火の国、風の国物語
以下はWikipediaより引用
要約
『火の国、風の国物語』(ひのくにかぜのくにものがたり)は、師走トオルによる日本のライトノベル。イラストは光崎瑠衣が担当している。富士見ファンタジア文庫(富士見書房)より2007年10月から2011年9月まで刊行された。また、同出版社の『月刊ドラゴンマガジン』(現『ドラゴンマガジン』)にて、2007年9月号から不定期で短編が連載されている。2019年5月時点でシリーズ累計部数は50万部を突破している。
概要
師走トオルの3作目となるライトノベル。前2作品の執筆を富士見ミステリー文庫で行っていた師走トオルにとって、初の富士見ファンタジア文庫での刊行作品となる。
ドワーフやエルフ、魔法などが存在するいわゆる「剣と魔法のファンタジー」の世界を下地にした架空の戦記で、架空の大陸「グリア大陸」の南西に位置するベールセール王国を主な舞台とし、王国軍と王国に反旗を翻した反乱軍との戦いを描く。生まれ持った剣の腕と精霊から与えられた力により一騎当千の実力を持つ王国軍の騎士アレスと、優れた智略を駆使する反乱軍の指導者ジェレイドの、対照的な特徴を持つ2人の主人公の視点で物語が進行する。
文庫本で書き下ろされる長編と、ドラゴンマガジン上で連載された短編が存在する。 長編は主にアレスの視点で物語が進行する。対して、短編は長編から見ると過去の物語であり、文庫本には短編集としてではなく長編中の回想として収録されている。
短編第1部(3巻に収録)には反乱軍の創設から文庫本1巻の時点に至るまでの経緯が描かれるジェレイド視点の物語が、短編第2部(5巻に収録)は少年時代のアレスがヒロインのクラウディア王女の護衛を務めていた頃の物語である。
短編第3部(8巻に収録)では、短編第1部以降の反乱軍の変遷と、反乱軍と王国軍との戦いが反乱軍側の視点で描かれている。
短編第4部(10巻に収録)は、2009年11月号から毎回ドラゴンマガジン誌上でキャラクターの人気投票を行い、投票で1位となったキャラクターの過去が連載された。
第1巻から第4巻では、ファンタジア文庫20周年を機にカバーデザインが刷新されている。
あらすじ
王国歴82年、ベールセール王国の北部に位置するボルネリア領では、領主の圧政と地震や飢饉などの災害により農民の生活は貧窮を極めていた。領内の僻地オーセル村に住む青年ジェレイドは生き延びる唯一の道として、領主の横暴と圧政に耐えかねた村民たちを率いて反乱を決起する。ジェレイドの卓越した計略と、風を操る黒魔術師ミーアの力により、反乱軍は徐々に勢力を増し、やがて「ベールセール解放軍」と名乗る。
王国歴83年、ボルネリア領で始まった小さな反乱は、王国北部一帯にまでその規模を拡大していた。ファノヴァール家の4代目当主であるアレス・ファノヴァールは、農民の反乱によって自身の領地レストニアを侵略される。アレスは領地を侵略された責任と、領地を侵略した反乱軍に対する復讐の念から伯爵位を返上、近衛騎士の一員となりベールセール解放軍との戦いに身を投じる。
世界設定・用語
国家
ベールセール王国
軍旗が赤、近衛騎士が赤い甲冑を身につける、貴族は赤いマントを身につけるなど、全体的に赤色を象徴としている。男性16歳、女性は14歳で成人扱いとなる。苗字は貴族と騎士のみが持っており、農民には苗字は無い。貴族の爵位には公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の5つがあるが、暴君(および有能な軍人)として名高い先代(第3代)国王ベルセルム3世が、自身に刃向かう有力貴族をことごとく粛清したため、現在は公爵位を持つ貴族が存在しない。
国土を幾つかの領地に分け、各領地を貴族に与えて統治する封建制をとっている。領主には領地における独裁権、領地内のあらゆる存在に対する所有権、領民の生殺与奪の権利など莫大な特権の数々が与えられ、たとえ国王であろうともその権利を侵害することはできない。建国当時、不平不満を持つ豪族達を抑えるためにこの制度が作られたが、現在はその特権を盾に悪政を敷く領主が数多く存在し、北部一帯で悪政に耐えかねた農民によって大規模な反乱が起こされた。
レアニール連合王国
ベールセールとレアニールとの戦争は両国を隔てる山脈の名前を取って「シエゴラス戦役」と呼ばれ、最も新しいのは王国歴76年に起きた第三次シエゴラス戦役だが、未だベールセールの国土の奪取には至っていない。また、レアニール国内でも、連合国同士の内乱が長年続いている。
エディンバラ皇国
ベールセールとの関係は比較的良好で、近年、エディンバラの皇子とベールセールの王女クラウディアとの縁談が持ち上がっている。
ベールセール王国関連用語
ファノヴァール家
ボルネリア軍(ベールセール解放軍)
元々は100名足らずのオーセル村の村民からなる小規模な組織だったが、ジェレイドの指揮の下、「風の戦乙女」ミーアの力もあり短期間で勢力を拡大し、決起から1年足らずでボルネリア領を制圧した。トゥールスレン城砦を陥落した時点では総勢1万名以上と言う、数だけなら王国軍を上回る規模であった。また、当初は農民だけでなく元騎士やエルフ、女子供など様々な立場の人間で構成されていたが、ジェレイドの統率力により確かな秩序が維持されていた。王国との和平成立後、レアニール連合国軍の討伐に5千・トゥールスレン城砦の守備に2千(負傷兵も合わせれば3千)の兵を残し、残りの人員はボルネリア領へ帰している。
解放軍自体はあくまでも貴族の特権の廃止、農民の自由と権利の獲得を目的として戦っていたが、解放軍の行動に触発された別の反乱軍が各地で決起し、その中には盗賊紛いの行為をする組織も少なからず存在していた。結果としてジェレイドの意思とは無関係なところで、農民に無用な被害が発生する事態になってしまう。アレスの故郷レストニア領もそうした反乱軍の1つにより侵略された。
トゥールスレン城砦の制圧後に「ベールセール解放軍」を名乗るようになるが、王国軍では反乱軍と呼ばれていた。現在は、クラウディアの仲介(策略)により王国軍と和平を締結し、名称を「ボルネリア軍」へと変えている。
諸侯連盟
また、現国王に対して強い発言権を持つ諸侯連盟だが、国王以外に大きな実権を持つ集団が存在する事が表面化しない様、その存在は秘匿され、忠臣と呼ばれるような貴族にはその存在を知らないものも多い。
近衛騎士
トゥールスレン城砦
ダルム城砦
五彩神と精霊
グリア大陸では「五彩神」と呼ばれる5柱の神が信仰されており、各々を信仰の対象とする5つの宗教が存在する。 具体的には以下の5柱である。
蒼神ラクリナース
緑神アトラス
赤神オディウス
白神フォードと黒神ハルモニア
この世界に存在するあらゆるものは「精霊」によって構成されており、あらゆる自然物には精霊が宿るとされる。火には火の精霊サラマンドラが、風には風の精霊シルフが、大地には大地の精霊ノームが宿る。また、風の女王シルフィードのように同属の精霊を従える高位の精霊も存在し、それらの精霊は五彩神の直接の臣として世界の理の一端を形作る存在ともなっている。
白魔術と黒魔術
人々は神々や精霊と交信することでその力を借り、何らかの奇跡を起こす「魔術」を行使することができる。神々と交信する力は白神フォードに、精霊と交信する力は黒神ハルモニアに与えられたものとされ、神々に助力を請う魔術を「白魔術」、精霊の力を借りる魔術を「黒魔術」と呼び区別する。神々や精霊と交信するには強い意志の力が必要で、誰にでも扱えるわけでは無い。また、強い意志によって魔術の力をある程度退けることもできる。特に胎児(他の生命他に宿るもう1つの意志)は極めて精霊に近い存在であり、妊婦にはあらゆる魔術が効果をおよぼし難い。
白魔術
黒魔術
種族
ドワーフ
エルフ
妖魔
登場人物
年齢は王国歴83年の時点のもの。
主要人物
アレス・ファノヴァール
本作の主人公。ファノヴァール伯爵家の4代目の当主であり、王国軍の近衛騎士。18歳。近衛騎士の証である赤い甲冑と、貴族にのみ着用を許された赤いマントを身に付け、右手でファノヴァール家に代々伝わる剣を、左手でクラウディア王女から授けられた剣を振るう。並外れた剣の才能を持ち、それに加えて精霊パンドラとの契約により人間離れした凄まじい身体能力を有する。その力は一騎当千と呼ぶに相応しく、敵陣営からは「赤の悪魔憑き」と呼ばれ恐れられている。性格は良くも悪くも真っ直ぐで、半ば妄信的に騎士道や国王への忠誠に殉じていたが、様々な立場に置かれた人々との出会いにより成長していく。戦術面では機転は利くものの、政治や処世術には疎く、口下手で鈍感。
12歳で自国の王女であるクラウディアの護衛に任命され、暗殺者の襲撃から単身クラウディアを守りぬく。また、16歳で騎士叙勲を受け、17歳で史上最年少の近衛騎士となるなど、並外れた経歴の持ち主。父の死後は近衛騎士を引退して伯爵位を継ぎ、故郷レストニア領の領主となったが、レストニアが農民の反乱により侵略されたことで伯爵位を返上し、再び近衛騎士として解放軍との戦いに身を投じる。
護衛の任を解かれた後もクラウディアとは交流があり、度々クラウディアの命令で世直しのようなことをさせられていた。それによりアレス本人とは断定されていないものの、世直しの騎士の噂は国の各地に残っている。クラウディアのわがままに辟易しつつも、その聡明さと志に感服して心から忠誠を誓うと同時に、淡い恋心も抱いている模様。
由緒正しい家系・戦場での目覚ましい活躍から「赤の悪魔憑き」以外にも「王国の護り手」「ファノヴァールの騎士」「ただ一人からなる無敵の軍勢」「赤神オディウスの申し子」「巨人殺し」と言った、数多くの異名を持つ。
ジェレイド
ボルネリア軍(ベールセール解放軍)の指導者。23歳。ボルネリア領オーセル村出身の農民。長身の割には体はあまり丈夫ではなく武術や乗馬もからっきしではあるが、智略・交渉などの能力に優れる。視力が悪く眼鏡をかけているが、他人のお下がりであるためサイズが合っておらず、よくずり落ちる。本来の性格通りの穏やかな顔立ちをしている。その指導は自軍の秩序や心情に気を配りつつも合理性を重視し、時として非情ともいえる判断を下すこともあり、必要とあらば自ら動くことも躊躇わない。また、戦略として情報操作や心理戦を好み、スパイすらも利用したり味方にも秘密にして作戦行動を行うなどをしており、他を瞠目させる構想力をも持っている。洞察力にも長けており、相手の目的や行動を見抜いたり陰謀を逆に利用したりと様々な面で発揮され、アレスの言動からその存在を見抜かれたパンドラすらも驚愕させた。前述のように本来は穏やかな人格の持ち主なので自分がとる手段を自嘲的に捉えることが多く、少々自虐的な言動を行っている。その指導力は敵味方を問わず認められており、智将として王国全土にその名を轟かせつつある。
反乱を起こす前は器用な手先で織物をしたり、品種改良して不作に備えた農作物を作るなど、幅広い知識や知恵を駆使しており、村では「オーセルの賢者」と呼ばれていた。第三次シエゴラス戦役においてダルム城砦へと徴兵された経験があり、謀略の数々を駆使して数倍以上の兵力で襲い来るレアニール軍を退けたが、その際非情に徹し切れなかったことで自身の初恋の人を失うことになった。
領主に減税を訴えたことで斬首された父の後を継いでオーセル村の村長となり、生き延びる唯一の道として村民を率いて反乱を起こす。智略の数々を駆使して領主の軍勢を退けると共に徐々に支援者を増やし、当初は村一つの反乱でしかなかった解放軍を侯爵を打倒する程の規模にした。しかし、指導者としての激務と精神的プレッシャーから病に掛かり、たびたび吐血するようになっている。その事と陰謀などによる罪悪感とあいまって、あまり自分の命には関心がない。
パンドラ
「黄昏の主」と呼ばれる存在に仕える精霊。黒いヴェールを纏った美しい少女の外見をしている。クラウディアを狙う暗殺者の襲撃を受けて窮地に陥ったアレスの前に現れ、クラウディアを守るための力を欲したアレスと契約を交わした。自身を助言者として側に置くことを条件にアレスに力を与え、契約して以来常にアレスの側にいるが、契約者であるアレス以外には姿も声も認識されない。
あらゆる事象に精通し、アレスに純然たる事実と行動の指針についての助言を与える。基本的には事象に直接干渉はできないが、身を盾にして精霊による攻撃をある程度軽減できる。その目的は不明だが、人の世に災いを起こし多くの血が流れることを望んでおり、助言の大半がアレスに人を殺めさせ多くの血を流れさせるように誘導するためのものである。
第四次シエゴラス戦役において突如アレスを見限り、新たにフィリップと契約を結ぶ。これは黄昏の主の指示であり、アレスとフィリップを争わせて流血を招こうとしているのではないかとパンドラは推測している。
ベールセール王国・王族関係者
クラウディア
ベールセール王国の王女。13歳。絶世の美女と呼ぶに相応しい外見をしているが、同年代の女性と比べるとやや発育が遅れている。年齢にそぐわない聡明さと、常に国民の行く末を憂う愛国心を併せ持つ。公の場では聡明な姫君としての姿勢を保っているが、本来はお転婆な性格で、アレスの前では途端に横暴になり度々無茶な命令を下しては彼を振り回している。内心では幼い頃から自分に仕えてくれているアレスに対し淡い恋心を抱いているものの、王女として国のために隣国へ嫁ぐことを覚悟している。
第二次トゥールスレン攻防戦の最中、解放軍にその身を預けることで一時停戦させることに成功した。さらには自らの立場を利用し、国民に寄った内容を提示する事で解放軍と王国軍を共闘させる。
兄殺害の犯人がフィリップであるといち早く当てるが、アレスの領地を攻め落とすと脅され、彼の妻となることを承諾する。
ファノヴァール家の関係者
エレナ・ファノヴァール
イザーレ・フェルドスティン
ガルムス
レオン
ウォルナー
ローラン・ビンター
貴族・貴族関係者
フィリップ
諸侯連盟の盟主、ディルヴィレン侯爵家の次男。野心の強い男であり、クラウディアと婚姻を結ぶことで次代の王になろうと目論んでいる。当時クラウディアの護衛を務めていたアレスを陥れようとしたが、アレスとの一騎討ちに敗北。その後策謀によってアレスを貶めようとするもイザーレの介入により失敗し、結果として父であるディルヴィレン侯に冷遇されたことからアレスを憎んでいる。
その後アレスが所属する近衛騎士団第三軍の将軍の座についたがアレスが次々と功績を上げていくことに焦り、第四次シエゴラス戦役において自ら兵を率いて戦うが敗北。敗走の最中パンドラとの契約を結ぶ。パンドラの加護を受けたフィリップは、その助言と契約で得た力を使いレアニール連合王国を打ち破ることで返り咲き、ハインツ皇太子をアレスの仕業に見せかけて殺し、その心労で消耗したベルセルム四世を毒殺。さらに実の兄と父も殺して貴族を掌握し、アレスの故郷を人質に取ることでクラウディアに自身との婚姻を承諾させ、ベールセール王国の実質的な支配者となる。
カルレーン
王国軍関係者
ブライアン・ウェスト
ベルフェルド・イグレシアス
ボルネリア軍(ベールセール解放軍)
ミーア
マシュー
ソフィア
クライス
ディオール
リーエンノール
オリビア
ボルネリア領
ボルネリア侯ランドルフ
モンフォード
ファーバンク
既刊一覧
- 師走トオル(著) / 光崎瑠衣(イラスト) 『火の国、風の国物語』 富士見書房〈富士見ファンタジア文庫〉、全13巻
- 「戦竜在野」2007年10月25日初版発行(10月20日発売)、ISBN 978-4-8291-1972-3
- 「風焔相撃」2008年1月25日初版発行(1月19日発売)、ISBN 978-4-8291-3253-1
- 「星火燎原」2008年4月25日初版発行(4月19日発売)、ISBN 978-4-8291-3284-5
- 「暗中飛躍」2008年9月25日初版発行(9月20日発売)、ISBN 978-4-8291-3332-3
- 「王女勇躍」2008年11月25日初版発行(11月20日発売)、ISBN 978-4-8291-3353-8
- 「哀鴻遍野」2009年4月25日初版発行(4月18日発売)、ISBN 978-4-8291-3396-5
- 「緑姫憂愁」2009年9月25日初版発行(9月19日発売)、ISBN 978-4-8291-3444-3
- 「孤影落日」2009年11月25日初版発行(11月20日発売)、ISBN 978-4-8291-3461-0
- 「黒王降臨」2010年3月25日初版発行(3月20日発売)、ISBN 978-4-8291-3503-7
- 「英雄再起」2010年7月25日初版発行(7月17日発売)、ISBN 978-4-8291-3543-3
- 「王都動乱」2010年11月25日初版発行(11月20日発売)、ISBN 978-4-8291-3583-9
- 「傑士相求」2011年4月25日初版発行(4月20日発売)、ISBN 978-4-8291-3627-0
- 「英傑雄途」2011年9月20日初版発行(9月17日発売)、ISBN 978-4-8291-3681-2
カードゲーム
- プロジェクト レヴォリューション - ブロッコリーと富士見書房制作のカードゲームに作品が参加し、富士見書房3.0に収録。