東京難民
以下はWikipediaより引用
要約
『東京難民』(とうきょうなんみん)は、福澤徹三による日本の小説。光文社の『小説宝石』に2007年11月号から2011年1月号まで隔月で連載された。
2014年に佐々部清監督、中村蒼主演で映画化された。
概要
著者の福澤は専門学校での講師経験があり、そこで生徒たちがあまり就職について考えないまま卒業してフリーター、そして無職になっていく姿を見たことから、小説で今の経済を伝えようと執筆を決意。「勝ち組・負け組という言葉もあるが、今の世の中は戦う間もなくはじき出されてしまったり、コツコツ真面目にやっていると逆に大変なことになってしまう時代であるということを”東京難民”というタイトルに込めた」と話している。
あらすじ
21歳の時枝修は親からの仕送りで1人暮らしをしながら、時々アルバイトをしたり仲間とつるんだりとなんとなく大学生活を過ごしていた。しかしクラス担任からある日突然、学費がずっと未納であることと、そのせいですでに先月で大学を除籍になっていることを告げられる。学生課に確認すると、随分前から警告はしていたが時枝の父から本人には絶対に知らせないでほしいと口止めされていたという。わけがわからず実家に電話をするが、繋がらない。恋人の吉水晴香に金を借りて地元の北九州に帰るが、父親の職場である設計事務所にはシャッターが下りており、実家にもやはり両親の姿は無かった。代わりに小指が欠けた男2人に「お前のおやじはどこにおるんか」と詰め寄られ、修は脱兎のごとく逃げ出す。
なんとか借金取りらしき男たちを振り切って東京に帰ってきた修だったが、今度はもうすぐ底をつく生活費に頭をかかえる。日雇いでも何でもして稼がなければと頭ではわかっているものの、あれこれ理由をつけて実際に面接にまで行くことはなかった。結局、友達の保坂雄介が働くレンタルビデオ屋の店長の口利きで不動産屋のポスティングのアルバイトを紹介してもらい、働き始める。しかし思ったよりも割に合わない重労働に1日目で嫌気がさし、同業者に「これが早く配り終える必殺技だ」とそそのかされて配らなければならないチラシをまとめてパチンコ屋のゴミ箱に捨てたところ、雇い主にすぐばれて3日目にあっさりクビになる。それまでの給料も返金させられ、家賃が払えないことが決定的に。しかし修は1か月ぐらいは大丈夫だろうと楽観的にとらえ、パチンコで預金の3万円すら使い果たしてしまう。
家賃滞納から1週間後、「賃貸借契約解除の通知書」が届く。なんとかしなければと今度はもう1人の友達・島村政樹からテレアポのアルバイトを紹介してもらい、成績ナンバー1の谷岡にコツを聞いたり練習したりとそれなりにがんばるが、家庭教師の紹介と偽って実は高額な教材を売りつけるという仕事内容に疑問を抱き、雇い主との関係が悪化。やる気もなくなり6日目に退職。まだ研修期間中だったため、思っていた金額はもらえず、やはり家賃は払えない。テレアポの職に就く際に強制的に作らされたカードのキャッシングで金を借り、なんとか滞納していた家賃を払ったものの、「正確には賃貸借契約ではないから借地借家法の話は関係ない」と修の住むマンション「東亜パレス」債務管理部の荒木は容赦なく契約を切って修に強制退去を命じ、修がそれに応じずに出かけてしまうと部屋の鍵を変えて入れなくしてしまった。
家を失った修は雄介の家にしばらく居候するが、ちょっとした一言から関係はぎくしゃくし、雄介との仲を疑った結果、恋人の綾香とも別れてしまう。ネットカフェに寝泊まりしながら、ウリセンのボーイやティッシュ配りの仕事に挑戦するも、直前で逃げ出したり、ズルをして雇い主にばれてクビになるという失敗を繰り返しやはりうまくいかない。治験のアルバイトでは20万円を手にしたが、退院したその日に職務質問され、UFOキャッチャーでとった折りたたみ式のナイフとレンチがついたライトがあだとなり、乱暴刑事の手によって銃刀法違反容疑で逮捕されてしまう。留置場で自分の不運を嘆くが、同室の2人に励まされ、検事には素直に謝って起訴猶予処分としてもらい、釈放。しかしその帰りに行ったショットバーで知り合った瑠衣という女に騙され、ホストクラブで高額請求されてしまう。とても払えないと思った修はトップに頼み込み、ホストとして働いて金を返すことを決意する。
なんとか茜という指名客をものにしてホストを続けていた修だったが、ツケをためていた瑠衣が行方をくらましたことで責任をとらされたホスト仲間・順矢に同情して共に逃亡。建設会社に住み込みで働き始めるも、ヤクザがバックについた店からは逃げられなかった。順矢と共に捕まり、中国船に乗せられそうになる。しかし危機一髪のところで以前留置場で一緒だった張に助けられ、命からがら逃げのびる。再びネットカフェに舞い戻るが、身分証を失った修にはどこも冷たく、闇金でさえキャッシングを踏み倒した修には何もしてくれなかった。河川敷で寝ようとした修は柄の悪い3人の若者に絡まれて暴行を受け、気がついた時にはホームレスの熊西に介抱されていた。
ホームレスとして生活を始めた修は、以前大学の前の公園にいたモスマンにも再会する。彼はホームレス達の間では不思議な力があると言われており、それは時に神の言葉のようにも聞こえた。そして彼は修に、「おまえはもうすぐ正念場だ」と言う。ある日、いつものように路上で雑誌やDVDを売っていると、音信不通だった父が目の前に立っていた。街金から逃げるために母親とは離婚したらしい。仕事も決まったし、帰ってこないかと言われるが、不思議と修の気持ちは醒めていた。――「俺はもうちょっとこっちでがんばってみるよ。」。
今までより一層雑誌売りに力を入れ、そろそろテントも独り立ちしようという頃、あの3人の若者がまたやって来る。防御のために鉄パイプで応戦した修だったが、警察沙汰になって仲間のホームレスの生活が荒らされることを恐れ、彼らとの別れを決意する。修はボランティアとしてホームレス生活を助けてくれていた光本真理に私の部屋来ないかと誘われるがそれを断り、「仕事ならなんだってできる」と、再び新しい一歩を踏み出し、歩き出すことを決意する。
書籍情報
- 単行本:光文社、2011年5月18日発売、ISBN 978-4-334-92752-3
- 文庫〔上〕:光文社文庫、2013年7月10日発売、ISBN 978-4-334-76600-9
- 文庫〔下〕:光文社文庫、2013年7月10日発売、ISBN 978-4-334-76601-6
書評
歌人の穂村弘は、「平凡な主人公がちょっとしたきっかけで人生のどん底まで転がり落ちていくような話は好きだが、この話は自分がもしこんな状況に陥ったらこんな風に行動するのだろうと思って怖ろしかった」「主人公を襲う”泣きっ面に蜂”の”100匹の蜂”が丁寧に描かれている」と述べた。書評家・ライターのタカザワケンジも、「主人公と同じ立場になった時、どこまで賢く、したたかに動けるのか想像すると背筋に冷たいものが走る」と恐ろしさを述べつつ、「主人公が非情になりきれない甘ちゃんで、つい損な方を選んでしまう青臭さが残っているため、読後に不思議な爽やかさがあり、青春エンターテインメントの王道をゆく作品である」とも評した。
映画
『ツレがうつになりまして。』(2011年)などの作品で現代社会と向きあってきた佐々部清監督が脚本の青島武と4度目のタッグを組み、格差社会の中でもがく若者たちやネットカフェ難民の実態、華やかなホストの隠されたビジネスや日雇いの過酷な労働条件など、現代日本のもう1つの顔でタブーとされる裏社会の素顔に迫り、”見えない貧困”とも言われる格差社会の真実をリアルに描く。スマホとパソコンに依存しがちな若者(特に高校生)に観てほしいという思いから、R15+に指定されている。キャッチコピーは「底辺より怖い、底なし。堕ちたら最後―。」。ただし、尺の関係上、原作よりも大幅に登場人物が減っており、大学の彼女と友達2人が登場しないため、大学の友人たちとのエピソードが省かれている。それに伴い、物語の展開や結末も原作とは大幅に異なる。
映画あらすじ
時枝修は親からの仕送りで1人暮らしをしながら、仲間とつるんだりとなんとなく大学生活を過ごしていた。 履修の講義を出席する前に、出席のために必要な教室前の学生証リーダーを読み取ろうとしたところ、何度読み取ろうとしても時枝の学生証は読み取りエラーが出てしまう。同級生からも「一度学生課に行ったら?」 と言われ、不審に思い学生課に確認に行くと、学費がずっと未納であることを理由に大学を除籍になっていることを告げられる。両親とはすでに連絡が取れない状態であった。実家に電話をするが、繋がらない。地元の北九州に帰るが、父親の職場である設計事務所には差し押さえの公示が貼られていて、実家にもやはり両親の姿は無かった。
東京に帰ってきた修だったが、仕事を探し底をつく生活費に頭をかかえていた矢先に不動産屋がアパートにやってきて、2日以内に払えなければ出て行ってもらうと告げられた。
ネットカフェに寝泊まりしながら、ティッシュ配りの仕事に挑戦する中、ネットカフェで見つけた日給2万円の治験のバイトを見つけ、ティッシュ配りを退職し、その治験のバイトを終えて、久しぶりに高価な食事をするために店を探そうとした矢先に、職務質問され、UFOキャッチャーでとった折りたたみ式のナイフとレンチがついたライトがあだとなり、徒歩での警らの警官によって銃刀法違反容疑で逮捕されてしまう。素直に謝って起訴猶予処分としてもらい、釈放。しかしその帰りに行ったショットバーで知り合った瑠衣という女に騙され、ホストクラブで高額請求されてしまう。とても払えないと思った修はトップに頼み込み、ホストとして働いて金を返すことを決意する。
なんとか茜という指名客をものにしてホストを続けていた修だったが、瑠衣がツケをためたまま行方をくらまし困っていた順矢から頼まれ、茜から一夜を共にする事を条件に100万を借り順矢に渡す。しかし部屋で祝杯をあげ、目覚めると小次郎がその100万を持ち逃げしていた。
その事実を篤志に話すも、探し出した瑠衣をソープに売り飛ばすことで篤志は売掛金を回収しようとする。そして修はその模様を見届けるよう命じられるが、ソープに向かうタクシーから降車した後、瑠衣は実家に返し、順矢と修は逃亡する道を選択する。そして共に建設会社に住み込みで働き始める。
修は茜の勤務先に詫びに行くが、ホストクラブのツケの支払いと、順矢に貸した100万のキャッシングの支払いに困っている事を知る事になる。
順矢は建設会社を辞め、瑠衣の実家で一緒に農家をやるために修と別れ、瑠衣の元へ向かおうとするが、そこに篤志が現れ連れていかれてしまう。順矢が捕まったのを知り修も店に戻ると、そこには殴られて負傷した順矢と、金沢で篤志に見つかり、酒の為、肝臓病で死ぬのを待つ状態で生命保険を掛けられ監禁されている小次郎がいた。篤志は順矢にアイスピックを渡し、小次郎を殺せば全てチャラにしてやるとほのめかすが、順矢に小次郎は殺せず、ヤクの運び屋になる道を選択せざるを得なくなる。修は篤志に自分も順矢と一緒に金を返すから、と懇願するが、甘い事を言うなと店の外に連れ出され、殴られ負傷し、その後河川敷に置き去りにされる。
気がついた時にはホームレスの鈴本に介抱されていた。そして記憶喪失を装いホームレスとして生活を始め、茂という名前をもらう。雑誌売りの仕事の途中で、見つけた雑誌を見たところ、茜が現在ソープランドで働いている事を知り、ソープ嬢となった茜に金を返すためにも会いに行く。修は、ホームレスになっている事を話し、少しずつでもお金を返す事を約束するが、もうお金は返さなくて良いと言われ、最後にシャンパンコールをしてと頼まれる。
そして修は父親を探す旅に出る事を鈴本に告げ、餞別として100円玉をもらって、去って行った。
キャスト
- 時枝修 - 中村蒼
- 北条茜 - 大塚千弘
- 順矢 - 青柳翔
- 川辺瑠衣 - 山本美月
- 小次郎 - 中尾明慶
- 児玉篤志 - 金子ノブアキ
- 鈴本 - 井上順
- 軽部 - 金井勇太
- 俊 - 落合モトキ
- 芹沢 - 田村三郎
- 長沼 - 岡村洋一
- 毛利 - 大谷ノブ彦(ダイノジ)
- 荒木 - 吹越満
- 警官 - 福士誠治
- 警官 - 津田寛治
- 小早川 - 小市慢太郎
スタッフ
- 監督 - 佐々部清
- 原作 - 福澤徹三
- 脚本 - 青島武
- 製作・プロデュース - 森山敦
- 撮影 - 坂江正明
- プロデューサー - 臼井正明
- 美術 - 若松孝市、小林久之
- 音楽 - 遠藤浩二
- 主題歌 - 高橋優「旅人」(ワーナーミュージック・ジャパン)
- 照明 - 守利賢一
- 録音 - 福田伸
- 制作プロダクション - シネムーブ
- 配給 - ファントム・フィルム
- 製作幹事 - キングレコード
- 製作 - 『東京難民』製作委員会(キングレコード、ファントム・フィルム、シネムーブ)
製作
主演は中村蒼で、『行け!男子高校演劇部』(2011年)以来約2年ぶりの映画主演となる。『潔く柔く』(2013年)の爽やかなイケメンから一転、今作では衝撃のホームレス姿も披露している。監督によると、中村の起用理由は「デスクの上でプロフィールが1年間置きっぱなしでずっと気になってはいたが、実際会ってみて、変な真面目さや昭和の雰囲気から“難民感”が出ていたから」。中村は劇中で大学生・ビラ配り・治験バイト・ネットカフェ難民・ホスト・日雇い労働・ホームレスと計7つの役どころに挑戦し、親からの仕送りが途絶えたことを発端に負のスパイラルに陥っていく青年を演じた。中村はこの役を演じることで今までニュースなどで耳にするだけでどこか他人事だった”ネットカフェ難民”などが自分も陥る可能性があることに気づき、幸せは身近なところにあるのだということを改めて感じたという。また、主人公が様々なトラブルを自分ではなく他人のせいだと思い込むところについては、自身が福岡から俳優になるために上京したもののオーディションに落ち続けた時と重なったと駆け出し時代を振り返った。
ホストになった修に貢ぐ看護師・茜役の大塚千弘もまた徳島県から15歳の時に1人で上京した身であるため、悶々と過ごす日々を送ったり、女として恋をして変わるという部分には共感したという。また、劇中では中村とのラブシーンに挑戦しているが、緊張しながらも「まあ、脱いで減るもんじゃないし(笑)」と大胆にチャレンジし、「脱ぎっぷりが自然で、ソープ嬢になるまでを熱演している」などと評価された。ちなみに監督にとっては12本目の作品にして初めてのラブシーンであったが、演じる2人には”集団就職”をテーマに歌った吉田拓郎の『制服』を撮影前に聴かせたというエピソードがある。
主題歌「旅人」は高橋優が実際に作品を鑑賞し、生きていく痛みや苦しさの中で暗闇にさす光をイメージして書き下ろされた。楽曲は薄暗いネットカフェやネオンがきらめく新宿の街を映した予告編のバックで初公開され、2013年11月に行われた高橋初の武道館ライブでも披露された。その時のライブ映像は映画本編映像と融合し、プロモーションビデオとして使用されている。高橋は2014年2月4日にニッショーホールで行われた完成披露試写会にサプライズ登場してこの曲を生歌で披露したが、佐々部監督は「若い人の歌は詳しくない」と言いつつも、高橋の名前が挙がった時、自身の監督デビュー作のタイトルと『桐島、部活やめるってよ』の主題歌で高橋の代表曲となった曲のタイトルが共に”陽はまた昇る”であったことを知って縁を感じ、主題歌を依頼したことを明かした。ちなみに高橋は以前から監督のファンであり、作品は全て鑑賞しているという。
封切り
2014年2月22日、有楽町スバル座他全国40スクリーンで公開。また、監督は2013年11月5日にスペースFS汐留で行われたマスコミ向け完成披露試写会で、この映画のDVDを安倍晋三元内閣総理大臣に送ると宣言していたが、有言実行したところ、昭恵夫人から「現代の若者の貧困化の実情を知り、若者にとっても希望を抱ける社会のありかたについて改めて考えさせられた」というコメントを受け取った。