総理にされた男
以下はWikipediaより引用
要約
『総理にされた男』(そうりにされたおとこ)は、中山七里のポリティカル・エンターテインメント小説。
執筆背景
NHK出版のウェブサイト上で2013年10月から2014年12月にかけて連載され、2015年8月25日にNHK出版から単行本が刊行された。単行本の装画は龍神貴之によるもので、雲間から射す光によって少しの希望が表現されている。2018年12月6日には宝島社から文庫本が刊行された。文庫本の挿画は加藤木麻莉。文庫解説は池上彰が務めた。
今回の出版社側からのリクエストは“社会的テーマのミステリー”だったが、連載媒体がNHKのウェブマガジンということで総理大臣が主人公の政治もの、しかもそれを入れ替わりによって全くの素人が行うことで、池上彰のようにわかりやすく政治の世界を描いて国民の願いや怒りを代弁したり風刺したりできると考え、その源流ともいえるチャップリンの1940年の映画『独裁者』を意識して執筆された。そして主人公が戦う相手は「閣僚」「野党」「官僚」「テロ」「国民」と順に大きくなるように設定され、これは各章のタイトルになっている。また、忘れていた過去の腹立たしい問題や事件を小説によって思い出すのも一興と実際の時事問題が多くとりあげられているが、2014年11月には脱稿していたにもかかわらず、2015年1月に小説の内容とシンクロするようなISILによる日本人拘束事件が起こったことには著者自身も驚いたという。主人公の加納慎策については谷原章介の映像を思い浮かべて当て書きされた。
本作品は『月光のスティグマ』と同時期の話であり、共通の登場人物に注目することであるどんでん返しに気付く仕掛けがなされている。
あらすじ
劇団に所属する加納慎策は、いつものように公演を終えたある日、2人の男に無理矢理車に押し込まれ、首相官邸に連れていかれる。加納はそこで、内閣官房長官の樽見政純から、世間には伏せられているものの実は蜂窩織炎に罹り意識不明状態にある総理大臣・真垣統一郎の替え玉になってほしいと打診される。元々顔や声質が瓜二つで真垣の物真似を得意としていた慎策は、国民全員を相手にした大芝居も悪くないと考え、報酬や俳優としてのデビューを引き換えにその提案を受け入れる。しかし政治的知識に乏しかったため、党三役との初の顔合わせはうまく乗り切ったもののやはり深い議論になるとついて行けず、相談役兼教育係として大学准教授を務める旧友の風間歴彦をつけてもらう。
付け焼刃で必死に知識を詰め込みながらも本来持ち合わせている機転の早さや真摯な態度で閣僚懇談会や通常国会を乗り切っていく慎策に対し、樽見はおろか、野党である民生党の元代表・大隈泰治も不思議な魅力を感じ始めていた。しかしそんな矢先、本物の真垣が亡くなったという知らせが入る。風間は引き際だと忠告するが、東日本大震災後の宮城県石巻市の視察で復興の遅れを目の当たりにしていた慎策は真垣のフリを続けることを決める。
一方、慎策の恋人である安峰珠緒は突然帰ってこなくなった慎策を心配して戸塚警察署を訪れていた。このような場合は一般家出人に分類されるため通常捜査はされないが、慎策が真垣統一郎と瓜二つだと知った刑事課の富樫は興味を示す。また、珠緒もテレビに映る真垣が右足をせわしなく揺する姿を見て、真垣=慎策ではないかと疑い始めた。
復興の遅れは財源捻出の特別措置として公務員給与の削減が実施された官僚たちの被害者意識によるものが大きいと考え提出した内閣人事局設置法案は、大隈の行動によりなんとか可決。慎策は内閣人事局に風間を送りこむことを考えるが、替え玉続行を反対し始めた風間を危惧した樽見が風間をイギリスへ栄転させてしまい、慎策は風間の助言を受けられなくなってしまう。
そんな中、在アルジェリアの日本大使館がテロリストによって占拠されたというニュースが入ってくる。「断固たる態度をとる」という名のもと、政府は具体的には何もしないのが1番いいのだと各大臣達に諭されるものの、実際にテロリストグループによって人質の頭が銃で吹き飛ばされる瞬間を目撃したり、是枝孝政幹事長から人質の中に長年の秘書が含まれていると聞かされた慎策は思い悩む。さらに頼りにしていた樽見が突然心筋梗塞で倒れて亡くなってしまい、1人で決断することを迫られた慎策は、陸上自衛隊特殊作戦群をアルジェリアに派遣し人質となっている邦人34名を救出することを独断で決める。しかしこの行動は憲法違反であるとされ、慎策は各大臣はおろか世間からも激しく糾弾されることになる。
登場人物
主要人物
加納 慎策(かのう しんさく)
35歳。役者を夢見て劇団に所属して8年目の売れない劇団員。しかし劇団の主宰から真垣統一郎のものまねでの前説をすすめられたことが転機となり、そのクオリティから動画サイトではちょっとした有名人になっている。顔が瓜二つなだけでなく元から声質もよく似ており、抑揚を注意すれば見分けられるものはいないと思われる。最近では慎策目当ての劇団ファンもいるが、本人は所詮他人の空似を利用しているだけだという醒めた気持ちがある。
家賃不払いでアパートを追い出されたため、東山藤稲神社から徒歩5分、集合住宅の中でもひときわ古い棟の4階角部屋に住む珠緒の家に転がり込んだ。政治には興味はなく、知識もない。昔から後先は考えないタイプで、どうしようもなくなってから他人に頼る。緊張すると右脚を貧乏ゆすりする癖がある。
真垣 統一郎(まがき とういちろう)
40歳。国民党の現内閣総理大臣。第四派閥相沢派出身。初めての3年間の民政党政権後に返り咲いて総裁となった。右手の人差し指を斜め上に掲げるのが決めポーズ。脱原発を公約としており、党内改革・既得権益排斥を謳う。
父親・真垣善治(まがきよしはる)もかつては総理大臣であり、一人息子の統一郎は秘書をつとめていたが、善治は数年前に逝去した。しかし統一郎は父親を凌ぐ天性のカリスマ性があり、弁舌や性格は誰をも引き込み、政治家に不可欠な擦り合わせと妥協のバランス感覚も絶妙。初当選からあれよあれよというまに時代の寵児としてもてはやされた。母親は統一郎が20歳になる前に他界しており、善治も再婚せず、統一郎本人も独身であるため家族はいない。
蜂窩織炎から脳にまで菌が達してしまい、東西(とうざい)病院の高嶺(たかみね)主治医のもと、集中治療室で治療を受けている。
樽見 政純(たるみ まさずみ)
安峰 珠緒(やすみね たまお)
慎策より6歳年下の恋人。新大久保の病院で医療事務をしている。去年、下落合の駅で珠緒が2人連れの男に絡まれていたのを慎策が助けたことがきっかけで付き合うようになった。自分の芸は所詮コピーだと卑下する慎策に、「立派な演技だよ」「声や演技で他人を沸かせるなんて本当にスゴいことだよ」と励ます。同居も食事作りも自分が望んだことだと主張し、慎策の収入が少ないことを決して責めたりはしない。
国民党
是枝 孝政(これえだ たかまさ)
須郷 毅(すごう つよし)
国松 勉(くにまつ つとむ)
民生党
大隈 泰治(おおくま やすはる)
その他
樫村(かしむら)
書籍情報
- 単行本:NHK出版、2015年8月25日発売、ISBN 978-4-14-005670-7
- 文庫本:宝島社文庫、2018年12月6日発売、ISBN 978-4-8002-8735-9