有したシリーズの主人公・小鳩常悟朗と小佐内ゆきが物語の舞台となる船戸高校に入学した高校一年の一学期の出来事を描いた連作短編集。一方で、最終話「孤狼の心」はハリイ・ケメルマン著『九マイルは遠すぎる』へのオマージュであり、各話毎に小佐内の身に起きた自転車盗難事件に関する伏線を張り、最終話でその事件に纏わる顛末を描いている。

主な登場人物

小鳩 常悟朗

船戸高校1年生。中学時代に、持ち前の推理力で問題事に突っ込む性分で痛い目にあったため、高校では小市民であろうと努めているが、図らずも自らに降りかかる謎に手をつけてしまう。
小佐内 ゆき

船戸高校1年生。常悟朗とは中学の夏から一緒で、彼女もまた自らの本性で失敗しているため、常悟郎と互恵関係を結び、小市民を目指す。
堂島 健吾

船戸高校1年生。新聞部員。常悟朗とは小学生時代の同級生だが、彼とはその時以来会っておらず、船戸高校進学を機に顔を会わすようになった。正義感に溢れた実直な性格の大柄な大男。
サカガミ

水上高校の男子生徒。優男風の男率いる水上高校生の不良グループの下っ端である太り気味で髭を生やしている。あるコンビニで自転車を盗まれたため、優男に凄まれ目的地に向かうため小佐内の自転車をかっさらう。

あらすじ・収録作品

自身の本性によって手痛い思いを経験した中学時代を過ごしてきた船戸高校新1年生の小鳩常悟朗と小佐内ゆき。彼らは自らの性癖をひた隠し、「小市民」として日々の安寧を目指すため、困ったときには互いを言い訳に利用する互恵関係を築いていた。しかし常悟朗は、目の前に現れた問題事に対して図らずも抑えていた推理癖を発揮し、謎を解き明かしていくことになる。しかし、その中で小佐内の身には自転車が盗まれる事件が発生、その事件が思いもよらない形で2人を巻き込んでいく。

羊の着ぐるみ
常悟朗と小佐内が船戸高校に入学し、校内の雰囲気に溶け込み始めた四月半ばの放課後。小佐内とクレープ屋に向かおうと帰路に着いた矢先、同級生の堂島健吾に呼ばれ、有志の男子生徒2名と共に、1年女子の吉口の盗まれたポシェットを探すことに。だが学校内を隈なく捜索しても見つからず、警察に被害届を提出すると事態が大事に流れそうになる中、常悟朗は持ち前の推理力でポシェットを盗んだ犯人とその背景を窺い知っていく。 吉口…船戸高校1年生。儚げな日本美人風な顔の女性。健吾とは中学が一緒のようで気安く話せる間柄。 下村…ポシェット捜索に駆り出された1年生徒。中肉中背で、卑屈そうな笑みを浮かべている。捜索開始直後に帰宅した。 高田 容一…ポシェット捜索に駆り出された1年生徒。ガタイの良い体型。捜索中、健吾と待ち合わせるが捕まらず、健吾を右往左往させる。
For your eyes only
船戸高校に入学してから1ヶ月、常悟朗が健吾から相談に応じる約束をし、小佐内と「春季限定いちごパフェ」を買ったその日、小佐内の自転車がサカガミと呼ばれる他校生に盗まれてしまう。次の日、健吾に美術部に呼び出された常悟朗は、先輩の美術部員の勝部が、かつての部長・大浜に2年前から預かったきりの2枚の絵を処分するかどうかを決めるため、絵の価値の有無を調べる。しかし、本格的な絵を描いていたという大浜のその絵は、「世界で一番高尚な絵」と称しながらも出来はお世辞にも秀逸とは言えない上に、2枚とも中身が同じ田園風景が描かれていた。 勝部 飛鳥…船戸高校3年生、美術部員。新聞部の記事で部活紹介をするために話を聞きに来た健吾に大浜の絵の話を持ちかけた。大浜に「世界で一番高尚な絵」を託されたが、2年経っても取りにこないままの絵の扱いに悩んでいる 大浜…船戸高校生の卒業生で元美術部員。油絵を描いており、 高橋由一を好み、日展を狙うほどの実力を持った技巧派で県の美術展奨励賞を受賞したことがある。
おいしいココアの作り方
5月の日曜日、携帯ショップから出た小佐内とばったり会った常悟朗は、盗まれた自転車が五百旗頭(いおきべ)という学生のアパートで印鑑を盗まれた事件で使用されたことで生徒指導室に呼び出された小佐内を励ますため、自家製ヨーグルトが美味しい店で奢ろうとしたところ、2枚の絵の一件のお礼がしたいという健吾に自宅に招かれる。2人は、健吾から一工夫手がけた「おいしいココア」を振る舞われたが、健吾の元から離れ、健吾の姉・千里と台所で3人きりとなったとき、千里はシンクが乾いており、ココアを溶くのに使ったスプーンしかないと指摘。健吾が鍋を使わずに温めたミルクでココアを作った事実に直面した3人は、健吾が如何にして「おいしいココア」を作ったのかという謎解きに頭を働かせる。 堂島 千里…健吾の姉。船戸高校生で常悟朗らの先輩にあたる。健吾同様に彫りの深い女性。押しが強くさっぱりとしており、誰とでも言葉を交わせば友達と認める程友好的な性格。
はらふくるるわざ
理科Ⅰのテストで中間考査全科目が終了した放課後、小佐内にお気に入り過ぎたという理由で2度と行かないと誓ったというケーキ店〈ハンプティ・ダンプティ〉に誘われた常悟朗。小佐内に何かがあったと察した常悟朗は、彼女からテストの最中に一つの問題を思い出しそうになった時、突然教室の後ろのロッカーから栄養ドリンクの瓶が落ちて割れた話を聞く。その後、忘れた携帯を取りに学校に戻った常悟朗は、小佐内の教室を検証し、栄養ドリンクが落ちた狙いを知る。
孤狼の心
小佐内が再び生徒指導室に呼び出され、自転車が路上の下り坂の道に捨ててあったことが判明した。自転車を取りにいった常悟朗と小佐内は、サカガミが急いで目的地に向かう途中に故障した自転車を捨てていったと推理したが、下り坂から見える行先は山越えの道と、田園地帯を抜けて町に向かう道しかなかった。やがて常悟朗はサカガミが急いで向かった場所に見当をつけたが、これまでの災難を前に小佐内は抑えていた本性を前面に出しサカガミ達への復讐に走ってしまう。小佐内の危機を察した常悟朗は健吾を呼び出し助けを求めるが、小市民を目指してからの常悟朗への反発もあって不確かなことしか言えない常悟朗に取り合わない。常悟朗は小佐内の危機を健吾に認識させるため、推理連鎖を繰り広げていく。

結末

サカガミが小佐内の自転車を盗んでまで急いでいた理由は、木良北自動車学校に向かおうと、所定の道筋を通る送迎バスに乗車するためだった。そしてサカガミに関する言動から常悟朗が推理したサカガミのいるグループの目的は、五百旗頭のアパートから盗んだ印鑑と印鑑を使って市役所から取得した住民票でサカガミに五百旗頭として自動車学校に通わせ、金稼ぎに利用しようと20歳以上の身分証明書代わりに自動二輪免許を取得することだった。目的を突き止めた常悟朗と健吾はサカガミのいる自動車学校に急行するが、既に小佐内はサカガミらの不正の証拠を写真に収めていた。こうして小佐内らの働きかけでサカガミ達は有印公文書偽造の罪を暴かれ逮捕されることとなった。この一件で小市民の誓いを破ったことを反省する常悟朗と小佐内だが、ケーキ店で痴話喧嘩中に小佐内に水を掛けてしまったカップルを前にまた本性を発揮してしまう2人なのだった。

注釈