深海の罠
以下はWikipediaより引用
要約
『深海の罠』(しんかいのわな、原題:英: The Cryprus Shell)は、イギリスのホラー小説家ブライアン・ラムレイによる短編ホラー小説。ラムレイのデビュー作であり、1968年にアーカムハウスの『アーカム・コレクター』に掲載された。
続編に『続・深海の罠』(ぞく・しんかいのわな、原題:英: The Deep-Sea Conch)がある。
軍人である主人公がキプロス島に滞在していたという設定は作者自身の経歴からきており、那智史郎はラムレイの趣味の水中ダイビングも影響していると分析している。キプロスにいるときに入手したアーカムハウスの『漆黒の霊魂』に所収されたカール・ジャコビの怪奇小説『水槽』からインスパイアを受けて執筆された。またラムレイは本作執筆後に貝アレルギーになってしまったという。
文献「水神クタアト」が初登場した。単発では海洋生物ホラーであるが、水神クタアトがあるために、クトゥルフ神話と接続している。またジャコビの『水槽』はもともと神話として書かれたが、ダーレスが編纂に際してジャコビが神話に言及している部分を削除してしまったという経緯がある。
『深海の罠』
1962年6月5日付、陸軍ウィンスロー少佐から、グリー退役大佐に宛てた手紙にて。グリーは先日、ウィンスローの晩餐に招かれたがいきなり退席してしまった非礼を詫び、理由を説明する。牡蠣を見て、嫌悪感を抱いたのだという。
「 | すべて水に群がるもの、またすべての水の中にいる生き物のうち、すなわち、すべて海、また川にいて、ひれとうろこのないものは、あなたがたに忌むべきものである。これらはあなたがたに忌むべきものであるから、あなたがたはその肉を食べてはならない。またその死体は忌むべきものとしなければならない。 | 」 |
— (聖書『レビ記』11章10-11節(日本聖書協会、口語訳)より) |
— (聖書『レビ記』11章10-11節(日本聖書協会、口語訳)より)
2年前キプロス島に駐屯していたとき、部下にジョブリング伍長という男がいた。彼の趣味はスキューバダイブと貝殻収集であり、兵舎にはこれまで赴任してきた世界中の海で集めたコレクションが飾られていた。いつものようにジョブリングが海に潜ってみると、大変珍しい種類の貝を見つける。あえて収集を控え、場所を覚えて毎日観察を続けていると、どうやらその貝は、餌となる魚をおびき寄せるために催眠術のような手法を用いていることが見て取れてくる。やがてジョブリングは、自分が巻貝になるという奇妙な夢を見るようになり、さらに夢の中で自分に近づいてくるダイバーの顔がジョブリング自身に見えてくる。
あるときを機にジョブリングは体調がすぐれなくなり、ついに発作を起こして病院に送られる。続いて正気を失って病院を抜け出そうとし、連絡を受けたウィンスローが駆け付けたときには、「ロッカーにもぐりこんで身をのたくらせる」という奇行に走った末にショック死を遂げていた。
ジョブリングの残したノートを読んだウィンスローは、ノートに記されていた場所に潜ってみる。しかし、そこにあった貝殻は空っぽであった。近くには蟹が群れをなしており、海水にセピア色の液体が混ざって視界が遮られる。その色が、イカや貝類などの体液であると連想したウィンスローは、蟹たちが食っているものを理解し、恐怖に襲われる。さらに食われている怪物はまだ生きており、ウィンスローに視線を向けて近づこうとしてきたが、蟹たちが再びやって来てそいつに群がる。以後、ウィンスローは貝類を食べることができなくなってしまう。彼にとっては、伍長を食するに等しい嫌悪感を抱くことなのである。
『続・深海の罠』
1962年6月16日付、グリーからウィンスローへの返信にて。
チャドウィックは、学術航海の船に、単なるいち船員として同乗していた。船は海難に遭い、航海は失敗に終わるも、チャドウィックは個人的に珍種の貝を見つけ、持ち帰って友人の貝類学者ビールに贈呈する。それは深海の巻貝であり、持ち帰るまで一ヶ月水なしの瓶詰という状態にあった。
ビールは貝殻から中身を取り除くために弱酸性の液にひたす。すると貝がまだ生きていたことが判明し、生命力の強さに驚く。調べたところ、6000万年前の絶滅種によく似ている。だがこの貝は、チャドウィックが隠して持ち帰ったものであるため、公開するわけにもいかない。困り果てた2人は、生体を殺して貝殻だけを保存しようと結論付ける。だが貝は蓋を閉じて中に籠り、強力な酸に浸しても、刃物を突き立てても死なない。深海の水圧に耐えていた殻を叩き割ることもできない。あまりの強靭さを、2人は不気味に思い始める。
熱で攻めることにした結果、ビールのアパートが火事になる。焼けた貝に驚いたチャドウィックはショック死し、驚いたビールは人工呼吸を施そうとするも、喉の奥で動く「緑色に光る蓋」を見て、ビールは逃げ出す。たまたまビールに出会ったグリーが、ウィンスローの手紙を見せたところ、ビールは己が体験した恐怖を証言する。
登場人物
- ハリー・ウィンスロー - 少佐(または大佐)。ヨークシャー在住。かつては海産物が大好物であったが、ある体験を経て貝類に嫌悪感を抱くようになる。
- ジョージ・L・グリー - 退役大佐。ダラム在住。
- アリス - ウィンスローの同行者。おそらく妻。1960年以降にウィンスローと出会った。
- ジョブリング伍長 - ウィンスローの部下。勤勉な下士官で貝コレクター。
- ジョン・ビール - 貝類学者。グリーの友人。ハーデン(英語版)在住。
- チャドウィック - 水兵。ビールの友人。
- 『深海の罠』の貝 - 長さ6インチ(15センチ)ほど。螺旋状の珍種。
- 『続・深海の罠』の貝 - 殻径10インチ(25センチ)、殻高は4インチ(10センチ)。大きな鐘状の口がある。食性は肉食。化石古代種によく似ている。
登場する文献
ウィンスローが紹介している。
- 聖書「レビ記」 - 11章10-11節が紹介される。
- 「深海の住人たち」 - ガストン・ル・フェの著作。
- 「水棲動物」 - ガントレイの著作。
- 「深海祭祀書」 - ドイツのガルベルク伯爵の著作。ジャコビの『水槽』に登場する書物を、ラムレイは自作に持ち込んだ。
- 「水神クタアト」 - 名前のみ。以降ラムレイ作品に頻出し、断片的に紹介される。
収録
深海の罠
- 国書刊行会『黒の召喚者』朝松健訳
- 国書刊行会『真ク・リトル・リトル神話大系5』『新編真ク・リトル・リトル神話大系4』山本明訳
続・深海の罠
- 国書刊行会『真ク・リトル・リトル神話大系9』『新編真ク・リトル・リトル神話大系4』那智史郎訳