機龍警察
以下はWikipediaより引用
要約
『機龍警察』(きりゅうけいさつ)は、月村了衛による小説。本稿では2010年に発表された同作及びそれを原作としたコミカライズ版と、以降に発表された『機龍警察 自爆条項』など続刊を含めた「機龍警察シリーズ」全体についても解説する。
概要
脚本家として活動してきた月村了衛にとって、初めての小説作品である。「至近未来」の日本を舞台に、新型近接戦闘兵器「龍機兵」を擁する警視庁特捜部の活躍を描いた小説である。警察組織内部の軋轢()など部局割拠主義を描いた警察小説であるとともに、アクションなどを描いた冒険小説でもある。
あらすじ
大量破壊兵器が衰退し、それに伴い、市街地戦を想定した近接戦闘兵器が急速に台頭した世界。警視庁は新型機甲兵装「龍機兵」を擁する「特捜部」(SIPD)を発足させた。警視庁特捜部は、専従捜査員として全国の警察組織から優秀な人材を引き抜くとともに、龍機兵の搭乗員として傭兵と契約するなど、異例の組織として発足した。その結果、警視庁特捜部は既存の警察組織から反感を買うことになり、大きな軋轢を引き起こしていた。そんな中、機甲兵装による地下鉄立て籠り事案が発生し、警視庁特捜部は警視庁警備部の特殊急襲部隊(SAT)と激しく対立することになる。
なお、続刊である『機龍警察 自爆条項』以降は、警察庁や警視庁といった警察組織だけでなく、内閣官房、外務省、経済産業省をも巻き込んだ壮大な事件が展開される。
登場人物
警察関係者
警視庁
東京都公安委員会の管理の下で、東京都内の治安維持を担う都の機関。長は警視総監。
特捜部
警察法、刑事訴訟法、警察官職務執行法の改正に伴い、警視庁に新設されたセクションである。かつて多摩川の宿河原堰堤にて機甲兵装による事件が発生した際、警視庁と神奈川県警察本部との縄張り争いの末に解決に失敗、大惨事となる悲劇が発生した。この「狛江事件」での悲劇を背景に、機甲兵装を擁する特殊部隊設置の機運が高まり、警視庁の下に設置されることになった。東京都江東区の警察施設が密集する一角に、専用の庁舎を構えている。「Special Investigators, Police Dragoon」の頭文字から、「SIPD」とも通称される。また、犯罪者などからは、俗に「機龍警察」とも呼ばれている。新型機甲兵装「龍機兵」の搭乗員として傭兵を迎え入れるなど、既存の警察組織の常識とは懸け離れた運営形態をとっている。そのため、日本の警察組織の中では疎まれる存在である。一方、日本国外からは、機甲兵装を擁する警察系特殊部隊として、フランスの国家憲兵隊治安介入部隊(GIGN)、ドイツの連邦警察特殊部隊(GSG-9)と並び評されるなど、その実力に注目が集まっている。
沖津 旬一郎(おきつ じゅんいちろう)
城木 貴彦(しろき たかひこ)
宮近 浩二(みやちか こうじ)
警視庁特捜部理事官。階級は警視。城木とともに、沖津の副官的存在を務める。岳父は元上司であり、丸根が妻の義おじにあたるなど、姻族に警察関係者が多い。城木とは警察庁に同期入庁した盟友である。城木を高く評価しており、警察庁長官をも狙える器と評している。上質な背広を着こなすが、七三分けの典型的な官僚らしい容姿の男である。度々軋轢を起こす特捜部に対するお目付け役として、上層部より送り込まれた。しかし、警察組織内部で疎まれているセクションに配属されることになったため、他のキャリア仲間から自分だけが取り残されるのではないかと畏れを抱いている。上層部の意向に忠実すぎることに加え、現場の捜査員の苦労に対して無理解な発言をすることもあり、現場から反感を買うことも多い。一方で、姿が巻き込まれた特捜部員拉致事案が発生すると、神奈川県警察本部の部局割拠主義に基づく対応の鈍さに憤りを隠さないなど、ときに内に秘めている責任感と使命感が見え隠れする。この事案においては、姿を救出するため神奈川県警察本部に応援要員を出すよう直談判し、自ら川崎臨港警察署の捜査現場に乗り込むなど、仲間思いの一面も見せる。
姿 俊之(すがた としゆき)
ユーリ・オズノフ
ライザ・ラードナー
由起谷 志郎(ゆきたに しろう)
夏川 大悟(なつかわ だいご)
警備部
傘下に機動隊や特殊急襲部隊(SAT)を擁する。SATにも第一種機甲兵装「ブラウニー」や第二種機甲兵装「ボガート」といった機甲兵装が配備されているが、特捜部の未分類強化兵装である龍機兵に比べるとその性能は劣る。特捜部に対する反感が極めて強く、SATと特捜部が現場の主導権を巡って対立することもしばしばである。しかし、警察組織に属する一般的な警察官の場合、新型の機甲兵装があるならSATに配備すべきと主張する者や、龍機兵の搭乗員は機動隊員など生え抜きの警察官から選抜すべきと考える者が多い。
佐野 満(さの みつる)
広重 琢朗(ひろしげ たくろう)
警務部
神奈川県警察本部
神奈川県公安委員会の管理の下で、神奈川県内の治安維持を担う県の機関。長は神奈川県警察本部長。
警察庁
国家公安委員会の下に置かれ、警察制度の企画立案や各都道府県警察本部との調整を担う国の機関。長は警察庁長官。自庁のキャリアを各都道府県警察本部に幹部として出向させており、全国の警察組織に対して強い影響力を持つ。城木や宮近も、警察庁に採用されたキャリア官僚である。特捜部の創設に際しては、都の機関である警視庁ではなく、国の機関である警察庁に設置すべきだとする意見も根強かったとされる。しかし、警察庁では実働部隊を運用することができないとの声が挙がり、最終的に警視庁に設置されるに至った。また、特捜部は警察庁ではなく警視庁に設置すべきと考えた沖津が、各方面にはたらきかけていたことも一因といわれている。
敵対勢力
『機龍警察』における敵対者
王 富國(ワン・フーグオ)
『自爆条項』における敵対者
キリアン・クイン
『暗黒市場』における敵対者
『未亡旅団』における敵対者
カティア・イヴレワ
『狼眼殺手』における敵対者
エンダ・オフィーニー
その他
馮 志文(フォン・ジーウェン)
ミリー・マクブレイド
メイヴ・マクハティ
機甲兵装
機甲兵装(きこうへいそう)とは機龍警察シリーズに登場するロボットないしパワードスーツに相当する兵器群であり、大量破壊兵器の衰退、索敵技術や対抗技術の発達に伴い進化した市街戦想定の近接戦闘兵器である。警察においては「着用する得物」に由来する「キモノ」という隠語が用いられることもある。
ICU(Integrated Control Unit)という電子部品により動きをコンピューター制御しており、搭乗員はジョイスティックとペダルで状況に応じ動作プログラムを選択し操縦する。全高3.5mから4m前後の大型で無骨な機種が多いが、第一種機甲兵装「エインセル」は後ろ向きに登場する特殊なコクピット構造と搭乗者の身長制限により全高3.3mと第一種では群を抜いた小型化を、第二種機甲兵装「キキモラ」はマスタースレーブ方式を併用する事で小型化に加え龍機兵に準ずる柔軟な操縦性を実現している。
機甲兵装は最初期のコンセプトを受け継ぐベーシックな第一種、その発展世代機である第二種が主流であり、第三種は第一種、第二種から逸脱する機体全般を指し、極端な改造機やワンオフ機などが第三種に当たる。
龍機兵
龍機兵(ドラグーン)は警視庁特捜部が保有する機甲兵装であり、その極めて先進的な設計から第四種や第五種、あるいは全くの新世代機とも評される。多くの部品は従来の機甲兵装同様の既成品が用いられているが、システム部分に関しては開発者やその過程も含めすべて極秘となっており、整備もごく限られた内部のものに限られている。
一般に3.5m - 4m程度で武骨なシルエットをしている既存の機甲兵装に対し、龍機兵は3mほどと一回り小柄で、更により人間に近い形状をしている。
操縦方法はマスタースレーブ方式を取っており、この時点でも一般的なレバー操作を用いる第一種などよりも優れた操縦性を発揮するが、龍機兵は加えて、機体に搭載された龍骨()と専任の操縦者の脊椎に埋め込まれた龍髭()を量子的に接続することによるブレイン・マシン・インタフェース(BMI)を併用しており、従来の機甲兵装とは一線を画する極めて高い反応速度・運動性能を誇る。
また、専用スイッチと操縦者の「ドラグ・オン」という音声コードの同時入力により起動する、100%BMI操作の「アグリメント・モード」によって更に機動性と反応速度を高めることができるが、操縦者に対する負担も大きく増大する。
龍機兵の極めて高い開発技術は「5年先を行く」ものと評されているが、一部の研究機関では「龍骨」システムの雛形になりうる研究開発が進んでいることが判明しており、特捜部部長の沖津は龍機兵のアドバンテージが想定よりも早く失われる可能性を危惧している。
なお、機密保持の為搭乗員には敵対勢力による奪取や鹵獲の危険が迫った際に機体諸共の自爆が義務付けられており、それ故現役警察官を搭乗員にできず傭兵が雇用されたという経緯がある。
シリーズとしての書誌情報
# | タイトル | レーベル | 刊行年月日 | ISBN | 備考 |
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1 | 『機龍警察』 | 早川書房〈ハヤカワ文庫〉 | 2010年3月19日 | ISBN 978-4-15-030993-0 | |
『機龍警察』完全版 | 早川書房〈ハヤカワ・ミステリワールド〉 | 2014年11月7日 | ISBN 978-4-15-209498-8 | 加筆修正 著者による長篇自作解題追加 雑誌掲載のエッセイ・インタビュー等収録 | |
早川書房〈ハヤカワ文庫〉 | 2017年5月9日 | ISBN 978-4-15-031274-9 | |||
2 | 『機龍警察 自爆条項』 | 早川書房〈ハヤカワ・ミステリワールド〉 | 2011年9月22日 | ISBN 978-4-15-209241-0 | |
早川書房〈ハヤカワ文庫〉 | 2012年8月8日 | 上巻:ISBN 978-4-15-031075-2 下巻:ISBN 978-4-15-031076-9 |
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『機龍警察 自爆条項』完全版 | 早川書房〈ハヤカワ・ミステリワールド〉 | 2016年5月24日 | ISBN 978-4-15-209617-3 | 大幅加筆 著者による短篇自作解題追加 | |
早川書房〈ハヤカワ文庫〉 | 2017年7月6日 | 上巻:ISBN 978-4-15-031285-5 下巻:ISBN 978-4-15-031286-2 | |||
3 | 『機龍警察 暗黒市場』 | 早川書房〈ハヤカワ・ミステリワールド〉 | 2012年9月21日 | ISBN 978-4-15-209321-9 | |
早川書房〈ハヤカワ文庫〉 | 2020年12月3日 | 上巻:ISBN 978-4-15-031459-0 下巻:ISBN 978-4-15-031460-6 |
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4 | 『機龍警察 未亡旅団』 | 早川書房〈ハヤカワ・ミステリワールド〉 | 2014年1月24日 | ISBN 978-4-15-209431-5 | |
早川書房〈ハヤカワ文庫JA〉 | 2023年6月6日 | ISBN 978-4-15-031552-8 | |||
5 | 『機龍警察 火宅』 | 早川書房〈ハヤカワ・ミステリワールド〉 | 2014年12月19日 | ISBN 978-4-15-209509-1 | 短編8作収録 |
6 | 『機龍警察 狼眼殺手』 | 早川書房〈ハヤカワ・ミステリワールド〉 | 2017年9月7日 | ISBN 978-4-15-209709-5 | |
7 | 『機龍警察 白骨街道』 | 早川書房〈ハヤカワ・ミステリワールド〉 | 2021年8月18日 | ISBN 978-4-15-210045-0 |
コミカライズ版
『月刊ヤングマガジン』(講談社)にて2021年1号から12号まで連載。同誌のリニューアルにより、『ヤンマガWeb』(同)に移籍して、同年12月23日より連載されている。構成はフクダイクミ、漫画はイナベカズが担当。
- 原作:月村了衛、構成:フクダイクミ、漫画:イナベカズ 『機龍警察』 講談社〈ヤンマガKCスペシャル〉、既刊4巻(2023年1月19日現在)
- 2021年9月6日発売、ISBN 978-4-06-524757-0
- 2021年12月20日発売、ISBN 978-4-06-526161-3
- 2023年1月19日発売、ISBN 978-4-06-530424-2
- 2023年1月19日発売、ISBN 978-4-06-530425-9
シリーズとしての賞歴
機龍警察 自爆条項
- 2012年 - 日本SF大賞。
- 2012年 - 週刊文春ミステリーベスト10 9位。
- 2012年 - このミステリーがすごい! 9位。
- 2012年 - ミステリが読みたい! 12位。
機龍警察 暗黒市場
- 2013年 - 吉川英治文学新人賞。
- 2013年 - このミステリーがすごい! 3位。
- 2013年 - ミステリが読みたい! 4位。
機龍警察 未亡旅団
- 2014年 - 週刊文春ミステリーベスト10 9位。
- 2015年 - このミステリーがすごい! 5位。
- 2015年 - ミステリが読みたい! 12位。
機龍警察 狼眼殺手
- 2017年 - 週刊文春ミステリーベスト10 4位。
- 2017年 - このミステリーがすごい! 3位。
- 2017年 - ミステリが読みたい! 1位。
機龍警察 白骨街道
- 2021年 - 週刊文春ミステリーベスト10 7位。
- 2021年 - このミステリーがすごい! 3位。
- 2021年 - ミステリが読みたい! 3位。
関連人物
- 千街晶之