5五の龍
ジャンル:将棋,
以下はWikipediaより引用
要約
『5五の龍』(ごごのりゅう)は、つのだじろうによる将棋をテーマとした漫画作品。当稿では本作の続編ともいえる『虹色四間』(にじいろしけん)についても解説する。
※以下の内容の出典は、『虹色四間』を除き全て愛蔵版からとなっている。
概要
「週刊少年キング」(少年画報社)に1978年から1980年まで連載された。単行本はヒットコミックスで全10巻、後に愛蔵版として中央公論社から全2巻、中公文庫コミックス版として中央公論社から全6巻が発売された。愛蔵版では中原誠や大内延介、中公文庫コミックス版では羽生善治らが推薦文を寄せている(ただし愛蔵版で登場している棋士の推薦文については、中公文庫にも同じ推薦文が流用されている)
この作品が生まれたきっかけは、当時の少年キングの戸田編集長から「将棋漫画を描けないか」と相談されたことだった。将棋に詳しいがゆえに、つのだは将棋対局を漫画化する難しさも把握していた。しかしこれまでの漫画は駒の配置などが適当な物ばかりで不満を感じ、徹底的な準備・研究の後に、「少年誌唯一の本格将棋漫画」と銘打って本作の連載を開始した。
もともと多趣味で凝り性だった作者つのだじろうは、将棋の勉強にも没頭した。町で一番将棋が強かった父親に徹底的に負かされたことが、その理由の一つと言われている。本作の連載開始時にはアマ三段、平成元年に中原誠 ・田中寅彦 ・谷川浩司らの推薦でアマ四段まで取得している。本作は作者自身も気に入っている作品なのか、つのだじろう公式サイトの表紙を飾ったこともある。
特徴
- 駒の動きが非常にわかりやすい。ポイントとなる場面ではあえてページを費やし、将棋の初心者・中級者でも理解できるよう配慮されている。そのため本作は一般的な将棋の本などとは異なり、(ある程度の棋力があれば)将棋の駒と盤がなくても読み進むことができる。
- 読み進むにつれ、将棋界全体を知ることができる。将棋連盟や奨励会の構図、将棋のマナー、将棋の歴史、時事ニュースなどが自然に身につく。さらに本作では真剣師などの裏社会や奨励会の厳しさなど、あまり一般的ではない部分にも光があてられている。
- 本作を監修しているプロ棋士が複数存在している。彼ら専門家により重要な局面の分析がなされていて、高度で正確な評価に触れることができる。
- 駒落ちの定跡を重視し、基本の流れを紹介。また、その勉強が必要な理由まで丁寧に説明している。特に香落ちは奨励会にもよく登場するため、他の駒落ちよりも多く描写されている。当初は駒落ち将棋に偏見があった主人公も、のちに駒落ち定跡をアマチュアに指導するまでになった。
- 将棋の内容ではなくストーリーや演出に注目しても、本作の面白さを十分味わうことができる。欠点だらけの主人公が将棋を通じて徐々に成長していくプロセスや、個性的でありながら現実味のある人間たちの壮絶なドラマは、あまり将棋を知らない読者をも魅きつけている。
前述の愛蔵版において、専門棋士達も以下のように評価している。
- 中原誠 「マンガとしての面白さも一級、棋書としても名著に加えたい一冊」
- 大内延介「将棋界の全貌が浮き彫りにされた、漫画ノンフィクションの大傑作」
- 田中寅彦 「仲間たちの個性豊かなキャラクターと息もつかせぬ白熱戦など、読み物としての面白さはもちろんですが、将棋が自然に強くなるように仕組まれた作品だと思います」
あらすじ
物語の前半
中学生の駒形竜は、雇われ選手として草野球に参加したり、宿題を有料で手伝うというアルバイトの日々を過ごしていた。級友たちから「金にガメツイ」と悪評を叩かれるが、実は将棋に明け暮れる父親・竜馬の代わりに貧しい家計の足しとするためのバイトであった。
ある日竜の自宅に、真剣師の虎斑桂介が現れる。約束していた5年に1度の、賭け金100万円の決闘を果たしに来たのだ。父親が真剣師であることを知り動揺する竜。この時に、父から「お前(竜)が俺と勝負して勝ったら真剣師から足を洗う」という約束を取り付ける。
父と虎斑桂介との決闘。それは裏の将棋界での決闘であった。「持ち時間無制限・席を立つのは小用の時のみ・食事や睡眠時間も一切なし。約束をたがえた場合は命を取られても文句はいわない」という、まさに死闘ともいうべき将棋の対局であった。場所は宗桂寺の境内であったが、大雨の中でも中止せず二人は目隠し将棋で屋外での対局を続けた。ついに竜馬が急性肺炎をおこしかけて救急車で運ばれたため、父親の代理として竜が名のり出た。竜の根性を買った虎斑桂介は対局の中断を許可し、意外にもさらに1年間の猶予を与えた。
約束の1年後の勝負に勝つため、竜は将棋会館に通うようになる。中学生名人戦にも参加し、さまざまなライバルたちと出会うことになった。 (この頃から竜はプロ棋士を意識するようになる。)そんな中、「ミス・タイガー」と名のる同年代の娘に遭遇する。彼女の本名は虎斑桂(とらふ・かつら)、虎斑桂介の実の娘であった。その後、虎斑桂介は不慮の交通事故で死亡してしまう。虎斑桂介の遺言により、彼の娘である桂と竜馬の息子である竜が、中断されていた勝負を引き継ぐことになった。それを聞いた入院中の竜馬は、「執念というより因縁だぜ」と言って涙を流している。
その因縁の対局前に、桂は内容が酷似した王将戦の棋譜を入手した。そして研究の上、万全の態勢で竜との勝負に臨む。将棋の流れは一方的に桂のペースで、竜は敗北寸前まで追い込まれた。しかし土壇場で起死回生の一手を放ち、竜は辛くも勝利することができた。この一件で100万円を手に入れ、竜は奨励会のテストを受けることを決心した。
その後も師匠である芦川八段との出会い、奨励会不合格による自殺騒動、再受験による「おなさけ」入会などを経て、竜は奨励会でプロを目指すことになる。だが奨励会での将棋の対局は、竜が予想していた物より遥かに厳しい世界だった。これ以降本作の物語の大部分は、この奨励会での出来事を中心に展開されている。
物語の後半
無事奨励会には合格できたものの、竜の将棋は連戦連敗だった。宿敵の虎斑桂が連勝して注目される中、ついに竜は6級のBへ転落してしまう。高美濃と同居して自立し根性をつけようとするが、結局それも失敗に終わった。その後生活環境を変えるという芦川の考えから、将棋の町道場である「と金道場」に下宿するようになる。席主の父と共に道場を訪れるアマチュアを指導しながら、改めて将棋の勉強をすることになった。
その道場で、アマチュアの大学生が指導対局を依頼してきた。アマチュアとはいっても、大学リーグ戦A級の「東立大」将棋部の強豪である。たまたま居合わせた竜の奨励会仲間が相手をすることになったが、その大学生に平手で虎斑桂と棒銀三郎が負けてしまった。奨励会のメンツが危うくなった時、横で観戦していた竜が勝負を申し込んだ。そして見事に大学生を負かしてしまう。実は竜は5五の位を利用した中飛車の戦法を思いついたのだ。その後も東立大の学生達は竜に対し雪辱戦や嫌がらせを行うが、最終的に竜は勝利を収めることができた。この対局を境に竜は「5五龍中飛車」を編み出し、奨励会でも徐々に勝利して行くことになる。
得意戦法を身につけた竜とは異なり、負けがかさんでいたのが穴熊虎五郎であった。成績不振を同門の先輩たちにからかわれ、思い悩んだあげくに故郷の会津に帰ってしまう。そして竜たちの必死の捜索も空しく、雪山で自殺してしまうのだ。竜たちは非常に大きなショックを受けるが、同時にプロを目指す厳しさを思い知ることとなった。 その後しばらくして、死んだはずの穴熊が竜のもとに現れる。実は彼は虎五郎の弟で、養子に出されていた穴熊虎六だった。死んだ兄に代わり今度は自分がプロになると言って、竜に勝負を挑んできた。駒落ちで相手をした竜に勝って一度は生意気を言うが、竜馬に諭されて素直に帰って行った。結局その虎六は、兄が在籍していた関野一門に入ることになる。
ある日将棋会館の前で、竜と高美濃は風変わりな老人に出会った。老人を真剣師と誤解した二人は相手にしなかったが、実は彼は「将棋大天狗」として有名な元プロ棋士の島黄楊(しまつげ)八段であった。この大天狗と奨励会6級の梅木をめぐり、竜の退会騒動が持ち上がってしまう。だが大天狗が遊び将棋による非公式戦を提案、騒動は何とか解決する。そして大天狗より、「飛騨の中飛車」という男を紹介してもらうことになった。
はるばる岐阜県の山奥まで足を運んだ竜は、その「飛騨の中飛車」こと飛田中太郎に会う。そして彼から、中飛車研究の集大成である棋譜ファイル数冊を譲り受けた。その代償として、飛田は「名を伏せ正体も明かさず、現役の高段棋士5人と平手で対戦させてくれ。」と竜に依頼する。承諾した竜は帰京後に師匠に相談し、対戦者を探して飛田のために尽力した。
しばらくして飛田が上京。稽古将棋という名目で平手で望んだ5名のプロ棋士に対し、飛田は3人目までを全て中飛車で叩きのめす。だが4人目の対局前に元真剣師という素性が割れ、4人目の棋士は対局を辞退。あやうく竜は師匠の芦川に破門される所だった。予定通り5人目の飛田vs芦川八段戦が行われる。飛田は「これが己が人生の最終局」という覚悟で対局に臨んだ。この対局の中で「飛騨の中飛車・合掌造り」が登場、芦川八段を大いに苦しめた。しかし最後に捨て駒三連発の鬼手をはなち、芦川が飛田に勝利した。
その後も高美濃弘の退会騒動、(穴熊虎六や平手香を含む)奨励会の後輩たちの参入、角道道夫の山での遭難および退会といった出来事が続く。奨励会での壮絶な戦いが続く中、竜もひた向きに精進していった。そして最後に宿敵の虎斑桂を倒し、竜の二級昇級が決まったところで物語は完結している。
登場人物
ほとんどが将棋に関係ある用語や人物から名前を付けられている。棒銀や嵐飛車は、「名前通りその戦法が得意で」と作中で言及されている。
駒形一家
駒形 竜(こまがた りゅう)
本作の主人公。顔は五角形に太いまゆ毛のイガグリ頭で、将棋の駒がモチーフにされている。
芦川八段 門下
東京都出身→奨励会六級受験→不合格→情状酌量で六級合格→六級B降格→(徐々に昇級)→二級昇級で連載終了
いつも着ている服は「龍王」の駒のトレーナーに白い長ズボン。家計が苦しいためか、学校でも学生服でなく、常時この服装だった。
性格は友達思いで努力家、涙もろいところもある。一方かなりのあわて者で、世間知らずな部分も非常に多い。腕力もあり、相撲大会で善戦したり、高美濃を投げ飛ばしたこともある。
虎斑桂介の登場前は、ハメ手などの奇襲戦法しか知らなかった。さまざまな出来事を通じて、少しずつ将棋の基本を勉強して行く。物語の中盤では、独自の5五龍中飛車戦法を編み出す。
対局中の礼儀が出来ておらず、奨励会を一度不合格になった。それにショックを受け、千葉県の漁師町で、海に飛び込み自殺を図る。が、地元の漁師に救われ、説教を受け、その後、連絡を受けた両親と合流する。父の竜馬から礼儀の大切さを教わった後、少しずつ礼儀をわきまえるようになる。
駒形 竜馬(こまがた りゅうま)
奨励会のライバル達(同期)
虎斑 桂(とらふ かつら)
ツリ目の平安美人。服装は学生服のほか、いろいろ。
向井七段 門下
東京都出身→奨励会六級受験→(徐々に昇級)→連載終了直前に二級昇級失敗
虎斑桂介の娘。当初は本名を名乗らず、ミス・タイガーというニックネームがあった。物語全体を通じ竜の最大のライバルであるが、名前は桂でも性格は高飛車でプライドが高い。
真剣師の父に家族が泣かされた過去は、竜の境遇と瓜二つ。奨励会入会後も将棋の勉強に対し不真面目な竜を見下していたが、真剣に打ち込み始めると多少理解を見せた。実際の棋力も奨励会での昇級も竜に一歩リードしていたが、物語の最後の勝負で竜に競り負けた。
桂が史上初の女性奨励会受験者かつ合格者として描かれているが、これは現実の将棋界での出来事よりも一年早い。
棒銀 三郎(ぼうぎん さぶろう)
角道 道夫(かくみち みちお)
穴熊 虎五郎(あなぐま とらごろう)
奨励会のライバル達(後輩)
穴熊 虎六(あなぐま とらろく)
架空のプロ棋士
芦川(あしかわ)八段
竜は奨励会の受験前に、自分の師匠が見つからずに困っていた。ある日路上で偶然見かけた酔っ払いの男が、大道詰将棋の的屋を冷やかしてトラブルを起こしていた。それを助けた竜は寿司屋で、お礼に「奨励会を受験できるようにしてやる」との話を聞く。試験当日に竜は「自分の師匠がわからない」という状態で将棋会館にやって来たが、受付で確認すると既に師匠は決まっていた。実はその時の酔っ払いこそが、名門の師匠である芦川八段であった。
作中では「現在でこそ昇降級リーグ1組にいるが、昔は未来の名人確実とまでうたわれた天才棋士」とされている。
優しさの中にも厳しさがあり、作中では理想的な師匠として描かれている。たとえ記録係をするためでも、竜が学校をサボるのを許さない。
その一方で、相当の酒好きとされている。それほど出番は多くないのに、酒を飲んでいるシーンがやたらとある。
(実際のプロ棋士も同様だが)一門の師匠といっても、弟子の竜を手取り足取り指導する場面はまったくない。しかし、ここぞという時に竜のために尽力している。
「飛騨の中飛車」戦では激闘の末に勝利を収め、高段棋士のプライドと底力を見せつけた。また、「後手番では5五龍中飛車の戦法は不利になる。」と言った竜に対し、あえて公式戦で後手番の5五龍中飛車を使用して勝利している。
モデルは実在棋士の芹沢博文。
矢倉 銀一(やぐら ぎんいち)八段
その他のセミ・レギュラー
虎斑 桂介(とらふ けいすけ)
平手 香(ひらて かおり)
玉乃浦 梨江(たまのうら りえ)
銀子(ぎんこ)
メインゲスト
東立(とうりつ)大学・将棋部 児玉(こだま)アマ三段
東立(とうりつ)大学・将棋部 白銀(しろがね)アマ四段
梅木(うめき)六級
将棋大天狗(しょうぎだいてんぐ)
飛騨の中飛車(ひだのなかびしゃ)
本名は飛田中太郎(とびた・なかたろう)。
「5五の龍」の中核となる後半部分の最重要人物で、芦川八段に次ぐ竜の第二の師匠とも言える。中飛車であればプロ棋士にも負けない自信と実力を持つ、岐阜県山奥の熊打ちの猟師。
ボサボサ髪の中年男。人間嫌いのため多少無愛想だが、大自然の中で磨かれた深いヨミと清らかな棋風の持ち主。
もともと飛田は真剣師であった。イカサマを見破って対局相手側のヤクザ達にケガをさせ、3度も刑務所に入っている。だがその後は罪を償い、将棋を捨てて山奥に住むようになった。
将棋は捨てたものの、できれば全棋士の最高峰・中原誠名人を破りたいという夢があった。芦川八段との対局後は、完全に将棋を捨てて飛騨の山奥に戻っている。
実名登場したプロ棋士
棋譜創作などの協力
大内延介
田中寅彦
蛸島彰子
山下カズ子
その他の関連棋士
中原誠
大山康晴
米長邦雄
加藤一二三
升田幸三
谷川浩司
花村元司
中村修、有森浩三
青野照市
真部一男
沼春雄
9 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |
香 | 桂 | 銀 | 金 | 王 | 金 | 銀 | 桂 | 香 | 一 |
飛 | 二 | ||||||||
歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 角 | 三 | |
歩 | 歩 | 四 | |||||||
歩 | 五 | ||||||||
歩 | 歩 | 六 | |||||||
歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 七 | |||
角 | 銀 | 飛 | 八 | ||||||
香 | 桂 | 銀 | 金 | 玉 | 金 | 桂 | 香 | 九 |
戦法
5五龍中飛車
9 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |
香 | 桂 | 王 | 金 | 桂 | 香 | 一 | |||
飛 | 銀 | 金 | 銀 | 角 | 二 | ||||
歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 三 | |||
歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 四 | |||||
五 | |||||||||
歩 | 六 | ||||||||
角 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 七 | |
飛 | 玉 | 八 | |||||||
香 | 桂 | 銀 | 金 | 金 | 銀 | 桂 | 香 | 九 |
急戦型の中飛車戦法で、天王山ともいわれる5五の位をとり、9七角から中央を突破する戦法。相手が5四歩と指し先手に5五の位を取らせない手を指した場合に7六歩から角を使う変化や、香落ち用の変化もある。対居飛車用の戦法のため、後手番では指しにくいと竜は語っている。
9 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |
香 | 桂 | 金 | 王 | 金 | 銀 | 桂 | 香 | 一 | |
飛 | 銀 | 角 | 二 | ||||||
歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 三 | ||
歩 | 四 | ||||||||
歩 | 歩 | 五 | |||||||
歩 | 六 | ||||||||
角 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 七 | |
飛 | 八 | ||||||||
香 | 桂 | 銀 | 金 | 玉 | 金 | 銀 | 桂 | 香 | 九 |
プロの実戦としてはかつて『将棋世界』1983年6月号で「定跡実験室」のシリーズ企画で永作芳也(先手、居飛車側)対伊藤果(後手、中飛車側)が、居飛車側が有利な局面として指させている。中飛車側の伊藤は事前の検討では辛い戦型なので飛車を2二飛の位置に振り直しして指そうとしていたが、対局直前に△3四歩-△1二香の組み合わせを思いつき、そのまま中飛車で指し続けた(最終的な結果は先手居飛車側勝利)。第1図から、△6二玉▲5八金△7二玉▲1六歩△1二香▲5七銀△3四歩▲6八玉△2二角▲7八玉と進んだ。
また平成8年に、王位戦七番勝負の第1局、深浦康市対羽生善治戦で先手深浦が指した例があるが、羽生の勝利に終わった。その一戦は第2図から△5四同歩▲同飛△4三銀▲5六飛△4五歩▲9五歩△4二金▲6八銀と進んだ。
以降、「イメージと読みの将棋観2」(2010、日本将棋連盟)など、プロ棋士が検討を行ったこともある。大半が「しっかり相手に受けられると勝てない」「駒組がちょっと単純すぎる」「9七角と上がると角が活用できない」という、消極的な評価であった。但し羽生善治や谷川浩司らは後手△8五歩には▲7六歩として、以下△8六歩であれば▲同歩△同飛に▲5四歩で、△同歩▲2二角成から▲7七角を狙う将棋となっているということで、「今となっては普通の将棋」としている。他方で羽生や佐藤康光らは▲9七角と端角にするのはやはり若干不利としており、佐藤や森内俊之らは△8五歩に▲5六飛と指して、左の銀を使うイメージであれば中飛車勝率も5割はあるとしている。そして谷川は後手居飛車側は△8六歩▲9七角と決める方が後手が玉を囲いにくいので△6四歩から△6三銀と手堅く指すことを示唆している。
なお、漫画内で解明された後手の作戦が奨励会でコピーで配布される指し方は△5二金右-4二銀-4四歩-4三銀と中央を厚くするものであった。
中公文庫コミックス版の羽生善治の寄稿文によると、彼も奨励会時代に指してみたことがあるという。
なお、なぜ「5五龍中飛車」と名前に「龍」がつくのかは作中で説明されていない。単に語呂が良いからかもしれないが、一部には「端角中飛車」にすべきとの声もある。
「端角中飛車」については、『奇襲大全』などに棋譜や解説があるが、広島のアマ棋士・松田竹二郎がこども将棋教室用に独自に開発した戦法だとされており、手順も大幅に異なる上、つのだの名前も出てこない。
飛騨の中飛車・合掌造り
「飛騨白川郷・合掌造りの家」を模した駒組み。図は5筋位取り中飛車#飛騨の合掌造りを参照。5五の位を保持し、玉を右側に囲って飛車は向かい飛車の形に配置する。5五の地点を頂点とした、見事な大三角形の陣形になっている。遊び駒がなく、全ての駒が関連しヒモついた理想形の一つ。(ただし厳密にいえば、これは中飛車ではない。)
誌上企画など
前述通り編集長が将棋好きという事もあり、単に将棋漫画を連載したのみではなく、将棋をテーマにした企画が多数掲載されていた。
- キング将棋講座 - 担当は前述の関根と大内。
- つのだ杯争奪小・中学生将棋大会 - 中学生部門で優勝したのは塚田泰明で、現在専門棋士である。愛蔵本にも推薦文を寄せている。
- 当時の人気棋士の生い立ちを1ページで紹介するミニ伝記
- 対女流棋士十番勝負 - 当時の女流棋士10人につのだが、全局平手により5五龍中飛車戦法で挑むという対局。結果はつのだ側の3勝7敗。対谷川戦は、本作中において桂が見せ槍銀戦法で、駒形の5五龍中飛車戦法を破る一局の原型となった。山下女流名人にはあと一歩で勝つところまで行ったが、中原に「何度も必死を逃した。惜しいですね!」と高評価された。自戦記はキングに掲載された後、ヒットコミックス版では最終刊に収録されている。
- 多田佳子二段
- 村山幸子初段
- 森安多恵子二段
- 谷川治恵初段
- 蛸島彰子女流王将
- 中瀬奈津子2級
- 寺下紀子二段
- 兼田睦美初段
- 関根紀代子二段
- 山下カズ子女流名人
- (※タイトル、段級位、氏名は当時)
- つのだが挿絵を担当した将棋入門書も登場した。
- 多田佳子二段
- 村山幸子初段
- 森安多恵子二段
- 谷川治恵初段
- 蛸島彰子女流王将
- 中瀬奈津子2級
- 寺下紀子二段
- 兼田睦美初段
- 関根紀代子二段
- 山下カズ子女流名人
(※タイトル、段級位、氏名は当時)
特記事項
- いわゆる羽生世代が小学生時の作品で、羽生も奨励会時代に5五龍中飛車を指してみたこともあったと言う。本作の影響か、奨励会受験者が毎年20人弱しかいなかったのが、翌年40人、翌々年60人と急増、やむをえず受験方法が変更された。
- 連載当時、現実に実施されていた奨励会入会試験が本作で公開されていたが、一部割愛されていた。ちなみに当時の将棋世界誌では全問公開されている。
- 作中、竜らが参加した中学生将棋名人戦は第3回(1978年度)にあたる。作品世界では棒銀が優勝したが、現実世界では達正光が優勝している。
虹色四間
- 「近代将棋」1997年5月号〜1998年8月号)に全16回、毎回16頁で連載された。また97年発行分の同誌は表紙を同作のカラーイラスト(全8枚)で構成している。単行本化は行われていない。
- 新たな主人公の紺野水城が女流育成会に入会、プロ2級となるまでを描くが、駒形竜を初めとする「5五の龍」登場キャラクター数名が再登板するため前作の続編と見る事もできる。
- 女流育成会が舞台の中心となるため若い女性のキャラクターが大半を占める事情もあり、つのだ氏名義の作品ではあるがアシスタントによるキャラクター作画が前作以上に多く、つのだ氏担当キャラとの乖離が大きくなっている。このため対局シーン等はさながら「異なる漫画家による合作マンガ」の如き様相を呈する。
- 作中の進行に伴った「次の手を予想する出題」は前作同様で、初心者からアマ2級くらいまでを対象。
「5五の龍」からの継続キャラクター
かつての登場キャラはいずれも、新規のメインキャラクターを支えるコーチ・先輩として登場する。
駒形 竜
虎斑 桂
棒銀 三郎 八段
高美濃 弘 六段
本作からの新規キャラクター
紺野 水城(こんの みずき)
馬場 綾(ばば あや)
女流育成会のライバル達
水城を含む同期入会7人の名は虹の七色から命名されており、本編内でも「虹色の七人」と注目を浴びる。
萌 早苗(もえぎ さなえ)(黄緑)
リモン(里紋) アマリージョ 山吹(りもん あまりーじょ やまぶき)(黄)
藤江 桔梗(ふじえ ききょう)(紫)
チェリー・スカーレット(赤)
緑川 千草(みどりかわ ちぐさ)(緑)
東雲 杏子(しののめ きょうこ)(橙)
真野 理枝(まの りえ)
木田 文子(きだ ふみこ)
田上 直美(たがみ なおみ)
小泉 栄子(こいずみ えいこ)
ピカリン
その他のキャラクター
佐別(さべつ)七段
泡手(あわて)理事
テレモート
田原 泰道(たはら たいどう)
解説マスコット・と金ちゃん
登場する戦法
戦法は四間飛車など振り飛車系が中心。 これは将棋未経験の水城に「あやばぁ」が「一つの戦法を徹底して覚えろ」とアドバイスした事に起因する。
虹色四間
赤四間
橙四間
黄四間
黄緑四間
緑四間
青四間
紫四間
虹色四間
現代ハメ手(急戦向い飛車)
中飛車ハメ手
注釈
単行本
中公文庫コミック版で刊行された愛蔵版は以下の通りだが、現在は絶版となっている。
紙媒体とは別に、「5五の龍」は電子書籍(ebook japan)などでも入手可能なほか、webコミックサイト(マンガZERO)などから読むことも可能。
- 第01巻(1995年11月03日発行) ISBN 4-12-202481-1
- 第02巻(1995年11月01日発行) ISBN 4-12-202482-X
- 第03巻(1995年11月01日発行) ISBN 4-12-202483-8
- 第04巻(1995年12月03日発行) ISBN 4-12-202506-0
- 第05巻(1995年12月03日発行) ISBN 4-12-202507-9
- 第06巻(1995年12月03日発行) ISBN 4-12-202508-7