自殺島
以下はWikipediaより引用
要約
『自殺島』(じさつとう、Suicide Island)は、森恒二による日本の漫画。『ヤングアニマル』(白泉社)にて、2008年22号から2016年No.17まで連載された。単行本は14巻までのレーベルはジェッツコミックスで、15巻以降はヤングアニマルコミックスでの刊行となる。
日本近海の孤島を舞台に、政府によりこの島に送りこまれた自殺未遂常習者達が、命の意味と向き合いながら生きていく物語である。作中では、食糧を確保するため登場人物達が狩猟採集をする姿が描かれており、前作『ホーリーランド』と同様に、作者の経験を交えながら図解付きでサバイバルに関する説明がなされている。森恒二は実際に何度も南の島に足を運んで、海で突き漁をしたり、京都で猟師と一緒に山に入ったりしており、その時の経験があるから狩りのシーンも自信をもって描けたと語っている。
続編として、前日譚にあたる『無法島』が同誌の2019年No.4から2022年No.15まで連載。
あらすじ
プロローグ
その直後、絶望して飛び降り自殺をするグループが現れ、落下して死に損ねた者のおぞましい姿を目の当たりにし、ひとまず自殺することを踏みとどまる。死ねないならば生きるしかない、矛盾を抱えた彼らのサバイバル生活が始まる。
序盤
野生のシカの群れに遭遇したセイは、大自然の中に自分の居場所を見出すようになり、弓矢を手にしてシカを狩猟するようになる。そこで、かつて『無法島』と言われた時代に囚人として送られてきた先住者に遭遇し、シカ肉の燻製を手伝ってもらい、子犬のイキルを譲ってもらう。その後、猟のできるセイの命を狙おうとする集団を返り討ちにしたセイは、謝罪したケンに猟を教えるようになる。
一方、リョウ達はイカダを作って『自殺島からの脱出』を図ろうとするが、自衛隊の船にぶつけられてイカダは半壊して、島に追い返されてしまう。希望を絶たれたリョウは、リーダーの座から降りて孤立して生きようとする。理性的な言動をするスギが、次のリーダー役を務めるが、働かないメンバー達から食料を奪われるようになる。(第4巻まで)
中盤
また、精神的に追いつめられた生存者たちに対して、カイは親身に声をかけて「無理しなくていい、楽になっていい、一緒に逝ってあげる」と巧みに自殺するよう誘導したり、時には自殺に見せかけて絞殺していた。
一方、かつて義父から性的虐待を受けていたリブは、自然と共生をするセイを見て、次第に自身が生きることを肯定するようになり、セイとリブは互いに惹かれていき恋人同士になる。
その後、ナオの身柄や食料などの奪い合いを発端にして、『海側のグループ』との争いへと発展していく。カイの指揮による女を使った騙し討ちに対して、セイによるサワダ暗殺の失敗など、双方の攻防が続き、最終決戦に『サワダの村』への急襲作戦が決行される。しかし、それを予期したカイは逆に、本拠地にしている学校へと全員で乗り込んで乗っ取ってしまう。
仲間を人質に取られたものの、最終的に逃亡するサワダにセイは矢を射り、負傷して海に逃れたサワダはサメによって食われてしまう。『海側のグループ』を許したセイ達は、いくつかの取り決めをして、今後は距離を取りつつも交流することになる。(15巻まで)
終盤
幽閉していたカイの口車に乗せられ、リョウが刺されて死亡し、カイによってリヴが人質に取られてしまう。開けた平野で猟犬のイキルをヒモで繋いだ上で、武器を捨てて投降することを迫られるセイだったが、そこを偶然通りかかった先住者の助けを得て囮となってもらい、射程内に近づいて弓を射てカイを殺害し、リヴを助け出す。
その後、自殺島は政府の特別自治区見直しにより解放され、「イキルの島」と改名。特別自治を保ったまま未遂者などの社会復帰プログラムに活用されることになり、スギは島との仲介役として活動し、セイを始めとした中核メンバーは島に残り、物語は幕を閉じる。
世界観
この作品中の日本は、国民はIDによって政府に管理されており、そのIDが剥奪されるということは日本国民としての権利と義務を失うことを意味している。舞台は基本的に島の内部とその周辺の海域に限定されており、日本本土での様子は登場人物の過去の回想、または「凶悪犯罪が増加している」、「自殺者が急増しているが彼らを支援し立ち直らせるための予算が不足してきている」など、伝聞や噂の形でのみ語られている。
自殺島
何人もの自殺未遂の常習者達が送り込まれた孤島。家屋や廃校舎、生活物資など、かつて人が住んでいた形跡があるが、従来の住民は既に残っていない様子である。家屋の中には何体もの白骨死体が残されており、山中にも自殺したと思われる死体が発見された。
自然に囲まれており、多くの草木や動物が生息し、食用に適した果実なども自生している。天敵がいないためか、鹿の数も多く、猪による農作物の食害も発生している。島の住人が飼っていたらしい鶏などの家畜も生息し、畑地だった場所から残された農作物が発見されることもある。セイ達が住む島の北西に「小さな離島」があり、そこには野生化したヤギの群れが生息しており、捕食者のいない環境で増えすぎたヤギによって、離島の植生は食べ尽くされそうになっていた。
政府の人間によって立てられたと思しき看板に、この島に送り込まれた者達はIDを剥奪されて、国民としての権利と義務を失ったことと、この島と周囲の近海1キロメートル以内より外に出ることを禁じる旨が書かれている。日本近海にあるようだが、正確な位置や島名は不明。狩猟のために山に入ったセイが出会った男の話によると、この島はかつては凶悪犯達が送り込まれ、お互いに殺し合いをした「無法島」であったという。
なお、自殺島の存在は政府によって隠蔽されているが、本土ではネット上の噂として知られている。
自殺島マップに描かれた地図が、八丈島と八丈小島にそっくりと言われている。
登場キャラクター
本作では名前がわからない人物、明かされていない人物が存在する。本項では名前が明らかになっている人物のみ紹介する。
主人公とヒロイン
セイ
リヴ
常習指定者の1人。セイが島で目覚めた際に近くにいた、長い髪をした美しい女性。本名は「マリア」だが、本土での過去を思い出すため、この名で呼ばれることを嫌がっている。「リヴ」というのはセイが考えた名前で「セイ(生)」や「イキル(生きる)」と同じ「Live(生きる)」という意味を込めてつけたもの。
島で過ごした最初の夜が明けた後、セイを誘って廃校舎の屋上から投身自殺を図るがその場は思い留まる。以後、島で精一杯生きようとするセイを見続け、次第に惹かれていく。
母親がロシア人のハーフ。10歳の時、母が自分を置いて故郷のロシアに帰った後、暮らしが荒んでいった父親の元から、父の親戚の家に預けられる。そこで養父から性的虐待を受け続け、その仕打ちに対して心と体を切り離し人形のようになることで耐えてきた。義務教育を終えた後、家を出て一人暮らしを始めるが、男性と付き合っても過去の記憶が甦り、養父への性的虐待を受けていた時と同様に人形のようになってしまい、それが原因でどんな男性が相手でも上手くいかず別れてきた。
山側のグループ
カイ
常習指定者の1人。セイが自殺未遂をした後に送致された施設で出会った青年。セイより1歳年上。冷静な視点で物事を見据えている。リョウと共にグループの指導者となり、農作物による食糧の確保を目指すが、他のメンバーとは一線を引いた態度が多い。
しかしその本性は「人間という種族に生きる価値など無い」という歪な価値観の持ち主であり、悩みを抱える者に近付き、優しく接しながらも、絶望を煽るようなことを吹き込み、グループの人間を次々と自殺に追いやっていたことが判明する。そのことに気づきながらもセイ達はカイを止められず、カイに心を寄せ彼を信奉する者達もグループ内に増えていったが、ミキを飛び降り自殺に追い込もうとしたところをセイ達に発見された際に、これまでの所業とさおりを殺害したことを追及され、集落を追放される。追放された際、セイ達が住んでいた廃校舎を燃やして、彼らを殺そうとする行為におよび、その後は食料も得られず困窮していたが、紆余曲折あってサワダの一派に加わる。自殺島に連れてこられた当初や山側のグループが成立し始めた当初こそ、その一見広い知識で頼りにされるが、結局彼の知識は実体験や生活を通じた経験に裏打ちされた深い知識では無く、浅い知識であることが徐々に仲間達に見透かされる。それでもグループメンバーが彼を排除することは無かったが、内に秘めたプライドの高さや前述の価値観などから、生きることの意味を見いだし始めたセイたちを心から認めることができずに、自ら精神的な孤立を深めていくことになる。
サワダの死後は海側のグループからも見放され、学校のトイレに閉じ込められていたが、収穫祭の夜にリョウを唆して殺害し、リヴを人質に脱走。最期は牧草地帯の丘でセイに腹を射抜かれ、自身の行動の原理は皆に置いて行かれたという劣等感から変質した殺意であることを伝え、ホッとしたような顔(曰:先住者)でセイに看取られながら死亡する。
トモ
長い髪を後ろで束ねている青年。セイと仲が良い。過去に沖縄で暮らしていたことがある。
小さな街の医者の家に生まれ、両親と妹がいるごく普通の家庭に育った。しかし、中学生になったころから自分が性同一性障害であることに気付き、悩んでいた。隠し持っていた女物の服が見つかったことを機にそのことを告白してみたものの、父親からは理解されず「化け物」呼ばわりされる。父親は障害を無理矢理矯正しようと試み、このことが原因で家庭崩壊していった。
セイが自分の性同一性障害のことを知りながらも全て受け入れてくれたことを機に、グループの全員の前で告白。グループの女性達はそのことに既に気付いており、また他の面々も戸惑いながらも受け入れた様子である。
カイの作戦に基づいた襲撃の際に人質として捕らわれ、セイ達が助けに行くが、心は女であることを見抜いたサワダに抱かれ、そのことを認めたくない一方で自分を女性として扱ったサワダを否定しきれず、戻れずにいたが、最後の抗争で、人質として利用されていたところを助けられる形で戻ってきた。
リョウ
未遂者とは思えぬ程、活力に満ちた青年。グループのリーダー格となり、皆を引っ張る。明るくて人懐こく、女性からの人気も高い。
かつて同棲していたエリという恋人を交通事故で亡くして以来、エリの元へ行くことばかり考え、彼女が事故死した交差点で何度も自殺を試みたが、それでも死ねなかったという過去を持つ。
自分の死に場所を自分で決めたいという思いから本土への帰還を望み自作の筏で有志と共に本土へ戻ろうと試みるが、哨戒していた巡視艇に筏を破壊された。なんとか島に帰り着くものの、それからは心を閉ざし1人で漁をしていたが、セイの説得で再びグループに戻ってくる。
仲間想いで、人を傷つけることを嫌がっており、港側のグループとの抗争が激化してきたことを機に、リーダーの座をリュウに譲る。
港側との抗争が終結し、集落が平和になっても尚、過去の未練に苦悩していたところ、幽閉されていたカイに懇願され、トイレから出してしまい、背後から刺され、致命傷を負う。命が尽きる前に、集まった集落の皆に感謝の想いを伝えきったところで、エリはすぐ傍にいたという幻影を見て息を引き取った。
よく被っていたバンダナはセイに託され、セイとリヴの間に生まれた子供が被っている。子供の名前も"リョウ"である。
スギ
ミノル
実家は農家で、経験を活かして農作業に従事する。本土にいたころは、農作業に意味が見出せずに家を出たが、その後も生き甲斐になるようなことを見つけられなかったという過去を持つ。島に来てからは、作物を食べてくれる人たちと身近に接することが多くなったことに充足感を得るようになる。
サワダグループの女性による襲撃で数箇所の刺し傷を負い、以降は看病されながら休んでいたが、稲田がモノになるかどうかの大切な時期に休んでいることはできないと周囲の反対を押し切って働き出す。日に日に体は弱っていったが、リョウの用意したソファに座って皆に指示を出しながらどうにか稲田の完成を見届ける。最後は黄金の波の中、ずっと言えなかった感謝の言葉を両親に伝える幻想を見ながら満ち足りた顔で死亡した。
ボウシ
髪を長く伸ばし、常に帽子をかぶっている男性。自分の名前を嫌っているため、「ボウシ」と名乗っている。当初は肥満気味の体型だったが、次第にやつれていく。人に誇れる物が何も無く、セイを「持たざる同志」と呼んでいた。他にできることが無いからという理由で農作業の手伝いをしていたが、やがて島での生活や狩猟採集に必要な道具を考案し作成することでグループに貢献していくようになる。サワダグループとの抗争においてはグループの武装化のため盾や槍なども作製する。
サワダグループの女性による襲撃で親友だったミノルを失い、それから数日間は一心不乱に武器の作成に勤しむ。ナットを撃ち出せば一斗缶を貫通するほどの威力を持つスリングショット、それを上回る弓矢用のスリングショット、戦車などを作成し、サワダグループに対して激しい殺意を向けるようになる。これらの武器は皆に開戦を決意させるきっかけにもなった。
中盤からタエと両想いになり、かなり精神的に成長するが、彼女のことになると冷静さを失うことも多い。「持たざる者」として通じるものがあるのか、セイにも理解できなかったカイの歪みを鋭く非難し、一度も冷静沈着な態度を崩すことのなかったカイを酷く動揺させた。
ケン
青木(あおき)
ヨネダ
タエ
ミキ
リュウ
本名は「リュウジ」。好戦的な性格で、過失ではあるが同じグループの人間をケンカの末に殺してしまったこともある。
港側のグループとの抗争が激しくなってきた際、争いを厭ったリョウからリーダーを任される。
24歳の時、結婚を機に独立して従業員3人の小さな運送会社を立ち上げた。少しずつ営業成績も上がり子供も産まれ、すべて順調にいっているように思えたが、不況のあおりで経営が苦しくなり給料が下がると従業員は全員辞めてしまった。その後は寝る間も惜しんで業務の全てを1人で行ってきたが、居眠り運転で事故を起こし5人の死傷者を出してしまう。莫大な債務が残り妻からも離婚届が送られてきたリュウは、気力を無くし刑務所内で自殺未遂を3度繰り返した後、自殺島へと送り込まれることになった。
レイコ
眼鏡をかけた女性。奔放な性格の妹とは正反対に、幼少のころから周囲に迷惑をかけない「いい子」であることを心がけてずっと過ごしていた。しかし、妹が普通に結婚し幸せな家庭を築いたころから実家での暮らしに居心地の悪さを感じるようになり、ついにはいつまでも結婚しないことを両親から窘められたことで今までの「いい子」だった自分の全てを否定されたように感じ、精神の均衡を崩して自殺未遂を繰り返すようになっていった。 ナオを連れ戻そうとやって来た海側の男達に巻き込まれる形で狙われるが、ナオの機転で廃病院の屋上まで辿り着き、狼煙をあげてセイ達に知らせ危機を免れる。この時にナオと仲良くなり、妊娠中に自殺を図ったナオを慰めるなど、彼女の理解者となる。収穫祭の夜にリュウに告白し島解放後に結婚。ナオと島唯一の食堂を営む。
ナオ
鈴木 ノリオ(すずき ノリオ)
スズキ タツヤ
海側のグループ
サワダ
港側のグループのリーダー。島に来た初日に、セイ達と別れ何人かの者達と山の中に入っていき、その後の消息はしばらく不明となっていた。この間に、ニワトリやヤギなどを発見するなど食料の確保を率先して行い、他の面々を導くリーダーとなる。
その後、サワダは「暴君」となっていき、大勢の女性を囲って男性メンバー達の相手をさせたり、さらには人間の死体をも食べるようになり、そのためにグループに所属している人間達からはカリスマ視される一方で怖れられている。ナオに執着し、自分のもとに連れ戻すようグループのメンバーに命じ、これがグループ間抗争の火種となる。
本土にいたころは麻薬の売人だったが、自分で商品に手を付けてヤクザに追われる日々だった。セイ達と別れた後もバナナを奪うために殺人を犯し、女性を強姦するなどし、ついに「本能を満たせればそれでいい」という完結した死生観を持つようになったという。
最後の抗争にて、集落を捨て山側の男達の襲撃の隙をついて山側の集落を乗っ取り、学校の校舎で人質を取ることで有利な状況に持ち込むが、ロープを使って屋上から侵入してきたセイ達に不意を突かれ、一転して追いつめられる。さらに矢傷を負い、やむを得ず夜中の海に逃げ込んだ結果、サメに喰われるという最期を迎えた。
一連の抗争が終結した後、「自分の臆病さを隠すために、島で得たカリスマ性を利用して凶暴になっていった弱い男」であったことがナオの口から語られた。
その他
青山 英子(あおやま えいこ)
エリ
先住者
織田(おだ)
書誌情報
- 森恒二 『自殺島』 白泉社〈ジェッツコミックス〉、全17巻
- 2009年8月28日発売、ISBN 978-4-592-14621-6
- 2010年1月29日発売、ISBN 978-4-592-14622-3
- 2010年6月29日発売、ISBN 978-4-592-14623-0
- 2010年11月29日発売、ISBN 978-4-592-14624-7
- 2011年4月28日発売、ISBN 978-4-592-14625-4
- 2011年9月29日発売、ISBN 978-4-592-14626-1
- 2012年3月29日発売、ISBN 978-4-592-14627-8
- 2012年9月28日発売、ISBN 978-4-592-14628-5
- 2013年5月29日発売、ISBN 978-4-592-14629-2
- 2013年11月29日発売、ISBN 978-4-592-14630-8
- 2014年5月29日発売、ISBN 978-4-592-14631-5
- 2014年10月29日発売、ISBN 978-4-592-14632-2
- 2015年5月29日発売、ISBN 978-4-592-14633-9
- 2015年11月29日発売、ISBN 978-4-592-14634-6
- 2016年6月29日発売、ISBN 978-4-592-14635-3
- 2016年10月28日発売、ISBN 978-4-592-14636-0
- 2016年10月28日発売、ISBN 978-4-592-14637-7
- 森恒二 『無法島』 白泉社〈ヤングアニマルコミックス〉、全6巻
- 2019年9月27日発売、ISBN 978-4-592-16501-9
- 2020年3月27日発売、ISBN 978-4-592-16502-6
- 2020年8月28日発売、ISBN 978-4-592-16503-3
- 2021年4月28日発売、ISBN 978-4-592-16504-0
- 2022年3月29日発売、ISBN 978-4-592-16505-7
- 2022年9月29日発売、ISBN 978-4-592-16540-8