辺境警備
ジャンル:ハイファンタジー,
以下はWikipediaより引用
要約
『辺境警備』(へんきょうけいび)は、紫堂恭子による日本のファンタジー漫画作品。
概要
紫堂恭子のデビュー作となる。
少女マンガ雑誌『プチフラワー』(小学館)に、1988年3月号から1992年5月号に連載された。単行本は小学館:プチフラワーコミックスより全6巻。その後、角川書店のファンタジーDX誌で発表された続編を含めた「決定版」が1997年から1998年にかけて全7巻で発売された。また、2007年には、ホーム社漫画文庫から文庫版が全4巻、2018年に角川書店より復刊版が全6巻で発売された。
中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を舞台に、辺境の警備隊長に赴任という形で左遷された“隊長さん”の日常や彼の周辺で起こる出来事を描く。物語は“隊長さん”が左遷されたルウム復活暦九九六年からルウム復活暦一〇〇〇年に“隊長さん”が辺境を去り、イドラグールで“背高さん”やカイルと協力して冥王の復活を阻止するまで。
『指輪物語』の影響が強く、作中にも『指輪〜』を思わせる描写が見受けられる。また本作の背景世界は、作者の別作品『グラン・ローヴァ物語』や『東カール・シープホーン村』と共通しており、登場人物のクロスオーバーなどが盛り込まれている。
また、異世界から迷い込んだ少女と元兵士の絆を描いた『逃げる少女~ルウム復活暦1002年~』は本作より2年後の東方諸国を舞台としており、忌地と嫌悪される「旧魔国」イドラグールも絡んでいる。
ミステリーボニータで連載中の最新作、北方辺境国のエアドロム王国を舞台とした『虚妄の女王~辺境警備外伝~』ではルウム王国との深い断絶と敵対感情が描かれ、一二〇〇年前に海賊行為で金品財宝を強奪したために二〇〇年間ルウム王国に支配され冥王による「大暗黒時代」に彼らが去っても憎悪は根強く残りルウム人の血を引く自国の王子を“ルウミアン”と呼んで蔑んでいる。
ストーリー
ルウム王国の北西国境部「西カール(るーまカール)」地方ドレングの街の国境警備隊に新たな隊長さんが左遷されてきた。彼を取り巻くのは陽気な兵隊たちと、やはり都エンディミラ・オルムから赴任してきたという神殿の神官さん。辺境を舞台に、素朴だが少し神秘的で、どこか懐かしい日常が展開される。
登場人物
“隊長さん”サウル・カダフ
本作の主人公。兵法の教科書に載るほどの切れ者だったが、親友ロレアンの多情な妻シルフィンの腹いせに北西国境部のドレングへ左遷されてしまう。「不良中年」を自称し、身を慎む様子も無く遊び歩き、ひっきりなしに「都へ帰りたい」とグチを漏らすが、本質的には達観した人物。若い頃は、現在からは想像も付かないほどの美形だった。30代半ばだが、ヒゲのせいか老けて見られがち。王都での神官さんとヴォルグの事件後、背高さんの正体と事情を知らされた。終盤、旧友と共に国境沿いで起こった紛争に派遣されて辺境を去る。15歳しか違わない神官さんに「父親のように思っていた」と言われ、ショックを受ける。
最終章で東方諸国の内紛に介入して岩砂漠を飛び回っていたが、東の果てに留まらなければならなかった。部下たちを愚痴の巻き添えにしていたが、イドラグールに取材旅行に向かう画家モレスの道案内を引き受け、カイルや背高さんと再会し、冥王の復活を阻止する戦いに協力することになる。
『虚妄の女王~辺境警備外伝~』でルウム王国軍軍団長としてエアドロム王国の新女王セオドラ(フィアンナ)とトライド王子に対面する。
“神官さん”ジェニアス・ローサイ
3年前に、ドレング神殿に赴任してきた美青年。頭がいいが生真面目で融通のきかないところがあり、隊長さんの言動にいちいち説教をする。自身の美貌を称賛すると怒る。しかし、懲りない性格なので後見人である背高さんに心配される。生まれてすぐ背高さんに拾われドル・ドナ老師に預けられて神殿で育った孤児。辺境への赴任の裏には何らかの事情があったようだが、その点に関しては何も語らない。一度はドル・ドナ老師によって王都へ呼び戻されるも、因縁の傭兵ヴォルグとの再会を経て、再び辺境へ戻った。実はかつて親友エルフリードから義母イヴリンを紹介されたことが切っ掛けで、父アベルが婚約者だったイヴリンを裏切って母エルウィングと結婚し、その息子「エステル・シルヴァスタイン」として生を受けたことを知る。しかしイヴリンの愛人だったヴォルグの陰謀により、イヴリンとエルフレードが死を遂げ、自身も心身ともに傷ついたことが明らかになる。女性と見られるのを嫌がりながら髪を伸ばしているのも、村の少女ジュディスの恋心に応えられぬことに苦悩したのも、婚約者を裏切った実父を許せず、自身が同じ過ちを犯さないよう女性を遠ざけるためだった。
顔立ちは父アベルに似るが美しい銀髪と菫色の瞳は母エルウィング譲りで、イヴリンがその身元に気づく切っ掛けとなった。また、それが原因で再びヴォルグに狙われることになるも、隊長さんたちの尽力で彼との因縁にも決着が付いた。
カイル
レナンディの街に住んでいた黒呪術師(ドラティア)。神官さんとの喧嘩がきっかけでドレングの郊外に庵を構えることになり、辺境の人々からは“先生(マスター)”と呼ばれる。意地っ張りで天邪鬼だが、慈悲や友情をまったく解さないわけでもない。背高さん曰く「愛情を注がれ、自身もまた誰かに愛情を注ぐ人間。」である。呪術の師でもあった祖父を尊敬しており、黒呪術を批判する神官さんには強い反発を示す。他人に勝手なあだ名をつける癖があるが、これは「呪術師はうかつに他人の本名を呼んではいけない」という祖父の教えを無意識に守っているから。唯一、ドル・ドナ老師だけは尊敬を抱く。イドラグールで盲目の少女シアを助ける。
『逃げる少女~ルウム復活暦1002年~』の第4話「幻惑」に登場し、主人公セスの元同僚チャルクに追われた「地震を引き起こす“何か”に狙われる」少女ジェスベルを助けた。ジェスベルと彼女を追う「何か」が引き起こす地震の謎を解くため、ジェスベルに「夢見(むけん)の術」をかけて彼女の意識下に潜るが、何故か歪んだ空間に入り込んでしまう。そのさ中、問題の地震に襲われ、深い地割れに飲み込まれる。それ以降、行方不明となる。やがてジェスベルを追う謎の力は異世界から迷い込んだ異物を排除しようとする、世界そのものの力だと悟りセスと共にジェスベルを元の世界に戻す。
『虚妄の女王~辺境警備外伝~』で侵略だと誤解したエアドロム王国のカルライグ伯と会談し、セスと共に事情を説明する。
“背高さん”
神官さんが王都に栄転した際、後任の神官として現れた謎の人物。古びた黒ずくめの軍服に大剣を帯びた長身の男で、神官だけでなく軍人や賢者としての肩書きも持っているという。自称「名もなき賢者」だが、昔はエクサイラ(放浪者)やマクロビアン(不老不死者)と呼ばれていた。兵隊さんたちからつけられた「背高さん」という可憐な呼び名を気に入っている。神官さんが子供の頃からの後見人であり、辺境の人々が彼を慕っていることに喜びを示す。隊長さんより年上のはずだが、見た目は20代半ば程度。
実は「エルディア救世王」と称えられる伝説の英雄王その人であり、かつて「大暗黒」が到来した時代に「冥王」を滅ぼす存在として予言された一千年前の人物。ルウム旧暦一一〇五年、25歳のときに冥王を唯一滅ぼせる剣から主に選ばれ、その呪いで不老となり、また本来なら王位に就くはずの2人の兄王子に妬まれてしまう。冥王を倒した後、暦を改めルウム国王として即位するも後に退位し、「剣の賢者」として剣が滅びるまでの長すぎる生を生きている。ルウム国王時代の娘エルウィングもまた剣に触れて不老となっている。そのエルウィングが数十年前、記憶喪失に陥った際にアベルという男性と結婚して生を受けたのが神官さんであり、実の祖父と孫の関係であるが、彼には知らせておらず、事情を知る周囲の者にも口止めしている。不老長寿になった身に終焉の時が迫り、静かに神官さんに別れを告げた。宴会で神官さんの赤ちゃんだった頃の思い出を語り、イドラグールで画家モレスにもそのことを語り、ジジバカと呆れられた。
30年以上前からイドラグールで変装して「ケルベス」と名乗り、大師たち奴隷の子孫を助けて理解し合う糸口を模索していた。復活しようとした冥王を完全に倒し、娘の待つ「東の学舎(フォアサイト)」に去る。
本作より150年ほど前、同世界を舞台とする『グラン・ローヴァ物語』にも「二代目グラン・ローヴァ」として登場する。
兵隊さん
シルフィン
隊長さんの知己(といより腐れ縁)で絶世の美女。その美しさは、若い頃の彼女にアタックしてふられた吟遊詩人カロファインが「アンラッキー・デイ」という有名な詩を作ったほど。恋多き女性で、婚約者がいながらも隊長さんや他の男性との逢瀬を楽しんでいた。結婚するまで恋を楽しみたいと占い師の老婆に相談し、フライパンで殴って落馬させた隊長さんとつき合うようになる。後に親友の婚約者だと知った隊長さんに避けられ、大喧嘩になる。それでも本気で隊長さんを愛してしまうが、婚約者の親友だと知りながら複数の男性とつき合うことに嫌気がさした隊長さんに拒絶され、隊長さんと結婚すべきだとロレアンに婚約解消されるも、必死に懇願する両親によりロレアンと元の鞘に収まった。
軍の人事にコネがあり、隊長さんの親友である夫ロレアンの死後、自分を慰めに来ない隊長さんを辺境に飛ばした。ほとぼりが冷めた頃に隊長とよりを戻すそうとするも失敗。神官さんとヘルム家の事件が解決後、神官さんに呼ばれて隊長さんへの報酬を浪費するなど、悪女ぶりを如何なく発揮する。
ロレアン
シルフィンの夫であり、隊長さんの親友。「アンラッキー・デイ」での隊長さんとシルフィンの回想でちらっと登場したが、番外編「天使のいない夜」でシルフィンを繋ぎとめる努力をしないのに、頑固な性格の青年として描かれた。濃い茶色の髪と黒い瞳の青年。裕福な家の跡取りであるため、育ちの良い上品な雰囲気を持つ。シルフィンが婚約時代に結婚までの自由な恋愛を望み、隊長さんとつき合っていることを知ってシルフィンとの婚約を解消した。その際、友人であるエドマンドの駆け落ちに協力し、2週間は誤魔化せる自信のあった陽動作戦を看破した隊長さんの制止も聞かずに本当に婚約解消してしまうが、シルフィンの両親の泣き落としで説得され、結局はシルフィンと結婚した。物語開始直前に死亡しており、隊長さんが辺境へ飛ばされる切っ掛けとなった。
ヘリウス・ヴォルグ
首都編ともいうべき4~5巻の重要人物であり、この物語最大の悪役。オルデンロード出身の元傭兵。ある任務で2週間だけの間、隊長さんの部下だったこともある。敵に内通したり、寝返ったりと這い上がるために手段を選ばなかったため、隊長さんとはお互いに嫌悪感しかない。ヘルム家の親族の依頼で先代当主の後妻となったイヴリンに接近するが、彼女に寝返った。イヴリンを利用してヘルム家の財産を狙ってジェニアスが辺境へ赴く要因を作った元凶。ヘルム家の財産を執着する親族たちが事件をもみ消し、自由に動けるようにして貰った。首都に戻ったジェニアスを捕らえて彼への遺産を横取りしようとしたが、ジェニアスを助けようと奔走した隊長さんたちの尽力によって失敗する。ヘルム家のヴェイグ公が阿片(オピウム)の密売で逮捕された際、エルフレード殺害の依頼をしたことを白状したため、過去の罪状も合わせて軍警察に逮捕される。
イヴリン・ヘルム
アベル・シルヴァスタイン
エルウィング
神官さんの実母で背高さんの娘。銀の髪と菫色の瞳の美女。背高さんが王位に就いていた頃、魔の剣に触れて抜いてしまったため、首都エンディミラ・オルムは灰燼に帰すことは免れたものの父親同様に呪いにより不老となり、一千年近い時を生き続けている。「東の学舎」にいたが、事故で行方不明になる。事故の詳細は不明。カシム河で溺れかけていたのを老夫婦に救われるが、名前以外の一切の記憶を失っていた。14歳のアベルから見て年上の女性だったが、不老のために10年後のアベルと再会した時には釣り合う外見の女性であり、無邪気に懐かしく思いアベルと愛し合うようになるが、イヴリンという婚約者からアベルを奪ってしまい、息子である神官さんにまで及ぶ悲劇の原因となる。アベルの墓標の前で背高さんと再会し、神官さんを自分たちの暗い運命から遠ざけようと我が子を手離し、「東の学舎」に戻った。
“老師”ドル・ドナ
ジョルジォ・モレス
大師
シア
セルリオン
モードック
背景世界
神話によれば、遥か昔に神は9人の使徒と共に9つの星々を造り、それを通じて世界を創造した。しかし、9つの星々の内「闇」は自分だけの世界を望んだため地に堕ちて、地の底で「冥王」を生み出した。そして今から1000年前、冥王の侵攻による「大暗黒」が訪れた。このとき、当時のルウム王の三男で後に「エルディア救世王」と呼ばれるローランドと、狩人の少年セルリオンが冥王を倒した。作中世界で使われている「ルウム復活暦」はこれを記念したものである。
『グラン・ローヴァ物語』で災厄の中心にあった「銀晶球」が背高さんに尋常ならざる長寿を強いた剣の柄に「東の学舎」を創設した白い髪の精霊ハールにより嵌め込まれている。
本作の舞台は、ルウム復活暦1000年を目前に控えたルウム王国である。「大暗黒」の災厄により版図は縮小されたものの長い時間をかけて国力は回復しつつあり、それと同時に東方諸国との軋轢が問題となっている。東方諸国のさらに東には、かつて冥王の領土だった「旧魔国」イドラグールの荒野が広がっている。また南東部には、運命の森の奥深く大賢者グラン・ローヴァをはじめとした賢者を輩出する「東の学舎(フォアサイト)」があるとされているが、良からぬ望みを持つものは近づけないという。王国の北西部は、かつて存在した北方諸国との交流が完全に途絶えており、この地方の政治的・軍事的価値は限りなく低い。そのため、この地への赴任は左遷と見なされている。
長さの単位は「ヤード」である。
単行本
小学館プチフラワーコミックス
角川書店 あすかコミックスDX〈決定版〉
角川書店あすかコミックスDX〈復刊版〉
ホーム社漫画文庫
潮出版社
関連書籍
グラン・ローヴァ物語(潮出版社→角川書店)
東カール・シープホーン村(集英社→角川書店)
辺境警備プレミアムブック 永遠の約束(角川書店) ISBN 4-04-852954-4
逃げる少女 〜ルウム復活暦1002年〜(秋田書店)
虚妄の女王 ~辺境警備外伝(秋田書店)