犬神家の一族
以下はWikipediaより引用
要約
『犬神家の一族』(いぬがみけのいちぞく)は、横溝正史の長編推理小説。「金田一耕助シリーズ」の一つ。
横溝作品としては最も映像化回数が多い作品で、映画が3本、テレビドラマが8作品公開されており、特に市川崑監督による1976年公開の映画版は、メディアによって「日本映画の金字塔」と称されることもある。
概要
雑誌『キング』に1950年1月号から1951年5月号まで掲載された作品。『獄門島』のように殺人に一つひとつ意味を付与して欲しいとの編集サイドからの注文に応じ、家宝の「斧、琴、菊(よき、こと、きく)」による見立て殺人が考案された。
登場人物(犬神梅子の家族)節で後述のとおり連載前の予告で犬神家は東京と信州と瀬戸内海の一孤島に分かれていると設定されていた以外にも、草稿段階では佐兵衛の名前が「嘉門」→「佐兵衛」→「庄兵衛」、3人の子どもの名前が「太郎・次郎・三郎」→「佐助・幸次郎・荘三」→「寅彦・辰彦・午彦」→「庄太・庄二・庄三」→「虎之助・庄次郎・章吉」→「きし・みね・はま」、孫の名前が「兵蔵・(空白)・静馬」→「兵蔵・周平・静馬」→「申彦・酉彦・戌彦」→「清彦・文彦・智彦」→「武彦・文彦・智彦」と際立った変化があるのをはじめ、当初孫に設定されていた静馬が孫から外され、のちに「庄兵衛」と「梅乃」(菊乃の連載時名)との間にできた子どもの名前として復活して連載作品の設定に近づいていくなど、実際に掲載されるまでには夥しい構想の変化があった。
当時、横溝は初回を激賞した編集長から「作品を3年続けて欲しい」と要望されたものの、それだけの大長編を書く準備がなかったため断らざるをえなかったが、「この言葉には非常にやる気が出た」と後年語っている。
当初は通俗長編であるとして、権田萬治による『日本探偵作家論』(1975年)などに見られるように専門家の評価は低かったが、1976年角川春樹の鶴の一声での映画化と、横溝正史シリーズの第一作としてのテレビドラマ化とで人気が一気にあがった。また、当初は欠点とされていた犯人とトリック全体の関連性なども、むしろ時代の先取りとして評価する声も少なくない。作品中の犯人の「無作為の作為」が田中潤司をはじめ推理小説研究家の間で見直され、田中は「金田一もの」のベスト5を選出した中で、本作を『獄門島』『本陣殺人事件』に次いで第3位に挙げている。「東西ミステリーベスト100」(『週刊文春』)2012年版国内編で、本作品は39位に選出されている。
本作の映画化を皮切りに、旧作が次々に映画化、復刊された。作者はこのとき70歳を過ぎていたが、世間の期待に応えるように旺盛に新作を発表し、1981年に没する直前まで書き続けた。
本作をモチーフにしたキャラクターや演出は後年に渡って広く知られ、漫画、アニメ、ゲーム、ドラマなどさまざまなメディアで数多く制作されている。それらの中には、「ゴムマスクを着用した佐清の容姿や名称」「大股開きで逆さまになって下半身だけ露出した死体」「犬神家をもじった名称の一族による遺産騒動」などの共通性を持つものが多い。
あらすじ
昭和20年代のとある年(具体的な年が分からない点は後述)の2月、那須湖畔の本宅で信州財界の大物・犬神佐兵衛(いぬがみさへえ)が裸一貫の身から興した製糸業で築いた莫大な財産を残し、家族に見守られながら他界した。その遺産の配当や事業相続者を記した遺言状は、一族全員が揃った場で発表されることになっており、長女松子の一人息子佐清(すけきよ)の戦地からの復員を待つところとなっていた。佐兵衛は生涯に渡って正妻を持たず、それぞれ母親の違う娘が3人、皆婿養子をとり、さらにそれぞれに息子が1人ずついたが、お互いが反目し合っていた。
同年10月、金田一耕助は東京から単身で犬神家の本宅のある那須湖畔を訪れた。犬神家の顧問弁護士を務める古館恭三の法律事務所に勤務する若林豊一郎から、「近頃、犬神家に容易ならざる事態が起こりそうなので調査して欲しい」との手紙を受け取ったためであった。那須ホテルを宿泊拠点とした金田一は、湖畔から犬神家の豪邸を望んでいたところ、犬神家に寄寓している野々宮珠世の乗っているボートが沈みかかっているのを目撃し、犬神家の下男の猿蔵とともに珠世を救出する。ボートには穴が開けられており、猿蔵の語るところによると、珠世が何者かに狙われたのはこれで3度目だという。その後、金田一がホテルに戻ったところ、若林が何者かによって毒殺されていた。知らせを聞いて駆けつけた古館の語るところによると、どうやら若林は犬神家の誰かに買収されて、法律事務所の金庫に保管している佐兵衛の遺言状を盗み見てしまったらしい。先行きに不安を感じる古館の依頼で、金田一は犬神家の遺産相続に立ち会うこととなった。
そんな中、ビルマの戦いで顔に大怪我を負いゴムマスクを被った姿で佐清が復員した。佐兵衛の遺言状は古館弁護士によって耕助の立ち会いのもと公開されることになるが、その内容は
「全相続権を示す犬神家の家宝“斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)”の三つを、野々宮珠世(佐兵衛の終世の恩人たる野々宮大弐の唯一の血縁、大弐の孫娘)が佐清、佐武、佐智の佐兵衛の3人の孫息子の中から配偶者を選ぶことを条件に、珠世に与えるものとする」
というものであった。さらに、珠世が相続権を失うか死んだ場合、犬神家の財産は5等分され3人の孫息子は各5分の1ずつを相続し、残り5分の2を佐兵衛の愛人・青沼菊乃の息子の青沼静馬が相続することを聞き及んで、3姉妹の憎悪と怒りは頂点に達する。
こうして3姉妹の仲はいよいよ険悪となり、珠世の愛を勝ち得んとしての争いが始まる一方、佐清は偽者の嫌疑をかけられ、手形(指紋)確認を迫られるが、松子がこれを拒否する。
そんな中、佐武が生首を「菊」人形として飾られて惨殺されると、一転して佐清が手形確認に応じ、佐清本人であることが確認される。同じころ、下那須の旅館に顔を隠した復員服の男が宿泊し、べっとりと血の付いた手ぬぐいを残して立ち去っていた。そして、佐武の通夜の後、珠世の寝室から復員服の男が現れ猿蔵ともみ合った後、逃走する。
その後、佐智が珠世を襲おうとして失敗した後、何者かに首を絞められて殺される。そして、その首に「琴」糸が巻き付けられていたことを聞いた松子、梅子、竹子の3姉妹は、家宝の斧・琴・菊と、佐兵衛の愛人・青沼菊乃とその息子の静馬にまつわる秘密を明かす。30年前、佐兵衛が菊乃に入れ込んだ挙句、犬神家の家宝の斧・琴・菊を渡してしまい、さらに菊乃が男児を出産したことを知った3姉妹は菊乃を襲撃した。3姉妹は彼女を激しく折檻した挙句、赤ん坊の尻に焼け火箸をあてがい、遂に観念して斧・琴・菊を差し出す菊乃に対し、さらに赤ん坊は佐兵衛の子どもではなく情夫の子どもであると無理やり一札書かせた。しかし、菊乃は「いつかこの仕返しをせずにはおかぬ。いまにその斧、琴、菊がおまえたちの身にむくいるのじゃ。」と言い放ったのだという。
事件の発生年について
本作の事件の発生年は、冒頭に「昭和二十×年」と記載されている以外には詳述されていないが、登場人物の年齢は以下に示すように1949年(昭和24年)を基準に設定されている。
- 野々宮珠世は1924年(大正13年)生まれで事件当時は26歳。
- 犬神佐清は奉納手形に「昭和18年 23歳、酉年の男」と書き記しており、事件当時は29歳。
- 犬神佐兵衛は17歳のときに野々宮大弐に保護され、事件が起きる半年前の2月に81歳で死去している。これだけでは年代を特定できないが、出会ったときに42歳であった野々宮大弐が1911年(明治44年)に68歳で死去しているので、佐兵衛と大弐の邂逅は1885年(明治18年)だったことがわかる。つまり、佐兵衛が81歳で死亡したのは1949年(昭和24年)となる。
注:登場人物の年齢は数え年である。
しかし、1949年(昭和24年)説では以下のような問題が生じることが指摘されている。
- 佐清と静馬がいたビルマについては、1947年(昭和22年)に復員が進み、朝日新聞が8月27日に「南方残留同胞の引揚は目下着々と進み…最近の消息によると、ビルマ地区はほとんど完了…」、10月30日には「東南アジアには今や日本人は1人も残留していない」と伝えているなど、1949年(昭和24年)としては復員状況が不自然である。
- 岡山県で発生した『鴉』事件と時期(11月5日 - 8日)が重複する。
また、本作は一個人の遺言状が惨劇を引き起こす物語となっているが、この遺言状の法的効力については種々の問題点が指摘されており、特に民法の遺留分制度の前提となる法定相続分が1947年(昭和22年)に施行された日本国憲法の下で改正されたことにより問題が大きくなったことが、事件発生年の特定に重要と考えられている。改正民法は1948年(昭和23年)1月1日に施行(その趣旨の一部は応急措置法により1947年(昭和22年)5月3日に施行)されており、法的問題が大きくなるのはそれ以降の事件と設定した場合である。特に問題になるのは、改正後の民法では「家督相続」が廃止されて「遺産相続」のみとなったため、佐兵衛の子(子が死亡している場合は孫)全員に遺留分が発生して、「全額を渡す」という遺言状の趣旨がそれに抵触することである。
ただし、旧民法の場合でも戸主の財産は法定推定家督相続人(前戸主の直系卑属)が全額相続することが最優先され(明治民法970条)、これは血縁関係・性別・嫡出か否か・年齢で1人が自動的に決定され、故人の遺言は無視されるため、そもそも本作のような状況にならないという問題が指摘されている。もっとも、佐兵衛に生前認知された子が無い場合には、旧民法979条の規定により法定推定家督相続人が存在しないことになり、遺言状で遺産すべてを特定の人物に渡すことも可能になる。
映像化作品では、1976年版が冒頭で「昭和二十二年」(1947年)とのテロップを出し、1977年版、1994年版、2004年版、2006年版がこの設定を踏襲している。これについて1976年版監督の市川崑は「時代設定を原作のままの昭和二十二年にした」とパンフレットで述べているが、市川が原作の設定を「昭和22年」と認識した根拠は不明である。1990年版は1949年(昭和24年)の設定であり、2018年版と2020年版は年を表示していない。2023年版も年が不明だが、3姉妹が戸籍上は親族ではないという旧民法で法定推定家督相続人が生じない設定にしており、台詞にもわざわざ「現行の法律では」とあることから、この問題を意識している可能性が考えられる。なお、1970年版の『蒼いけものたち』は基本設定が大きく異なり、放送当時の1970年頃が舞台となっている。
登場人物
犬神家
犬神松子の家族
犬神 佐清(いぬがみ すけきよ)
犬神竹子の家族
犬神 佐武(いぬがみ すけたけ)
犬神梅子の家族
犬神 梅子(いぬがみ うめこ)
野々宮家
野々宮 珠世(ののみや たまよ)
野々宮 晴世(ののみや はるよ)
青沼家
青沼 菊乃(あおぬま きくの)
青沼 静馬(あおぬま しずま)
菊乃と佐兵衛の息子。富山にある母の遠縁の津田家に養子に出されており、戸籍名は津田静馬。年齢は甥・佐清と同じ29歳。
津田家から中学に通い、卒業後就職。21歳で徴兵され、その後数度の除隊と応召を繰り返す。その後の消息は不明だった。ビルマの別の部隊にいた自分とよく似ているという佐清の存在を知り、対面すると意気投合し友人となる。
後、戦場で佐清の部隊が全滅したことを知ると、佐清が死んだと思い、また自身も顔に深い火傷を負ってしまう。
母を襲撃した自身の異母姉であり佐清の母、松子のことは根深く恨んでおり、顔の怪我を利用して佐清になりすまし犬神家の財産を手に入れることで復讐しようと画策する。
元々は穏やかな性格であったが、戦場であらゆる状況に対する判断能力や知恵を身につけており、松子の殺人を復讐に利用するよう見立て、またマスクを利用して佐清と巧みに入れ替わり奉納手形の照合を切り抜ける等、機転が利く。
自身の姪にあたる珠世との結婚を拒み、守るべき一線は守り、また香琴が母・菊乃であることに気付いており、思い遣りを見せる等母思いな面を持つ。
系譜
某 | |||||||||||||||||||||||
犬神佐清 | |||||||||||||||||||||||
犬神松子 | |||||||||||||||||||||||
寅之助 | 犬神佐武 | ||||||||||||||||||||||
犬神佐兵衛 | 犬神竹子 | 犬神小夜子 | |||||||||||||||||||||
幸吉 | |||||||||||||||||||||||
犬神佐智 | |||||||||||||||||||||||
犬神梅子 | |||||||||||||||||||||||
青沼静馬 | |||||||||||||||||||||||
青沼菊乃 | |||||||||||||||||||||||
野々宮大弐 | |||||||||||||||||||||||
野々宮祝子 | 野々宮珠世 | ||||||||||||||||||||||
晴世 | |||||||||||||||||||||||
その他の関係者
古館 恭三(ふるだて きょうぞう)
宮川 香琴(みやがわ こうきん)
連載時との変更点について
本作の初単行本化は1951年(昭和26年)5月に講談社から『傑作長編小説全集5』として『八つ墓村』と同時収録されたものだが、この際に連載時から以下の点が修正されている。
- 猿蔵の口調:「標準語→方言」と変更。
- 宮川香琴の本名:「梅乃→菊乃」と変更。
- 「疑惑の猿蔵」の章→「仮面の佐清の件が全国に報じられた説明」があったのを削除。
- 「優しき小夜子」の章→「被害者が縛られていた」状況を加筆。
- 「珠世の素性」の章→「猿蔵の素性」について加筆。
- 終章全般→描写を細やかにする。
映像化作品(共通事項)
映像作品(特に1976年版映画)での「波立つ水面から突き出た足」のシーンが有名であるが、原作では季節が初冬で湖面は凍った状態、死体はパジャマを着たまま、湖に突っ込んでいるのはヘソから上であり、この通りに映像化されているのは2020年版と2023年版のテレビドラマのみである。「斧、琴、菊」の見立て殺人の最後に残った「斧(ヨキ)」について、原作では屋敷から斧やそれに類する道具が一切処分されていたため、犯人は佐清(スケキヨ)を絞殺した後、さかさまにして下半身だけを見せることによって「ヨキ(ケス)」を表現している(この判じ物はすぐに金田一によって解かれている)。しかし、映像化作品では、初期の1954年版映画と1970年版テレビドラマを除く全作品で湖から脚が突き出ている情景を描写しているにもかかわらず、その半数近くで「判じ物」を説明していない。そのうち知名度が高い1976年版映画(および2006年のリメイク)では原作の設定を無視して斧を殺害の凶器とし、そもそも「判じ物」が不要であり死体を湖に倒立させた理由が不明である。2023年版テレビドラマでも死体に斧を添えており同様である。また、1977年版テレビドラマでは、斧を殺害の凶器としたため必要性が無くなっている「判じ物」を死体に「スケキヨ」と書くことによって明示し、「斧」の提示を重複させている。
佐清のゴムマスクは、原作では美男子だった佐清の顔をそのまま写したもので、視力の衰えた宮川香琴が初めて見たときすぐさま仮面とは分からなかったという描写があり、1970年版テレビドラマではその描写に従っているが、1976年版映画で頭から首まですっぽり覆うものに変更され、この変更がその後の映像化(2020年版テレビドラマを除く)でも踏襲されている。また、原作における製作経緯や上述の描写からはマスクは自然な肌の色と推測できる(佐智殺害後の描写に「白い仮面」とあるが「白っぽい」意味と考えられる)が、映像作品では真っ白なマスクとしていることが多い。なお、1954年版映画ではずっと頭巾をかぶっている。
原作の重要なトリックの1つに佐智が監禁場所から自力脱出し殺害後に戻されたというものがあるが、映像作品で採用しているのは1970年版、2004年版、2020年版、2023年版のテレビドラマのみである(1977年版テレビドラマは監禁場所で殺害、他は死体発見場所が異なる)。
宮川香琴は原作では実は青沼菊乃と同一人物であり、佐清になりすました静馬が母親だと気付いて気遣う展開があるが、この設定を維持している映像化は無い。菊乃は、1970年版テレビドラマの後半で正体を隠さずに登場し2018年版と2020年版のテレビドラマで消息が語られないのを除いて、事件以前に死亡している設定である。香琴は映像化作品の半数程度に登場するが、1990年版テレビドラマで菊乃の妹という設定になっているのを除いて、菊乃とは特に関係のない人物である。
原作では珠世が佐兵衛の実の孫という事実を大山神主が無節操に暴露し、それによって珠世が自分の姪だと知った静馬が結婚を目指せなくなり、松子が仮面の男が静馬だと気付く契機になっている。しかし、この設定を維持している映像化は、原作を短編に圧縮する構成とした2020年版テレビドラマでの「暴露」の部分のみである。映像化作品の半数程度で実の孫という設定を排除しており、排除していない他の作品でも金田一や古館ら少数の登場人物が知るのみで静馬が事実を知る展開にはならない。
原作の印象的な場面の1つに、佐清が犯人は自分であると印象づけるために雪山で警官隊と銃撃戦を演じたあと自殺を図るというものがあるが、1度も映像化されていない。雪山という状況を排した銃撃戦も初期の1954年版映画や1970年版テレビドラマのみであり、他で相当する場面は2018年版テレビドラマで銃撃戦を経ずに佐清が拳銃で自殺を図っているのみである。なお、2023年版テレビドラマでは、潜伏していた佐清に佐智が強姦を阻止された廃屋が存在する場所の地名が原作における雪山の名である「雪ヶ峰」になっているが、雪山ではないし、佐清が警官隊に一方的に発砲する場面があるものの銃撃戦にはなっていない。
映画
1954年版
『犬神家の謎 悪魔は踊る』は1954年8月10日に公開された。東映、監督は渡辺邦男、主演は片岡千恵蔵。
1976年版
1976年10月16日に公開された。角川春樹事務所、監督は市川崑、主演は石坂浩二。
1980年代にかけて一世を風靡することになる角川春樹事務所の第1回映像作品であり、金田一耕助を初めて原作どおりの着物姿で登場させたことでも知られる。
2006年版
2006年12月16日に公開された。東宝、監督は市川崑、主演は石坂浩二。
1976年版と同一の監督・主演によって30年ぶりにリメイクされたものである。
テレビドラマ
1970年版
『蒼いけものたち』は、日本テレビ系列の「火曜日の女シリーズ」(毎週火曜日21時30分 - 22時26分)で1970年8月25日から9月29日まで放送された(全6回)。
基本設定を大きく変えているため原作通りでない部分が多いが、個々の場面の情景を細かく再現しようとしている。「斧琴菊」に相当する「見立て」は無いが、犯行手順に関するトリックは基本的に原作通りである。原作通りの指紋確認のほか、胸の痣を確認するためにもう1回、仮面の男の実体が入れ替わる。
- 金田一は登場せず、登場人物の氏名は多くが変更されており、特に苗字が原作通りの人物は無い。3姉妹は「松竹梅」から「雪月花」に変更されている。弁護士・館野(原作の古館)が金田一の役割の多くを担っている。
- 時代を制作当時に設定し、舞台を東京都の山間部に存在する設定と思われる「新多摩町」に変更している。
- 美矢子(原作の珠世)が東京の裏町で小学4年生の弟・武と二人で暮らしていたところ、館野の訪問を受け、25年前の東京空襲のときに亡父に助けられたという土地成り金の老人・富岡佐兵衛の遺言状開示に出席するよう求められる。遺言状には3人の孫、清文、武臣、智和のうちの1人との結婚を条件に遺産が譲られるとあった。選択期限は原作より短い1箇月である。
- 3姉妹は遺産獲得に執念を燃やすが、3人の孫は冷静に構えている。
- 三枝菊乃(原作の青沼菊乃)を佐兵衛がいつのまにか正式の妻にしていたため、美矢子が相続権を失った場合に当時の民法の規定(庶出子の法定相続分は嫡出子の半分)により原作通り修平(原作の静馬)が他に倍する遺産を得ることになる設定としている。
- 清文(原作の佐清)は、報道カメラマンとしてカンボジア内戦を取材中にゲリラに誘拐されて顔を負傷したためゴムマスクをかぶっているという設定になっている。ゴムマスクは眉毛まで生えている肌色のもので一見すると仮面とはわからない(原作と同様)。
- 武臣(原作の佐武)は蝶の研究者で武と意気投合する。研究のために遺産が欲しいと正直に打ち明ける武臣に美矢子は好意を持つが、最初に殺害されてしまう。
- 智和(原作の佐智)は職場が美矢子と隣同士だったことが判明する。美矢子が着替えを取りに東京へ戻るとき智和も東京に用件があって同道する展開がある。以前から「恋人未満」の関係だった富岡家の女中・小夜子は、廃屋(山小屋)で美矢子が待っていると偽って智和を呼び出し関係を迫ったうえ、脳震盪を起こした智和を柱に縛りつけて、3姉妹が美矢子に配偶者選択を迫る場に参加させないようにする。しかし、縛りつけた場所で智和の死体が発見され、小夜子は後追い自殺する。
- 清文はカンボジアでの誘拐の経緯からスパイ容疑をかけられ、軍用機で帰国し在日米軍基地から脱走していたため大っぴらに行動できなかった。
- 原作と違って清文と美矢子には元々の接点が無いため、最後は清文が結婚を拒絶することにより美矢子が配偶者を選ぶ義務から解放される。ラストシーンは館野と美矢子が結ばれることを匂わせる演出で終わる。
キャスト
※「水川」の読みは「みなかわ」
スタッフ
1977年版
『横溝正史シリーズI・犬神家の一族』は、毎日放送(MBSテレビ)と角川春樹事務所(旧法人)の共同企画、大映京都の製作によりTBS系列で1977年4月2日から4月30日まで毎週土曜日22時 - 22時55分に放送された。
テレビドラマ版において金田一耕助を最も多く演じている古谷一行が初めて金田一役を演じたのが本作であり、初放映時の最高視聴率は40.2パーセントであった。
CMに移る前に「よき、こと、きく…」と佐兵衛仏前の紋章の画面になる。また各回の終わりに金田一耕助がコケるシーンになる。
概ね原作通りに進行するが、いくつかの要素が省略されている一方で、原作に無い(原作と積極的には矛盾しない)細かい設定(会話のやりとりなど)が多数追加されている。原作からの主な変更点は以下の通りである。
- 青沼菊乃は病死していると判明しており、宮川香琴は全く登場しない。3姉妹が青沼菊乃を襲撃したとき静馬は記憶が明確に残る程度にまで成長しており、梅子が静馬を押さえつけて松子が胸に火傷を負わせる。
- 金田一は若林を訪ねてまず古館の事務所を訪れ、古館の紹介で那須ホテルへ宿泊しており、若林殺害後には警察へ連行される前に那須ホテルの女中に若林の手紙を古館へ届けさせていた。そのため、古館は早い段階で金田一のことを把握している。
- 金田一が最初に珠世を見たときボート上では事故は起こらず、猿蔵が運転する自動車で帰ろうとした途端にブレーキ故障で事故となり、金田一が駆けつける。このとき猿蔵は事故が3回目で、うち1回は原作通り「寝室の蝮」だと発言しているが、残る1回の内容は判らない。
- 家宝はそれ自体が斧琴菊の形ではなく、斧琴菊が彫刻されている。
- 佐清(静馬)のゴムマスクは白色で、佐清の顔ではなく能面を模した物になっている。
- 佐清(静馬)は通常は手袋をしており、時計を触るときには手袋越しでは巧くいかず手袋を外した。
- 佐武の胴体はボートに載せられた状態で発見され、大量の菊で飾られていた。
- 佐清は佐智に顔を見られてしまったため静馬に殺害を命じられる。しかし旧宅へ戻ったところ、松子が拘束されている佐智を絞殺してしまった(松子が旧宅へ行った理由や松子自身のアリバイが成立した理由は不明)。そのため佐清は琴糸を巻きつける工作のみを行ったが、動転して佐智の位置を変えてしまい、絞殺の際にかぶせていた上着も元に戻し忘れた。なお、佐智が一旦自力で脱出して本宅へ戻る設定は無い。
- 猿蔵は珠世の不在に気付いて旧宅まで探しに行って発見しており、佐清からの連絡があったわけではない。猿蔵が佐智を置き去りにして珠世を連れ帰ったことが判明したあと、旧宅へは梅子や珠世も同行した。小夜子が発狂する設定は無い。
- 3姉妹の母親たちの部屋(佐兵衛の死まで開かずの間になっていた)が描写されている。松子が自分の母の寝室で佐兵衛が苦手としていた麝香を能面に焚き染め、その能面を犯行時に着用していたため、佐智殺害現場の上着にも麝香の匂いが残っていた。
- 佐清と静馬は同一小隊に居た設定である。佐清は将校ではなく下士官だったが、結果的に負傷した静馬を置き去りにする形になってしまい、それも負い目になっていた。
- 大山神主は佐兵衛の過去を悲劇拡大防止のために確認したいという金田一と古館の強い依頼で封印を解き、大山自身も文書の内容を初めて見る。原作通り珠世が佐兵衛の孫であることが判明するが、それは公表されない。したがって、静馬が珠世と叔父姪の関係と知って結婚を目指せなくなり窮する設定も無く、佐清との結婚を迫る松子に対して珠世が佐清(静馬)に対する漠然とした違和感を理由に回答を保留する展開となる。不安を抱いた松子は佐清(静馬)の背嚢を探って青沼菊乃の写真を所持していることを知り、持ち出して佐兵衛の遺影の前で焼き捨てる。そのあと静馬が松子に屈服を迫って斧で殺害される。遺体には「スケキヨ」の文字が書かれて「ヨキケス」の見立てが解りやすくなっていた。
- 佐清は松子の舞を珠世が見ているところへ現れ、その直後に逮捕される。派手な雪中逃走劇は展開していない。
- 松子は犯行を認めたあと支度をするといって自室に戻り、誰にも見られずに毒煙草で自殺した。
キャスト
1990年版
『横溝正史傑作サスペンス・犬神家の一族』は、テレビ朝日系列で1990年3月27日の火曜日19時2分 - 21時48分に放送された。
本作の金田一は、白いスーツにハンチング帽、丸メガネという出で立ちで、池田明子という“助手”を連れている。
- 昭和24年という設定であり、地名が長野県小沢(こざわ)市犬神町となっている。
- 若林は金田一を東京に訪ねて調査を依頼しており、殺害されたときには初対面ではなく単に打ち合わせの予定だった。
- 佐武は指紋や血液型の研究者でイギリス留学の経験があり、佐智は神戸の犬神興産、寅之助は大阪の犬神不動産、幸吉は静岡の犬神製薬研究所を任されている。佐清、佐武、佐智は全員同年齢である。
- 珠世の頭上から多数の斧が落下したり、ボートに開けた穴に琴爪が詰められていたり、殺害された若林の口に菊花が咥えさせられているなど、最初から「斧琴菊」が強調されている。また、佐武は琴糸で絞殺されたうえ斧で首を切られて菊人形になり、佐智は菊花を付けたハサミで刺殺されたうえ斧を刺した木に琴糸で宙吊りになり、いずれも各々に対して「斧琴菊」がまとめて表現されている。
- 佐清は弓の名手であり、珠世が正体を見極める手段とするほか、佐智に拉致された珠世の行方を猿蔵に知らせる際にも弓矢を使っている。
- 佐智はボートに乗って岸近くにいた珠世に自動車で近づき、佐清が死んだと偽って珠世を廃屋へ連れて行ってから殴って昏睡させている。
- 松子は若林殺害時に悪魔の手毬唄風の老婆に変装して毒茶を直接飲ませており、時間差トリックは用いていない。佐智殺害時にも老婆に変装していた。
- 宮川香琴は青沼菊乃本人ではなく妹である。菊乃が静馬を連れて金沢へ移り数年経ってから3姉妹が乗り込んで「斧琴菊」を奪還しており、菊乃はそのときの傷が元で死んだ。香琴は松子に買収されてアリバイ工作(佐武殺害と佐智殺害の両者とも)に協力し、後で暴露することで復讐を果たした。
- 菊乃は古館弁護士の恋人だったのを佐兵衛が奪い、古館は見返りに開業資金を提供されていた。担当の警察関係者も犬神家に恩恵と恨みを併せ持っている。
- 松子は最初から静馬を佐清の偽物と知ったうえで相続権のために受け入れており、竹子や梅子も息子の死よりもそれによる相続権喪失を悲しむなど、3姉妹が財産に執着している。
- 佐清による事後工作は静馬に強いられたわけではなく自分の意志によるもの。静馬は佐清が戦死せず生きていることを最後まで知らず、指紋照合も静馬がマスクを外して入浴している間に佐清が勝手に行っていた。
- 大弐と佐兵衛の男色や、佐兵衛と晴世の公認不倫の設定は無く、したがって珠世が実は佐兵衛の孫という設定も無い。また、静馬の素顔が佐清に瓜二つという設定も無い。
キャスト(エンドクレジット順)
スタッフ
1994年版
『横溝正史シリーズ5・犬神家の一族』は、フジテレビ系列の2時間ドラマ「金曜エンタテイメント」(毎週金曜日21時 - 22時52分)で1994年10月7日に放送された。
舞台は岡山県香賀美市で、野々宮珠世の実家は市内の鏡美神社である。東京に関わるエピソードは全て神戸に変更されている。
- 松子、竹子、梅子は佐兵衛の愛人で犬神姓を名乗れない設定、佐清、佐武、佐智は異母兄弟、珠世も野々宮大弐・晴世の娘である。佐兵衛は晴世に思慕の念を抱いていたものの、珠世が実は佐兵衛の末裔という設定ではない。
- 青沼菊乃は静馬出産後に殺害されていることが冒頭で明示される。犯人不明だったが、正妻の座を狙った菊乃が佐清を誘拐、取り戻そうとした松子の目前で殺害しようとしたため、過剰防衛で殺害した松子の単独犯行であることが終盤で明らかになる。「よきこときく」は佐兵衛が菊乃殺害疑惑を表現したもので、凶器、松子、菊乃を示していた。
- 古舘弁護士は2代にわたる犬神家顧問で、先代の名が古舘恭三、当代は金田一の戦友である。遺言状は内容を知らずに預かっていた。若林は登場しない。
- 佐兵衛の女性関係は無節操だったという設定で、金田一は古舘の紹介で松子に依頼され、佐兵衛の愛人たちに隠し子が無いかどうか調べているうちに事件が発生した。
- 遺言状に青沼静馬の名は出てこず、珠世が相続権を失った場合には財産は国庫帰属、事業は岡山経済同友会で競札することになっている。
- 佐武の首は菊人形にはなっておらず、単に菊の盆栽と並べられていた。
- 佐智は珠世がボートで岸近くに出て寝ているところへ自動車で現れて岸へ呼び、麻酔薬をかがせて工場跡へ連れ込む。猿蔵は佐清がボートに残したメモに従って珠世の救出に向かった。
- 佐智の死体は給水塔の屋根から逆さに吊されていた。
- 佐清になりすましていた静馬は松子の寝こみを襲うが、揉み合っていて頭を撲られて倒れ、戦時自決用の毒薬を無理矢理飲まされた。
- 佐武と佐智の殺害実行犯は静馬で、佐清の犯行と考えた松子が事後処理をしていた。
※「古館」の字体は「古舘」
キャスト
2004年版
『金田一耕助シリーズ・犬神家の一族』は、フジテレビ系列の「プレミアムステージ」(毎週土曜日21時 - 22時54分)で2004年4月3日に放送された。
- 冒頭の「誰も知らない金田一耕助」というドラマオリジナルで、『本陣殺人事件』の冒頭で言及されていた金田一のアメリカ時代のエピソードが描かれた。
- 青沼菊乃は既に死亡しており、宮川香琴とは別人である。
- 1976年の映画版でも描かれた佐清(実際は静馬)のゴムマスクを作る過程の回想シーンが今作でもある他、仮面師が静馬の顔に型を取るための粘土を塗る、それとは別に佐清の写真を基に顔の造形を手掛ける、型が完成すると樹脂を入れて固まる面積を増やすために左右に揺らす、樹脂が固まってゴムマスクが完成すると型から剥がして佐清を模したマスクを裏返すという細かいシーンが不気味に描かれている。
キャスト
スタッフ
2018年版
スペシャルドラマ『犬神家の一族』は、2018年12月24日21時30分 - 23時33分にフジテレビ系列で放送された。
- 大弐と佐兵衛の男色や、佐兵衛と晴世の公認不倫の設定は無く、したがって珠世が実は佐兵衛の孫という設定も無い。
- 原作では明らかでない橘署長と藤崎鑑識課員のフルネームが、テレビ局が公表した登場人物相関図に記載されている。
- 犬神小夜子は登場しない。
- 佐智は岸辺にいた珠世に近づいて手を組むことを持ちかけ、断られると追いかけて麻酔薬を嗅がせ、近くの廃屋へ徒歩で連れ込んで強姦未遂に及ぶ。
- 佐智の死体は殺害場所の近くの木に吊るされていた。
- 青沼静馬は金槌で撲殺され、遺体は珠世が疑われる可能性を松子に指摘された猿蔵が遺棄した。猿蔵は愚者を装っているが、実は「ヨキケス」の見立てを発案できるほどの知恵があった。
- 佐清が警官隊の目前で自殺しようとする展開は原作通りだが大幅に簡略化されており、珠世を「殺す真似」もしていない。自殺を止めたのは猿蔵である。
- 宮川香琴は青沼菊乃とは別人である。
- 佐清が顔を隠して宿屋に泊まる設定がカットされている。
- 静馬の素顔は上唇がなくなってしまっているほど凄まじいものとなっている。
- 静馬は美味い酒と煙草好きという設定になっている。
キャスト
スタッフ
その他
2020年版
『シリーズ横溝正史短編集II「金田一耕助踊る!」犬神家の一族』は、2020年2月1日にNHK BSプレミアムにて29分の短編ドラマとして放送された。
短編とするため大幅に省略しているが、科白を全て原作から抽出した文言としている(ナレーションは用いていない)。しかし、科白に伴う回想シーンを比較的リアルな画面に切り替えているのを除いて、ほぼ全編を1つの座敷内またはその座敷の周辺の空間で、演劇の立ち稽古(読み合わせ)のような形で展開している。服装は原作の人物属性を大袈裟に表現したものになっている。佐清のマスクは演じる俳優の頭部を正確に写した被り物で、単に異様に大きくすることでマスクだと判るようにしている。
犬神家一族の者は最初から最後まで同じ位置で立って発言するのを基本とし、佐武はその場で首と菊人形の胴体に、佐智はその場で椅子に縛り付けられた死体に、静馬はその場で盥(湖の代わり)から突き出た2本の足になる。佐智は元々珠世の隣にいて、単にクローズアップされた状況で昏睡させ、その場の足元で横になって強姦未遂に及ぶ。小夜子は一言も発言せず、特に後半では発狂した様子を黙々と演じ続けている。
金田一、橘署長ら警察関係者、古館弁護士は、一族の者の間や周囲を動き回る。大山神主、猿蔵、柏屋の亭主と女中は必要に応じて書院の窓の外から発言し、あるいは窓から入ってくる。青沼菊乃は回想シーンのみに登場し、宮川香琴としての登場部分は省略されている。若林豊一郎は遺言状の写しを入手したことと殺害されたこととを1つの回想シーンで表現しているため、原作と矛盾する映像になっている。
キャスト
スタッフ
2023年版
NHKが制作を手掛ける「金田一耕助」シリーズの第4弾として、2023年4月22日・4月29日にNHK BSプレミアム、NHK BS4Kで前・後編仕立てで放送された。24P製作。
小市演じる磯川警部が岡山県警から栄転し那須警察署長に就任して原作の橘署長の役割を果たす設定とし、『獄門島(2016年)』に始まるシリーズ全作に登場(声などのみの登場を含む)することになった。劇中には過去金田一が解決した事件として「本陣殺人事件」に言及がある。
有名な脚のシーンはロケ当日に湖面が凍結し(CGIではない)、原作描写に近い映像が奇跡的に達成された。湖で倒立した死体の脚は原作通りパジャマを着用している。これまでの映像化でたびたび行われた遺体の泥を手荒く洗う場面は、氷を割りながら遺体収容に向かう警官たちの姿に替えられた。斧も併せて発見されており、死体を湖に逆さに立てた理由は説明されない。死体発見は謎解きの後であり、手形が一致せず謎を深める展開にはならない。
佐清のマスクは1976年版映画以来の頭全体を覆うものという設定を踏襲している。家宝はそれ自体が斧琴菊の形ではなく、斧琴菊が彫刻されている(1977年版テレビドラマに近い設定)。宮川香琴は登場するが、登場する他の映像化と同様、青沼菊乃とは別人という設定になっている。
佐智殺害までの事件の流れは概ね原作どおりであるが、以下のような変更がある。
- 3姉妹や孫たちは戸籍上は佐兵衛の親族ではなく、遺言が無ければ相続権が無い。
- 金田一は手形押捺の現場には不在で、佐武の胴体を運んだボートを別のボートで痕跡を追うことによって発見し、電話を借りようと柏屋を訪ねたところ、復員兵の情報を聞いて訪ねていた磯川たちに遭遇する。
- 佐智が廃屋から自力脱出して殺害後に戻されたのは原作通りだが、猿蔵が珠世を救出した時とは明らかに違う、シャツを着用して梁から吊るされた状態で発見される。なお、廃屋は佐兵衛が菊乃を住まわせていた家だった。
- 佐智は遺言公表以前から珠世に色目を使っており、珠世に加えられた初期の危害は小夜子によるもので遺言とは無関係だった。佐智が珠世のボートに近づいて移乗させるところを小夜子が高台から見ており(薬で眠らせるところまでは見ていない)、翌朝に佐智が行方不明と聞いた小夜子は珠世のところへ乗り込み、猿蔵の案内で珠世と共に廃屋へ行って佐智の死体を発見する。
佐智殺害後、佐清は警察に静馬の名で告白文を送り廃屋に放火するが、告白文を見て駆けつけた警察に救出され、火の手を見て猿蔵のボートで金田一と共に駆けつけた珠世が佐清だと確認する。佐清は病院に収容され、顔が判らなくなるようにして静馬として焼死しようとしたと語る。そのころ静馬は行方不明になる。
静馬が行方不明のまま、金田一と磯川が松子だけと真相を語ろうとするが、竹子夫婦と梅子夫婦も押しかけてくる。金田一はまず松子の犯行だけについて語り、そのあと佐清と珠世を呼び入れて佐清に事後工作について語らせる。事後工作は佐清と静馬が対等に協力して行ったという。ビルマ戦線で自分の作戦ミスで大勢の部下を失い静馬にも火傷を負わせた佐清は、その責任感から静馬に自分と入れ替わる権利があると考えたと語る。静馬は母・菊乃を幼時に失って犬神家への恨みも引き継いでおらず、犬神家に入り込んだ目的は復讐でも財産でもなく母親の存在だったという。
3姉妹が菊乃を襲撃したとき松子が静馬に火傷を負わせており、松子はその火傷で静馬の正体に気付いていた。松子が煙草で服毒自殺するのとほぼ同時に静馬の死体が発見されたとの報告が入る。松子が死の間際に珠世に、産まれてくる小夜子(と佐智)の子に財産の半分を分けて欲しいと頼むことはない。
金田一は一旦東京に戻るが、佐清からの事後処理に関する報告の手紙を受け取って再度現地へ向かい、収監中の佐清に疑問をぶつける。火事のとき佐清は告白文を郵送せず子供に使送させており、警察に助けさせるつもりだったのではないか。松子と静馬の各々の愛に付け込んで2人を操って邪魔者を始末させ、最も効果的な場面で正体を現して犬神家の全てを得ようとしたのではないか。しかし、佐清は「(金田一が)病気だ(考えすぎだ)」と言って疑問を否定して去る。
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舞台
劇団ヘロヘロQカムパニー
「劇団ヘロヘロQカムパニー」第34回公演で、金田一シリーズとしては『八つ墓村』『悪魔が来りて笛を吹く』『獄門島』に続く4作目。2017年4月22日~30日に全労済ホール/スペース・ゼロで上演された。
- 一部1976年の映画版の要素があるが、ほぼ原作に忠実に舞台化された作品。
- 盆(回り舞台)や映像を使った大掛かりな舞台装置で、湖や屋敷を再現している。
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新派
新派130年にあたる2018年11月に、特別公演として大阪松竹座と新橋演舞場で上演。大阪松竹座での公演は11月1日から10日、新橋演舞場での公演は同年11月14日から11月25日まで行なわれた。シナリオは原作に忠実で、琴の師匠が重要な鍵を握っており、映画版を見慣れた人も楽しめる内容になっていた。
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スタッフ
漫画
- 犬神家の一族 (作画:つのだじろう、講談社漫画文庫)
- 復員兵という佐清の設定を、火事で火傷を負ったという設定に変更して、現代劇にアレンジしている。また、犬神家が狼を祀る奇怪な宗教を統べる一族であるという、伝奇ホラー風味の味付けがなされている。金田一は洋装でメガネをかけた若干ひょうきんなキャラクターとされているほか、佐清がジーンズ姿であるなど、映画版とはビジュアルイメージが重複しないようにオリジナリティを追求している。
- 犬神家の一族 (作画:いけうち誠一、講談社コミックブックシリーズ)
- 犬神家の一族 (作画:JET、角川書店あすかコミックスDX)
- 犬神家の一族 (作画:長尾文子、秋田書店サスペリアミステリーコミックス)
- 犬神家の一族 (作画:小山田いく、ぶんか社『ホラー・ミステリー』掲載、単行本未刊)
- 復員兵という佐清の設定を、火事で火傷を負ったという設定に変更して、現代劇にアレンジしている。また、犬神家が狼を祀る奇怪な宗教を統べる一族であるという、伝奇ホラー風味の味付けがなされている。金田一は洋装でメガネをかけた若干ひょうきんなキャラクターとされているほか、佐清がジーンズ姿であるなど、映画版とはビジュアルイメージが重複しないようにオリジナリティを追求している。
ゲーム
- 犬神家の一族 (2009年1月22日発売、ニンテンドーDS用、フロム・ソフトウェア)
関連イベント
エキスポランド
関連人物
片倉佐一
その他
- テレビ朝日「火曜ミステリー劇場」の『なんでも屋探偵帳 はりつけ島連続殺人』(1990年)は、本作の犬神家をもじった「大神家」が登場、当主の名前も犬神佐兵衛をもじった“大神右兵衛”となっており、本作のパロディ的な作品となっている。