小説

異人たちとの夏




以下はWikipediaより引用

要約

『異人たちとの夏』(いじんたちとのなつ)は、山田太一の小説。これを基にして同名の映画・演劇作品も製作された。

妻子と別れた人気シナリオライターが体験した、既に亡くなった筈の彼の家族、そして妖しげな年若い恋人との奇妙なふれあいを描く。新潮社によって設立された山本周五郎賞の第1回受賞作品。

『小説新潮』1987年1月号に発表され、同年12月に新潮社より上梓。1991年11月に新潮文庫に収録され、解説を田辺聖子が担当した。

あらすじ

壮年のシナリオライターの原田は妻子と別れ、マンションに一人暮らし。ある日原田は幼い頃に住んでいた浅草で、彼が12歳のときに交通事故死した両親に出会う。原田は早くに死に別れた両親が懐かしく、少年だった頃のようにふたりの元へ通い出す。そして、同じマンションに住む桂という女性にも出会い、不思議な女性だと感じながら彼女と愛し合うようになる。しかし、2つの出会いとともに原田の身体はみるみる衰弱していく。

書誌情報
  • 『異人たちとの夏』1987年12月1日、新潮社、ISBN 978-4-10-360602-4。
  • 『異人たちとの夏』1991年11月28日、新潮社〈新潮文庫〉、ISBN 978-4-101-01816-4。
映画
1988年版

1988年に映画化され、松竹系で公開された。

ケイ(藤野桂)が宙に浮き形相が変わるシーンでは、500万円を費やしてハイビジョンが使用された。

あらすじ(1988年版)

壮年の人気シナリオライターの原田は妻子と別れ、マンションに一人暮らし。ある晩、若いケイという女性が飲みかけのシャンパンを手に部屋を訪ねてきた。「飲みきれないから」という同じマンションの住人である彼女を冷たく追い返す。数日後、原田は幼い頃に住んでいた浅草で、彼が12歳のときに交通事故死した両親に出会う。原田は早くに死に別れた両親が懐かしく、少年だった頃のように両親の元へ通い出す。「ランニングになりな」とか「言ってる先からこぼして」などという言葉に甘える。

原田はそこで、ケイという女性とも出会う。チーズ占いで木炭の灰をまぶしたヤギのチーズを選ぶと、「傲慢な性格」だといわれる。不思議な女性だと感じながら彼女と愛し合うようになる。父とキャッチボールをしたり、母手作りのアイスクリームを食べたり、徐々に素直さを取り戻して行く。両親を失ってから一度も泣いたことはなく、強がって生きてきたのだった。

しかし2つの出会いと共に、原田の身体はみるみる衰弱していく。ケイもまたあの日、チーズナイフで自殺していたのだった。「たとえ妖怪、バケモノでもかまわない。あの楽しさ、嬉しさは忘れられない」というが、別れの時が来る。両親と、浅草の今半別館ですき焼きを食べることになるが、「たくさん食べてよ」といっても、ふたりは微笑むだけだった。

スタッフ(1988年版)
  • 監督:大林宣彦
  • 原作:山田太一
  • 脚本:市川森一
  • 製作者:杉崎重美
  • プロデュース:樋口清
  • 撮影:阪本善尚
  • 美術:薩谷和夫
  • 音楽:篠崎正嗣
  • 録音:島田満
  • 照明:佐久間丈彦
  • 編集:太田和夫
  • 監督助手:松原信吾
  • 特殊メイク:原口智生
  • ハイビジョン技術協力:NHKエンタープライズ、NHKテクニカルサービス
  • 現像:IMAGICA
  • 製作・配給:松竹
出演(1988年版)
  • 原田英雄:風間杜夫、中山吉浩(少年期)
  • 原田英吉:片岡鶴太郎
  • 原田房子:秋吉久美子
  • 藤野桂:名取裕子
  • 間宮一郎:永島敏行
  • 今村綾子:入江若葉(声のみ)
  • TVドラマのキャスト:竹内力、峰岸徹、入江若葉
  • 地下鉄公団職員:栩野幸知
  • 浅草の客引き1:草薙良一
  • 浅草の客引き2:小形雄二
  • 奇術師:北見マキ
  • 落語家:桂米丸、柳家さん吉
  • タクシー運転手:ベンガル
  • 番組台本読み現場のキャスト・スタッフ:峰岸徹、高橋幸宏、松田洋治、時本和也、高城淳一、石丸謙二郎 ほか
  • 川田淳子:川田あつ子
  • マネージャー:明日香尚
  • 打ち合わせするTV局の男:加島潤
  • 歯科医:笹野高史
  • 八つ目うなぎ屋の親爺:本多猪四郎
  • 今半の仲居:角替和枝
  • 今半の下足番:原一平
  • 英雄のマンションの管理人:奥村公延
  • 原田重樹:林泰文
製作(1988年版)

元々、松竹からの大林への発注は夏に観客をぞっとさせるゾンビ映画だった。一人の女がいろんな人を惑わせて、都会のマンションでホラーを描くという薄いシノプシスが松竹から送られてきた。公開時に物議を醸したエンディングのCGはその名残りである。

主人公の父親役は、監督の大林が片岡の江戸弁を気に入り抜擢したもの。大林は鶴太郎がまだ無名だった1978年頃、鶴太郎が劇団未来劇場に出た芝居を観て「エノケン、八波むと志、渥美清の系譜を引く凄い可能性を持った役者だな」と感想を持っていて、その後、鶴太郎がどんどん売れっ子になり、一緒に仕事をする機会を失ったが、この役なら適役と考え、鶴太郎に「あの頃のあなたの味わいでやってもらえないか」とオファーした。ところが原作者の山田が「あんな太ったヤツの寿司は食えない」と反対した。それを聞いた片岡は必死のトレーニングにより減量し、撮影に間に合わせた。

大林は父親役にエノケンをイメージし、主題曲はエノケンの浅草オペラから「リオ・リタ」を起用した。

大林映画には珍しく、名取扮する魔女(ケイ)と風間の大胆なベッドシーンがある。また初期構想では、魔女役は秋吉(実際には主人公の母親役)が演じる予定だった。秋吉は「私は一般的、世間的に“自由奔放、小悪魔”といったイメージの報道のされ方をすることが多いのですが、大林監督の作品では全部違うんです。『異人たちの夏』でも、片岡鶴太郎さんが演じる、すぐに仕事を辞めちゃう、稼がないお父さんの横でケラケラ笑っているような自然体のお母さんの役で。大林監督にとっては『それが君だ』という自信があるんですよね。それでお手紙も頂いたくらい」と、やり取りがあったことも明かし、「この作品で、セクシャリティというのは装うものじゃないんだな、ということと、人が『こういうものがセクシャリティ』と決めつけるものではない。それを教えていただいた」となど話した。秋吉は本来矛盾するはずの母性と色気を放つ母親役を好演した。

映画全体の87パーセントがセットでの撮影。松竹大船撮影所に浅草の佇まいが再現された。撮影は1988年春。

作品の評価(1988年版)
  • 雑誌『シティロード』の封切時の映画批評(★★★★★…ぜったいに見る価値あり! ★★★★…かなり面白かったです ★★★…見て損はないと思うよ ★★…面白さは個人の発見だから ★…どういうふうに見るかだね)。出典:。以下、〔ママ〕
  • 川口敦子「あちらとこちらと思っていたらこちらもやっぱりあちらだった、という設定は“どんな顔”“こんな顔”と安心がたちまち突き崩されるあの“むじな”話的大逆転があってこそ生きてくるんだと思う、とすればびんびんに作り上げたあちらの世界に対し、こちらの世界の自然さがいまひとつで自然でないのがウラメシ~、とはいうものの片岡、秋吉の夏姿はなかなか素敵」(★★★)。
  • 中野翠「地下鉄から奇怪体験に滑り込んでいくところジャック・フィニイの『レベル3』で、あとは『ゲイルズバーグの春を愛す』みたいだ。私はこういうアイデアのある映画や小説がすごく好き。秋吉久美子が昔風の安っぽい花柄ワンピースが妙に似合っていた。名取裕子のシーンはかったるいですね。あの役は小林麻美でしょ」(★★★★)。
  • 松田政男「本年度ベストワンに推すべきか、それともワーストワンなのか。ベッドシーンも濃厚な大林宣彦の大変身を目の当たりにして、迷いに迷っている最中だ。主人公の風間を誘い込む鶴太郎=久美子は善霊、裕子は悪霊という二分法に異和が残り、その異和こそが一篇の主題とも見えて〈異人たち〉の側に思い入れれば入れるほど跳ね返えされる構造になっているからだろう」(★★★★★)。
  • 利重剛「この映画、期待している人ってほとんどいないんじゃない? だからその分だけ“案外面白かった”と思う人が多いんじゃないかな、ひどい言い方だけど」(★★★)。
  • 川口敦子「あちらとこちらと思っていたらこちらもやっぱりあちらだった、という設定は“どんな顔”“こんな顔”と安心がたちまち突き崩されるあの“むじな”話的大逆転があってこそ生きてくるんだと思う、とすればびんびんに作り上げたあちらの世界に対し、こちらの世界の自然さがいまひとつで自然でないのがウラメシ~、とはいうものの片岡、秋吉の夏姿はなかなか素敵」(★★★)。
  • 中野翠「地下鉄から奇怪体験に滑り込んでいくところジャック・フィニイの『レベル3』で、あとは『ゲイルズバーグの春を愛す』みたいだ。私はこういうアイデアのある映画や小説がすごく好き。秋吉久美子が昔風の安っぽい花柄ワンピースが妙に似合っていた。名取裕子のシーンはかったるいですね。あの役は小林麻美でしょ」(★★★★)。
  • 松田政男「本年度ベストワンに推すべきか、それともワーストワンなのか。ベッドシーンも濃厚な大林宣彦の大変身を目の当たりにして、迷いに迷っている最中だ。主人公の風間を誘い込む鶴太郎=久美子は善霊、裕子は悪霊という二分法に異和が残り、その異和こそが一篇の主題とも見えて〈異人たち〉の側に思い入れれば入れるほど跳ね返えされる構造になっているからだろう」(★★★★★)。
  • 利重剛「この映画、期待している人ってほとんどいないんじゃない? だからその分だけ“案外面白かった”と思う人が多いんじゃないかな、ひどい言い方だけど」(★★★)。
受賞歴(1988年版)

出典:

  • ファンタスティック映画祭審査員特別賞
  • 毎日映画コンクール優秀賞
  • 監督賞(大林宣彦)
  • 女優助演賞(秋吉久美子)
  • ブルーリボン賞
  • 助演女優賞(秋吉久美子)
  • 助演男優賞(片岡鶴太郎)
  • キネマ旬報賞
  • 助演女優賞・助演男優賞(片岡鶴太郎)
  • 第11回日本アカデミー賞
  • 脚本賞(市川森一)
  • 助演男優賞(片岡鶴太郎)
  • 監督賞(大林宣彦)
  • 女優助演賞(秋吉久美子)
  • 助演女優賞(秋吉久美子)
  • 助演男優賞(片岡鶴太郎)
  • 助演女優賞・助演男優賞(片岡鶴太郎)
  • 脚本賞(市川森一)
  • 助演男優賞(片岡鶴太郎)
2023年版

山田の原作を元に『異人たち』(原題:All of Us Strangers)のタイトルで監督アンドリュー・ヘイによる2度目の映画化がなされ、サーチライト・ピクチャーズ制作・配給で2023年8月にテルライド映画祭にてプレミア公開された。主演はアンドリュー・スコット。

あらすじ(2023年版)

ロンドン在住の売れっ子脚本家・アダムは、ある夜、人気のないタワーマンションで謎めいた隣人ハリーと出会う。ハリーとの邂逅をきっかけに、何故か少年時代を無性に懐かしく感じるようになったアダムは、幼い頃に住んでいた家を訪れると、そこには30年前に亡くなったはずの両親が、亡くなった時と同じ年齢のままで生活していた。

出演(2023年版)
  • アダム(中年の人気脚本家):アンドリュー・スコット
  • アダムの父:ジェイミー・ベル
  • アダムの母:クレア・フォイ
  • ハリー(アダムの隣人):ポール・メスカル
作品の評価(2023年版)

Rotten Tomatoesによれば、200件の評論のうち高評価は96%にあたる191件、平均点は10点満点中8.6点、批評家の一致した見解は「『異人たち』は、常に人間の感情に根ざした幻想的なレンズを通して、深い悲しみと愛を考察している。」となっている。 Metacriticによれば、48件の評論のうち、高評価は47件、賛否混在は1件、低評価はなく、平均点は100点満点中89点となっている。

舞台

1997年、俳優 春田純一が所属する劇団SCARECROWSの第2回公演として、中野光座にて上演。

2007年、声優 関智一が座長を務める劇団ヘロヘロQカムパニーによって、シアターサンモールにて上演。

2009年、俳優 椎名桔平が主演、シアタークリエにて上演。

スタッフ(舞台)
  • 1997年版:脚本・演出:上田ボッコ
  • 2007年版:脚本・演出:関智一
  • 2009年版:劇作・脚本・演出:鈴木勝秀
出演(舞台)
  • 1997年版(1997年9月10日 - 15日)
  • 原田英雄:春田純一
  • 原田房子:沢田奈生子
  • 原田英吉:関根大学
  • 藤野桂::熊谷美香
  • 間宮一郎:武田滋裕
  • 原田英雄:春田純一
  • 原田房子:沢田奈生子
  • 原田英吉:関根大学
  • 藤野桂::熊谷美香
  • 間宮一郎:武田滋裕
  • 2007年版(2007年12月12日 - 16日)
  • 原田英雄:関智一
  • 原田房子:長沢美樹
  • 原田英吉:小西克幸
  • 藤野桂:松本和子
  • 間宮一郎:永松寛隆
  • 原田英雄:関智一
  • 原田房子:長沢美樹
  • 原田英吉:小西克幸
  • 藤野桂:松本和子
  • 間宮一郎:永松寛隆
  • 2009年版(2009年7月4日 - 25日)
  • 原田英雄:椎名桔平
  • 藤野桂:内田有紀
  • 原田房子:池脇千鶴
  • 原田英吉:甲本雅裕
  • 間宮一郎:羽場裕一
  • 原田英雄:椎名桔平
  • 藤野桂:内田有紀
  • 原田房子:池脇千鶴
  • 原田英吉:甲本雅裕
  • 間宮一郎:羽場裕一
ラジオドラマ

NHK-FM放送「FMシアター」枠にて、2017年7月22日と29日に前・後編2話が放送された。

あらすじ(ラジオドラマ)

妻子と別れた人気シナリオライター・原田英雄が体験した、ひと夏の超常現象。亡くなったはずの両親・英吉と房子が突然現れ、あやしげな年若い恋人・桂が彼を翻弄する。それは一筋の希望なのか、叶わぬ望みなのか、彼は人生の苦悩から救われるのか? 異人たちとの奇妙なふれあいの中で、生きることの切なさと温かさを描く、究極の家族愛の物語。

スタッフ(ラジオドラマ)
  • 脚色:入山さと子
  • 演出:小見山佳典
  • 音楽:谷川賢作
  • 音響効果:久保光男、伊東珠里
  • 技術:西田俊和、林晃広
キャスト(ラジオドラマ)
  • 原田英雄:国広富之
  • 原田英吉:松田洋治
  • 原田房子:雛形あきこ
  • 藤野桂:鶴田真由
  • 間宮一郎:篠田三郎
  • ほか 金沢碧、大島宇三郎、阪田マサノブ、三宅貴大、早川知子、まどか、花戸祐介、木原梨里子、三浦圭祐、小出恵美子
参考文献
  • 野村正昭「FRONT LINE CINEMA 松竹―大船―大林。これまでの大林ワールドと一味ちがう『異人たちとの夏』撮影快調!」『シティロード』1988年6月号、エコー企画、27頁。 
  • 大林宣彦『大林宣彦ワールド 時を超えた少女たち』PSC(監修)、近代映画社、1998年8月、79頁。ISBN 978-4-7648-1865-1。 
  • 『週刊現代』2010年10月9日号、講談社、2010年10月、86-88頁、JAN 4910206421003。