終戦のローレライ
以下はWikipediaより引用
要約
『終戦のローレライ』(しゅうせんのローレライ)(独:Lorelei: das lied zum ende des Krieges)は、福井晴敏の架空戦記小説。
概要
2002年、講談社より単行本が発売され、2005年に文庫化。その後『月刊アフタヌーン』(講談社)2005年3月号より、脚色:長崎尚志、作画:虎哉孝征で漫画版が連載され、同じく2005年に『ローレライ』として映画化される。
第24回吉川英治文学新人賞、第21回日本冒険小説協会大賞日本軍大賞受賞。
あらすじ
舞台は太平洋戦争が終焉を迎えんとする1945年8月。日本に「あるべき終戦の形」をもたらそうと画策する異端の大佐浅倉と、その令を受け困難な任務の遂行にあたる戦利潜水艦《伊507》ならびにその搭乗員の数奇な運命を描く。
伊507にはナチス・ドイツが開発した特殊音響兵装、通称「ローレライシステム」が搭載されており、それを巡る多くの戦いが引き起こされていく。
登場人物
折笠 征人(おりかさ ゆきと)
戦利潜水艦《伊507》乗務員。大日本帝国海軍上等工作兵。1928年(昭和3年)生まれの17歳。
神奈川県の貧村出身。14歳の時に海軍工廠工員養成見習科へ入学。終戦間際、辞令により神奈川の横須賀鎮守府へ転属。
横須賀突撃隊に属し、特殊潜水艇「海龍」の漕艇訓練に明け暮れる日々をすごす。1945年昭和20年7月に再び辞令を受け広島県の呉鎮守府に転属。同年7月24日呉沖海戦(呉軍港空襲)の後、戦利潜水艦「伊507」に乗艦する。
素潜りの腕は海軍でも抜きんでており、ローレライ回収作戦の要員として抜擢された。また周囲の状況を見極める能力に長け、田口掌砲長からしばしば「目が早い」と評される。
大人の主義主張や軍人のルールに反発したり、己のなすべきことについて悩むなど、まだ少年らしさを感じさせる。
パウラ・A(アツコ)・エブナー
浅倉 良橘(あさくら りょうきつ)
帝国海軍軍令部第一部第一課長。大佐。45歳。
本作の黒幕。
山本五十六の元でロンドンの軍縮予備交渉に趣き、またアメリカ駐在武官として従事したこともあるため、誰よりもアメリカの国力を熟知している。
華族出身であり、海軍大学校卒のエリート。非常に頭脳明晰でかつ、自己に厳しく他者に寛容な人柄。誰よりも祖国や国際社会の未来を予感していた。
本来は前線に出なくてもよい立場なのだが、ミッドウェーでの敗退から間もなく、「確かめたいことがある」ため、南方戦線への転出を願い出た。
南方戦線での戦闘や飢餓といった極限の状況を生き残り帰還した後、日本に《あるべき終戦の形》をもたらすために、《国家による切腹》を断行しようと画策する。そして、南方戦線にて生死を共にした部下やその後に同志として引き入れた者達と共に行動を移すことになる。
絹見 真一(まさみ しんいち)
フリッツ・S(シンヤ)・エブナー
元ナチス親衛隊(SS)の少尉。21歳。
パウラの兄。ローレライシステムを扱える者、正確には、パウラが気を許せる唯一の人物としてUF-4、伊507に搭乗する。
SSの黒い制服と長い黒髪が特徴。常に冷静沈着、あまり他人と打ち解けたりはしない。しかしパウラの事は人一倍気にかけている。
子供の頃から大人びた言動を見せていたが、それは両親の死によるものである。祖母の死後「白い家」に送られ人種改良実験を受けるが、ある時誤って地雷を踏んでしまった子供を助け、その一部始終を見ていた武装SS中将の目に適い、「白い家」の児童自治団団長となる。
パウラの能力が発覚した後は彼女の後見人として、特例としてSS軍曹の地位を得る。ドイツ人同志からは「黄色いSS」と陰口を叩かれていたが、それはすべて自分達が生き延びるための術であった。
清永 喜久雄(きよなが きくお)
田口 徳太郎(たぐち とくたろう)
土谷 佑(つちや たすく)
大湊 三吉
用語
戦利潜水艦・伊号第五〇七
シュルクーフ時代
フランス海軍の潜水艦、名称はシュルクーフ(スルクフ)、1934年に竣工。フランス休戦後は自由フランスに所属して、その時世界で最大の潜水艦であった。
1942年2月18日、カリブ海哨戒任務の際、米商船「トムソンライクス」と衝突し、沈没するまでが史実。
UF-4時代
乗員の必死の努力によって浮上、漂流していたシュルクーフをナチス・ドイツの潜水艦U109が拿捕し、UF-4となり特殊音響兵装「ローレライ・システム(PsMB-1)」の実験艦として引き取られ大規模改装を受けた。
SSの大量の資金で内部、外観とありとあらゆる場所に徹底的に手を入れられ、艦首、観測機格納庫周辺は見る影もなく変貌した。その結果、船体は近代的に洗練され1.6倍の馬力の機関と最新の装備により屈指の性能をもつ最新鋭潜水艦となった。
ドイツが降伏後、ローレライ・システムを日本に提供し亡命をするため、日本へ回航する。原作小説では回航途中に米潜水艦2隻の襲撃を受けローレライを投棄してしまう。
伊507
1945年5月8日、第二次世界大戦でナチス・ドイツが連合国に降伏し、UF-4を日本海軍が接収して伊507に改名した。その後、海軍軍令部の命令で横須賀海軍工廠で修復と補給を受ける。
新たな原子爆弾投下を阻止するため8月6日に横須賀を出港。原爆搭載機の情報をつかみ、テニアン島へ独自の行動を起こす。
原作小説では回収作業用に改造を受けた海龍を搭載し、原爆投下前の7月24日に特殊兵器の回収から始まる。
ドイツの当時最新のテクノロジーによる改装を受け、魚雷と潜航艇を下ろせば水上で30ノットを叩き出せたり220mの潜行が可能であったが、大型なのはどうしようもなく鈍重な本艦の操艦に乗組員が苦心する描写があるが、劇場版では特にそのようには描かれていない(エンジンがなかなか止まらず、後ろで機関科員が停止させると同時に機関長がエンジンに酒を吹きかけ酒で止まったと勘違いする、というコミカルな描写に差し替えられている)。
主砲は本来左右に11度しか旋回できないが、ドイツで変更されたのか広い旋回範囲で射撃している。
原作小説での本艦は、広島長崎に続く3発目の原爆を積んだ爆撃機を撃墜し目的を遂げた後、艦体損傷により潜航が不可能になり米艦隊の集中攻撃を受けつつマリアナ海溝を目指す。攻撃により完膚無きまでに破壊され沈没、沈んだ艦体も海底の水圧で圧壊し米軍でもサルベージ不可な深海へと沈降しローレライシステムは完全に消し去られる。一方劇場版では攻撃を受けながらも潜行していずこかへと姿を消す、という結末になっている。
歴代艦長
ローレライシステム
PsMB-1という正式名をもつ、ナチス・ドイツによる大改修でUF-4に搭載された特殊音響兵器。同艦に接合されたゼーフントを改装したナーバル(映画では特殊潜航艇N式潜)内に配置されている。
第二次世界大戦期の索敵装置を遥かに凌駕した性能を持ち、魚雷の発射時に用いれば百発百中の命中率を得ることができる。探査音波を回避して敵艦に接近することも可能であり、史実では役立たずであった主砲も有効に利用することができた。しかし同時に致命的な欠陥を抱えており、量産も不可能で戦況を覆すまでには至らずドイツの降伏を迎えることになる。
発令所にコロセウムと呼ばれる巨大な電球のような描画装置があったが、映画版ではそれでは割れてしまうという理由で机に意匠変更があった。
リンドビュルム計画
パウラ・A・エブナーが祖母の死後ナチス・ドイツの福祉機関レーベンスボルンの姉妹機関「白い家」に送られ、人種改良の実験を受けていた最中に突然開花した特殊能力(水あるいは液体を介して遠くの見えない物体を認識したり、人の思考を感じたりできる能力)を利用して立案された、SSとドイツ海軍が進める革命的な水中探知装置の開発計画。この計画に基づいて建造(大規模改装)されたのが、UF4(独通称:ゼーガイスト)と呼ばれた特殊潜水艦であり、その探知装置システムを後にローレライシステムと呼ぶようになった。
断号作戦
当時日本の同盟国であったドイツが降伏した後、行き場を失ったドイツ海軍の秘密実験艦(後の伊507)を密かに受け入れ、その乗員を保護し第三国への脱出を手配する代わりに、同艦が有する特殊兵器の技術供与を受けるという作戦。ドイツ艦からの申し出を日本海軍が受ける形で始まった作戦だが、肝心の「特殊兵器」であるローレライシステムの一部を、日本に到着するまでに紛失(文中では投棄)してしまうというドイツ側の失態のために、正式には中止となった作戦である。
しかし浅倉大佐はこの作戦中止を見越して、予め独自の計画を進めており、「断号作戦」が中止になった後は、自らの立場を利用して関係者に中止を撤回したと思わせ、この特殊兵器を持つ潜水艦を独自の計画に利用したとされている。
探知法
ローレライシステムに対抗する、ローレライシステムのように特殊ではない一般機器を用いた現実に存在するする音波探知法である。作中ではCZ探知法を元にヘッジホッグ爆雷で対抗する。その精度に伊五〇七乗員も「まさか敵もローレライを装備しているなんて冗談は無いだろうな!?」と、驚愕する。詳細は収束帯 (音波)を参照。