護られなかった者たちへ
以下はWikipediaより引用
要約
『護られなかった者たちへ』(まもられなかったものたちへ)は、中山七里の長編推理小説。宮城県警シリーズの第1作。
『河北新報』など全国14紙に2016年2月から2017年9月に連載、2018年1月25日にNHK出版より単行本が発売された。2021年7月21日には宝島社より文庫本が発売され、巻末には中山と映画版の監督を務めた瀬々敬久の対談が収録された。東日本大震災後の復興が進む仙台で発生した連続殺人事件を巡り、日本の生活保護制度の欠陥に迫る社会派ミステリ。
2021年に映画版が公開。
執筆背景
2017年12月の時点で受給している世帯が全国で164万世帯あるという生活保護の実像を描いた社会派ミステリー。宮城県警捜査一課の刑事である笘篠誠一郎と、元模範囚の利根勝久、2人の目線で物語は並行して進展していく。
出版社側から、仙台を舞台にした物語を書いてほしいというオーダーがあったため、テーマはすぐに決まったという。そのうえで著者の中山は、国が予算のために生活保護受給者の調整や申請を却下する〈水際作戦〉や、受給する側の〈不正受給〉など生活保護の実態について「人並みには怒ってますよ」とは述べつつも、本作は決してそれを主張するためのものではなく、様々な問題を知ったうえで、役所側の職業倫理や公私の葛藤についても考えられるよう配慮し、2016年1月から執筆を開始した。また、天才ピアニストや悪徳弁護士など特異な人物が登場する作品を書くことが多いなか、本作では市井の人々の絶望と喜びを描く必要があったため、登場するキャラクターは全て“普通の人”に設定された。そして、「事件の犯人はわかっても、物語の犯人は読み終えた後も誰にもわからない、現時点での最高傑作です!」と自負する。
あらすじ
東日本大震災から4年後、仙台市内のアパートで、両手を拘束されたうえ四肢や口をガムテープで塞がれ、餓死した状態の遺体が発見された。被害者の名は三雲忠勝。福祉保健事務所の人間だということがわかり、金銭に手がつけられていなかったことから怨恨の線で捜査が始められたが、身辺を洗っても、職場でも家庭でも三雲のことを悪く言う者は誰もいなかった。しかしそれから4日後、今度は宮城県議会議員の城之内猛留が公園近くの森の中にある農機具小屋の中で遺体で発見される。遺体の状態は記者クラブにも流していない共通項が多く、十中八九同一人物によるものだと判断された。城之内にも公私ともに悪い噂すら見つからなかったため、犯人は善人や人格者に照準を定めていると考えた捜査本部は、前科者や精神科に通院歴がある者からあたるよう指示するが、宮城県捜査一課所属の笘篠誠一郎は2人に必ず何か共通点があるはずだと考える。そして城之内が議員になる前は厚労省の公務員であり、三雲と城之内が塩釜福祉事務所で2年間、同じ時期に職員として働いていたことをつきとめる。
笘篠とそのパートナー・蓮田は、三雲の部下である円山菅夫に話を聞いたり、福祉事務所の仕事の1つであるケースワーカー業務に同行して生活保護受給者たちと接触し、行政側が真っ当な対応をしていても逆恨みされていることがあることを知る。そして2人は捜査対象を三雲と城之内が勤務している期間に生活保護申請を却下された者や、受給していながらケースワーカーの報告で打ち切られた者にしぼり、塩釜福祉保健事務所からその対象者のリストが入ったUSBと資料をなんとか手に入れる。そして2年間で700件近くあった該当者の中で、不服申し立てを含み申請が複数回に及ぶ者や事務所関係者とトラブルがあったものに絞ったところ、4人の容疑者が浮上する。4人に順に話を聞きに行った笘篠と蓮田は、職場や家庭では善人とされている三雲と城之内が、生活保護の申請を却下された者たちからすると、蛇蝎のように忌み嫌われているということを知ったが、4人の中に犯人はいなかった。しかし筋読みに間違いはないと感じた笘篠は、最後まで資料を出すことを渋っていた塩釜福祉保健事務所の生活支援班所属の支倉がUSBを改竄していた可能性に思い当たる。そして支倉を追及して改竄の事実を認めさせ、改めて削除された3件を検証すると、それらは全て却下理由が「資産調査が不十分(申請者自身が己の生活が困窮状態であると証明できなかった)」という微妙なもので、却下決定後に窓口担当とトラブルを起こしていた案件だった。その中で、遠島けいという人物の場合は本人ではなく知人男性が乗り込んできて、三雲と城之内に怪我をさせた挙句に建物に火を放ったと知った笘篠と蓮田は、その知人男性・利根勝久こそが犯人ではないかとにらむ。
現在の利根の行方を調べると、模範囚だったため8年で仮出所が決まり、三雲が連絡を絶った日の1週間前に出所したばかりだった。笘篠と蓮田は利根の保護司である櫛谷貞三の元を訪れ、そこから利根が出所してから密に連絡をとっていた五代良則という現在は名簿屋をやっている男にいきあたる。利根のことを心配していた五代は独自のルートで、利根が三雲らを殴った本当の動機、そして最後に利根が狙っている男…かつて三雲と城之内の上司だった上崎岳大がもうすぐフィリピンから帰国することをつきとめていた。しかし200人の捜査員が空港を張る中、現れた利根は、「俺は上崎を護ろうとしていたんだ」という予想外の言葉を口にする。そして、笘篠はどうしても行かせてほしいと懇願する利根を連れ、塩釜にあるかつて遠島けいが住んでいた長屋に行き、事件の真相を知る。
登場人物
警察関係者
笘篠 誠一郎(とましの せいいちろう)
被害者および関係者
三雲 忠勝(みくも ただかつ)
円山 菅生(まるやま すがお)
城之内 猛留(じょうのうち たける)
利根勝久とその関係者
利根 勝久(とね かつひさ)
昭和60年1月28日生まれの30歳。出稼ぎに行ったまま音信不通で父親は物心ついたころからおらず、母親は高校を卒業するころに男を作って出て行ったため、愛情を知らずに育った。
執行猶予がついたため実刑にはならなかったが、過去にヤクザの須藤を意識がなくなるまで殴打したことで逮捕されたことがある。22歳だった2007年12月8日、塩釜福祉保健事務所で窓口業務に従事していた三雲忠勝(当時33歳)に殴りかかり、全治2週間の怪我を負わせたうえ、同日深夜に塩釜福祉事務所庁舎の裏手に放火。現住建造物等放火罪で起訴され、検察から懲役10年を求刑される。動機については「知人である遠島けいの生活保護受給の件でむしゃくしゃしていました」としか語らず、弁護士も情状酌量を訴えるだけで積極的な弁護をしなかったため、求刑通りの懲役10年の判決がくだり、控訴はせずに服役する。刑務所では旋盤技術を磨き、機械加工技能士二級に合格した。
櫛谷 貞三(くしたに ていぞう)
碓井(うすい)
五代 良則(ごだい よしのり)
生活保護関係者
沓沢(くつざわ)
渡嘉敷 秀子(とかしき ひでこ)
国枝 恵二(くにえだ けいじ)
佐々木(ささき)
市川 まつ江(いちかわ まつえ)
瀬能 瑛助(せのう えいすけ)
郡司 典正(ぐんじ のりまさ)
書誌情報
- 単行本:護られなかった者たちへ(2018年1月25日発売、NHK出版、ISBN 978-4-14-005694-3)
- 文庫本:護られなかった者たちへ(2021年7月21日発売、宝島社文庫、ISBN 978-4-299-00633-2)
映画
監督は瀬々敬久、主演は佐藤健で、時代設定は東日本大震災から9年後に変更されている。当初は東日本大震災から10年の節目を控えた2020年冬に公開予定と発表されていたが、公開日が2021年10月1日に延期された。公開初週土日2日間で動員9万5000人、興収1億2600万円を記録し、映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)で初登場第3位となった。
10月14日には第26回釜山国際映画祭のA Window on Asian Cinema部門にて上映され、上映後のティーチインイベントでは瀬々がオンラインで参加し、現地の観客からのQ&Aにもこたえた。
第46回報知映画賞作品賞、また、第45回日本アカデミー賞優秀作品賞をはじめとした多数の部門優秀賞を受賞。
Blu-ray&DVDが2022年4月22日に発売。
キャスト
- 利根泰久:佐藤健
- 笘篠誠一郎:阿部寛
- 円山幹子:清原果耶
- 蓮田智彦:林遣都
- 三雲忠勝:永山瑛太
- 城之内猛:緒形直人
- 楢崎肇:岩松了
- 鈴木将:波岡一喜
- 笘篠紀子:奥貫薫
- 菅野健:井之脇海
- 宮原:宇野祥平
- 支倉:黒田大輔
- 宮園真琴:西田尚美
- 国枝:千原せいじ
- 春子:原日出子
- カンちゃん:石井心咲
- 東雲:鶴見辰吾
- 櫛谷貞三:三宅裕司
- 上崎岳大:吉岡秀隆
- 遠島けい:倍賞美津子
スタッフ
- 原作:中山七里『護られなかった者たちへ』(NHK出版)
- 監督:瀬々敬久
- 脚本:林民夫、瀬々敬久
- 音楽:村松崇継
- 主題歌:桑田佳祐「月光の聖者達」(タイシタレーベル / ビクターエンタテインメント)
- 製作代表:髙橋敏弘、千葉伸大
- エグゼクティブプロデューサー:吉田繁暁、遠藤日登思
- 企画・プロデュース:筒井竜平、福島大輔
- 撮影:鍋島淳裕
- 照明:かげつよし
- 録音:髙田伸也
- 編集:早野亮
- 美術:松尾文子
- 装飾:大原清孝
- VFX:立石勝
- スタイリスト:纐纈春樹
- 衣装:越智雅之
- ヘアメイク:那須野詞
- 記録:江口由紀子
- 制作担当:木村広志
- 助監督:海野敦
- ラインプロデューサー:阿部智大
- 配給:松竹
- 制作プロダクション:松竹撮影所東京スタジオ
- 企画:アミューズ
- 製作:映画「護られなかった者たちへ」製作委員会(松竹、アミューズ、木下グループ、トーハン、イオンエンターテイメント、NHK出版、松竹ブロードキャスティング)
受賞
- 第44回山路ふみ子映画賞
- 新人女優賞(清原果耶、『まともじゃないのは君も一緒』等と合わせて)
- 映画功労賞(倍賞美津子)
- 第46回報知映画賞
- 作品賞
- 第34回日刊スポーツ映画大賞
- 助演女優賞(清原果耶)
- 第76回毎日映画コンクール
- 男優主演賞(佐藤健)
- 女優助演賞(清原果耶)
- 第45回日本アカデミー賞
- 最優秀助演女優賞(清原果耶)
- 優秀作品賞
- 優秀監督賞(瀬々敬久)
- 優秀脚本賞(林民夫、瀬々敬久)
- 優秀主演男優賞(佐藤健)
- 優秀助演男優賞(阿部寛)
- 優秀撮影賞(鍋島淳裕)
- 優秀照明賞(かげつよし)
- 優秀音楽賞(村松崇継)
- 優秀美術賞(松尾文子)
- 優秀録音賞(高田伸也)
- 優秀編集賞(早野亮)
- 第19回Asian Film Festival
- 最優秀女優賞(清原果耶)
- 新人女優賞(清原果耶、『まともじゃないのは君も一緒』等と合わせて)
- 映画功労賞(倍賞美津子)
- 作品賞
- 助演女優賞(清原果耶)
- 男優主演賞(佐藤健)
- 女優助演賞(清原果耶)
- 最優秀助演女優賞(清原果耶)
- 優秀作品賞
- 優秀監督賞(瀬々敬久)
- 優秀脚本賞(林民夫、瀬々敬久)
- 優秀主演男優賞(佐藤健)
- 優秀助演男優賞(阿部寛)
- 優秀撮影賞(鍋島淳裕)
- 優秀照明賞(かげつよし)
- 優秀音楽賞(村松崇継)
- 優秀美術賞(松尾文子)
- 優秀録音賞(高田伸也)
- 優秀編集賞(早野亮)
- 最優秀女優賞(清原果耶)
関連カテゴリ
- 中山七里
- 2016年の小説
- 日本の新聞連載小説
- 日本の推理小説
- 警察官を主人公とした小説
- 東日本大震災を題材とした小説
- 仙台市を舞台とした小説
- 貧困を題材とした小説
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