項羽と劉邦 (横山光輝の漫画)
以下はWikipediaより引用
要約
『項羽と劉邦』(こううとりゅうほう)は、横山光輝による歴史漫画である。1987年から1992年まで「コミックトム」(潮出版社)に連載された。サブタイトルは『若き獅子たち』(連載時のタイトル)。単行本は全21巻(文庫版は全12巻)が潮出版社から発売されている。
概要
江戸時代の元禄年間に刊行された『通俗漢楚軍談』 をベースとしながら『史記』も参照して成立している。張良の始皇帝暗殺未遂と始皇帝の死から、陳勝・呉広の乱、楚漢戦争での項羽の死までを描く。樊噲が韓信に嫉妬するなど(実際には樊噲は韓信を尊敬していた)、一部史実と異なる脚色がされている。また、物語は項羽の死をもって終了しており、その後の劉邦治世下における功臣粛清、呂一族の台頭などの部分についてはばっさりとカットされている。これは「この後の劉邦を描きたくない」という横山の意向である。ただし、横山の別作品である『史記』では、本作に比してダイジェスト的になりながらも、その後の時代についても描いている。
あらすじ
中国史上初の皇帝になった秦の始皇帝は各国を巡り、その威光を広めていた。ある日、始皇帝がうたた寝をすると不思議な夢を見る。日輪が落ちてきて、東から青い服を着た子供と南から赤い服を着た子供が現れ、日輪を巡り喧嘩を始める。青い服の子供が赤い服の子供を72発殴るが、赤い服の子供が1発殴ると青い服の子供が息絶えた。始皇帝が赤い服の子供に素性を尋ねると、「私は堯、舜の末裔…豊沛に生まれ咸陽に入り、ここに義を立て400年の基礎を造る」と言い日輪を手中に治め去っていく、そして始皇帝は夢から覚める。
始皇帝は秦の天下が脅かされることを懸念し、不老長寿の薬の探索を命じる。さらに、盧生が持ち帰った仙書から発見された「秦を滅ぼす者は胡ならん」という言葉から北方の異民族の胡が秦の脅威となると思い、万里の長城の建設を命じる。一方で、「この国は新しく生まれ変わった」として、法こそが天下を統治する道だと頑なに信じる始皇帝は、その政治に反対する者を焚書坑儒という残忍な手段で取り締まる。秦の政治に暗い影が差し始めていた…。
(以上、第1巻途中まで)
タイトル
巻 | 副題 | 内容 |
---|---|---|
1 | 秦の始皇帝 | 封禅、徐福の東海への出航、焚書坑儒、張良による始皇帝暗殺未遂事件、始皇帝の死。 |
2 | 大動乱 | 劉邦の逃亡、項梁の旗揚げ。 |
3 | 秦軍大反攻 | 項梁、章邯に敗死。 |
4 | 項羽の快進撃 | 項羽、宋義を討つ。馬鹿の故事、章邯、項羽に降伏。 |
5 | 関中争奪戦 | 関中王を目指す項羽と劉邦の争い。 |
6 | 鴻門の会 | 劉邦咸陽入城、鴻門の会、秦王子嬰処刑される。 |
7 | 咸陽炎上 | 阿房宮焼かれる、劉邦、漢中に封じられる。 |
8 | 関中脱出 | 韓生、諫言をし煮殺される、義帝の暗殺、韓信が劉邦に仕官するが逃亡し、蕭何、夏侯嬰が連れ戻す。 |
9 | 大元帥誕生 | 韓信、大元帥となる。樊噲がこの決定に異を唱え、処罰されそうになるが許される。 |
10 | 水火の計 | 章邯らを破り劉邦、関中(三秦)を手に入れる。 |
11 | 張良暗躍 | 韓信が咸陽を陥落させる。張良の説得で多くの王が劉邦側につく。 |
12 | 咸陽発進 | 陳平、項羽を見限り劉邦の下に奔る、韓信に代わり魏豹が大元帥に任じられる。 |
13 | 睢水の合戦 | 劉邦、彭城を落とすも、斉から精鋭を連れて戻った項羽に大敗北を喫する(彭城の戦い)。英布、項羽から離反。 |
14 | 韓信の復帰 | 韓信、大元帥に復帰、項羽との戦いで戦車を用い勝利。魏豹、劉邦から離反。 |
15 | 孝子王陵 | 魏豹敗れる、王陵が防戦に活躍し、項羽は母親を人質に取り王陵に降伏を促そうとするが、母親に自害され失敗する。 |
16 | 窮余の策 | 韓信、背水の陣により陳余を破り、李左車の献策で燕を降す。范増、陳平の反間の計で項羽の下を去り死ぬ。 |
17 | 劉邦の反撃 | 劉邦、紀信が身代わりとなり難を逃れる、樅公、周苛、項羽に捕らわれるも寝返りを断り死を選ぶ。 |
18 | 韓信斉奪取 | 酈食其が説客として斉王の説得に成功するが、蒯通の勧めで韓信斉を攻め滅ぼす、酈食其は斉王に煮殺される。 |
19 | 漢楚和睦策 | 項羽、劉太公を殺すと劉邦に宣言。劉邦和睦を決意、侯公が使者に赴く。 |
20 | 垓下への道 | 和睦の後、劉邦項羽を攻めるが、韓信、英布らの援軍がなく苦境に立つ。 |
21 | 四面楚歌 | 四面楚歌、虞美人の死、項羽の最期。 |
登場人物
秦
始皇帝
胡亥
子嬰
趙高
蒙恬
章邯
項羽陣営
項羽
本作の一方の主人公。叔父の項梁に従い旗揚げする。項梁の死後は章邯と激戦を繰り広げて打ち破り、これを降す。咸陽制圧の劉邦との競争では、おくれをとるまいと「恐れを抱かせ逃亡させるため」に敵を皆殺しにしながら兵を進め、そのために激しい抵抗を受け、かえって進軍が遅れたことから一番乗りを逃してしまう。しかし劉邦の家臣になるつもりはさらさらなく、自ら西楚の覇王と名乗り、劉邦を屈服させて漢王に任じ、僻地に追いやる。自らの武勇に絶対的な自信を持ち、垓下の戦いでは英布・王陵・曹参・周勃といった猛将たちを含む8人の大将を相手に互角以上の戦いを見せ、次々と蹴散らすなど、桁違いの豪勇を誇る。その強さには韓信や李左車も頭を悩ませ、垓下の戦いでは包囲網を突破される危惧を抱かせる。しかし知略においては土地や兵糧の重要性を軽視し、劉邦や韓信を「小役人上がり」「臆病者」と過小評価する。性格においても、身内には寛大に接するが、激昂すると配下の言葉にも耳を貸さなくなる、満座の中で配下を一方的に罵倒するなど自己中心で傲慢な面がある。また秦の降兵20万の虐殺、始皇帝の墓を暴くなど(それらの暴挙を実行したのはほとんど英布である)、気性の激しさゆえの残虐な振る舞いも目立ち、それらが災いして范増や陳平と言った腹心たちを失ってしまう。最期は「天が自分を見放した」と判断し、会稽への逃走中に追いついた呂馬通(中国語版)(雍王章邯の旧武将)に対して、「同郷のよしみに手柄を立てさせてやる」と言って自害して果てる。
虞美人
虞子期
范増
軍師。項梁の命を受けた季布に説得されて楚軍に加わる。項羽からは最も信頼され、「亜父」(父に次ぐ者の意)と呼ばれる。劉邦の存在を危険視し、彼に油断するなとたびたび項羽に忠告する。秦滅亡後に表向きは褒賞、実質的には左遷として劉邦を漢中に封じ込める。陳平の反間の計により、項羽に疑われたことから、引退を願い出るが、故郷に帰る途上、背中のできものが原因で亡くなる。「死ぬまで自らの無実を訴え続けていた」という従者の報告を聞いた項羽は、「人間は死ぬ間際まで嘘はつかん」と彼の無実を悟り、後悔の念に苛まれる。
住民の虐殺や義帝を謀殺、秦打倒後に善政を行わない項羽をたびたび諌めるなど良識ある人物だが、項羽の苛烈な性格を前に、あまり聞き入れられなかった。また、星占いや相手の運気を見破ることにも長けており、劉邦を「凄まじい運気の持ち主、真に仕えるべきはこの方だった」と内心では思うが、圧倒的な武威を誇る項羽を天下人にしようと足掻き続ける。事実上の追放後に病に倒れた際には「誤って項羽に仕え、多くの人々を死に追いやったのだから、惨たらしく死ぬのは当然。仕えるべき主を間違えたのは無念だ」と項羽に仕えてしまったことの後悔を従者に漏らすが、この言葉は項羽に伝えられることはなかった。
項伯
季布
鍾離眛
周蘭
桓楚
曹咎
劉邦陣営
劉邦
本作のもう一人の主人公。酒と美女をこよなく愛する沛県の亭長(小役人)。呂文から股下に古代中国で吉数の72のほくろがあることと優れた人相を気に入られ、呂后を娶ることになる。その後芒碭山(中国語版)の盗賊にまで身を落とすが、やがて秦打倒のために旗揚げし、項梁の軍に加わる。仁徳ある姿勢から人望が厚く、多くの優れた家臣が集まる。咸陽一番乗りを果たすが、項羽との実力差から雌伏を味わう。その後韓信や張良らの活躍により項羽を倒し、漢王朝を確立する。
窮地に陥ると「韓信はどうした、なぜやってこん」などとわめき散らしたり、兵が足らなくなったからと韓信から兵を取り上げたり、自分の優柔不断のせいで項羽が態勢を立て直し逆に漢軍が窮地に陥ったのに、張良らに対し「お前たちがすぐに項羽を討てるように申したからこうなったのじゃぞ」と詰め寄ったりするなど自分勝手な面も目立つが、そういう失敗が逆に人間味に溢れ、助けたくなると有利に働く。寛大な人柄で部下の進言を積極的に取り入れ、天下統一の中で将軍としての礼節を身につけていく。
張良
蕭何
韓信
当初は項梁に仕官を申し出て、才能を見込んだ范増の進言もあって警備兵として召し抱えられる。范増は韓信の才能を見抜き、重用しないのならば殺すように項羽に進言するが、項羽は「股くぐりの臆病者」という噂から重用しない。項羽に愛想をつかし、項羽陣営から劉邦陣営に加わる。本作では有能な人材を探し求める「招賢館」を訪ね、蕭何と夏侯嬰にその才能を認めさせる。しかし劉邦にも過去の噂からやはり重用されなかったため、脱走を図るが蕭何と夏侯嬰に連れ戻される。その後、張良にも認められる人物であったことから大元帥に任命されるが、睢水の合戦の前に任を解かれる。自尊心を傷つけられてしばらく閉居するが、張良の国を挙げた大芝居により復帰する。敗北した劉邦からたびたび軍勢を召し上げられるが、趙、燕、斉を降す。かなりの自信家で、自らの豪語する通り軍事的才能は非常に優秀で、戦闘では無敗を誇るが、政治的な駆け引きには疎く、実直な一面を見せる。
後に劉邦の猜疑心の的となり、追い詰められて謀反を企てて、召使いの密告で呂雉によって誅殺されるが、本作では説明書きなどで何度か暗示されるのみである。
英布
王陵
樊噲
灌嬰
陳平
酈食其
陸賈
叔孫通
その他
蒼海公
陳勝
田儋
魏咎
義帝
宋義
魏豹
魏の公子で、西魏王。傲慢で猜疑心の強い性格。当初は項羽の論功行賞に不満を持っており、張良の説得に応じて漢につく。劉邦に大元帥に抜擢されるが、睢水の合戦に敗れた後、謹慎の身となる。そして項伯の知り合いで魏豹とも親しい占い師の許負を用いた楚の工作と、敗戦の罪を問われるのではないかという被害妄想に陥り、それを諫言した家臣の周叔を幽閉した挙句に、劉邦に叛旗を翻す。韓信に敗れた後、母親の命乞いにより庶民に落とされる。その後返り咲きを狙って包囲された滎陽を守備する周苛や樅公に降参を勧めたため、怒りに燃えた樅公に斬首される。
後に文帝の母となる彼の妻も登場する。本作では兄(従兄とも)の魏咎との親族関係は触れていない。
韓王
司馬卬
申陽
趙歇
陳余
李左車
蒯通
史実との違い
- 彭城の戦いで、『劉邦は息子の劉盈(恵帝)と娘(魯元公主)と一緒に馬車に乗り、夏侯嬰が御者となって楚軍から必死に逃げていた。途中で追いつかれそうになったので、劉邦は車を軽くするために2人の子供を突き落とした。あわてて夏侯嬰が2人を拾ってきた』というエピソードについては全く触れられず、カットされている。これは「劉邦のイメージが悪くなる」と判断した作者の横山による処置である。
- 樊噲が、韓信が大元帥に推挙された際に嫉妬して異議を申し立てる描写があるが、実際には反対していなかった。
- 李左車が一時期偽って項羽の部下になるが、その事実はない。
書誌情報
発売日の順
単行本
関連出版
- 渡邉義浩『横山光輝で読む「項羽と劉邦」』潮新書、2023年。ISBN 4267023921