月シリーズ
以下はWikipediaより引用
要約
月シリーズ(つきしりーず)は、エドガー・ライス・バローズによるアメリカのSF小説のシリーズ名。全3部。ムーン・シリーズとも表記する。
本項では、創元推理文庫版の表記に準ずる(#備考参照)。
シリーズ構成
以下、原題と連載期間、刊行年、2種類の邦題を示す。時代設定、主人公、作品スタイルも付記した。なお、すべて未来史に該当するが、第2部はその傾向が顕著なため、他の部からは省いた。
また、本作の第1部、第2部には、発端となる部分(ジュリアン3世から、「わたし」が話を聞く部分)がある。
加えて、第2部の冒頭では、2050年の地球侵攻の顛末(ジュリアン5世とオーティスの決戦)も語られている。
No. | 原題 | 連載 | 刊行 | 邦題 (早川版/創元版) |
日本での刊行 (早川版/創元版) |
時代設定 /主人公 /作品スタイル |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | The Moon Maid | アーゴシー・オール ・ストーリー ・ウィークリー 1923年5月5日号 ~6月2日号 |
1926年 マクルーグ (全3部) |
月の地底王国 月のプリンセス |
1970年8月31日 関口幸男 1978年8月11日 厚木淳 |
2025年12月24日 ~2036年 ジュリアン5世 スペースオペラ |
2 | The Moon Men | アーゴシー・オール ・ストーリー ・ウィークリー 1925年2月21日号 ~3月14日号 |
- | 月人の地球征服 月からの侵略 |
1970年10月31日 関口幸男 1978年10月27日 厚木淳 |
2120年1月1日以降 ~2122年 ジュリアン9世 ハードSF(未来史) |
3 | The Red Hawk | アーゴシー・オール ・ストーリー ・ウィークリー 1925年 9月5日号~19日号 |
- | レッド・ホーク レッド・ホーク |
『月人の地球征服』 に併録 『月からの侵略』 に併録 |
2430年 ~その2年後まで ジュリアン20世 西部劇 |
創元推理文庫(月シリーズ)全2巻の表紙・口絵・挿絵は武部本一郎。ハヤカワ文庫SF(ムーン・シリーズ)全2巻は金森達。なお、『月からの侵略』の裏表紙は、1941年12月7日の真珠湾攻撃を双眼鏡で眺めているバローズらの後姿が採用されている。
備考
本作の単行本には、2種類の異版が存在している。1926年のマクルーグ版では、第2部と第3部の約1/5が削除されており、カナベラル・プレスが復刊したハードカバーも、この版である。エース・ブックスのペーパーバック版は、連載版を収録した完全版であり、創元版『月からの侵略』は、これを底本としている。なお、厚木淳は、ハードカバー版の編集を「全1巻にするため」と推測している。また、「特に重要な場面に大幅なカットがされている」とも述べている(ユダヤ人問題のシーンなど)。ただし、ハヤカワ版も、ほぼ同じ内容である。
概要
本作の特徴は、次の4点である。
主人公は転生を繰り返し、ライバルのオーティス及び子孫のオル・ティス一族、月人(カルカール人)と対決する。
特徴
舞台が未来
輪廻転生
共産主義を批判
1919年、バローズは共産主義を嫌い(ロシア革命は1917年)、その批判として第2部を書いた(厚木淳は「かなり露骨な反共未来小説」と評している。また、厚木は「兄弟」は「同志」、「24人衆」は「ボルシェビキ」の比喩と見ている)。本作は、元々第2部のみの独立した構成であったが、11の出版社から掲載を断られた(『トーンの無法者』でさえ5社であり、バローズの作品としては珍しい)。そのため、バローズはアクション性の強い第1部と第3部を付け加え3部作とし、1925年に、ようやく第2部を掲載にこぎつけた。
バローズは、後年、金星シリーズ第1巻『金星の海賊』(連載は1932年)でも、共産主義者(作中ではソーリスト)を批判している。
バローズの研究家であるリチャード・A・ルポフは、第2部を絶賛している。
各部の作風
第2部の惨状
第2部は、ディストピアと化した2120年のアメリカ(主にシカゴ周辺)が描かれる。第2章からが本編であり、ジュリアン9世の語りが始まるのだが、自己紹介を交えながら、1頁の間に1~6の点が述べられる(『月からの侵略』 25頁、『月人の地球征服』 27頁)。また、続く5頁で、7~14の事が語られる(『月からの侵略』 26頁-30頁、『月人の地球征服』 28頁-32頁)。以後、折に触れて15以下の事実が提示される。
以上のうち、4と14は年表と矛盾する(オーティスとカルカール人の侵攻は2050年)。これの解釈は3通りある。
なお、ヒロインのファンナがオル・ティス将軍に貞操を奪われそうになった時、創元版では「犯されたか」と、ストレートな表現になっている(ハヤカワ版では「まちがいをしでかしたか」)。他のバローズの日本語訳作品の場合、遠まわしな表現(「死ぬよりひどい目」など)になっている場合がほとんどで、『月からの侵略』のシビアさが際立っている。
年表
以下、本作で語られる部分と、関係する史実を示す(太字で書かれている内容が史実。年月日が太字なのは仕様)。
1866年3月4日
本作では、21世紀前半の時点において、この事は常識とされている。
1896年
1914年
以後、本作の中では、地球のどこかで戦争が行われており、1967年まで続く。
1916年
1917年
ロシア革命。
1918年
第一次世界大戦終結。
1919年
1937年
1938年
1940年頃
1945年頃
1953年?
1959年
1967年
ジュリアン3世、空軍大将に任官。
戦後、国際治安航空隊が結成される(軍隊は廃止される)。ジュリアン3世、司令官に就任。
6月10日、火星のヘリウムからの最初のメッセージが世界に公開され、<火星の日>と呼ばれる。
同日、「わたし」が、飛行船ハーディング号(第29代アメリカ大統領ウォレン・ハーディングに由来)でジュリアン3世から未来(ジュリアン5世)の物語を聞かされる。
1969年3月
1970年
1992年
同年?
2000年
?年
2015年
地球の宇宙船がほぼ完成するが、火星の宇宙船の状況を鑑み、完成は延期される。
2016年
兵器の生産・保有が厳しく制限されている。
2024年
2ヵ月後、月、水星、金星、木星の第8光線についても分離を成功。
ジュリアン(5世)大佐、オーティス少佐との協力を命令され、無線操縦の小型無人宇宙船の建造に着手する。
同年後半、無人宇宙船が出発。
2025年
12月24日、バルスーム号と命名された宇宙船が、地球を出発。第1部開始。
2026年
1月8日、月の内部にバルスーム号が着陸。
2036年
ジュリアン5世とナー・イー・ラーが地球で結婚。ジュリアン6世、生まれる。
2050年
年末に決戦、ジュリアン5世とオーティスは戦死。
以後、毎年700万人のカルカール人が地球へ送り込まれた、と推測される。
?年
2100年1月1日
2120年
2122年
2408年
2429年8月12日
<大衝突>と呼ばれる戦闘で、ジュリアン19世がオル・ティス一族の一人に負傷させられ、死亡。20世が酋長となる。
2430年1月
2432年
ジュリアン21世が既に誕生している。
ストーリー
第1部
月のクレーターは、内部への通路となっており、バルスーム号は中へ進入。そこに空気と水を確認し、一行は修理と近辺の捜索に取り掛かる。
ジュリアン5世とオーティスは、半人半獣のヴァ・ガに捕獲され、捕虜となる。オーティスは酋長のガ・ヴァ・ゴに取り入るが、ジュリアンは協力を断った。ヴァ・ガは常に飢えており、豊富な食料を求めて地球侵攻を目論んだのだ。
ガ・ヴァ・ゴの部族は、偶然からウ・ガ(月人)の王女ナー・イーラーを捕虜にする。彼女の住んでいたレイス市は、父のサグロス皇帝が支配しており、ガ・ヴァ・ゴは彼女とレイスの女性100人を交換しようと計画する。ジュリアン5世は嵐に紛れて彼女と脱走し、レイス市を目指す。
途中、カルカール人の都市に紛れ込み、ナー・イー・ラーを逃しおおせたものの、ジュリアンは捕虜となってしまう。同じ捕虜のレイス市民と協力し、ここからも脱出する。
レイス市に辿り着いたものの、そこではコ・ター大公が権力の座につこうと暗躍し、カルカール人までも引き込んでいた。情勢を打開しようとしたジュリアンだったが、カルカール人がオーティスに率いられて侵攻、彼の与えた大砲や手榴弾といった近代兵器に圧倒され、レイス市は陥落する。
ジュリアンはナー・イー・ラーと脱出、修復したバルスーム号と合流し、地球に帰還する。その時、既に2036年であった。
第2部
時は流れ、2120年。2100年1月1日シカゴ生まれのジュリアン9世は20歳になっていた。地球はカルカール人に占領されていたが、指導者(オーティス)を失い、技術は廃れていた。文明は退化し、西部開拓時代以前か中世のような段階にまで戻っていた。
アメリカには、オーティスの子孫であるオル・ティス皇帝が君臨し、<24人衆>と呼ばれる機関が統治していた。人々は、互いを「兄弟」と呼ぶよう強制され、宗教は弾圧されていた。
カルカール人による圧政の下、ジュリアン9世や父のジュリアン8世は、不当な迫害を受けていた。立ち上がる気力を持っていなかったジュリアン9世だが、ファンナという女性と出会い、自らの力を行使するきっかけを得る。そして、父はオールド・グローリー(星条旗)を隠し持っていた。これは反逆罪に当たるが、ジュリアン家では代々伝えてきたのだ。
ジュリアン9世は戦う決意を固めるが、密告者によって父が逮捕され、10年の炭鉱送りを宣告される。それは、死刑と同じ意味だった。ジュリアン9世は反乱を決意、市民の同調を得るが、長年培われてきたカルカール人への恐怖は抜きがたく、彼は孤立してしまう。
逃亡した彼は、収容所へ向かい、父を訪れる。収容所から反乱を開始し、彼らは今後こそカルカール人に反旗を翻した。だが、父は戦死したと思われ、ジュリアン9世にも処刑の刃が迫っていた。
第3部
2122年にジュリアン9世が上げた反乱ののろしは、ついにカルカール人を西海岸に追い詰めていた。しかし、アメリカ人はネイティブ・アメリカンの生活レベルになっていた。レッドホークことジュリアン20世は、由来も定かでなく、「アルゴンの旗」と呼ばれる<旗>(星条旗)を掲げ、不退転の決意で部族ごと前進し、カルカール人に奇襲をかける。
カルカール人は無数にいたが、中には純血のアメリカ人の子孫も1000人ほどいた。その筆頭であり、アメリカへの帰参を望むオル・ティスの当主と出会い、レッドホークは共闘してカルカール人を追い詰める。
キャラクター
発端部分
「わたし」
ジュリアン3世
第1部
ジュリアン5世
オーティス
ジュリアン5世とは航空学校の同期。才能はあるが、成績はジュリアンの方が上だった。性格にも問題がある。
バルスーム号発進以前に離婚を経験している。
ヴァ・ガやカルカール人に取り入り、レイス市を侵略した。後に地球にも侵攻している。
ナー・イー・ラー
月人(ウ・ガ)の王女。レイス市に住んでいる。ヴァ・ガに囚われたのがきっかけで、ジュリアンと結ばれる。
ガ・ヴァ・ゴ
食糧問題の解決のため、オーティスに地球侵攻の手引きを持ちかけた。
コ・ター
第2部
ジュリアン9世
ファンナ・セント・ジョン
ジュリアン8世
エリザベス・ジェイムズ
レッドライトニング
ジムとモリー
モーゼズ・サミュエルズ
ピーター・ヨハンセン
スール
オル・ティス将軍
第3部
ジュリアン20世(レッドホーク)
家族は、母と2人の妹(ナラーとニータ。ハヤカワ版ではナ・ラーとネエタ)の他、2人の弟がいる。
ヴァルチャー
レイン・クラウド
レッドライトニング
サク
カルカール人と敵対している。山岳民族であるニッポン人は、小柄で身を隠しやすいため、カルカール人に発見されることなく一方的に攻撃できるため、カルカール人も避けている。
アメリカ西海岸に部族ごと住んでいるが、「元は西の海上の島に住んでいた」、と言い伝えられている。ミク・ドと呼ばれる人物を祖先(もしくは霊的な存在)としている。
ラバンが唯一の天敵。
ラバン
カルカール人に対して山賊行為を行っている。ハッタリ屋の悪人だが、剣の腕は確か。
巨体を支えるに相応しい巨馬を有している。また、部下もいる。
オル・ティス
先帝である亡父の夢(アメリカ人との共闘)を継ぎ、レッドホークに協力を申し出る。
ベセルダ
月の環境・生物
月およびその生物は、ほとんどが第1部にのみ登場する(カルカール人及びその子孫は、シリーズを通した敵として登場する)。
月の環境
地球内部のペルシダーと違い、太陽に相当するものはない(代わりに、岩石に含まれるラジウムから光が放射されている)。また、各クレーター(ヴァ・ガ語で「フー」)から太陽光線が注ぐタイミングがあり、これが熱源(と、もうひとつの光源)となっている。これを観測することで、ウ・ガ(月人)は時間を計測している。
クレーターから出入りが可能であり、地上との通路は複数存在している(ペルシダーの場合は、北極のみ確認されている。南極にも存在する可能性が示唆されている)。
重力が低いため、地球人は驚異的なジャンプ力を発揮する。大気と水は地球人に適したものである。
生物は、昆虫、爬虫類などの他、知的生物もいる。植物があり、森が存在している。
月の生物
ヒキガエルに似た生物
リンプス
侮蔑する際に「リンプス!」と罵ることから、少なくともレイス市民にとっては嫌悪の対象と思われる。
トー・ホ
リンプスと有翼ヒキガエルを常食としている。そのため、トー・ホ自身の爪や牙にも毒がある。
月の知的生命
ヴァ・ガ
体重は120kg~150kgほど(ただし、槍や装飾を装備した状態)、と主人公は見ている。
雑食だが、植物より肉を好む。負傷したものは、「足手まとい」として即座に殺され、食料となる。また、ウ・ガ(月人)、カルカール人を食料としている。
食用に適した生物の一つ。ウ・ガとカルカール人は彼らを飼育し、食料にしている。元はウ・ガに飼われていたが、カルカール人の造反の際、野生化した。
女性の乳房には、乳首が4つから6つある。
嵐をゾー・アル(ハヤカワ版ではズォ・アル)と呼び、恐れている。
主人公とオーティスを捕虜にした部族はノ・ヴァンで、族長はガ・ヴァ・ゴ。他にル・サンという部族が登場。
第2部の冒頭(2050年)では、オーティスとカルカール人に率いられ、地球侵攻の尖兵となった。以後は登場しない。
ウ・ガ
ヴァ・ガと同じ言語を使用できる。
取り外し可能な翼を開発しており、翼とバックパック(に詰めた、空気よりも軽い気体)を使用することで飛行が可能。
都市のひとつにレイス市があるが、文明が残っているのはレイスのみ、とナー・イー・ラーは見ている。
レイスには、皇帝(ジェマダール。ハヤカワ版ではジェマダル)が君臨している(ナー・イー・ラーの父、サグロス)。
元は月の表面に居住していた、という伝説がある。
かつては月の内部を10の地域に分割し、それぞれに皇帝を置いていた。陸に電車、海には船、空には飛行船が航行し、電信も発達していたが、カルカール人により破壊された。レイスには、その残滓が残されているだけで、再建する余力はない。
帝位を狙うコ・ター大公(ジャヴァダール)の裏切りにより、レイス市と共にウ・ガは滅びる(ナー・イー・ラーが、確認できる唯一の生存者)。
ロマノフ王朝を象徴する存在と思われる。
カルカール人
カルカール人
ハヤカワ版ではカルカル人。元はウ・ガと同じ種族だった。彼らとその子孫は、3作を通して敵として登場する。
第1部
「カルカール」の語源は「考える人々」。元は秘密結社の名称だった。
考えるよりも喋っていることが多く、文明や旧体制を維持することができなかった。
体格は恵まれているが、猫背である。また、目はどんよりとしている。
数が多く、レイス市民との人口比は1対1000(レイスの貴族、モー・ゴーの推測による)。
臆病であり、カルカール人10人とレイスの貴族1人とで互角、といわれる(ナー・イー・ラーによる)。
<24人衆>という委員会がカルカールの都市を支配している。
オーティスが支配者となり、大砲や手榴弾を造る技術を与えたため、レイス市に大挙して攻め込んだ。
第2部
地球人と混血することで数を増やし、支配体制を維持している。その数は著しく多く、蟻や蝿に例えられる。
第3部
一部は東海岸に追い込まれている。
体格の改良がなされ、2メートル以上の大男が揃っている(下限は1メートル80センチ程で、上限は2メートル40センチ程。多くはその中間)。
女性を粗略に扱っている。出産は「国家への奉仕」と見られており、カルカール人の女は、15歳までに結婚する規則であり、20歳で子供がいないと笑いものにされ、30歳までに子供を産まない女は殺される。しかし、いずれにせよ、50歳で女は処刑される。
火星(バルスーム)との関係
本シリーズの第1部では、火星(バルスーム)との関係が大きな意味を持っている。宇宙船バルスーム号は、火星との友好を結ぶべく、地球を出発し、名前も火星から取られている(もっとも、火星に対する言及は、第1部の冒頭と、第2部の冒頭だけに留まっている)。
なお、ヘリウム、ジョン・カーター、第8光線、バルスーム光線と、固有名詞(人物名)が明記されている。ただし、ハヤカワ版では、「バルスーム光線」は「火星光線」と翻訳されている(宇宙船は、「バルスーム号」と訳されている)。
第1部と『火星のプリンセス』
第1部のプロットは、火星シリーズの第1作『火星のプリンセス』との共通点がある。
一方で、相違点も存在する。
オーティスは亜人およびカルカール人と通じ、レイス(敵対国家)を滅ぼし、皇帝の座に就いている。この点において、彼は悪のジョン・カーターであり、ガ・ヴァ・ゴは悪のタルス・タルカスであると言える。また、カルカール人に武器を渡し、上の階級を滅ぼした、という点では、デヴィッド・イネスかアブナー・ペリー(ペルシダー・シリーズの主人公と、そのパートナー)にも該当する。すなわち、オーティスはバローズの主人公らの合わせ鏡(負の存在)となっている。
また、第2部冒頭の2050年の戦いでオーティスが使用する電子銃は、後に『火星の秘密兵器』(1930年)に応用された。