無面目・太公望伝
以下はWikipediaより引用
要約
『無面目・太公望伝』(むめんもく・たいこうぼうでん)は、1989年8月、のち2001年12月20日に潮出版社から刊行された諸星大二郎の中編漫画作品集である。収録作の「無面目」「太公望伝」は、ともに中国古典をモチーフとした作品であり、前者は前漢の武帝時代、後者は殷王朝末期を舞台としている。
潮出版社から自選作品集『諸星大二郎スペシャルセレクション』(2015年 - )が刊行された際、「無面目」と「太公望伝」はそれぞれを表題作とする別の巻に収録されている。
無面目
作者があとがきで記しているように、欒大(英語版)と江充が登場する時代は実際には離れている。
あらすじ(無面目)
『荘子』應帝王篇に登場する「渾敦」(混沌)を主人公にし、前漢・武帝時代の「巫蠱の大獄」事件をからめている。
神の南極老人と仙人の東方朔は、ある日碁を打ちながら、天地開闢のことについて論じていたが、結論が出ない。そして天地開闢の頃から瞑想に耽っている天窮山の無面目(本名は混沌)に聞いてみようという話になるが、当の混沌には目鼻耳口が無く、尋ねることができない。そこで東方朔は戯れに、武帝に仕える方士の一人である五利将軍・欒大をモデルに顔を描いてみたところ、描いた顔が実物となって話ができるようになった。瞑想の神であった混沌は、顔を得て2人と話すうちに外界に興味を覚え、人間界へと下ってしまう。
人間界の事情をよく知らない混沌は図らずも無銭飲食を行い、下級役人に捕らえられるが、上司の江充は彼が欒大(英語版)にそっくりなことと、(神ゆえの)不思議な能力に驚く。たまたまそれを知った公孫敬声が身柄を引き取り、父親の公孫賀と皇太子に引き合わせる。当時の漢の宮廷では、皇太子一派と李延年・李広利兄弟の抗争の最中であった。皇太子一派は李兄弟と親しい欒大を捕え、これを顔がそっくりな混沌とすり替えて、李一派に対するスパイとして送り込んだ。混沌が神とは知らず、ただの記憶喪失の浮浪者だと思っている皇太子一派は、武帝お気に入りの方士である欒大とすり替わればよい暮らしができるとして、混沌を手なづけたつもりであった。
だが、神である混沌は皇太子一派の思惑など意に介さず、人間界の宮廷抗争をゲーム感覚で楽しんでいた。神の力を使って(インチキ方士である)欒大以上の奇跡を武帝に披露した混沌は、楽通侯に出世する。やがて自分を取り立てた皇太子一派が邪魔になり、江充の野心を利用して巫蠱の大獄を起こし、公孫賀・敬声父子を陥れ、さらには皇太子まで陥れようとする。江充は混沌に利用されていることを自覚しながらも、死んだと思われた本物の欒大の身柄を押さえており、主導権を握ったつもりでいたが、人間界の抗争をゲーム感覚で楽しむ混沌は意に介しなかった。だが欒大の邸に仕える侍女・麗華への愛が余裕を失わせ、混沌は死を恐れるようになった。追い詰められた皇太子が軍勢を率いて蜂起し、江充と本物の欒大は殺害されるが、そのさなかに混沌と麗華は長安を脱出した。
長安を脱出した混沌は李小と名乗り、いち農民として麗華と暮らし、人間としてささやかな幸福を得るうち、神であった頃の記憶をなくしてしまう。東方朔は混沌の身を案じていて、長安にいて政争を楽しんでいた頃から何とか神としての記憶を取り戻そうと努めるが、徒労に終わった。やがて麗華は寿命により亡くなり、混沌はかつての自分に戻ろうとするが果たせず、自らの目鼻耳口を潰して(不死である神にもかかわらず)死んでしまう。混沌の死を悲しんだ南極老人と東方朔は、混沌と麗華の間に生まれた顔のない子を引き取り、李阿と名付けて顔を描いてやる。
登場人物(無面目)
混沌
東方朔
南極老人
欒大(英語版)
史実では武帝の寵愛を受け紀元前113年に楽通侯となったものの、翌紀元前112年に処刑されており、江充の巫蠱の獄(紀元前91年)の頃とは時期が異なるが、作者が欒大に特に興味を覚えたので、あえて登場させたとのこと。作者の別の作品(『諸怪志異』)においても登場しているが、容姿も立場も全く異なる。
武帝
劉拠(戻太子)
公孫賀
公孫敬声
江充
李広利
李延年
朱安世
麗華
李阿
太公望伝
あらすじ(太公望伝)
殷王朝では、異民族である羌を捕らえて奴隷とし、生け贄として捧げていた。呂の地の出身の羌人・尚(シアン)、すなわち呂尚もそのひとりであった。いずれ生け贄として殺されることを恐れた彼は仲間たちと脱走を試み、王である帝乙が落雷で事故死したこともあり(史実では武乙の逸話)何とか脱出に成功する。周の地まで逃れ、餓死寸前の所で神に導かれ不思議な体験をする。鈎がなく餌もついていない釣り針だけの竿で、巨大な鯉を釣り上げ命をつないだのだ。
その後、各地を放浪した呂尚であったが、常に殷での死の恐怖と、周での不思議な体験が、彼の頭を離れなかった。同じく羌出身の奴隷で一緒に脱出した宋異人の世話で、殷の領内で農民として新たな生活を送り、家族をもうけ、文字や卜占の知識も得る。しかしその生活に馴染めず、妻とは離婚し、子供を宋異人に託し、再び放浪の旅に出る。
伯夷・叔斉の知己を得て孤竹国の武将・子良に仕え、殷で覚えた卜占(実は呂尚自身の軍略の才能)によって狐竹国に勝利をもたらずが、それにより殷に脅威を抱かせる結果となった。子良が病死したこともあり、呂尚は追われるように狐竹国を出ることとなる。殷の敵対者として名が知られたため、姜子牙と名を変えて旅を続け、殷と敵対した斉国に軍師として招かれ勝利をもたらすが、斉王の器量に失望して見限る。
40年の放浪の末に呂尚がたどり着いたのは、かつて不思議な体験をして魚を釣った周の渭水のほとりであった。そこでかつてのように鈎なく餌もつけない針の釣り竿を垂れながら思索を続けた呂尚は、今まで自分が追い求めていたのは、かつての生け贄の体験からの死の恐怖、その他もろもろの束縛から解放する自由であり、それこそが魚を釣り上げた時の爽快感の正体だと気づいた。
一方、周の文王は領内を視察の最中であった。殷は紂王の暴虐甚だしく、今こそ討つ時だとわかっていたが、文王は「父・太公が望んだ広い視野と知識を持つ人間」が必要であるとして、踏み切れないでいた。そんな文王の目に止まったのは、井戸掘りをしている武吉たちであった。話を聞くと、鈎のない針で釣りをする老人が、井戸を掘る場所を教えてくれたという。
自然の中に身を委ねたた呂尚は、自分も神も自然の一部、自然を通じて自分は神とつながっていることを自覚した。そんな彼の前にかつての謎の神が現れた。その神の正体は"自分自身"であった。そんな呂尚のところに文王が訪れ、この物語は終わる。
登場人物(太公望伝)
呂尚
帝乙
殷の紂王
妲己
宋異人
馬氏の女
彭祖
伯夷・叔斉
子良
斉の君主
太公
周の西伯
老年に至って、殷の堕落と周の国力増大から殷を討つことを考えるが、踏み切れないでいた。呂尚と再会し、その時の会話から呂尚を「太公が望んでいた人だ」と評した。
武吉
初出
- 無面目 - 『月刊コミックトム』1988年9月号、1989年3月号(潮出版社)
- 太公望伝 - 『月刊コミックトム』1987年11月号 - 1988年3月号(潮出版社)
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