真実の10メートル手前
以下はWikipediaより引用
要約
『真実の10メートル手前』(しんじつの10メートルてまえ)は、米澤穂信による日本の推理小説短編集。『ユリイカ』(青土社)、『ミステリーズ!』(東京創元社)などでの掲載を経て、東京創元社より2015年12月25日刊行。
2016年の「週刊文春ミステリーベスト10」(文藝春秋)国内部門2位、2017年の「ミステリが読みたい!」(早川書房)国内編1位、「このミステリーがすごい!」(宝島社)国内編3位に選出された。2016年第155回直木賞候補作。
概要
本作品集は、『さよなら妖精』(2004年)に登場した太刀洗万智を主人公とする「ベルーフ」シリーズの一つで、『王とサーカス』(2015年)と同じく「報道のあり方」をテーマとした作品集である。
表題作の短編「真実の10メートル手前」は太刀洗が新聞記者時代の作品で、当初『王とサーカス』の前日談として同作の第一章とする予定であったが、書きあげた作品が第一章というよりも一つの短編であったことから、表題作を『王とサーカス』から切り離すことにした。その結果、表題作をそれまでに太刀洗を主人公として描かれた短編作品と組み合わせて刊行されることとなった。
表題作以外の5作品は、作品中の時系列ではいずれも『王とサーカス』以後の設定で、フリーの記者としての太刀洗の活躍が描かれている。最初に発表された作品は、『ユリイカ』(2007年4月号)に発表された「失礼、お見苦しいところを」を改題した「正義漢」だが、この時点では太刀洗を主人公としたシリーズ短編の執筆の予定はなかった。転機となったのは、2010年2月に刊行された『蝦蟇倉市事件2』(東京創元社)のために執筆した「ナイフを失われた思い出の中に」で、太刀洗の記者としての覚悟を問う作品であり、作者は「シリーズ全体のトーンを定めたと思う」と述べている。
なお、『さよなら妖精』との関連では、「正義漢」には太刀洗を「センドー」と呼ぶ高校時代の友人、「ナイフを失われた思い出の中に」にはマーヤの兄が登場する。
あらすじ
真実の10メートル手前
正義漢
恋累心中
再び太刀洗に合流した都留に彼女は、黄燐を服用しても即死せず、激しい吐き気や嘔吐が8時間以上続く、桑岡は苦しむ上條を安らかに死なせるためにナイフで刺し、ナイフが折れたために桑岡は川に飛び込んだのだと説明する。さらに、2人が黄燐を選んだのは、服用後長い間苦しみ続けるという情報を与えずに、死ぬことができるとだけ教えた人物がいたからだとの推理を話す。
名を刻む死
そんな京介の前に現れたフリーの記者・太刀洗万智が京介に尋ねたのは、田上の日記に記されていた「私は間もなく死ぬ。願わくは、名を刻む死を遂げたい」という文章の意味だった。京介は自分の嘘がばれていると悟るが、太刀洗は京介の嘘を問題にせず、知りたいのは田上がどういう性格で、何を大事にしていて、なぜ孤独に亡くなったのかだと言う。
ナイフを失われた思い出の中に
この単純な事件の調査目的を理解できないヨヴァノヴィチは、記者に対する不信感を語る。彼の祖国が戦火に見舞われたときに訪れた記者たちは、一様にあらかじめ一方を悪とする結論を用意して、その結論に沿った報道を行った。一方、ヨヴァノヴィチたちを助けてくれたあるカナダ人は、不公平と罵られ破滅させられた。そして、そうした仕事をどうすれば正当とし、誇りとすることができるのか理解できないと語る。
太刀洗はその回答として、良和の異常性を示すものとして公開されている手記を読む。手記の出所は不明だが、良和を少年審判ではなく通常裁判によって裁く必要があると世論を誘導しようとする、警察の人間からの意図的なリークによるものと思われる。一方、花凜の致命傷から繊維が発見され、警察はまだ事件を検察に委ねていないと述べる。
綱渡りの成功例
大庭とともに夫妻に面談した太刀洗が「コーンフレークには、何をかけたのですか?」と尋ねると、主人は顔を石のように強張らせ、その目から大粒の涙があふれ出した。夫妻はコーンフレークに牛乳をかけて食べたが、救出までの3日間、戸波家の電気は引き込み線が切断されたために冷蔵庫を使うことができなかった。
書誌情報
- 真実の10メートル手前(2015年12月25日、東京創元社、ISBN 978-4-488-02756-8)
- 真実の10メートル手前(2018年3月23日、創元推理文庫、ISBN 978-4-488-45109-7)
初出一覧
- 真実の10メートル手前 - 初出:『ミステリーズ!』vol.72(2015年8月)
- 正義漢(「失礼、お見苦しいところを」を改題) - 初出:『ユリイカ』(2007年4月号)
- 恋累心中 - 初出:『ミステリーズ!』vol.26(2007年12月)
- 名を刻む死 - 初出:『ミステリーズ!』vol.47(2011年6月)
- ナイフを失われた思い出の中に - 初出:『蝦蟇倉市事件2』(2010年2月刊)
- 綱渡りの成功例 - 単行本版書き下ろし(2015年12月)