松吉伝
以下はWikipediaより引用
要約
『松吉伝』(まつきちでん)は、みなもと太郎の漫画。「風雲児たち外外伝」の枕題が付与されている。
概説
作者であるみなもと太郎が、自らの母方祖父である漆原松吉(うるしばら まつきち、1879年 - 1967年)の生涯を題材に執筆した、いわゆるファミリーヒストリータイプの歴史漫画である。とはいえ、作者は本作の内容は全て伝聞取材によるものであり、ゆえに傍証する資料はほとんど現存しえないことを公言している。そのため本作は作者の周囲の人々に取材した内容(証言)を元に構成した極めてフィクションに近似した、それ同様の物語であることを自らアナウンスしている。また改めて内容の正確を期すために再取材を試みても、もはや関係者が高齢および鬼籍入りとなっているために、それがほぼ不可能であることも語られている。
少年画報社の隔月刊歴史漫画雑誌『斬鬼』に2003年から連載されていた作品で、同誌廃刊の翌年10月号(最終号)まで継続された。しかし雑誌の廃刊により同社の他雑誌に拾い上げられることもなく打ち切りとなる。そのため、2008年12月のコミックマーケット75において、作者の同人誌発行サークル「みにゃもと」により連載第1話から第6話までをまとめた同人誌として発刊され、続く2009年12月のコミックマーケット77にてその続編となる連載第7話から9話、そして話を締めくくるための補遺としての描き下ろし番外編を収録した第2巻を発刊することで、本作は完結となった。その後、2014年に復刊ドットコムによって、同人誌版2巻を合本した商用単行本が発刊された。
上述の通り本作のタイトルには『風雲児たち外外伝』の副題があるが、これは本作の前に『斬鬼』で連載していた『挑戦者たち』が『風雲児たち外伝』というスタンスで執筆されていたためである。本作は、後継連載の立場から「風雲児たち外伝」の「さらに外伝」というスタンスをとっており、「外外伝」とはそのことを示す。
あらすじ
みなもと太郎(浦源太郎)の母方の祖父である松吉は、子どもの目から見てもただならぬ人物だった。松吉は時に、子どもの目から見ても変わった形の包丁と鉈を愛用しており、それらを用いて近所で釣ってきた魚やウナギを玄人さながらに捌いたり、どこからか木材を集めて幼い孫のためにブランコを手作りしたりと、何でもできる人物だった。そんな祖父が愛用していた包丁と鉈が実は、もともと一振の日本刀(軍刀)であったと気付くのは、源太郎が中学生になってからのことである。母曰く祖父は「剣術だって柔術だって乗馬術だって師範級。できない事は何もない」人物であったという。祖父の謎は源太郎の幼心に深く刻まれた。そんな祖父・松吉が亡くなったのは源太郎が漫画家「みなもと太郎」としてデビューする直前である、20歳になった頃。家族で祖父の遺品を整理する中、みなもとはその中に甘粕正彦の写真を見つける。写真の横には祖父が冥土へと赴いた甘粕に宛てたであろう文章が記されていた。そのことを母に問うたみなもと。だが母は、なんでもないようにサラリと「甘粕は死ぬまで松吉の親友であった人」だったのだと言い放つ。ここから、みなもとの祖父・松吉の生涯を追う物語が幕を開ける。
登場人物
漆原松吉(うるしばら まつきち)
本作の主人公。作者・みなもと太郎の祖父。1879年、栃木県塩谷郡の喜連川のあたり(現在の栃木県さくら市喜連川周辺)に半呵打ち(親分も子分も持たずに定住して家を構えた博徒)の三男として生まれる。赤貧の中、唯一の娯楽を勉学とし、3~4歳ごろで小学校へと遊びに行っては読書に励み、満10歳で地元小学校(作内では現在の矢板市立矢板小学校とされている。一方でみなもとによる、松吉が教鞭を執っていたのは矢板市立泉小学校だという発言もある)の代用教員の資格をとり、小学校の校長に見込まれてさらなる勉学に励み、校長や兄弟の援助もあって(旧制)作新学院中学に進学し、語学に専念する。しかし経済的な理由による実父の意向で大学進学の道を断たれ、親戚筋の金物屋に丁稚奉公に出るが、後にそれを辞して上京し近衛試験を受けて合格。そのまま軍属として訓練を終えた後に中学時代に培った語学力を見込まれて明石元二郎配下となり、以降は「極秘任務」のために世界中を転々としたと言われる。日露戦争終結後に結婚し憲兵となり甘粕正彦の上司となるも、大正後期に軍を除隊して警察署長に転身し日本統治下の朝鮮半島に派遣される。のちに警察署長を辞して実業家に転身し、甘粕に請われて満州国建国にも何らかの形で関与したとも言われるが、その真偽は明らかになっていない。
戦後においては、実業の世界から去って娘夫婦と同居し、孫である源太郎を可愛がる優しい祖父だった。だが時に怒ると恐ろしく、源太郎が悪戯をした際には真顔で(慣用表現ではなく)実際に孫の腕に高温の灸をすえ、新東宝映画『大虐殺』を見た際には哭くが如くに一日中機嫌を悪くしたという。田中正造を終生において尊敬していたことが、のちに語られた。
みなもと太郎 / 浦源太郎(うら げんたろう)
漆原清三郎(うるしばら せいざぶろう)
漆原熊太郎(うるしばら くまたろう)
漆原(福森)トシ(うるしばら / ふくもり トシ)
浦 政行(うら まさゆき)
浦(漆原)美津江(うら / うるしばら みつえ)
森尻
明石元二郎(あかし もとじろう)
東郷平八郎(とうごう へいはちろう)
甘粕正彦(あまかす まさひこ)
松吉の憲兵時代の部下であり「終生の親友」と互いを呼び呼ばれた人物。本作では、礼儀正しく実直でありながら軽妙洒脱にして多少だが口が回り人好きのする、真面目で無口かつ頑固者だった松吉とは好対照だった人物として描かれている。松吉とは家族ぐるみの付き合いで、同宅に泊まった事も一度や二度ではなかったが、その際にも用意された寝床には行かずに応接室のソファで仮眠をとっていたという。のちに満州国建国のため、朝鮮半島北部にて実業家に転身していた松吉を頼る。満州国の建国直前、松吉の家の玄関にて入れ違いに帰ってきて、すれ違った美津江に「そうだ溥儀のサインを貰ってきてあげようか。今に面白い事になるんだぞ」と口を滑らせ松吉に激怒される。
書籍情報
- 風雲児たち外外伝 松吉伝(復刊ドットコム刊、2014年1月24日初版発行)ISBN 978-4-83-545028-5