雪の峠・剣の舞
以下はWikipediaより引用
要約
『雪の峠・剣の舞』(ゆきのとうげ・つるぎのまい)は、岩明均による日本を舞台とした歴史漫画2編からなる中編集。2001年にKCデラックス(講談社)から単行本が刊行され、2004年に文庫化された。
収録作品は、江戸時代初期の大名・佐竹氏の城地選定に纏わるお家騒動を題材とした「雪の峠」と、戦国時代の剣豪・上泉信綱の門下の疋田文五郎を主役に箕輪城の戦いを描いた「剣の舞」である。「雪の峠」は1999年に『モーニング新マグナム増刊』(講談社)にて、「剣の舞」は『ヤングチャンピオン』(秋田書店)にて2000年No.8から同年No.12まで、それぞれ短期連載された。
雪の峠
あらすじ(雪の峠)
戦国時代末期、常陸国を領土としていた53万石の大身大名・佐竹義宣は、関ヶ原の戦いで西軍の石田三成方についたため、敗戦後、当時の僻地である出羽国へ追いやられてしまった。そこで新しい城を建築することになったが、築城場所を決める際、義宣は新参者で若手の渋江内膳の意見を重視し、古参の重臣たちを蔑ろにする素振りを見せる。家老・川井伊勢守を中心とする老臣たちはそれに反発し、大軍略家と名高い梶原美濃守を立て、自分たちの居場所を守るために対抗案を出すことにする。
始まった群議で、渋江内膳は港町・土崎にほど近い「窪田の丘」に新築する商都としての城地を提案し、国を安定して富み栄えさせることで、やがては港町と城下町がひとつに繋がる道を説く。一方の梶原美濃守は穀倉地帯・仙北の中心にある「金沢城」を拡張する軍都としての城地を提案し、大坂で豊臣が健在である以上また全国的な戦になる可能性があるとして、領土掌握を最優先することを説く。梶原の構想は極度に大規模なもので、工期・工費とも莫大になることが明らかだったが、戦国の世を生き抜いた家臣たちの多くが引き寄せられた。その場は先代当主・佐竹義重が金沢城に近い「横手城」を追加提案し議論を撹乱することで、時間切れになり一旦流会したものの、再開された群議で梶原は金沢案をあっさり放棄し、横手城でも自分の構想は実現できる上に工費も削減できると主張してさらに賛同を集め、城地は横手に決定されてしまう。
当初の主張を投げ出してまで内膳の案、ひいては義宣の意思を拒絶した老臣たちに困惑する内膳だが、そこへ現れた首席家老・和田安房守から、内膳はただ「説明」をしているだけだったが老臣たちは「戦」をしていた、年寄りを黙らせたければ戦で勝ってみせよと叱咤される。内膳は「戦の仕方」を学ぶと称して梶原の屋敷を訪ね、梶原が老臣たちを相手に何度も語っていた上杉謙信公の逸話を聞かせてもらう。生涯ほとんど負け知らずであり関東諸大名からの救援要請にも助力を惜しまなかった謙信を、老臣たちは軍神と評し羨望していたが、内膳が抱いた感想は「謙信公は諸大名にこき使われた」であった。また梶原は、もし佐竹家が関ヶ原の戦いで東軍に与していたら、加増の結果100万石級の外様大名が徳川家の本拠地である関東に存在することになり、危険視され却って悲惨なことになっただろうとの判断を語る。
徳川から築城の許可を得るため、義宣と義重がそれぞれ書状をしたためる。内膳はここで策を弄し、義宣には第二希望として「窪田」を書き添えてもらい、義重には「万一江戸に事あらば江戸に近い横手から一日も早く駆けつける」との文言を含めてもらう。内膳の動きを不審に思った梶原が問い詰めてくるが、書状を閲覧しても不審な点は見つけられず、江戸への使者が出発するまでの間にすり替えなどがされないことを確認するくらいしかできなかった。だが内膳は、出羽へ同行できず関東に残されていた佐竹の旧臣に働きかけ、横手からわずか3日で江戸へ書状を届けさせていた。義重の文言を実践し異様な短期間で届けられた書状に徳川家康は驚き、佐竹家を調査する。その結果、横手案は義重が推したものであって、義宣は第二希望とされる窪田案を支持していたことを知る。また、短期間での配送を可能にしたのは関東の旧臣の力によるもので、これは佐竹の力が今も関東に及ぶことの示威であると判じる。義重は関東から遠ざけられた原因を理解していないと家康は激怒し、窪田への築城を指示する返書を出す。
こうして城地を決める「戦」は、佐竹家が逆らい得ない家康を上手く「こき使った」内膳の勝利に終わる。内膳自身の推挙により、内膳と梶原の2名が普請奉行に任じられ、窪田城の建築が進んでいくが、その途中で梶原は突然出奔する。反発していた老臣を抑えたことで義宣の権威が増し、古参の家臣が重職に留まり続けることは危険だと判断したためであった。同様に考えたのか、家老の和田安房守・小貫大蔵丞も隠居・辞職する。残る家老は、最も強硬に内膳に反発していた川井伊勢守ただ一人になる。和田の後任として内膳が家老に昇格するという人事を耳にした川井は、老臣4名と共謀して内膳暗殺を目論むが、うち1名が謀議を密告し、実行に移す前に全員が粛清される。
窪田城は完成し、後に「久保田城」と表記されるようになる。城下町も近隣の港町・土崎とともに発展を続け、やがて内膳が説いた道の通り、二つの町はひとつに繋がった。現在の秋田市である――
登場人物(雪の峠)
渋江内膳(しぶえ ないぜん)
梶原美濃守(かじわら みののかみ)
佐竹義宣(さたけ よしのぶ)
梅津半右衛門(うめづ はんえもん)・主馬(しゅめ)兄弟
川井伊勢守(かわい いせのかみ)
佐竹義重(さたけ よししげ)
和田安房守(わだ あわのかみ)
小貫大蔵丞(おぬき おおくらのじょう)
徳川家康(とくがわ いえやす)
本多佐渡守(ほんだ さどのかみ)
上杉謙信(うえすぎ けんしん)
剣の舞
あらすじ(剣の舞)
16世紀、戦国大名の武田家と長野家が争う上州の地。農家の娘ハルナは、戦のどさくさでならず者の武士たちに家を襲われ、陵辱された上に家族を皆殺しにされてしまう。ハルナは武士から盗んだ碁石金を元手にして、天下一と名高い上泉伊勢守の道場に弟子入りし、武士への復讐のために剣術を学ぶ。伊勢守の門弟であった疋田文五郎は、伊勢守が考案したばかりの撓(しない、竹刀)を手にハルナの剣を指導することになった。しかし武田の大軍が長野家の本拠・箕輪城を包囲したことで、文五郎もハルナも否応なく戦に巻き込まれていく。命をかけた戦いが終わり、伊勢守一門は旅に出る。上方の地で柳生と相対するとき、伊勢守の「これは遊びだ」の言葉で文五郎は気がつく。少女との時間が思い出に変わり、それでも尚、求めるものがあると。後に剣聖と呼ばれる剣客を相手に異次元の強さを見せた彼はかつてハルナを前にしたときのように笑みを浮かべ呟く。『それは悪しゅうござる』と。
登場人物(剣の舞)
疋田文五郎景兼(ひきた ぶんごろう かげとも)
ハルナ
上泉伊勢守秀綱(かみいずみ いせのかみ ひでつな)
神後伊豆守宗治(じんご いずのかみ むねはる)
与吉(よきち)
十郎左(じゅうろうざ)
大殿
藤井(ふじい)
小幡上総介(おばた かずさのすけ)
大場八十衛門(おおば やそえもん)
柳生新左衛門宗厳(やぎゅう しんざえもん むねよし)
宝蔵院胤栄(ほうぞういん いんえい)
書誌情報
- KCデラックス(2001年3月、講談社)ISBN 978-4063343878
- 講談社漫画文庫(2004年10月、講談社)ISBN 978-4063608236
- アンソロジー『武士の誇り』(「雪の峠」のみ、2014年3月、金の星社)ISBN 978-4323064246